7話 ギフト:扇動家
「ヒムロ殿のギフトは扇動家です」
今まで出てきたものとは少し毛色の違う名前をしているギフトだった。扇動、ではなく扇動家、か。なんか凄い悪役っぽい名前だな。名前を聞いただけでは強いギフトなのか弱いギフトなのかわからなかったせいで緊張が大きかった分気が抜けてしまった。
「扇動家?」
「どういう意味だっけ」
「なんかデモとか暴動とかを焚きつけたりする人のことじゃない?」
「こないだの世界史で山Tがヒットラーは稀にみる扇動家だったとか言ってなかった?」
「じゃあ凄いのか?」
「さあ?」
クラスメイトたちも結局扇動家がどんなギフトが予想がつかず自然とマリウスさんに目を向ける。いつもならここ
でギフトの解説が入るのだが。
「えー申し訳ございませんヒムロ殿。現在確認できる限りでは過去に同じギフトを持っていた人物はいないようでして。後で記録を洗ってはみますがもしかしたらこのギフトを手にしたのはヒムロ殿が初めてかもしれません」
「スゲー」
「いや凄いのか? 誰も手に入れたことがないってだけで弱いかもしれないじゃん」
「確かに」
俺の後ろでクラスメイトが話している内容についつい聞き耳を立ててしまう。しかし確かにそうだ。珍しいだけで弱いギフトでは結局のところ意味はない。それならば在り来たりだが使えるギフトのほうがよっぽどましだろう。
「でも初めてのギフトが確認されたことには学術的な意義があるんじゃないか? 仮に弱いギフトだとしても僕らは20人もいるんだ。みんなでその分頑張ればいいじゃないか」
そう言ってみんなを宥めたのは観察眼のギフトを手に入れた小島敦だった。フォローしてもらった形になるのかもしれないが小島のセリフに俺は歯を噛み締めた。学術的な意義など俺にとってはどうでもよかった。それが強いギフトなのかどうなのか。それが重要なのだ。
「今後様々な方法でギフトの内容を確認することになります。ご協力お願いいたしますヒムロ殿」
「いえこちらこそお願いしますマリウスさん」
マリウスさんに一度頭を下げてからみんなの元に戻る。
「扇動家なんてイメージと反対だね翔君」
「いやいや。意外と翔は裏で腹黒いこと考えてるかもしれないぞ」
「エー。カケルはそんなことないヨ。リューゴとは違って」
「いやいや隆吾だって腹黒くなんかないだろ。なんせ野球と筋肉のことしか考えらえないんだから」
「確かに!!」
富田の発言が悪ふざけだというのはよくわかってるがそれでも性根を見抜かれたようでドキッとする。なんとか冗談で返すことが出来たが扇動家が弱いギフトだと判明したらこの余裕もなくなるかもしれない。しかしもし俺に限らず弱いギフト持ちが出た場合そいつはどうなるのだろう。無理やりモンスターと戦わされるのかそれとも勇者扱いされなくなるのか。仮に城に残るのを許されてもクラスメイトが命を懸けているのに安全なところでのんびりしているというのは居心地が悪そうだ。
いや待てと俺は頭を振った。何故戦うのが既に決定していると考えているんだ俺は。いくら強力なギフトを手に入れても俺たちはただの学生なのだ。戦えるはずがない。すくなくとも暫くは訓練の日々だろう。……しかしそれだっておかしい。何故なら訓練の日々というのは結局は戦うことが前提の考えだ。あんまり血の気が多いほうだとは思っていなかったが俺も異世界とか召喚とかギフトと言われて自分で考える以上に舞い上がっているのかもしれない。
せめて扇動家の効果がわかるといいんだがな。……扇動家発動!! と心の中で思っても当然なにも起きないし周囲も変わった様子はない。青木の治癒術がケガがないと使えないように俺のもなにか条件があるのかもしれない。
俺が色々考えてこんでいる間にクラス全員のギフト確認は終わっていた。