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新・魔風伝奇  作者: ronron
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第六話 神隠し③

 葛城真美は大きな旅行バッグを足元に置いて、京都駅の九番線に立っていた。


 天橋立への出張を最初は断っていた真美であったが、特別ボーナスと神隠しへの興味に抗しきれず、本日の出発となった。


 プラットホームに吹く風は冷たく。真美は両手を口に当てて、はーっと息を吐いた。すぐそこに冬が近付いていることが分かる寒さであった。


 赤いコートを着て震えながら立っている真美に、声をかけて来た男がいたが、真美の強烈な一睨ひとにらみで退散して行った。今日の真美は非常に機嫌が悪かった。


 「引き受けなきゃ良かったわ。・・・それにしても麻子さん遅いなあ」


 すでに後悔し始めている真美は時計を見た。




 新堂武志の代わりに、これから真美と天橋立に行く麻子とは、白稜堂で何度か会って話をしたことがある。

 歳は真美と同い年である。一度会ったら決して忘れることのできない容姿と強烈な個性を持った女性であった。


 京都でもかなり知られた霊能力者で、何と言っても京都でも由緒ある高貴な血筋の末裔らしかった。

 仕事として霊能力の力を使うことは無いが、その力が絶大なことは有名で、どうしても見て欲しいと政界財界の実力者が日参しているそうである。

 京都にはもう一人、山田雨月という、これも新堂武志の知り合いの霊能力者がいるが、庶民的な雨月と違って麻子は半端ない変わり者であった。




 その時、改札口方面が何やらざわつき始めた。通路を歩く乗客が輪を造って何やら口々に言っているのが分かる。

 中には指を指している者もいた。


 「あー。やっぱりあの格好なのよね」


 真美は天を仰いだ。




  橘麻子たちばなまこは小柄で、身長は百四十センチほど。お河童頭で日本人形のような瓜実顔。小さな目小さな口。花柄の派手な和服に身を包み、美人とも言えなく無いが、高貴な雰囲気に包まれていて、どちらかと言えば歌人、貴人と言った風貌である。


 その麻子を先導して歩くのは、麻子が≪ばあや≫と呼んでいる、年齢不詳の老婆である。身長は小柄な麻子より更に低かった。こちらは渋い地味な和服に身を包んでいる。


 麻子の後ろに、あと二人、身長が二メートル近い黒いスーツ姿の屈強な男が続いていた。麻子の運転手兼、ボディーガード兼、雑用係である。

 それぞれ派手な柄の大きな鞄を持っていた。前を行く二人とは対照的で、漫画を見ているような気分になる。そして最後尾には何故か駅員の姿も見えた。




 「あー分かっていたけれど、頭が痛くなって来たわ」


 真美はもう半分、自棄になっている。


 麻子は決して慌てず、静々と真美の前まで歩いて来ると、両手を合わせてお辞儀をすると言った。


 「真美様。遅くなりまして申し訳ございません」


 どこかから「ヨォーッ!ポン!」とつづみの音が聞こえて来そうな挨拶であった。


 「はい~。了解~りょ~かい~。じゃあ行きましょうか」


 麻子には合わせていられないので、真美は敬礼をして、わざといい加減に返事をした。


 「はい。よろしくお願いします」


 「お待ち下さい真美様」


 横から声を掛けたのは、婆やである。真美とは身長差が三十センチ以上ある。


 「お嬢様は電車に乗るのは初めてなのでございます」


 (はいはい。そう聞いてますよ)


 「お車を使えばよろしいのですが、どうしても乗って見たいと仰いますゆえ・・・今回の天橋立行きも本来ならお断り申し上げますところですが、大恩ある新堂様のお頼みとあらば断るわけにも行かず・・・」


 (はいはい。それで)


 左右に視線を飛ばしたばあやは、頭が真美の胸に当たるほどに近づくと、太い封筒を真美のコートに入れた。

 そしてささやき声で。


 「わたくしがお供できませんので、あちらに行かれまして、何かご不自由がございました場合は、これで何とぞよしなに・・・」


 婆やはそう言って頭を下げた。


 「はあ」


 封筒の中身は現金であろう。突き返しても押し問答になるのは目に見えている。ここは受け取っておいて後から所長に返してもらおう。機転の利く真美は黙って受け取っておくことにした。


 (それにしても、この人たちは現代人なのであろうか)




 「では麻子さん。行きましょうか」


 「はい。それでは婆や、明日の夕方にここへ迎えに来て下さいね」


 「分かりました。お嬢様」


 真美はそのやりとりを聞いて膝から力が抜ける気がした。吉本新喜劇なら舞台の上の全員がズッコケる一言である。


 「ちょ、ちょっと麻子さん。明日帰って来るなんて。そんな簡単に事件が解決すると思ってるの?私なんか正月返上の覚悟で来てるのよ」


 麻子はにっこりと笑った。人を馬鹿にしている風でも無く、邪気の無い笑顔であった。


 真美の反論する気力も失せてしまった。




 「室井!」


 「はい。お嬢様」


 麻子に呼ばれたボディーガードの一人が、もう一人から鞄を受け取って前に出た。


 「えー。この人も来るの」


 「荷物持ちでございます」


 室井は冗談の通じなさそうな巌のような顔で、にこりともせず言った。


 (は~。そうですかあ)


 真美はどうにでもしてくれと言った心境で、電車に向かって歩き始めた。


 「もう。麻子さん遅いから、席は空いて無いかも知れないわよ」




 すると麻子たちの一行の後ろにいた駅員が前に出て来て真美たちを誘導した。連れて行かれた車両は指定席の車両である。しかも乗客は一人も居なかった。


 「橘様が全席買われております。最近はコンプライアンス等の問題に引っ掛かる場合もございますので、何とぞこのことは御内密に」


 口を開けて絶句している真美を置いて、駅員は一礼すると去って行った。

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