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迷い子の館の殺人  作者: 天草一樹
迷い込んだ館
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方針決定

 さて、黒瀬のおかげで完全に流れは変わったわけだが、その後の方針となると依然難しいままだ。

 悪意(?)ある何者かが介在しているとして、一体私たちに何ができるというのか。全く違う場所にいた私たちを、気付かれないうちに館の周囲にまで運んでくるほどの相手。

 当然この館だってその人物の持ち物だろうし、財力も行動力も共に計り知れない。西郷が言っていたように四大財閥が絡んでいるかもしれない。

 そんな化け物級の相手に対し、果たしてどんな対策ができるというのか。それにまだ、相手の目的も分かっていない。私たちをここに集めて何がしたいのかわからなくては、こちらとしても対応策の立てようがない。

 どうすべきか何も思い浮かばず、頭を悩ませる。すると、控えめに手を上げながら伊緒ちゃんが口を開いた。


「あの、私たちがこの館に意図的に集められたことは理解しました。というより、私は西郷さんの話を聞いた時点でそうだと思っていましたから。でも、だからこそ、私がとる行動はこれまでと同じです。皆さんとはできるだけ距離を取り、新菜と二人でここから脱出する方法を探させてもらいます。この中に、私たちをここへ連れてきた人物が紛れているかもしれませんから」


 敵意、ではなく強い覚悟を瞳に宿らせ、彼女は私たちを見回す。

 そう言えば、新菜ちゃんの発言のせいでうやむやになってしまったが、伊緒ちゃんは元から西郷の意見に賛成していたのだ。そしてその対策として、信頼のできる妹とだけ行動すると言っていた。

 今改めて西郷の言っていた状況が確定したわけだが、当然彼女の取る行動は同じというわけだ。

 でも、本当にそれでいいのだろうか?

 西郷の消失に館の封鎖。

 背景に何者かが存在する以上、この二つも偶然の出来事とは思えない。つまり何者かは、私たちに悪意ある働きかけをしようと考えている可能性が高い。

 そんな危険な奴がいる館で、全員が一致団結せずにバラバラに動くのは得策ではないように思える。

 何とか彼女を説得することはできないものか。私がそう考えていると、黒瀬はあっさり彼女の言葉を肯定してしまった。


「それは全然構わないんじゃないかな。というか僕が提案しようと思ったのも似たようなことだし」

「提案ってどんなのですか?」

「いや普通にさ。絶対に一人では行動しないようにするってこと。この中に僕たちをここまで連れてきたヤバい奴がいるのかどうかは知らないけど、何れにしろ単独行動を続けるのは危険そうだから。また西郷みたいに勝手に消えられたら困るじゃん」


 拍子抜けするほど緩い提案。

 それだけで身を守れるのか不安に思い、私は「ちょっと待って」と声をかけた。


「対策それだけでいいの? もっと皆で固まって相互に監視し合うとか、全員で協力して犯人に立ち向かうとかした方がいいんじゃ――」

「なんで?」

「え、なんでって……」


 理由を聞かれ、私は口ごもる。

 何者かの悪意にさらされていて、いつ自分の身に危険が訪れるのかわからない。相手の力も強大かもしれないし、この場にいる全員が一致団結して立ち向かった方がいい、と思ったんだけど……。

 そんなこと言わなくても黒瀬だって気付いていそうなものなのに。もしかして私はかなり大きな思い違いをしているのだろうか。

 そんな風に考えると、自分の意見を言うのが怖くなってきて、私は結局口を開かず下を向く。そんな私を見限ったのか、黒瀬は小さくため息を吐いた。


「現状さ、相手の目的は分かってないわけじゃん。僕たちを怖がらせた上で殺したいのか、それとも身代金目的か、単に幽閉して遊んでるだけか。起きてる事態が異常なだけに、動機だって考えようと思えばいくらでも考えられる。だったら僕たちが今やるべきことは、無駄に不安がって皆で固まるよりも、何か起きた時状況を正確に理解できるようにすることでしょ。それが相手の目的を理解するのに有用だと思うからさ。そしてそのためには、西郷が消えたみたいに、何が起きたのかわからないって事態を少しでも減らす必要がある。で、減らす方法として二人組を作ってさえいれば十分だと思うんだけど、違う?」

「う、ん……。まあいいんじゃないかな」


 完全に言い負かされ、私は強がった声で返事をすることしかできない。

 勝手に気分を沈ませる私を置いて、黒瀬には次から次へと質問が飛んでいった。


「二人一組で行動するのが嫌だと言ったらどうする」

「認められないから、僕が勝手についていく。一人になった人がこの件の犯人の可能性もあるからね。見過ごすのは無理」

「一人で行動してはいけないというが、トイレの時はどうするんだね。私は繊細なたちでね。隣に人が立っているとリラックスして用が足せないんだが」

「御手洗いの場合は、相方には通路で待ってもらえばいい。その間に何か起きたとしても、十分に場所を絞り込むことはできるからね」

「一人でさえなければいいというなら、途中でともに行動する相手を変えたりするのも問題ありませんか?」

「それはもちろん問題ないよ。重要なのは、誰がどこにいて何をしていたか、常に知っている相手がいるってことだから」

「はいはーい! 万が一何かの事故ではぐれちゃったり、とにかく別行動しないといけなくなった時はどうするの!」

「普通に館を動くうえでそんなこと起きないと思うから気にしなくていいんじゃない。まあ何かが起こった際の行動としては、当然安全第一だ。助かるために最善だと思う行動をとればいい」

「寝る時はどうしたらいいですか? 流石に寝ずの番とはいかないと思うんですけど」

「できるなら三人で一人ずつ交代で寝るのが望ましいね。けどまあ無理だろうから、寝る直前に、どこで寝るかだけでいいからペアになる人以外にも伝えておいて。誰が本来どこにいるべきなのか。それを知っているかどうかで、何か起きた時に状況を把握しやすいだろうから」


 簡潔に、しっかりとどの質問にも答えていく。

 本当にこれは凄い。さっき黒瀬のことを見直したばかりだが、それでもまだ過小評価だったらしい。

 ソファでぐでっと寝転んでいるときから、もしかして対策を考え続けていたのだろうか。人は見かけによらないというが、彼もただ寝てばかりいる顔だけ男ではなかったということらしい。

 とにかくこれで方針は固まった。

 単独行動は禁止で、何か起きるまではペアを組みつつ自由行動。

 扉を開ける方法を模索するもよし。他に脱出できないか抜け道を探すもよし。西郷が消えた原因を探るのも、とにかくただ明日になるのを待つのもよし。

 私たちは適当にペア決めをした後、玄関ホールから解散した。


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