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新・魔風伝奇  作者: ronron
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第七話 鬼門③

 来た時と逆の道を辿って鶴見から京橋までバスに乗り、京橋のバス停で二人は別れた。

 辺りは暗くなり始めていた。


 白稜堂の方へ帰って行く武志を見送った玉彦は、JR京橋駅から電車に乗るつもりで京橋商店街へ向かった。


 国道一号線から商店街へ入りアーケード通りを駅へ向かって行くと、途中にCMで有名なビルがある。

 京橋グランシャトービルである。

 深夜に流されている大阪弁のCMは、大阪圏では誰でも知っている有名なCMである。


 ≪京橋は♪エエとこだっせ。グランシャトーがおまっせ♪≫


 西洋の古城をかたちどった特異な外観のビルの前を通ると、一日中CMソングが流れている。



 グランシャトービルを過ぎた辺りで、玉彦は後ろから肩を叩かれた。

 振り向くと若い男性が立っていた。良く見ると、先ほど訪れた白石家の、前の家から顔を出していた青年であった。


 思っていたよりもっと若そうである。年齢は二十歳前後であろうか。そばかすのある、ほっそりした陰気な感じのする青年であった。


 「すみません。ちょっと宜しいでしょうか」


 勇気を振り絞って声を掛けたのか、おどおどした様子であった。


 「良いよ・・・今日、会ったね」


 玉彦が言うと青年は頷いた。

 玉彦には青年の顔を見てピンと来るものが有った。新聞記者の感である。


 

 「あのう・・・先ほど白石さんのお宅に行かれてましたよね。白石さんは僕のことを何か言われてましたか?」


 青年の言葉使いは丁寧であった。


 「ここじゃ何だから、時間があるなら喫茶店にでも行こうか」


 青年が何か言いたげであると感じた玉彦は喫茶店に誘った。




 商店街通りから一筋裏通りへ行けば、喫茶店はいくらでもある。二人は最初に有った喫茶店に入った。

 道すがら青年の名前を聞いた。青年は田島正夫と名乗った。歳は二十一歳とのことである。

 偶然そこで玉彦を見かけたので、声を掛けてしまったと言った。


 喫茶店は空いていた。席に着くとコーヒーを二つ注文し、早速話を始めた。

 玉彦は本業の新聞記者の名刺では無く、白稜堂の名刺を出した。


 ≪白稜堂 吉岡玉彦≫と書かれている。


 「はく・・・りょうどう。ですか」


 「そう。仕事は変わった出来事の相談所ってとこかな」


 「はあ。そうですか。やはり白石さんの玄関のことで行かれたのですね。誰かがやって来て玄関戸を叩くって・・・奥さんの方は祟りたたりだって近所で言っているし、白石さんは僕がやってるって言い触らしているんです」


 「うん。そんな感じだったよ。でも、白石さんは何故君のことを疑ってるのかな」



 田島正夫は溜息をついて首を振った。


 「・・・実は白石さんが今の家を建てる前に、庭にあった大きな木を切ったのですが、僕は切るなって反対していたんです。・・・今から考えると他人の敷地に立っている木を、他人の僕が切るななんて言える立場じゃあ無かったのですがね」


 玉彦は頷いて。


 「白石さんの奥さんも木を切るのは反対だった見たいだよ。木が無くなって悪い気が屋敷に流れるようになったって言ってた・・・その木は変わった木だったのかな」


 「僕は悪い気のことは分かりませんが、その大きな木には鳥の巣があったんです」


 「鳥の巣?・・・どう言うこと」


 意外な話であった。ちょうどコーヒーが運ばれて来て二人は口をつけた。



 「僕は、今はこの近くの居酒屋で朝方まで夜のバイトをしてるんですが、その頃は何もしていなくて、暇なので自宅の二階から白石さんの敷地の巨木に作られていた鳥の巣を見ていたんです」


 「・・・」


 「僕が小さい頃から、毎年、巣が一つか二つ作られるんです。毎日見ていると、卵ができて孵化して大きくなって、やがて巣立つんです。ネットで調べると、その鳥はヒヨドリということが分かりました」


 「そうか。それで木を切るのを反対したんだね」


 「はい。ちょうど雛がかえった頃だったので、巣立つまで切らないように頼んだんです」


 「なるほどね」


 「あと一週間で良かったんですが、聞いてもらえなくて木は切られてしまったんです。その時、僕が酷く怒ったので。白石さんは僕がそれを根に持って嫌がらせをしてるって思い込んでるんです」

 「木が切られた後は、しばらく親鳥が飛びまわって・・・可哀想だったなあ」


 正夫は遠くを見る目で言った。


 玉彦は、この子は悪い子じゃ無いなと思った。



 二人はしばらく雑談をして、正夫のバイトの時間が来たので喫茶店を出た。


 「これから何度か白石家に行く機会があるので、何とか誤解が解けるように頑張って見るよ」


 と、正夫に告げて別れた。



 頭を下げて去って行く正夫の後姿を見送って、そうは言ったものの、気難しそうな白石の顔を思い浮かべると、溜息が出そうな玉彦であった。

 それでも真面目そうな正夫の力になってやりたいとも思う。


 「まあ。何とかなるさ」


 持ち前の陽気さで気楽に考えようと思い、JR京橋駅へ向けて歩き始めた。



 玉彦はじっくり作戦を練るつもりであったのだが、翌日に事態は急展開を迎えるのであった。

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