1話 お昼休み
初めての投稿で盛り上がりとかありませんけど、よろしくお願いします。
♪キーンコーンカーンゴーン
時計は11:50
4時限目終了のチャイムが鳴った。毎日における最大イベント、ランチタイムの始まりである。チャイムの最後の音程が外れるのは昔かららしい。
教室内の約半数は急いで教科書やノートを片付け、購買へと急ぐ。
購買へ行かない者は自宅から弁当持参か、登校途中のコンビニで買ってきている。
うちの高校に学食はないので選択肢はそれくらいしかない。
購買へ行かない者も動き始める。
グループで食べるために机を移動させたり、友人のいるクラスを訪れたり、部室や空き教室へ向かったり。
もちろん一人で食べる男子もいる。ボッチ感があるかどうかは人それぞれだけど。
観察している限りではうちのクラスに深刻ないじめもなさそうなので、一人で食べている男子も仲間外れのボッチなどではなく『移動するのが面倒』なだけっぽい。
女子の場合はいじめとか関係なく、公衆の面前で一人で食べること自体がタブーなのだ。『一人じゃない』アピールが大切。はぁ、女子ってめんどくさい。
私、早宮有紀子は弁当持参派。だから購買へ行くことなく、自席(2年3組の教室)で友人たちを待っている。
前の席の机を私の机にくっつけて3人が食べられるようにしてある。その席の男子はいつもお昼を部室で食べるそうなので、机を使わせてもらうことは伝えてあるからノープロブレム。
ほどなくして2人がやってきた。
「ただいま~。いやぁ今日も購買は戦争だったよ~」
ゆかり。中学で陸上をやっていたせいか今もショートヘアにしている。小学生の頃は肩まで伸ばしてたのにな。
話し方もちょっと男子っぽくて身長も私よりちょっと低いだけの165センチ。1年生から3年生まで広く女子のファンがいるらしい。ヅカかよ!
お昼はいつも購買でパンやサンドウィッチを買いにいく。
「こんにちは」
浅子。肩までのボブカット。小柄だけど出るとこはしっかり出ているなかなかうらやましい体型である。きれいな黒髪なのだからストレートのまま伸ばせば博多人形みたいなのに、と思うが本人曰く『愛美ちゃんとカブるからやめておくわ』らしい。
お母さんの都合で弁当持参とコンビニ弁当と購買利用の割合がほぼ同じくらい。
隣の2組なので、弁当の時でもゆかりが購買から戻ってくるのに合わせて一緒に来る。
ゆかりも浅子も小学校からの付き合いだ。最近でこそ頻繁ではないが、お互いの家もよく往き来していた。
さて、お待ちかねの(私が待ちかねた!)お弁当箱開封の儀、である!
今日は何かなぁ~♪ 楽しみだなぁ♪
毎朝毎朝、私のために早起きしてお弁当を作ってくれるのだから。弟が♪
・・。
・・・。
いゃ待ってほしい。
私の言い分も聞いていただきたい。
弟がお弁当を作っていると言っても、弟を虐待しているわけでも無理やり作らせているわけでもない。
意地悪な姉でもあるまいし、メインヒロインの私を差し置いて弟にシンデレラ役などさせようはずがない。我が家でシンデレラを演じるなら私の他に最適な役者はいないはずなのだから。
我が家庭も世間様のご多分に漏れず両親ともに働きに出る、いわゆる共働きであり母親は現在、中規模の病院で看護師をしている。夜勤ありというやつだ。
入院設備のある病院の看護師というのは毎日朝から夕方までという働き方ではなく、1直、2直、3直と定期的に勤務時間帯が替わるのに加え、1直と2直を続けて働く、あるいは2直と3直が続くこともあるうえに、頭数が足りなければイレギュラーで呼び出されることも珍しくはないかなりハードな労働環境にある。
そんな状況の中、中学生高校生の可愛い(←ココ重要!)子どもがいて家のことを何も手伝わないはずがないではないか!
