第2話 姫、困惑する
エメラルダは困惑していた。
慣れた自室のベッドでいつものように目を覚ましたというのに、目が合った侍女が淑女にあるまじき悲鳴を上げて飛び出していったこと。すぐに大勢の人間がやってきて、まだ朝霧の立ち込める双魚宮が騒がしくなったこと。生まれてこの方、数えるほどしか顔を合わせたことのない父も駆けつけて、自分を見て涙ぐんだこと。
立ちすくんだまま袖で目を押さえる父を見て、エメラルダは慌てて立ち上がろうとしたが、なぜか思うように力が入らずに倒れ込んだ。
「危ない!」
上質なウールのジャケットから、サイプレスの爽やかな香りがした。大きな腕に抱き留められながら、お父さまめっちゃいい匂い……とどうでもよいことが頭によぎった。
「まだ動いてはいけない。お前は七日間も意識がなかったのだから」
「そんなに!?」
驚くと同時に、なにゆえという疑問が浮かぶが、真夜中の図書館のことを思い出してなんとなく納得してしまった。
エメラルダの一番古い記憶は、明かりの落ちた大きな書架の間を伝い歩きしているものだ。そう長くは歩けずにすぐ床に腰を下ろしていたので、おそらく立ち始めて間もない時期だろう。
いつ初めて訪れたのか思い出せないくらい昔から、眠りに落ちて夢を見る代わりに、エメラルダは大きな一人きりの図書館にいた。
夜眠るたびにそうだったわけではない。むしろ、たとえば昼食後のうたたねのような、夢を見るほど浅い眠りの時に、ふと気づけば湿ったカビの匂いの中に佇んでいるのだ。
そこで読書をすると時間を忘れるのはいつものことだったが、これまではしばらく経てば自然に目を覚ましていた。今回は読んでいた本が異常だったから、呼びかけられても肩を揺すられても目を覚まさなかったのだろう。それくらい、とんでもないものだった。
「お父さま、おひさしぶりですわ。まなむすめのエメラルダです」
――そしてあの本によれば、このままではまずいのだ。
ベッドの上で身を起こしたまま、父のブルーグレーの瞳を見つめて、エメラルダはこの上なく気合を入れた笑みを浮かべてみせた。
父は目を瞬かせて、「あ、ああ。わかっているとも、もちろん」と答えた。
ヴラディスラフ・フラメル。ストランドの第十二代国王。
鋼のような黒髪に、切れ長のブルーグレーの瞳。娘の目から見ても大変な男前である。王太子のころは、世界中の姫君から縁談の話があったと母が教えてくれた。年はまだ三十代の半ばで、凛々しい顔立ちに変わりはないが、どうも重い疲れが染み込んでいるように見えた。
「おやせになったのではありませんか? ちゃんとお休みをとられていますか? おさけばかりでなくごはんもめしあがっていますか? お目もとにくまができていますし、かお色もわるいですわ。おいそがしいことはわかっていますから、もっとお会いしたいなんてわがままは申しませんけれども、エメラルダはしんぱいしておりますの」
矢継ぎ早に言うと、父は固まり、侍女や従僕たちは目をぱしぱしとさせて、父の護衛や補佐たちは顔を見合わせた。エメラルダは(みんなびっくりしてる……そ、そうですわよね……)と申し訳なく思いながらも、気づかないふりで無垢な笑みを浮かべた。
ストランド王家の一の姫はこれまで、全然手のかからない、おしとやかなお姫様だった。
緑のまなざしはぼんやりと遠くを眺めて、決して人の目を見るような不躾なことはせず、唇はささやくように小さな声で少しだけを語っては、わずかに首を傾けたり指先の方向を変えたりするだけで意思を伝えていた。それが好ましいふるまいとされているし、身を守るためにもちょうどよかったから。
だがそれではだめなのだった。
父は束の間ぽかんとしていたが、すぐにまた目元を押さえた。
「うっ……お前は、お前こそ身体が辛いというのに……こんな薄情な父の心配をしてくれるのか?」
「もちろんですわ。たった一人のたいせつなお父さまですもの! この国の王であることよりも、エメラルダにとっては、それがいちばんだいじなのです」
「ウウッ! グスッ……グスッ」
ダメ押しとばかりに畳みかけると、とうとう嗚咽まで漏らし始めたので、補佐のおじさまの一人がそっとハンカチを差し出した。ハンカチを受け取った父は、絹製のそれを躊躇いなく顔に押し当てて、肩を震わせた。
「こんなに素直で優しい言葉をもらえたのはいつぶりか! しばらく見ないうちに、たくさん話すようになったのだな。なんと思いやり溢れる子に育ったことだ……! それに比べておれは、親としての役目を果たさない、なんとふがいない父であることか……」
な、涙もろすぎる。これまでのイメージと全然違うんですけども。
エメラルダは目をひん剥くのを耐えて、何とか笑みを保った。
こんなたわいない労いの言葉一つ、掛けてもらえないほど過酷な環境なのだろうか? ……一国の王なのに?
