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新・魔風伝奇  作者: ronron
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第九話 ふしがまり③

 飯山弘樹は「休みを利用してトレッキングツアーが企画出来そうな場所を探す」と会社に申請し、会社が所有する装備を借り出す許可を得た。

 友人に協力を頼むということで、装備を二人分用意した。


 山口信吉の話によると、砂金ナゲットを見つけた洞窟は、兵庫県の生野銀山の近くとのことであった。



 生野銀山は日本でも有名な鉱山である。歴史は古く、807年の開坑と言われ、戦国時代には織田・豊臣・徳川などの時の権力者が銀や銅を掘り出している。

 量は多くはないが、金も産出されていた。


 少し西へ行けば明延鉱山も有名である。金・銀・銅・スズ・亜鉛・タングステンなどを産出し、特にスズは日本一の産出量を誇っていた。


 他にも近隣には、多くの大小の鉱山がひしめいていたが、現在は全て廃坑となっている。



 弘樹は仕事で付き合いのある関西の鉱山に詳しい専門家に連絡し、情報を仕入れてみた。

 表向きの理由は「砂金採りのトレッキングツアー企画の為」という格好である。


 知人の返答は「砂金採りの企画が出来そうな川は無い」とのことだった。

 ただ、十年に一度とか二度とか、砂金が見つかった話が出る川があるとの情報があった。但し、その川は事故が頻繁に起きて死者も出ていると言う物騒な川らしい。


 二十年ほど前には、砂金が大量に採れた話が新聞に載り、全国から大勢の人が押し寄せたことがあったが、金はほとんど見つからず、その時も死者が出て急速に砂金ブームは終わったそうである。


 弘樹は話を参考に、あらゆる場面を想定して装備の見直しを行ったのであった。




 ・・・・・・・・・・




 九月の中旬の土曜日に、弘樹と信吉は大阪で合流し、弘樹の自家用車で大阪を出発した。


 まだ空はあけぼのの時間帯であったが、天気予報では今日は穏やかな天気になるそうであった。



 環状線から中国自動車道に乗り西へ向かう。福崎インターで播但連絡道へ入り北へ向かう。

 神埼南で高速道路を降り八号線を西へ、そして404号線を北へ向かい、長谷で三十九号線に乗り西へ・・・。



 辺りはどちらを向いても深い山の中である。弘樹は信吉に話しかけた。


 「山口。今回の砂金の情報は、最初にどこで仕入れたんだ」


 信吉は前方の山に視線を向けたまま。


 「砂金採りの現場で良く会う年配の人がいてね・・・名前も聞いたことが無くて、俺は「おっちゃん」って呼んでたんだが・・・」

 「おっちゃんが十年に一度か二度、必ず金が見つかる川があるって言っていたんだ。おっちゃんが言うには。そういうサイクルで大雨が降って金が流れて来るってね」


 「おっちゃんの話を聞いて調べてみると、昔、全国的なニュースにもなっていて、本当と言うことが分かったよ。おっちゃんも何度か足を運んだらしいけれど、何も見つからなかったと言ってたよ」


 「俺もその話を知り合いから聞いたよ」


 信吉は相変わらず前方から視線を変えず。


 「おっちゃんはワシも歳だから、もう行けないかも知れないからと、俺に詳しく場所を教えてくれたんだ。お前が見つけろってな」


 「・・・」


 「俺も三度行って、やっと見つけたんだ。ほとんど諦めかけていたんだがな・・・おっちゃんには、どこかで会えたら礼をするつもりだよ・・・名前も住所も知らないんだがね」


 信吉はそう言って笑った。



 ・・・ここまで出発してから二時間半ほどが過ぎていた。この三十九号線をそのまま進むと福知渓谷に出ることになる。

 道の途中には、上部・下部調整湖があって、この辺りはダムの多い地域である。


 調整湖を過ぎて二十分ほど走ると、信吉の指示で右手に有った細い側道に入った。道は舗装されてからかなり長い年月が経っているようで、アスファルトがめくれて陥没している部分が何ヶ所もあった。


 五分ほど走り、信吉の指示があって、少し広くなっている道端の広場に車を停めた。


 「よし。ここからは歩きだ」


 信吉が言い、二人は車を降りた。広場の先に下りの山道が見えた。


 弘樹は、ここから二十分ほどかけて沢に下りることを、事前に信吉から聞いていた。二人は黙ってリュックを背負い出発の準備をした。


 二人が車を離れようとした時、道の山手から軽トラックが現れた。軽トラックは二人の横に停まった。

 トラックには麦わら帽子の地元の人らしい陽に焼けた男性が乗っていた。年齢は七十歳前後であろうか。



 「あんたらどこへ行くンじゃ。もしかして龍ヶ淵に行くンか」


 二人は顔を見合わせた。二人の目的地は、確かに龍ヶ淵と呼ばれていると聞いていた。


 「ええ。まあ」


 信吉が曖昧に返事した。



 「やめとけ。あそこは龍が棲ンどる。地元のモンは誰も近付かん。ヨソから来たモンが何人も喰われとる」


 弘樹は事故で人が死んでいる話を思い出した。


 「昔のニュースで、死人が出た事故があったことは知ってます」


 「事故じゃねえ。行方不明だよ。・・・ニュースで金が出るって有名になった時に数人と、新聞にゃ出とらんが、それからも金を探しに来たモンが何人も行方不明になっとる。ワシは消防団で何度も捜索しとるからな」


