6話 嵐の一夜
武人視点。
『お兄ちゃん一緒に寝よ』的な回です。
評価ありがとうございます。感想、ブックマークも初めていただきました。ありがとうございます。
週末、夕方から降り始めた雨はだんだんと強くなってきた。風も強くなり予報では今晩はかなり荒れるらしい。
父さんは出張から帰る予定だったけどこの天気で飛行機が飛ばず明日になった。3直予定の母さんは天候が荒れる前にと、かなり早めに家を出た。
雷が近づいてくるのがわかったので、寝る前に家電品のコンセントを抜いておくことにした。以前、近くに落ちた雷でテレビが壊れたことがあったからだ。
フリーザーに少しある冷凍食品は明朝に処理しよう。冷蔵庫内は開閉しなければ朝まで大丈夫。
炊飯器、電子レンジ、洗濯機、エアコンと次々に抜いていく。もちろん自室のパソコンも。
ついでに戸締まりも確認し、ちょうど階段を昇りきった時に真っ暗になった。
「停電か」
遠くではないが少し離れた場所に雷が落ちた、と思った直後だったし、窓から見えた街中も真っ暗になったので慌てることもなかったが、そのあとが大変だった。
「きゃーっ!」
ユキ姉の部屋の中で何かが倒れる音がし、本人が部屋から這い出してきた。俺の部屋に向かおうとしたようだったが、階段前にいる俺に気がついた。
「っっ! た、武人! 停電っ」
そのままダッシュで俺の足にタックルしてきたので、危うく階段を落ちそうになった。ユキ姉は俺を殺す気なんだろうか。
「ユキ姉、落ち着いて」
俺は、万力なのかと思うほど強く足にしがみつくユキ姉の腕を力付くで剥がして立ち上がらせたが、今度は胸のあたりに抱きついてきた。あ、柔らかい!布1枚だけ?めっちゃ柔らかい!髪から好い匂いするしっ!
抱きしめる感じにはなるがユキ姉の背中に腕を回して、 頭も撫でた。
ユキ姉をしがみつかせたまま、愛美の部屋をノックしたが返事がない。寝たのならそれでいいかと扉を少し開けてスマホのライトで照らすと、愛美はベッドの上にうずくまって震えていた。
身体は大きくなっても、中身はまだまだ中学生の女の子なんだよな。
「愛美、大丈夫か?」
「兄さんっ!」
顔を上げて俺をみた愛美は、脱兎の勢いで飛びついてきた。勢いに加えて愛美の背は高い。回した腕は俺の首筋に絡みつく感じで抱き締めてくる。
あ、当たってるっ!柔らかいのが当たってるから!
パシィィィ~ッ!!!
すぐ近くに大きな雷が落ちた。近すぎる雷は『どーん』とは鳴らない。巨大な鞭を叩きつけたように空気が振動する。
「「っっっ!」」
しがみつく二人の力が強くなる。
目を閉じて泣きながら絞め落としに来るとは、なんと息の合った恐ろしい姉妹。今日が俺の命日になるかもしれない。
とにかく廊下で立ち尽くしていても仕方がないので俺の部屋に入れた。3人でベッドに腰掛ける。二人ともしがみついたまま離れようとしない。
二人の頭を撫でたり、赤ちゃんをあやすように背中を軽く叩けば少しずつ手の力が緩むが、稲光や落雷の度にまたしがみつく手に力が入る。
いつまでもこうしていても仕方がないよなぁ。
「ユキ姉と愛美の二人でこのベッド使っていいから。俺も床に布団敷いて寝るし」
妥協案を出したつもりだったけど、二人は納得しなかった。
「ここに居て!朝まで」
「私も、兄さんと一緒がいいです」
全然離してくれそうにない。今日ばかりは大きいベッドを買ってきた父さんに感謝だな、と考えながらタオルケットを広げて三人で被った。
