底辺ジョブ「工場作業員」で雀力0のぼくが麻雀神チートで国士無双する ~今更メンタンピンしてももう遅い。ぼくの点棒は10万です~
一発ネタですごめんなさい。ふと思いついただけなんですごめんなさい。ネタかぶりしてたらごめんなさい。文字数の大半が用語解説でごめんなさい。国士無双なら無双もタイトルに入れられるじゃんと後から気づいていじりましたごめんなさい。
薄暗い一室。天井からぶら下がった裸電球があちこち剥げて傷だらけの麻雀マットを照らす。こたつの天面をひっくり返したそれを、男たちが囲み、牌を静かにかき混ぜる。
そして積み上げ四つの山を作り上げる。局は進み一人の男が手牌を倒した。
「ツモぉ! 一盃口!」
「ああん!? っざけんな! 鳴いたら役無しだって何度言ったらわかるんだポン助ぇ! チョンボだチョンボ! 満貫払いだ!」
━━━━━【用語解説】━━━━━
※麻雀牌:漢字の一萬から九萬の【萬子】、竹の一索から九索の【索子】、車輪の一筒から九筒の【筒子】、東南西北の【風牌】、白板(白)緑發(白發)紅中(中)の【三元牌】、の34種類4枚ずつ、計136牌からなる。
※一盃口:「ニニ三三四四」など同じ順子が二つある一翻役。鳴くと役無し。
※順子:「二三四」などの三つの並んだ形を言う。「五五五」など三つ同じものが揃っている時は刻子と言う。「七七」など二つは対子。
※翻:麻雀は役を作るゲームだが、ようするに役の強さと点数を表すのが翻。一翻でおよそ1300点。二翻でおよそ2600点。三翻でおよそ3900点。四翻で7700点。五翻で8000点である。なお、親と子で点数が代わり、さらに細かく符という形や上がり方の評価で点数が変化する。
※鳴く:ポンやチーやカンの事。他人の牌を使うことで順子や刻子を作れるが、多くの場合は翻が下がる。
※役無し:日本式麻雀では和了する時に一翻以上の役が必要。(一翻縛り)
※チョンボ:反則行為。基本的に罰則として満貫払いとされることが多い。
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「もういい加減うんざりなんだよ! 仕事も麻雀もできねえ奴はここから出ていけ! 追放だ! 荷物まとめてでていけ!」
「えええーーーッッッ!?!?!?!?」
ぼくの名はポン助。のろまでグズなぼくがやっと手にした「工場作業員」の職場から追い出されてしまった。
「これからどうしよう……」
手元にあるのは封筒に入った千円札2枚と、うっかり持ってきてしまった千点棒のみ。
「はぁ~あ……」
『どうしたんだ坊主』
「だれ!?」
とつぜん何者かに話しかけられて、ぼくはキョロキョロと首を振った。
『ここだここ。お前の手にしている千点棒だ』
「えええーーーッッッ!?!?!?!?」
千点棒が喋ってるぅー!?
『俺は麻雀の神だ。ずいぶんと手痛くやられたようだな坊主』
「手痛くっていうか……、ぼくが弱いだけなんです……」
『なら俺が力を貸してやろう。ほら、そこの雀荘に入ってみろ』
「えええーーーッッッ!?!?!?!?」
ぼ、ぼくの足が勝手に店の中に入っていくよぉ!?
店内に入ったぼくに店員が気づかない。
その理由はすぐにわかった。
「お客さま困ります。打牌は静かにお願いします……」
「あー! うっせーなぁ!」
「場代払ってんだから俺たちの自由だろうがぁ!」
「いいから面子に入れやぁ!」
━━━━━【用語解説】━━━━━
※打牌:河に牌を捨てること。漫画などでは「バシン!」と力強く捨てる描写が多いが完全にマナー違反。間違いなく怒られるので止めましょう。
※場代:雀荘で店に払うお金。時間計算。
※面子:麻雀を行うプレイヤーの四人の事。空いてる場合は店員が入る。
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「どうしよう……チンピラだよぉ……」
『ふん。日本語が上手い外人だな』
麻雀神は男たちの金髪を見て、外人だと思ったみたいだけど、どうみても日本人だ。
そしてチンピラたちはぼくの姿を見ると、いいカモと思ったのか、早速ぼくを呼びつけた。
「ど、どうしよう……。ぼく二千円しか持ってないよぉ」
『二千円だなんて大金持ちだな坊主。まあいい。俺に任せとけ』
チンピラが卓上のボタンを押し、穴に牌を落としていく。そしてガラガラと音を立て始める。
『自動卓か、まあいい。勝負は次局だな。坊主、まずは一人で打ってみろ』
「えええーーーッッッ!?!?!?!?」
チンピラに「うるせえな!」と怒鳴られ、しょんぼりと手を進めていく。
『お、中々太ぇ運してるじゃねえか』
「すごい! 配牌で一向聴だ! これが神様の力ですか!?」
『いいや、俺はまだ何もしてねえ。自動卓は二つのセットを交互に使うからな。これはお前の運だ』
チンピラに「さっきから独り言うるせえな!」と叱られる。
男たちには麻雀神の声が聞こえていないのかな?