 「・・・捜索に出た人は行方不明にならないんですか?龍がいるなら相手かまわず食べてしまうんじゃないですか」


 「地元のモンは金にゃ近付かん」


 「えっ?」


 「言い伝えで、金に近付くモンは龍に喰われると言われとる」



 「分かりました。気を付けて早めに帰って来ます」


 これ以上話しても無駄と判断したのであろう。信吉はそう言って歩き始めた。


 弘樹はトラックの男性に会釈すると、信吉の後を追った。



 「龍に喰われるぞ!」


 二人の背に男性の声がした。




 ・・・・・・・・




 沢に降りると巾二メートルほどの小川が流れていた。最近は雨も降っていないので、水の量は少ない。

 二人は大きな石がゴロゴロしている沢を、川に沿って上流へ向かって歩き出した。


 「龍が棲んでるのか?」


 歩きながら弘樹が言うと。


 「なんだ、びびったのか」


 信吉が笑った。



 「いや。面白そうだと思ってね。松茸の採れる山には熊が出る噂があるし、金の出る谷には龍が出る話は付き物だ。人を近付けない為にな」


 弘樹の話に信吉がうなづく。


 「山口・・・前に来た時は大山椒魚オオサンショウウオを見なかったか・・・いそうな場所だからな。龍は大山椒魚の可能性もあるぞ。大山椒魚は大きくなるからな。飼育下で五十年生きたと言う記録があるし、人によれば百年・二百年生きると言う人もいる。大山椒魚は別名ハンザキとも言うからな。半分にしても生きてるくらい生命力があるそうだ。二百年生きれば龍ぐらいでかくなるかも知れないぞ」


 信吉は鼻で笑うと。


 「お前らしい話だな。龍ヶ淵には滝も有って淵もあるが、俺は今回で四度目だが、淵にも潜ったが何もいなかったよ」


 「潜ったのか?」


 「ああ。滝壺から舞い上がった砂金が溜まりそうな場所も探したし、滝の裏側も調べたが何もなかったよ」


 そう言って信吉は歩くスピードを上げた。不確かな情報でもそこまで調べるとは、恐るべき執念である。

 その後は二人共、話さず黙々と歩いた。やがて二人は滝のある淵へ着いた。



 龍ヶ淵には落差五メートルほどの小さな滝があった。水量はそれほど無くて、色が深緑に変わっている滝壺は直径が三メートルほどある。淵は楕円形になっていて、一番広い場所で直径が二十メートルほどあった。


 淵の水深は浅く見えた。魚影はかなり濃いようである。滝の高さから言って、これ以上魚は遡上できないだろう。



 信吉が黙って滝の右手を指した。指の先には淵にむき出しの根を垂らした巨木が立っていた。木の表面にはびっしりと苔が生えている。


 「凄いな。古そうな木だな。木の根っこの三分の一は地中だが、あとの根っ子は淵に飛び出ていて、倒れて来そうに見えるな」


 弘樹が言うと。


 「そうだな。ちょっと近付くのが怖いだろ。・・・実はあのむき出しの根っ子の向こうに洞窟を見つけたんだ」


 「そうか・・・そりゃあ簡単に見つからないよな」


 「もう諦めて、ここでぼんやり淵を眺めてたんだが、あの根っ子の辺りから沢山魚が出入りしているのが見えてな。良く見てるとあまりに多いから、ひょっとすると奥に大きな空間があるんじゃないかと思ってな」


 「なるほど」


 「地元の人が魚釣りにでもしょっちゅう来ていたら、とっくに見つけていたかも知れないが、人喰い龍の伝承があって誰も来ないからな」



 時計を見ると十時を少し回っていた。


 「よし。少し早いが握り飯を食って、それから洞窟に入ろう」


 弘樹はそう言って日陰にリュックを降ろした。

 ここからは弘樹の出番である。



 「良いか。・・・洞窟があるそうだが、地形から言ってそれほど深い洞窟とは思えないが、何があっても必ず・・一時間で引き返すぞ。中に入ったら俺の指示に従ってもらうぞ」


 「分かってる。俺も危険なことはしたくない」


 「よし。飯を食おうぜ」


 二人は食事を始めた。

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