でも、左右から抱きつくようにして押し付けてくる柔らかいモノに朝まで耐えろとか、これってマジで拷問ではないだろうか...。
そこからしばらくの間、二人の髪からのいい香りとか呼吸するたびに押し付けられて接触面積が増えたり離れたりする丸いモノとか俺の胸の上に置かれてるから身動きするたびに弄られている感じがする細くて可愛い手とかわざとやってるんじゃないかと思うくらい絡みつかせてくる脚など、俺のダークサイドから湧き上がってくるいろいろなモノに耐えていると、ようやく二人とも寝息をたてはじめた。
気が付けば雷の音も遠くに移動していた。
しばらく二人の髪を撫でていたが、俺もそのまま意識を手放したらしい。
ふと目が覚めてスマホを見るとアラームが鳴る少し前だった。昨夜はかなり遅くまで起きていたけど習慣による体内時計は正確だなぁ。そのままアラームを解除する。
目が覚めたのだろう、左側で愛美が身動ぎしたのでそちらを見ると、目が合った。
「兄さんっ!っなんで!?」
驚いたあとしばらく固まっていたが、「あ、そうか」と顔を赤くしながらも思い出したらしく、愛美の身体から力が抜けた。
しばらく俯いていたが、そこで終わらないのが愛美だった。俺の肩口に顔を近づけ、
「んふふ。兄さんの匂い...」
そこから今度は腰のあたりでゴソゴソしだし、タオルケットからパジャマのズボンが投げ出される。
次に愛美はパジャマシャツのボタンに手をかけた。
「愛美 何してる?」
「せっかくですから、兄さんと裸で抱き合えるチャンスを活かしきろうと思っています!」
俺は愛美にデコピンを放った。
「痛~い。兄さんっ 今のは優しくありませんでした!」
身体を張ってからかいに来るとは。スタイルもいいしとても美人なのに、なんでこんな残念さんに育ってしまったんだろう。
右隣ではユキ姉が俺に寄り添うようにして眠っている。しがみつかれてないのでいいのだが、今のやりとりの中でも起きないのがユキ姉らしい。
「愛美 朝ご飯の用意してくるから、ユキ姉と一緒にまだ寝てて」
俺はそう言って、頭の方向に身体をベッドから引き抜く。
「え~?」
不満そうに言いながらも、まだ外は暗い。愛美は俺が寝ていた位置に移動し、「えへへ」と言いながらタオルケットの中に顔を潜らせてスンスンしていた。
1階へ降りると洗顔を済ませ、キッチンへと向かう。
停電はもう復旧していて、抜いていた家電品のコンセントを次々に差し直していく。
昨夜から開閉していないだけあって冷蔵庫の中はまだ充分に冷えていた。捨てるものはなさそうだったので良かった。
冷凍庫の中が問題だったけど、溶けた氷は捨てて作りなおす。袋入りのアイスクリームはドロドロだけど、開封してないから一度冷やして固めたほうが処理が楽だ。解けた冷凍野菜はもう冷凍できないので、一度レンチンしてから今晩のおかずに使ってもらう。
とりあえずの方針と仕訳は完了。
次は朝ごはんの用意。
冷凍庫から取り出した市販のチャーハンとピラフをそれぞれフライパンで炒めてテーブルに乗せていく。レンジで温めるのは水っぽくなる感じがするのであまり好きではない。さすがに半解凍状態だったのでフライパンにあけたとき少し油がはねたが、味には問題なかった。
ピラフ2皿とチャーハン1皿を用意し、階下から声をかけると、愛美が憤慨した様子で降りてきた。なんだ?
