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聞き込みの火曜日

昨日の追跡調査は、完璧に失敗だった。

修羅場につながる情報を何も得ることができなかった。


今日のあたしは昨日の失敗をもとに、しっかりと作戦を練った。

今日は、聞き込みをしよう!



あたしとハルトは中学2年から7年間の付き合いなんだけれども、同じく腐れ縁を持つ人がもう一人いる。

ハルトの親友であり、あたしにとっても友人であるマサヤだ。


中学の時は丸眼鏡をしていたマサヤは、高校に入る頃にはかっこよく成長してしまった。

大学に入ってからシルバーに髪を染めて、ごっついピアスをつけて、ちょっと近寄りがたいイケメンへと変身した。


昼休み。

あたしは晴れた空の下のベンチで、マサヤを見かけた。


ちょうど良いことに、マサヤの近くにはハルトはいないようだ。


あたしはキョロキョロと周囲を警戒しつつ、マサヤに近づいた。



「久しぶり!」


声をかけると、スマホに目を落としていたマサヤがうざったそうに顔を上げた。

「マチか。久しぶりだな、お前が声をかけてくるなんて」

なんだか、言い方に棘を感じるけれど、まぁいいかと、割り切った。


「今日は、ハルトは傍に居なんだね」

一応、聞き込みをする前に、ターゲットの所在の確認をする。


「ハルトは、今は、食堂で飯食ってるよ。今日は俺、この後ないから、帰るところ」

「そ、そうなんだ」

「で? 何か用なんじゃないのか?」


マサヤの目があたしを捉える。


まぁ、最近喋ってもいないのに、世間話をしに来たとは思っていないようだ。

あたしはマサヤの視線にちょっとした焦りを感じた。


「えっと、べ、別に用ってことはないんだけどね」

「ふーん」

マサヤはあたしを疑いの目で見ている。


「最近、ハルトってどうしてるかなぁって」

「それはハルトに訊くべきなんじゃないか?」

「う、うん。そ、そうだよねー」

ごもっともな返しに、あたしは「うんうん」とわざとらしく何度もうなずく。


「マチは今、仕事が忙しいのか?」

「えっ? あたし?」


マサヤはあたしが漫画家をしているって知っている数少ないひとり。


あたしは「まぁ、そこそこ」と濁した。

月刊誌での連載もあるし、それなりに忙しい。

でも、週刊誌でもないし、今月は余裕をもってネームが仕上がっていて、意外と時間があったりする。


だけど、暇があるとは言えず、あたしはなんとなく濁すしかない。


「き、昨日さ、ハルトも一緒にいたよね。女の子も一緒で」

あたしはやっと、核心に触れてみた。

マサヤが「あっ?」と声色を変えた。


「何が訊きたいんだか、さっぱりわからない」

元々、迫力のあるマサヤが凄むように、言った。


「その、あたしも何が訊きたいかと言われると、非常に困るわけで、そのマサヤと話がしたかっただけというか。天気も良いことですし、昨日の光景なんてのを聞いてみたわけで、その別に、特別な意味が割るわけでもなくてですね」

早口で捲し立てるあたしに、マサヤは呆れたように息を吐きだした。


「言いたいことが分かんねぇけど、お前に言いたいことは一個あるわ」


「えっ?」


「お前が訊きたいことは俺に訊くべき内容じゃない。ハルトに訊け」


あたしがグッと押し黙ったのを見て、マサヤはベンチを立った。

肩をポンッとたたかれて、去っていくマサヤを引き留める言葉なんてない。



聞き込みは失敗した。



************************************


マサヤの言葉が頭の中をぐるぐると、回っている。

そんな状況だからこそ、あたしは調査を続けた。


今立ち止まったら、今後の方向性を見失ってしまいそうだった。


今日も、ハルトの後をつけて、追跡調査を継続した。

ハルトはちょっとお洒落なホテルに入っていった。


ひとりで入って行ったとはいえ、場所が場所だ。

もしかして、ちょっと年上のお姉さま的な人と密会なんじゃないか!?


あたしの妄想が暴走を始めた。

ちょっとお洒落なホテルは、大学生が日常的に使うような雰囲気じゃない。

こういうホテルを使うのは、サングラスをしたちょっと年上の美人お姉さまに違いない。


「俺も払います」とハルトが言っても、「バカね。こういうのは年上が払うものよ」と赤い唇で笑うんだ。


グルグルと妄想が駆け巡っていたら、ハルトがホテルから出てきた。


ん?

誰かに会っていたにしても早すぎないか?って思ったら、ハルトはベルボーイに変身していた。


「また、バイト?」

ちょっと離れたところから見ていると、ちょうどタクシーが止まった。


降りてきたのは外国人の夫婦らしき中年の二人組。

ハルトは躊躇することなく、話しかけている。


よく聞こえないけれど、笑って会話をしている様子は見えた。


そういえば、高校時代のハルトは、いつかバックパッカーをしてみたいって言ってた。

汚い大きなリュックをもって、ひとりでバックパッカーをするのってかっこいいとは思う。

だけど、今のハルトの印象からでは想像ができなかった。

お洒落なハワイのビーチとかで寝そべっている様子しか想像できないけど、もしかしたら、ハルトは本気で英会話力も磨いてきたのかもしれない。


「あたしって、ハルトのこと何にも知らないんだな」


どこで間違えたのか。

今となっては分岐点すら思い出せない。


時を戻すことができないなら、もう先へ進むしかない。


「修羅場を演じて別れるんだ」

今度、呟いた言葉は、なぜか妙に心に突き刺さった。


かみしめた唇が切れて、鉄の味が口に広がった。

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