「ロォーン! 一発だ! 裏乗って跳ねたぜ!」
「ひえぇえ!」
『はははっ! ひっでぇ待ちに振りやがったな!』
━━━━━【用語解説】━━━━━
※局:山積んで終わるまでの一回の戦いのこと。
※配牌:最初に配られた13牌のこと
※一向聴:あと2牌で和了になる状態。1牌前だと聴牌。
※栄:他家の捨てた牌で上がること。
※他家:他人のプレイヤーの事。左を上家。右を下家。正面を対面。自分は自家。ちなみに一番最初の親は起家。
※一発:立直した一巡目で上がると一翻となる。鳴くと消える(一発消し)。
※立直:聴牌時に捨て牌を横にして千点棒を出し宣言することで一翻役となる。立直をすると自摸(牌を引くこと)と捨てる事、和了する事、待ちが変わらない暗槓以外はできなくなる。
※暗槓:同じ牌が4つある場合、暗槓を宣言して晒すことによって、刻子にできる。暗槓することによって、符が高くなる。通常ルールの場合、ドラが増える。
※待ち:例えば「三四」と持っていた場合、「ニ」と「五」が待ちとなる。「三四四四」と持っていて「ニ」「三」「五」が待ちだったとして「四」を引いた時に暗槓をした場合、待ちが「三」のみとなって変化するので、立直状態では暗槓することはできない。
※ドラ:王牌の左から三番目をめくり、その表示牌の次の牌がドラという一翻のおまけとなる。ドラは役ではないのでドラだけでは和了することはできない。
※王牌:一局で使用しない14牌の事。ドラの表示とか、カンの時の山から取る代わりのツモに使う。
※裏ドラ:立直役の時にドラの下の牌をめくり、それもドラ表示牌扱いとなる。
※跳満:6~7翻。子12000点。親18000点。
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ぼくは一万点棒と千点棒2つを差し出した。
「いきなり13000点になっちゃったよぉ……」
『大丈夫だ。次の坊主の親で勝ちだ』
「どういうこと?」
ダイスを回すボタンを押すと、少し変なぶつかり方をしてピンゾロ(1・1)が出た。
そして牌を取っていくと……。
「おい、早く捨てろよ。おめぇが親だよ!」
「ろ……ロン!」
「……はぁ?」
俺は手牌を倒した。
「あ、上がってるんだ……ッ!!」
手から汗が止まらない。
「うぇぇえええええ!!!??」
「まっじかよぉ!? まじでぇえええ!?」
「すげえええええ!!!」
店員もやってきて大騒ぎだ。
「ちょっと待てよ! しかも大三元じゃねえかこれぇ!?」
「うえええ!? 天和で役満ってダブルになんのぉ!?」
「聞いたことねぇよぉお!?」
天和、大三元。32000オール。二人飛び終了である。
━━━━━【用語解説】━━━━━
※大三元:比較的できやすい役満。白發中を三枚ずつ揃えるとすごいぞ。
※天和:親が配牌時点で上がっている役。神から与えられた役だから「ロン」と宣言する……人もいる。wikipediaによるとおよそ33万分の1の確率だそうだ。
※~オール:親が上がった時、子が払う点数。満貫12000点だったら4000オール。
※飛び:点棒がマイナスになって箱点になること。競技のポイント制ではない場合はそれで一戦終了となることが多い。0点はギリギリセーフな場合が多い。
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ぼくの懐は役満祝儀でホクホクになった。
さらにガラが悪いと思ったチンピラさんたちと仲良くなり、LINEを交換してしまった。
このあと飲みに誘われたが、用事があるからまた今度と断った。
と、いうのも、麻雀神が工場の寮へ戻ろうと言い出したのだ。
『その厚い封筒を叩きつけて挑戦するんだ』
「えええーーーッッッ!?!?!?!?」
だけど麻雀神の力があれば勝てそうだぞ!
