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新・魔風伝奇  作者: ronron
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第八話 二鳴り祭②

 六月の終わり。松田健司・守山里志・佐久間修平の三人は、松田の自家用車で守山の故郷の広島県にある蛇谷村じゃたにむらへ向かった。

 蛇谷村は観光地として有名な広島県の帝釈峡たいしゃくきょうの近くにあり、鳥取県との境近くに位置している。


 大阪からは中国自動車道を下り、東城インターチェンジで降り、そこからは国道十二号線を庄原市を目指して走る。

 東城町で国道を外れ飛尻谷を通り、朝倉山方面を目指して北上して行く。


 曲がりくねった山道を進んで行くと蛇谷口じゃたにぐちと書かれた標識が見えて来た。

 ここまで大阪を出発してから約五時間が過ぎていた。

 道はアスフェルトで舗装されているものの、大型車は離合する巾が無い為、通行規制がされているようである。


 「守山。話には聞いていたが、聞きしに勝るド田舎だな」


 佐久間が笑って言った。


 「ああ。自分でもそう思うよ」


 守山は笑って同意するしか無かった。



 山の緑の梢の向こうに、赤や青色の派手なトタン屋根の民家が見えて来た。

 中国地方と言えども、この辺りは冬には雪が降る。

 トタン屋根は安価で雪が積もらず、この辺りの地域には良く合っている素材である。

 派手な色が多いのは、素人仕事で塗り忘れが無いように、何度も色を変えて重ね塗りをしているからであろう。


 集落の家が始まる手前に、蛇谷口じゃたにぐちと書かれたバス停があった。


 「バスはここまでしか来ていないんです。小学校はここにあるんですが、中学生や高校生は、ここまで自転車で来てバスで学校に通っています。・・・僕もそうやって通っていました」


 守山が懐かしそうに言った。


 「家まで、あとどのくらいだ」


 松田が尋ねた。


 「ここは蛇谷口で、次の集落が中蛇谷なかじゃたに、そして僕の実家のある奥蛇谷おくじゃたにと続きます。この三つの集落を合わせて蛇谷村と言います」

 「最も祭りは奥蛇谷だけで行っているんですが・・・ここからなら三十分は掛かるかなあ」


 「道は坂道ばかりだから、毎日自転車は大変だったろう」


 佐久間が言うと。


 「大変だったよ。来る時は楽だけれど帰りは一時間以上かけて、乗ったり押したりしながら帰ったなあ。タイミングによっては村の人に軽トラックで載せて帰ってもらえることもあって、その時は嬉しかったな」


 そう言って守山は肩をすくめた。



 松田の運転する自家用車は、蛇谷口の集落を抜け、次の中蛇谷も抜けて山奥へどんどん入って行った。

 道巾は益々狭くなって行き、最後は自動車一台が辛うじて通れるほどの巾になった。

 離合する為の広場が一定の間隔で設けられていたが、一台も逆から来る車には合わなかった。



 やがて前方の見上げるような急斜面の山の中腹に、トタン屋根の集落が見えて来た。


 「あれが僕の実家のある奥蛇谷です」


 守山が言った。



 三人の乗った車が集落の入り口に着いた。

 集落の入り口にある広場は、左は谷になっていて、右手の山を削って車が停められる駐車スペースが造られていて、軽トラックや軽自動車が十台ほど駐車していた。

 松田はその列に並べて車を停めた。


 守山の話では、ここは村全体の駐車場になっていて、用事が無い限り村中には車を入れない決まりになっているそうだ。

 三人は車を降りた。佐久間が大きく伸びをしている。



 奥蛇谷の集落は、山の中腹に五十軒ほどの住宅が集まって出来ていた。これほどの山奥にある集落としては大きな規模と言えるであろう。

 良く見ると集落より少し離れた山の頂上付近に、その建物だけ茶色い色の屋根のやしろがあった。


 社は村全体を見渡せる場所にある。逆に言えば村のどの家からも見える位置にあった。



 守山が松田の視線を追って社を指差した。


 「あれが祭りの祝詞のりとを奏上し、貢物をお供えする社です。中には祭りで使う法螺貝がスペアを含めて二つ納められていて、小さな木像があって、僕らは≪サンカイさん≫と呼んでいます」


 「サンカイさん・・・何の神様かな?」


 松田が聞くと。


 「良く分からないですが、サンカイさんは山の神様で、怒らせると村に災いが起きると言われています」


 「良くある迷信だよ。守山もそんな迷信のおかげで、えらい迷惑を被ってるな」


 佐久間がそう言った時。


 「迷信じゃない!」


 怒鳴るような声が上がった。


 見ると集落側から十数人の男たちがやって来るところだった。

 全員が年配で、若い者はいないようである。


 「迷信じゃないぞ!サンカイさんを侮って、何人か人が死んだ話が村に伝わっておる」


 集団の中から六十代と見える、細身の白髪頭の男が出て来て言った。半袖のシャツに作業ズボンと言った格好である。細身ではあるが筋肉質で、農作業の為であろうか肌は褐色に焼けていた。


 

 男は奥蛇谷の代表で、守山正一郎と名乗った。

 姓は守山と同じであるが、山奥の村では良くあることである。奥蛇谷の五十軒の内、四十軒が守山姓であった。


 松田と守山正一郎は電話で話したことがあった。

 松田は守山里志の上司であり、今回の守山の祭りの為の帰郷に、三人で向かうことを告げていた。


 正一郎は当初、村の者以外は祭りの日は村に入れないと拒んだが、それならば守山を帰さないし警察にも相談すると告げて交渉し、渋々ながら同行する条件を飲ませていた。


 但し、正一郎は一つだけ注文を付けた。

 それは祭りの間は、守山の家から一歩も外へは出てはならないという条件だった。



 守山は正一郎の前に出ると深く頭を下げた。


 「正一郎おじさん。今回のことはすみません。でも、僕は自分のやりたいことがあるんです。好きなように生きたいんです」


 「もう良い。≪二鳴り祭ふたなりさい≫では自分の役目を果たしてくれ」


 正一郎は諦めたのであろうか、穏やかな口調で守山に言った。



 ≪二鳴り祭?≫


 変わった名前の祭りだと松田は思った。


 「分かりました。勤めは必ず果たします。それでは今日は家で休みます」


 守山はそう言って、松田と佐久間を促して集落に向かって歩き始めた。

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