17話 勝手なイメージ
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反射的に強がったもののここ最近の訓練の成果か佐藤にはあっさり見抜かれてしまった。
「でもケガしてますよね。よかったら治させてもらえませんか?」
「……じゃあお言葉に甘えて」
ここで断るほうが結果的に森野を喜ばせることになるだろう。それに傷が痛んで動きが鈍くなっているのも事実だ。佐藤に体を治してもらいながら俺は先ほど気になったことを聞いてみた。
「そういえば佐藤たちは別の場所で訓練してるんじゃないのか」
「それが午後からはクラスメイトのところに行って傷を癒してやるようにと言われたんです。治癒師の人数は足りないはずなのになんででしょうか」
言われて周りをみるといつのまにか勅使河原と青木もこの場にいる。勅使河原は富田の傷を治しているようで俺に気づくと手を振ってきた。俺も腕を振り返すが先ほど森野に打たれたところが痛みうめき声をあげてしまう。
「いてて。王国側の配慮かもな。最近は訓練をわかれてやってるから会えるの食事時くらいだったし。夜は疲れて直ぐに寝ちゃうしな」
「そういうことですか」
「そう言えはなんでさっきから敬語なんだ? 同級生なんだからため口でいいだろ」
治療のためとはいえ女子に体をまさぐられるというのは中々気恥ずかしく今の状況を意識しないように会話を続けた。最も気になっていたのは本当だ。
「だって氷室君いつもクラスの中心にいましたし。キラキラしてて私とは全然違うって思って自然と敬語なっちゃうんです」
「そう言ってくれるのはありがたいけどキラキラしていたのは神宮司だよ」
「……やっぱり覚えてないですか。私と氷室君中学同じなんですよ」
「え!? いてて」
思わず大声をあげて痛みに呻いてしまう。しかし佐藤と俺が同中だったとは。まったく覚えていなかった。佐藤なんてよくある苗字だし佐藤自身も目立つ人間じゃない。中学時代は公立だったから今より学年の人数も多かった。
「ええ。あの頃の氷室君のことは簡単に思い出せます。体育祭ではみんなを引っ張って球技大会ではヒーローでした。成績も学年トップでしたしまさに完璧超人!」
「……そういえばそうだったな」
それらは全て今は神宮司のものだ。俺は精々二番手三番手。場合によってはそれ以下だ。中学の同級生が見たら驚くかもしれない。
「まあそれも昔の話だよ。高校では上には上がいることを知れたし今は自分のギフトの効果すら把握できてないしね。敬語なんてやめてため口で喋ってよ」
「わかりました、じゃなくてわかったそうするね。じゃあ私は氷室君の言うこと聞くんだから氷室君も私の言うこと聞いてよ」
「お、おう。なんだよ」
思ったより簡単にため口にするんだな佐藤。いや自分で言ったことだから別にいいんだがイメージとあわなくて驚いた。……イメージと合わないなんて今さらか。青木がギフト確認の時に手をあげるなんて俺は思いもしなかったし森野が意外と努力を惜しまない人間だというのも意外だった。そいつがどんな人間なのかなんて自分が思っている以上に知らないのかもしれない。
「よかったら氷室君のギフト、扇動家だっけ? その練習に私も付き合わせてよ」
「相手がいるのは俺としてもありがたいからこっちから頼みたいくらいだけどいいのか?」
「うん。中学の時は殆ど話したことがなかった氷室君とこうして話してるのもなんかの縁だと思うし。私としてもこの縁を大事にしたいから」
「そうか。じゃあお願いするよ」
傷を全部治してもらい再び佐藤にお礼を言うと俺は訓練の続きをするために立ち上がったのだった。