そういうことで、ぼくは店を出て道を引き返したのだ。
「なんだよポン助。忘れ物かぁ?」
「ぼ、ぼくと最後の勝負だぁ! ぼくが勝ったらクビを取りやめてもらうぞ!」
「はぁ……? 何言ってんだおめぇ」
街灯の下、ぼくが強引に差し出した封筒を、主任は渋々と開けた。
「この金どうしたんだ? 盗んだのか? おい、警察呼ぶ……ぞ……。えっと君たちは……?」
主任の顔が真っ青に変わった。
ぼくは後ろを振り返る。
「ちーっす」
「うぃーっす。ここがポンくんの職場ー?」
「俺ら暇だから付いてきたんよー。まじ気づいてなかったー?」
ち、チンピラ三人衆のみんな……!
「それ俺らがポンくんに負けて払った金なんすよねー」
「ポンくんすげーんすよ。マジ神」
「おじさんが勝負受けてくんないと、俺らも困るんすよねー」
主任は禿頭から冷や汗が滝のように流れ出した。
「わ、わかった。麻雀勝負を受ければいいんだろ? それでいいんだな?」
「俺らも見学させてもらいまー」
「まじ邪魔しないんでー」
「見せちゃう? あの写真見せちゃう?」
チンピラさんは大三元天和の事を言ってるのに、主任は何か違う事を想像したみたい。
見たこともない作り笑いと腰の低さで、ぼくとチンピラさんを卓へ案内した。
「しゅにーん! 遅いっすよー!」
「ひ、一人空けてくれないかな? ぽ、ポン助くんが入るから」
「はぁー!? ポン助ぇ!? なんで追い出した奴連れてきたんすかぁ!?」
ぼくと一緒にチンピラさんたちが部屋に入ると、先輩たちが一同に怯えはじめた。
「うぃーっす。俺らのマブダチのポンくん馬鹿にしたら許さねーっすよ」
「ポンくんマジ神」
「あー! 写真見せちゃおうかなぁ!? どうしようかなぁ!?」
そしてチンピラさんたちに見つめられながら、麻雀勝負が始まった。
「いつもどおりのルールですか?」
「そ、それでいい」
アリアリルールだ。そしてあまりにもぼくが弱すぎてすぐ飛んじゃうので、飛び終了なしになっている。
『それじゃあ、一発目から決めちまうか』
「えええ!?」
手積み卓。いつもとは全く違う凄まじい手付きで山を作るぼくに一同はみんな唖然とした。
ぼくだって驚きだ。だって勝手に手が動いてるんだもん。
「どうしたのみんな……? 早くしてよ」
「あ、ああ……。すまない……」
いつもぼくに「早く積め」というくせに、失礼しちゃうね。
みんなが配牌を取り理牌(手牌を並べること)している時に、それは起こった。
ぼ、ぼくの右手と左手が勝手に動く……!
『左側の八枚をぶっこ抜いた』
「あ、ああっ!?」
「ど、どうしたのかね、ポン助くん?」
左側が「東東南西北白發中」と揃っているぅ!?
『さあ、ツモってみな坊主』
「んんんっ!?」
後ろからもチンピラさんたちがつばを飲み込む音が聞こえた。
「一」「九」「1」
三順で国士無双が完成した。
東東南西北白發中九①⑨19
待ちは「一萬」の単騎待ちだ。
━━━━━【用語解説】━━━━━
※役満祝儀:役満をするとお金がもらえる。ご祝儀だから! ご祝儀だからセーフ!
※アリアリルール:鳴き断么九と後付けありのルールのこと。
※断么九:麻雀の基本役の一つ。簡単に言うと数字の2~8だけで作る一翻役。もともと一翻なのになぜか鳴いても一翻で役にするわOK!ってゆるゆるガバガバルールが鳴きタンヤオ。
※後付けあり:関西発祥らしいクソルール。後から役付けしても無効だからなという混乱の元。知らなくていい。後付なしルールでやろうぜと言ってきたやつがいたら殴っても良い。
※ぶっこ抜き:左手で自分の山の左側を自分のとこに入れて、いらない牌を右手に入れて山にしちゃう。わりと素人でもできちゃうイカサマ。ダメ、絶対。
※国士無双:断么九とは逆に么九牌を集める。つまり東南西北白發中一九①⑨19+どれか。
※単騎待ち:残り1枚の待ちのやつ
※シャボ待ち(シャンポン待ち):対子が二つある状態で、どちらかを刻子する待ちのこと。「一一九九」とあって「一」と「九」待ち。こういうやつ。
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あ、出た。
「ロン!」
「あ、なんだぁ? こんな早い順目で一萬ロンって……役あんのかポン助ぇ……うげえぇええええ!?」
「国士無双……!?!?!? い、イカサマだろぉ!?」
「ああんっ!? ポンくんにイチャモンつけるってーのかよぉおっさん!」
ごめんなさい。イカサマです。
「すみません。32000点です」
主任の点棒を持つ手が震えている。主任の残り点数は早くも箱下になってしまった。
「主任。いつものルールってことは飛びなしですよね?」
「え? は? いやそれは……」
チンピラさんがぬっと顔を突き出した。
「おっさん。確かにいつものルールって言ってたぜぇ?」
「あ、うん。そうだね。じゃあそれで……」
ちょっとかわいそうになってきた。
「麻雀神さん。ちょっと控えめでお願いします」
『ふぅん?』
また手が勝手に動く……。
あ、左手にあるドラ四枚で暗槓ができるぞぉ。
「カン!」
新ドラをめくると、隣と同じ牌が出てきたんだが?
