始まりの決意
「そうだ、別れよう」
大学の庭園を歩いてたあたしは、視界に入ってきた光景を見て、突然、決めた。
元々、ふと考えることもあったけど、実際に行動に移すことはなかった。
好きでたまらなくてすがったというよりも、ただ7年間という長い年月がそうさせたとしか言いようがない。
こういうのを、腐れ縁っていうんだと思う。
あたしの視界の中にいる黒井ハルト。
薄茶色の髪を自由に遊ばせ、Tシャツに白シャツとシンプルな恰好をしている。
女の子たちが群がっている姿は、特別な光景じゃなくて、いつもの見慣れた光景。
一夜限りなんて当たり前、彼女も数人はいるらしい。
現実ハーレムしちゃっているイケメン大学生。
―――っていうのが、鳥波マチの7年間、付き合っている彼氏 黒井ハルト。
中学2年から付き合っている彼氏だけど、大学ではほとんど一緒にいることがない。
彼とは同じ大学に入ったけれど、学部が違ったこともあり、授業も重なることがなかった。
そうしたら、いつの間にか、一緒にいる時間が減った。
大学2年になってからは、交友関係の狭く深いあたしの耳に、びっくりする噂が聞こえてきた。
黒井ハルトは、日替わりで彼女がいる現実ハーレムイケメン。
うまくいけば一夜限りのお相手もしてもらえるかもしれない―――
はぁぁ??
ハルト何してんの!?
って、最初は思ったけど、なんとなく彼に問い詰める気はなかった。
噂を聞くようになって、たまにハルトからくるラインに返事はするけれど、これまで以上に彼に会うことはなくなった。
そんな彼を見かけたのは実に、1ヵ月ぶりの事。
女の子に囲まれて、クールぶっているハルトと親友のマサヤ。
集まっている女の子はあたしとは似ても似つかない綺麗な女子大生ばかり。
すらっとした足、腰の位置もあたしよりもずっと高い。
こなれたメイクの綺麗な顔立ちは、自慢して歩きたいほどかわいい。
見下ろせば、あたしの履きつぶしたような灰色のスニーカー。
元々は白かったけれど、今やもう、灰色に薄汚れている。
少し太めのジーンズは、型落ちもいいところ。
見た目なんて気にしないって思ってたけど、まぁ、これではハルトが逃げていくのもわかる気がする。
あたしは決めた。
「そうだ、〇〇へ行こう」のCM同様、「そうだ、ハルトから別れよう」