疑問を込めて補佐のおじさま方を見ても、目を潤ませて父の肩を叩いているだけで何もわからなかった。
親子であっても、国王とその臣下という身分のため、式典という公の場で会うことしかなく、プライベートな会話などほとんど交わしたことはない。
だから父という感覚よりは、自分の生きる国の厳格な王という印象が強かったが、実際のところは家族への不義理を気に病む、感動屋のお父さんなのかもしれなかった。
「お父さまったら。みんなおもっていますわ、お父さまのことがだいすきだって。ただ、おつたえするきかいがないだけですの。お兄さまも、お母さまだってそうですわ」
母のことを出した途端、ヴラディスラフはぴたりと涙を止めて、どこか寂しそうに目線を落とした。
「スタニスラフはそうかもしれないな。あの年でおれよりずっとしっかり者の上に、優しい子だから。だが、アナスタシアはどうだろう。彼女は……おれを嫌っているから」
お母さまがお父さまを嫌っている?
エメラルダは今度こそ笑みを落っことして、目をひん剥いてしまった。
いやそれはないだろと即座に脳内で否定する。お母さまがお父さまを愛しているのは、見ていればわかる。何なら双魚宮の人間は全員知っている。洗濯婦のおばさまから門番のおじさままで全員だ。
食事の席では、その日の国王の様子を侍女たちから熱心に聞き、喜んでおられたと聞けば幸せそうに微笑み、体調が悪そうだと聞けば自分も顔色を悪くする。王がお好きと聞いたものは、たとえば色ならその色のドレスをあつらえるし、花ならその花だけの花壇を作る。それが絵画や食べ物であった場合、何なら武器や防具や馬であった場合でも、すぐに取り寄せて自分でも試してみるのだ。
そんなアナスタシアに対して、ヴラディスラフは公務以外で関わることはない。
そのためむしろ、国王が王妃を疎んじているのだというのが、この双魚宮での認識だった。
補佐のおじさまは「陛下、姫君の前でそのような発言はお控えください」とたしなめつつ、みな一様に暗い顔をしていた。……まさか、共通認識なの?
