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新・魔風伝奇  作者: ronron
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第五話 天国への道②

 玉彦は敷かれていた座布団の下座に膝を揃えて座ると、部屋を見渡した。


 本格的な造りの和室は、柱も鴨居も長押も良く磨かれて光沢を放っている。立派な書院付きの二間の床の間には違い棚が付いていて、部屋と広縁を仕切る障子は雪見障子になっていた。


 広縁の向こうに見える庭も、池泉・築山・枯滝が配された本格的な物で、塀の向こうに見える嵯峨野の竹林を、上手に借景として取り入れていた。

 ほぼ素人の玉彦にも、この部屋の素晴らしさが理解できた。




 しばらく待つまでも無く先ほどの女性がお盆を持って現れた。

 盆に載っていたお茶とお茶菓子を、玉彦の前と反対側の机の上に置いた。お茶菓子は立派な塗りの皿に白い饅頭が二つ乗っていた。


 「あ。ありがとうございます」


 「いえ。どうぞ」


 女性はそう言うと、玉彦の反対側の座布団に座った。


 「それでは、お話を伺いましょうか」


 女性は笑みを浮かべて優しい口調で言った。


 「え。・・・もしかして、雨月先生って・・・」


 「はい。私が山田雨月でございます」


 雨月は笑って饅頭を頬張った。




 「こ、こりゃ。すみません。名前から勝手に男の先生と勘違いしていました」


 玉彦は頭を掻いた。雨月は玄関で会った時に勝手に玉彦がお手伝いさんと勘違いしたように、とても有名な霊能力者には見えなかった。


 「良く男性と間違えられますのよ・・・さあ。お話をどうぞ」


 「はあ。はい、実は」


 玉彦は新聞社に送られて来た小学生の手紙について話し、自分自身も同じように興味があること、そして、ここに来る前にも数人の人に話を聞いたことを話した。


 「あと、言いにくいことですが、死後の世界の話を新聞に載せるわけですから、当然ですが突飛も無い話や、特定の宗教の話も載せる訳には行かなくなります。本当に失礼なこととは思いますが、社の方で検討して、どうしても載せることが出来ない場合はお断りの連絡をさせて頂きますので、その際は御迷惑を掛けますが、よろしくお願いいたします」


 玉彦は深く頭を下げた。


 「当然ですわ。霊を信じていない方に、霊を信じろとは言いません。ただ、そう言う物があっても無くても、こういう考え方をすれば豊かな気持ちで生きられると思っていただける話がしたいと思います」


 雨月はにこやかな顔で言うと。


 「吉岡さんはここへ来る前に他の方にも取材をして来たとおっしゃいましたが、私と同じ考えの方もおられたかも知れません。まず、その方々の話を聞かせて頂けますか」


「分かりました」


 流石は新堂の紹介の霊能力者である。理解があって助かる。

 玉彦は鞄からノートを取り出した。


 「話はレコーダーに入っているのですが、これに取り合えず要点をまとめていますので、それを読ませていただきます」




 「これは大阪の糸川氏の話ですが。我々が現世と思っているこの世は本当の意味の現世では無く、魂は不滅であって、あの世と呼ばれる死後の世界こそが本当の世界である。我々人間は不滅の魂の修業の為にこの世に生を受けたのである・・・しかし、修業を怠り自堕落な生涯を送った者は、その罰として地獄と言われる極寒・暗黒・異臭・阿鼻叫喚の地へ落とされる」

 「対して、いつも朗らかで他人に対する優しさを忘れず、物事に対して常に真摯な姿勢で臨んでいた者は、極楽浄土・・・いわゆる天国へと導かれるのである・・・」


 「以上が糸川氏の話の要点なんですが、僕には硬過ぎて今一つ分かりにくいので、小学生にも説明できるように、生き方の具体的な例を尋ねて見たのですが・・・」


 「生き方は、己の魂が知っている」


 と言う返事でした。


 「その答えも、今一つ分かりにくい返答だったので、別の質問をして見ました」


 「生き物を殺す行為は残酷なことだと思います。しかし、我々を含めこの世の生物のほとんどは、他の生命・・・たとえ相手が植物だとしても、他を殺して食べなければ生きて行けませんが、それは悪いことでは無いのでしょうか」

 「要するに我々は他の生命を殺して生きている訳ですが、それでも天国・・・極楽浄土へ行けるのですか?・・・と尋ねました」


 「生きて行く上で、必要なことは全てが許されている。何が必要で何が必要で無いかは、己の魂が知っている」


 と、おっしゃっていました。




 雨月はふんふんと頷いて饅頭をもう一つ頬張った。


 玉彦はノートをめくり。


 「次に、これは全国的に有名な霊能力者の陸奥氏のお話です」

 「先ほどの糸川氏に話した、他の生命を殺さなければ我々は生きて行けない話をして見ました。陸奥氏は、こう言われました」


 「ありがたい気持ちを持って食事すれば、それぞれの魂が昇格すると」


 陸奥氏は玉彦に魂の昇格について教えてくれた。


 「例えば葉を食べるバッタがいて、それをカマキリが食べ、カマキリを鳥が食べ、鳥を人間が食べるという食物連鎖により、それぞれの魂が昇格して行くとの話でした」




 「また、最終段階の人間の魂は不滅で、死後二百年から三百年のサイクルで転生するとのことでした」

 「この世に生を受けて、どのように生きたかの生涯によって、次の転生までの期間、天国か地獄で過ごすことになるそうです。地獄に落ちた者は苦しみの中で反省し、次に生を受けた時は正しく生きようと魂に刻むそうです」


 玉彦はノートを閉じた。そして雨月に尋ねた。


 「先生はどう思われますか。まず≪天国と地獄はありますか?≫、そして天国があるならば、どうやったら行けるのでしょうか」




 雨月は視線を庭に向けた。


 「・・・私は魂はあると確信しています。心と言うのは、ただ単に脳の反応ではなく、人は魂が作用して動いているものなのです」




 「そして、天国も地獄も間違い無くあります!」


 雨月はきっぱりと断定した。


 「天国と地獄は、ありますか!」


 自信たっぷりな雨月の言葉に、思わず身を乗り出して玉彦は叫んでいた。

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