かくして現在、高2の私と高1の弟、中2の妹で家のことを分担している。
私だって普通に料理は作れるし、掃除や洗濯もやっている。その中で毎朝の食事と、母さんも含めた3人分のお弁当を、弟の武人が担っているだけなのだ。
決して、決して私が弟を虐待しているのではないことを裁判官のみなさんには強く、強く申し述べたい。
お弁当箱のフタを開ける。おぉ~♪ 今日も美味しそう。
「どれどれ今日はっと、ほうれん草のおひたし、カボチャとインゲンの煮つけ、山芋の短冊・・・は細く切ってあんなぁ、芸が細けぇ。メインは豚肉の生姜焼きか。デザートはパイナップルとゼリー、ときたもんだ。いつもながら武人のヤツすげぇな」
無遠慮に私のお弁当をのぞき込んだゆかりが聞いてもない説明をする。
「ちょっと!私のお弁当よ。あんたはパンを頬張ってりゃいいの!」
ゆかりも浅子も、我が家と同じくご両親は共働きでなかなかお弁当は作ってもらえない。
それなら自分で作れば・・・、あぁいゃ、やめておこう。(ちょっと墓穴を掘りそうになった)
「ご飯の上に海苔で『LOVE』とでも書いてあれば完璧なのに。タケちゃんも詰めが甘いわね」
コンビニ弁当を開けながら、こっちをチラ見して浅子が宣う。
「姉の弁当に書かれても困るだけでしょ。どこの新婚よ」
私がそういうと、浅子はやれやれ、といった感じで頭を振った。
んふ~♪
お弁当を食べ進めていると、ゆかりと浅子がいつも以上に見てくる。
「どしたの?」
「お前ってほんと美味そうに食うよな」
「美味しいからね」ゆかりは何を言ってるんだ。
「有紀子、お弁当に飽きるってことない?」
「飽きるわけないじゃん。毎日違うおかずなのに」浅子まで。
「なぁ、有紀子。作る弁当が増えると武人は大変かな?」
ゆかりが急にそんなことを言い出す。
「う~ん、どうかな。煮込んだりするのは量が増えても同じだと思うけど、お弁当箱に詰めていく手間は増えるかも? どして?」
「なんていうかさ、ほんとに美味そうだなと思ってさ」
ゆかりの気持ちもわかる。3人とも親は共働きだ。働き方はそれぞれ違っても毎日のお弁当を作ってもらえる時間的な余裕はなかなかない。
小学校の頃の運動会で1度だけ、ゆかりの両親が仕事で来れず、ゆかりは私の家族の席で一緒にお昼を食べた。仕事だから仕方がないと理解はしている、でも小学生が納得するのは難しい。
自分で作れないことはない。でも自分で作ると手を抜くというか、雑になるのだ。『誰か』に作ってもらったお弁当というのが貴重に思える気持ちはとてもわかる。
「来週だけでいいからさ、あたしと浅子のお弁当も作ってもらえないかなって、武人に聞いてほしいんだけど・・・。有紀子ん家、LI○Eやってないし。1年の教室に行って直接聞いてもいいけどさ、『お前のお弁当が食べたい』って周りが聞くと誤解されそうじゃん?」
うん。『ゆかりが武人にコクった!』とでもなれば、ゆかりファンから武人が責められそう。お姉さま方の怒りがこっちに飛び火するのも困る。私が聞くしかなさそうだ。
ちなみにゆかりはファンからのお弁当は受け取らないのだと。誰かのお弁当を受け取ってしまうと贔屓だとか嫉妬だとかで収拾がつかなくなるらしい。
それに中身も心配だ。無いとは思うけど"よくないモノ"が入ってないとも限らない。実際、ゆかりがバレンタインデーに受け取ったチョコに混入していたことがあったのを私と浅子は知っている。
ゆかりが安心して食べられる手作り弁当は、お母さんか武人のだけってことか。
「聞いてはみるけど、武人がOKしたら3人で中身が同じお弁当をつつくの? っぷ」
想像したらちょっと笑えて来た。
「ううん。同じじゃない。タケちゃんに、私のお弁当には『LOVE』って書いて欲しい」
浅子、注文が細かいな!
まぁ楽しかった、面白かった、暇つぶしにはなった等、思っていただければ作者喜びます。
評価いただければ、さらに小躍りして喜びます。
こういう話も書き始めました。
「『ぼく、およめさんになる』 オレの嫁を目指す幼馴染の春輝君が作るメシを食ってダラダラするだけの話」
https://ncode.syosetu.com/n7477ft/