問いかけようとした時、扉がノックされた。
ヴラディスラフの顔があからさまにこわばった。
「王妃陛下と王子殿下のお見えです」
父が立ち上がるより早く、エメラルダは「お通しを」と声を上げた。
ハッキリと喋る姫の声など聞いたことのない侍女は、発生源がわかるとパチパチ瞬きをしたが、すぐに目礼をしてうやうやしく扉を開けた。
退出しそこねた王は、扉に向かいかけた中途半端な姿勢で固まった。
「ああ、メリー! 目が覚めたって本当に……!」
ふわりと華やかな薔薇の匂いを運んで、母が駆けこんできた。
アナスタシア・フラメル。ストランドの王妃であり、ヴラディスラフの唯一の妻。
娘と同じく波打つ亜麻色の髪は、平素はキッチリ結い上げられているが、今はほどかれて肩口を覆っている。身につけているのはシンプルなエンパイアドレスなので、おそらく寝所からすぐに来てくれたのだろう。サファイアブルーの大きな瞳には涙が光っている。
アナスタシアはベッドに飛び込むようにして、愛娘を強く抱きしめたかと思うと、ものすごい勢いで肩や背中を撫でさすり、頭にはぐりぐりと頬ずりした。
「お、おか、あわわ」
「メリーが起きているわ!」
「よかったですね」
続いて入ってきた兄は、早くも揉みくちゃにされている妹を見て苦笑を漏らした。口を開きかけたが、父がいることに気づくと笑みを消して、不審げに眉を寄せた。
「よかったわ、よかった! ほんっとうによかった! まったくもうあなたと来たら静かに花を見ていたと思ったら、いつの間にか倒れているんだもの! 大人しくて手がかからないのも考え物だと思ったわ! いつも薔薇色の頬っぺたが真っ白になっているのを見て、お母さまも死んでしまうところだったのよ!」
「ご心配をおかけ」
「あああメリーの声だわ! かわいいかわいいメリーの声がするわ! 本当に起きたのね、よかったわ! そのエメラルドの瞳を見せてちょうだい。お母さまを映してちょうだ……ウッ! かわいいいい!」
念のため言っておきたいが、アナスタシアは普段、つんと澄ました完璧な貴婦人である。今はあたかもいい匂いがするだけの暴れ馬のようだが、これがデフォルトではない。それどころか、娘としても初めて目にする姿だ。
エメラルダは身体中を撫でさすられながらしばらく硬直していたが、父の態度もおかしかったことを思い出して、だんだんと腑に落ちていった。そして、じわじわと胸が温かくなるのを感じた。
七日間も眠っていた我が子が覚醒したというのは、親にとってはきっと、どんな身に馴染んだ仮面でも落としてしまうほど、嬉しいことなのだ。それが自分にとっても、とても嬉しかった。
――本当は、その愛はエメラルダのものではないとわかっていても。
隙ありと見たのか、国王一行は退出しようと目配せをした。それに気づいた兄が「母上」と声をかけた。
「何かしら」と顔を上げた母は、父を目にして表情をさっと変え、素早く立ち上がるとドレスの裾を持ってかしずいた。
たった今まで暴れ馬だったことを全く感じさせない、見事なカーテシーだった。
「陛下におかれましてはご機嫌麗しゅう」
「アナスタシアも息災で何よりだ」
対する父もまた、数分前には娘のささやかな労いで号泣していたとは誰も信じないような、堂々とした態度で応じた。
顔を上げた母の横顔は、エメラルダが見たこともないくらい鋭く冷たかった。
独身時代には「ナハトの生ける薔薇」と呼ばれ、青年貴族の憧れを一身に集めたという花のかんばせは、嫌悪を浮かべると底冷えするほど恐ろしかった。
「陛下が見舞いなどされるなんて、わたくし驚いておりますわ。まさか我が子には情をお持ちなのかしら? そんなわけございませんわよね。この子たちが産まれた時も、どこぞにおられて顔も見せなかったお方ですもの」
どうしたお母さま! 完全にけんか腰じゃないですか!
自分の前では父への思慕がダダ漏れである母の思いがけない態度に、エメラルダは掛け布団を握りしめ、真っ青になって見上げた。
父は「ハッ」と嘲笑を漏らした。こちらも諸国に名高い美貌に、ぞっとするような酷薄な笑みを浮かべている。
「このおれが見舞いだと? 愚かなことを。たまたま政務の途中で通りかかっただけだ。家族の情などくだらぬ。興味もない」
お父さまも何言ってるの!? 見るからに駆けつけてきたでしょーが!
エメラルダはアホみたいに口を開けたまま、言葉の刃の応酬を見ているほかなかった。
「寂しい方ですこと。玉座が全てなのね」
「そういうお前はこの狭い箱庭が全てだろう。愚かな女だ」
「そのまませいぜい、大好きな玉座にふんぞり返っているといいわ。でも、この子たちの父としての椅子があるなんて思わないことね」
「それに価値があるのか? お前の王妃としての椅子も、いつなくなるかわからぬというのに」
室内の空気が凍りついた。
おまっ……お父さま! それは口喧嘩に出していいカードじゃありませんわ!