「ドラ八ぃ!?」
倍満16000点確定である。
あ、出た。
「ロンです」
親の上家の先輩から直撃して睨まれる。
だがチンピラさんが先輩を肩をポンポンと叩くと、すぐに表情を引っ込めた。
『坊主。燕返しって知ってるか?』
「や、やめてぇ!?」
手牌と山を丸ごと入れ替える、大技のイカサマだ。
また手が勝手に動くぅー!?
「すみません。天和です」
「はぁぁぁぁぁあぁあぁぁあ!?!?!?」
麻雀神さんが自重してくれない……ッ!!!
「ごめんなさい麻雀神さま。あとはぼくが自分でやりますから! おとなしくしてもらえませんか!?」
『もう少し楽しみたかったんだけどなぁ』
今度は平和に平和に進む。
「ツモ! メンタンピン! 1300、700」
下家先輩が上がって、先輩の点棒が9000点から13000点に。
ぼくの点棒は119700点ですが、何か?
━━━━━【用語解説】━━━━━
※イカサマ:昔の麻雀はイカサマが出来る=麻雀の強い人だったそうな。なぜってイカサマができるくらいじゃないと相手のイカサマを止められないから。核ミサイルと核ミサイルで睨み合う冷戦みたいな。
※燕返し:手牌をぱたっと倒して山を持ってきて重ねて持ち上げて前に出す。動画で観よう。
※平和:符がない状態の手役。基本役のくせに説明がすっげー面倒。平和がわかるようになると麻雀ド初心者を脱出した感じがある。符計算システムが無くなったら麻雀人口は倍になってもおかしくない。そうでもないかな。
※メンタンピン:門前立直、断么九、平和。基本三役でございます。「鳴かないで」「2~8で作って」「両面待ち」というやつ。
※両面待ち:「三四」とあったら「ニ」「五」待ち。これ。
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10万点あればぼくの勝ちは揺るがない。そう思っていた時期がありました。
「やっぱポン助よっえーじゃねえか!」
「なんだったんだよ最初の怒涛の役満はよー!?」
「運を使い果たしちまったんだな! ガハハハハッ!」
「ははは……」
ぼくの点棒は1000点まで落ち込み、四着で終わったのであった。
そんなぼくに、主任は封筒を突き返してきた。
「あの、ぼくが負けたんですけど?」
「いいから。これはお前の金だろ。辞めろなんて言って悪かったな。明日からまたしばいてやっから、休むじゃねえぞ」
「しゅ、しゅにん……!」
ぼくは謝らなくてはいけない。
「だめです。ぼ、ぼくはイカサマをしました。最初の三回……」
「わかってらぁそんなこと! 明らかに最初と後で手付きが違ったもんなぁ! なぁ!?」
「おうよ。何が起こったのかと思ったぜ」
「取り憑かれたのかぁ? あはははっ!」
あ、そうだ。麻雀神。麻雀神は……?
ぼくは残った千点棒を取り出した。
麻雀神は何も答えてくれなかった。
「なんだよサマだったんかよこのやろー! 金返せ!」
「ポンくん神じゃなかったんかぁ!?」
「いやでも、ポンくんのこれさー」
チンピラさんが大三元天和のスマホ写真を見せた。
「これ、自動卓だぜ? サマできなくね?」
「は……ははっ……」
このあとぼくの金でみんなで飲みに行った。
「麻雀神さん。ぼくも麻雀強くなれますか?」
『無理だろ。才能ない』
「!?」
でも……でも! 弱くてもいいんだぼくは!
ぼくは千点棒をぎゅっと握りしめ、みんなの後を追いかけた。
終