「兄さんにはガッカリしました! お部屋中探しても見つかったのは、普通の写真集が1冊だけ! もっと激しい内容のはないのですか!? しかも、このモデルさん、お姉ちゃん似じゃないですか!? 兄さんは私に似たモデルで、もっと激しい本を買うべきです!」
ユキ姉に似てる?そうかなぁ。見てて安心できる顔立ちだとは思うけど。それよりも、
「お前、俺の部屋の中を捜したのか?」
「もちろんです。妻の正当な権利ですから!」
妻じゃないだろ...。
「人の部屋を勝手に探すなよ...。お前も、俺に部屋を漁られたらいやだろ?」
「望むところです! 兄さんアルバム、兄さんピンナップ、兄さんグッズなど私から兄さんへの愛に溢れた部屋を御堪能ください! そして秘蔵しているお宝を兄さんに見られでもしたら私はもぅ...ハァハァ」
近寄りたくないな...。
興奮しだした愛美との会話を打ち切って顔を洗いに行かせると、ユキ姉も降りてきた。気のせいか顔が赤いし、目が潤んで泳いでいる。
よろよろした足取りでテーブルに着く。
「ユキ姉 大丈夫?」
「あー、武人がここにもいる。なんか目が覚めたら武人のベッドにいて、あぁ武人の匂いって久しぶりだって思ったら心地よくて安心できてて、夕べ、ブラつけてないのに武人に抱きついたの思い出しちゃって、横で愛美が写真集見ながら『この横顔がお姉ちゃんそっくりです!兄さんは私よりお姉ちゃんがいいんでしょうか!』とか言ってるし、いきなりパジャマと下着を脱がされて、抵抗したけど愛美には全然勝てなくて、直に揉まれて『来年には私が勝ってるはずです』って宣言されて、今度は耳元で『これは兄さんの指、これは兄さんの指』って囁かれながら何度も何度も......、だんだん息が苦しくなって目の奥で火花が散って頭がボーッとして、あぁそうかあたし、武人の部屋に連れていかれて武人の大きなベッドに寝かされてずっと武人に抱きついてて武人にとっても気持ちいいことされてたんだ、あぁそうだ武人のシーツとマットいっぱい汚しちゃったから何とかしないといけなくて、下に降りなきゃって服着ようとしたらパンツがなくて探してもパンツが見つからなくて、パジャマだけ着て降りてきたけどパンツ履いてないからなんだかスースーしてて、なんか一度にたくさん事件が起きてて頭が追いつかなくて...」
愛美がユキ姉に無双したらしい。
ユキ姉はダイニングのテーブルに肘をつき、頭を抱えながら話している。寝起きで頭が回っていないのだろう。いろいろ頭に浮かぶまま垂れ流しに語っているけど、混乱してるようで俺がユキ姉に何かしたように言われている。聞いちゃいけないことも混じってて...。
コメントはせず、グラスにオレンジジュースを注いでユキ姉の手に握らせた。ユキ姉はそれを半分ほど飲むと静かになった。だんだんとこっちの世界に戻ってきたようだ。
「私! 何をしゃべってた!?」
顔から色をなくし、慌てたように聞いてきた。ここは知らないふりをしたほうがいいのかなぁ。
「ん、下を向いて何かぶつぶつしゃべってたけど内容までは聞き取れなかったな」
「ほんとに?」
「あぁ。どんなことをしゃべったと思ったんだ?覚えてないのか?」
蒼白だった顔が急に真っ赤になった。
「ち、ちょっと夢の中の話をしてたみたい。つまらないことよ」
「ふーん。まぁ顔を洗って頭をはっきりさせるといいかもな。洗面所にいってきなよ。朝はピラフでいいだろ?」
ユキ姉を洗面所に送り出した。
揃って洗面から戻ってきた二人にはピラフを薦め、俺はチャーハンを食べた。
食事を終えると二人は2階に駆け上がった。いろいろ思うところがあるらしい。
俺も自分の部屋を片付けよう、と上がろうとしたが、自分が片付けるから見に来ないでとユキ姉になぜか潤んだ目で止められた。まぁ、ユキ姉なら勝手に家捜しもしないだろう。見られて困るものなんて置いてないし。
使った食器を洗って、いろいろ溶けてしまった冷凍庫の中を掃除していたら母さんが帰宅してきた。
「母さん チャーハンでいい? うどんもあるけど」
同じく半解凍状態の冷凍うどんと、好きなほうを選んでくれればいい。
「チャーハンのほうが早そうね。チャーハンにするわ」
軽く温めなおしてスプーンを添えて母さんに出す。
「そうだ、母さん。ちょっとアレを借りたいんだけど、いいかな?」
戸棚の奥にしまい込んであるものを指して聞いてみた。
「構わないわよ。いつかあなたのものになるんだし」
あれ?コレは俺のところには来ないんじゃなかったっけ?
そう答える母さんもいつもよりは疲れた様子だった。
「夕べは大変だったのよ。停電してたでしょう? 病院の発電機は動いたけど透析機とかの医療機器が優先で灯りは非常灯だけだったのよね。足元や手元がはっきり見えないから看護師のみんなや患者さんが転ばないか心配ばかりしてたわ」
「母さん、俺たちのことは心配じゃなかったのか?」
「あら、武人がいるんだもの、私が心配する必要なんてないでしょう? 有紀子と愛美のことは、これからもずぅ~っとあなたに任せておけば安心なんだから」
なぜか意味ありげに横目で見てきて、クスッと笑った。
俺、これからもずっとユキ姉と愛美にご飯作らなきゃいけないのかな...。