王から離縁まで仄めかされては、王妃に為すすべはない。アナスタシアが唇を噛みしめたところで、ヴラディスラフは「気分が悪い。もうここには来ない」とさらに悪態を吐いて、部屋を出て行った。お付きのおじさまたちも、気づかわしげな視線を残して去って行った。
あとに残ったのは、双魚宮の侍女たちと、お母さまとお兄さま。
エメラルダは……頭を抱えていた。
「まあ! 頭がどうかしたの? メリー」
「わたしのセリフですわお母さま」
間違えた。ついキツめに突っ込んでしまった。
しかし幸か不幸か何も通じずに、打って変わった甘い声で「お母さまは大丈夫よ、優しい子ね」と抱きしめて頭を撫でてくれた。
「母上。メリーは目が覚めたばかりですので、あまり構うと疲れさせてしまいますよ」
涼し気な声で気遣わしげにエメラルダを覗き込んだのは、スタニスラフ。エメラルダの兄にして、ストランドのたった一人の王子。
グレーがかった淡いブラウンの髪には癖一つなく、少し首をかしげるだけでサラサラと揺れる。朝もやのような青い瞳は見るからに理知的で、事実、大陸随一の王立学府を飛び級するほど頭がいい。まだ十一歳だというのに眉目秀麗な、自慢の優しい兄だ。
……ただ優しいだけではないということは、あの本を読んで知ってしまっている。
「スタンの言う通りね。いけないわ、わたくしったら。メリーのことになるとつい取り乱してしまって」
メリーから見れば、夫に対しての方がよりいっそう取り乱しているという他ない。
「何かほしいものはあるかい?」
飲み物を、と言おうとしてエメラルダは思いとどまった。さすがに疲れた。
ベッドから一歩も動いていないのに何が疲れただという感じだが、エメラルダの感覚としてはついさっきまで図書館にいて、一心不乱に本を――いや、漫画を読んでいたのだ。
読みたくはなかった。けれどせめて読めてよかった。自分の存在を粉々に砕くような、そういう禍々しい本を読み終えたばかりなのだ。
心配して来てくれた二人には心苦しいが、今はお引取り願おう。
「おこころづかいありがとうございます、お兄さま。……でも、ちょっとだるくなってきましたの」
「まあ大変だわ! ちょっとそこのあなた、侍医を今すぐ呼びなさい!」
「いっいいえお母さま! おきてすぐ、いろんな人に会ったからだとおもうの。ちょっとやすんだら、なにかヴェロニカにもってきてもらいますわ。だからしんぱいなさらないで。お二人ももう少しお休みになってくださいまし。まだ朝早いのですもの」
アナスタシアは「そうなの?」と言いながら立ち去りがたい様子だったが、スタニスラフが「行きましょう」と促すとしぶしぶ立ち上がった。
「何かあったらすぐに言うのよ。無理をしてはいけませんよ」
「もちろんですわ。お母さまにしんぱいをかけるようなこと、エメラルダはいたしません」
「いい子ね。愛しているわ、わたしのお姫様」
頬にキスを落とし、淡いブロンドの巻毛が廊下に消えると、続いて退室しようとしていたスタニスラフがふと振り返って、どこか含むような笑みをよこした。
「目を見て話すようになったんだね。いい変化だ。ずっと人形のまま生きていくのかと思っていたよ」
エメラルダがなにか返事をする間もなく王子は部屋を出ていき、扉が閉められた。
……なんだか不穏なことを言われた気がする。
自分ほどではないが、兄もある種、人形のような人であった。次代の王として重圧にさらされているはずなのに、弱音を吐いたことはおろか、声を荒げたことも、穏やかな微笑みを崩したことも見たことがない。今のように悪そうな笑みは、エメラルダが初めて目にしたものだった。
「はあー……」
