目覚めたら去年死んだはずの幼なじみがいた
目が覚めると去年死んだはずの幼なじみがいた。
「久しぶり俺くん」
彼女の甘ったるい声に耳がくすぐったくなる。
「俺は死んだのか?」
少し考えればわかる事だ。死者が生き返るなんて、現実ではありえないことだから。
「半分正解で半分不正解。俺くんはまだ、死んでないよ」
彼女の言葉に、少しだけ引っかかるような感覚を覚えたが、いくら記憶を探ろうとしても答えに辿り着くことはなかった。
「俺くんはね、自宅のベランダから飛び降りたんだよ」
「……なるほど」
「へぇ、驚かないんだね」
それもそうだ。幼なじみを失ってからの日々は、思い出したくもないほどに辛く苦しかった。俺は、彼女のことがずっと忘れられずにいたのだ。
「私はまだ生きたくても生きれなかったのに、俺くんはそういうことするんだね」
ふと見上げると、彼女は静かに涙を流していた。いつぶりだろう、彼女の泣いている姿を見るのは。だけど、こんな風に泣いている彼女の姿を見たのは初めての事だった。何も言わず、ただ静かに泣いている。いっそ罵声でも浴びせられた方が幾分かマシだったかもしれない。
「死なないでよ」
彼女が優しく、俺の頬に手を触れながら諭すように言った。
「死んじゃだめだよ…俺くん」
「俺は…俺は…お前のことが」
彼女はそんな俺を制止するように、唇に人差し指を押し当てた。
「その続きは、俺くんがしっかり生きて、生きて生きて思い残すことなく生ききってから伝えて欲しいな」
赤く腫れた目で苦しそうに微笑む彼女の姿に、胸が張り裂けそうになった。俺はただ、彼女には笑っていて欲しかっただけなのだ。
「次に会う時は、たくさんの思い出話を聞かせるから楽しみにして待っててくれ」
彼女はくしゃりとした顔で笑った。俺の大好きな彼女の表情だった。
「大好きだよ俺くん」
目覚めたら病院のベットだった。傍らには、泣き疲れたのか、俺の手を握ったまま寝ているお袋の姿があった。あらためて、色々な人を悲しませてしまった自身の愚行を反省した。次に彼女に会う時は、おじいちゃんになってからかな。しわくちゃになった俺を彼女は好きだと言ってくれるだろうか。
「大好きだよ俺くん」
最後の彼女の言葉がまだ近くに感じる。見送りの言葉にしては、贅沢すぎるものだったかもしれない。
「よし」
一先ずは、彼女が笑ってくれるように、生きることを頑張ってみようと思う。