起き抜けに吹き荒れた嵐が去ると、ひとりでに深く大きなため息が出てきた。
「姫様。お飲み物をお持ちしました」
「ええ」
ヴェロニカから冷たいグラスを受け取ると、少しずつ喉に流し込んだ。エメラルダの好きなエルダーフラワーの炭酸水だ。わざわざ言いつけるまでもなく、優秀な侍女は主の希望のものを用意してくれていた。
ヴェロニカはメンシーク子爵家の三女だ。王宮に出仕したのが十のことで、生まれたばかりの一の姫付きになったのは十二のこと。まだ十八と年若いが、臨機応変な対応力のある、姫の信頼厚い侍女である。
「パン粥をご用意いたしますか、それとも重湯にされますか?」
「そうですね……パンがゆがたべたいですわ。そのあと、ゆあみもしたいのです」
琥珀色の瞳がまたたいた。姫が聞かれていないことにまで希望を述べるのは初めてだったからだ。
「ではご用意いたしますね。四半刻ほどかかりますので、それまでお休みになってください」
「ありがとう」
お礼を言うと、また琥珀色の瞳がパチパチとまたたいた。
「なんだか……お倒れになる前と、少し変わられた気がします」
エメラルダは「そうですわね」と頷きつつ、そっと心臓を押さえた。わたし、これまでお礼もろくすっぽ言っていなかったのね……。
「おもうところあって、これからはちゃんと生きてみることにしましたの」
目を見てほほえむと、優秀な侍女はぽかんと口を開けたが、すぐに閉じて淑女らしく目礼した。淡い微笑を口の端にのせて。
「何よりでございます」
ヴェロニカが去ると、室内にはエメラルダ一人となった。
薄い空色の壁に、白と金を基調にした優美な部屋。どこか異国情緒があるのは、ストランドでは珍しいことに植物の葉をメインのモチーフとしているからだろう。リネン類はすべて白いシルク、木製のチェストやドレッサーも白で、金のオリーブやアイビーで飾られている。窓枠だけはマホガニーだが、今はレースのカーテンで隠されていた。
幼い姫の自室にしては大人っぽいが、エメラルダの風貌を西方の女神のようだと称する、アナスタシアの趣味である。
床に足を下すとややふらついたが、慎重に一歩を踏み出せば、問題なく歩けた。
姿見の前に立つと、一人の少女が何かを疑うようにこちらを見つめていた。
ゆるやかにウェーブした淡い金髪。少し垂れ目がちの、零れ落ちそうに大きな翠の瞳。小さな鼻、ふっくらとした珊瑚色の頬と唇。
「お、おんなじかお……。やっぱりわたし――わたしが、エメラルダなんですわ……!」
エメラルダは愕然と呟くと、夜着の胸元をぎゅっと強く握り込んだ。
――周知のとおり、この姫は生まれてこの方エメラルダである。しかしエメラルダが呟いたのは、また別のエメラルダの名前であった。
真夜中の図書館で手にした、『救世の乙女、暁の星』。
それは、異世界に迷い込んだ少女の冒険と戦いの物語だ。
身一つで知らない地に来てしまった少女が、一人ひとり味方を増やし、数々の困難を乗り越え、巨悪を倒して世界を救う道のりは、手に汗握るものだった。
その漫画で描かれていた「エメラルダ姫」。
歪んだ世界観によって人類を滅びの危機に立たせる、強大な悪であった。
王族・貴族・庶民を問わず、人間と見れば全方位を蹂躙し、さらには国境を越えて世界中で殺戮の限りを尽くす。最後は主人公たちによって時空の狭間に突き落とされ、そこで対消滅を起こして、異空間ごと消滅した。
――エメラルダの行く末はそうなるのだと、その本は告げていた。
「どうにかしないといけませんわーッ!」
姫の初めて上げた大声はヒョロヒョロと頼りなく、部屋の外に聞こえることはなかった。
読んでいただきありがとうございます。
エメラルダ姫は小学二年生くらいまでの漢字を使っています。