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勇者と戦士と魔法使いと予定調和

ばれちまっちゃぁ仕方ねぇ。知らざあ言って聞かせやしょう。みたいな見えを切りたい

勇者。それはなりたいからと言ってなれるものではない。

生まれた世界。生まれた時代。加護。血筋。運命。前世。

しがらみがなくとも、後の世、後の人たちが後世に伝えていく存在。

時には伝説に、時にはおとぎ話に、子供から大人まで全ての人間が知っている。


勇者・ブレイル。女戦士・キティ。魔法使い・ローリエ。そして今はいないがもう一人。

三百年以上も語られることとなる伝説の存在。これは、そんな勇者たちの記録に存在しない一幕。



「オルディンさんは、どうしてここに来たのですか?」


魔王オーダーは彼らにオルディンと名乗り、その存在を隠していた。


「自慢じゃないが結界魔法が得意でね。ここくらいのレベルのダンジョンなら無傷で突破できる。今回はことがことだからね。立ち入り禁止の代わりにああいった結界を張っていたんだ。ずっと結界を張りっぱなしだと疲れるからここで休憩をね。」


「わかります。常時展開する魔法の消耗って結構バカにはできませんからね。」


「さて、私はいい感じに回復ができたから、そろそろ動こうと思う。君たちはどうする?」


「僕はもう少しここにいようと思います。魔法使いさんには無理はさせられませんから。」


「ありがとう。できればもうちょっとだけここで休憩した。」


「アタシはいつでもいいぜ。」


「そういうことですので、僕たち三人はここにいます。オルディンさん。気を付けてください。」


「ありがとう。それじゃ、私はこれで。」


オーダーが丸太の椅子から立ち上がり背を向けた瞬間・・・・左頬を魔法弾が掠めた。


「魔法使いさん!いきなり何を!!?」


「いつからだ。」


「え?」


さっきまでの優しい声とは違い、鋭さのある声に変わっていた。


「最初は気のせいかもって思ったけど、洞窟に入る前に感じた禍々しい魔力。あれだけどレベルの結界魔法を継続して張れる力。そこまでだったら疑惑の領域だった。でもね。確信に変わったのはついさっき。あなたは結界魔法を得意としているみたいだけど、ここにある椅子、鍋、焚火、明らかに魔法の痕跡があった。しかも普通の魔法じゃない。」


「普通じゃないのに、普通の魔法を使う。確かに怪しいな。けど――――」


「!!!」

「!?」

「こ、この魔力。ありえない・・・・」


オーダーの身体からあふれ出した魔力に驚きを隠せない三人。

いままで強敵と言われていた魔物を倒してきた歴戦の戦士たちではあるが、所詮は人間。大自然に立ち向かえばいくら屈強な人間であってもいとも容易く命を落とす。彼らの目の前にいるのは生きる天災。いや、天災などという生易しい言葉では説明できない。


「若様!」


「上!!」


三人が顔を上げて声のする方を見ると、闇の中から白い塊が飛び出し直撃した。


「これは、糸!」

「アラクネの糸だ!」

「なんだこれ!全然外れねぇ!それだけじゃない!余計に絡まってバランスが・・・」


「「キャー」」


「若様。ご無事でしょうか。」


空中で半回転しオーダーの隣に立つフラム。一瞬怯んだ瞬間を狙っての拘束。完全な不意打ちに加え生物が苦手とする頭上からの攻撃。反応はできても完全に回避することはほぼ不可能。


「ちょっと!どこ触ってんの!」

「せ、戦士さん。く、苦しい・・・・」

「ちょっと!そこは・・・んっ!んんっ!!」

「なに色っぽい声出してんだアンタ!!」

「だ、だって・・・さっきから擦ってぇ・・・あんっ」


「・・・・・・・・わ、若様。あれはいったい。」

「君の糸から逃げようとして藻掻いた結果だよ。」


「あの・・・・助けてくれたりは・・・・」

「ダメだ。」

「ですよね。」


ブレイルがオーダーに頼んでみるも却下されてしまった。


「さて、せっかくのシリアス展開が台無しになってしまったところで、君たちに謝らなくちゃならない。私の本当の名はオーダー。魔王オーダー。こことは違う世界の魔王だ。」


「どうして魔王がこんなところに」


「一から説明するのは大変だが、簡単に説明すると。この世界にはいくつものダンジョンがあるのは知ってるな。」


「うん。」


「それじゃダンジョン荒らしって知ってるか?」


「聞いたことあるぜ。」


「知っているんですか戦士さん!」


「ああ。合法化されているものだと新しい特技や魔法を試したいから、手ごろなダンジョンで試しに使ってみること。やり過ぎるとペナルティが課せられるって聞いたことある。」


「君たちが所属している冒険者ギルドにはダンジョンの運営も入っている。問題は全てのダンジョンを管理できているわけではない点にある。ギルドの管轄外のダンジョンは無法地帯になることが多い。ここも管轄外のダンジョンの1つだ。そして一番最新のダンジョン荒らしの被害にあった場所でもある。」


「そうだったんですか・・・・待ってください!最新ってことは。」


「ああそうだ。既に多数の被害報告も寄せられている。」


この世界はダンジョンとの共生に成功した事例の1つであり、貴重な世界でもある。

人の欲望によってダンジョンは成長し、また人の欲望によって発展している。

欲望こそがこの世界におけるもっとも重要な要素の一つ。

植物だけ、動物だけ、そんな世界の成長と言うのは本能によるところが大きいが、その点において人間の欲望と言う底知れぬものがある。

欲望と言う器を満たすには、それこそ莫大な時間を有する。



「さて、君たちには二つの選択肢がある。」


「僕の命は差し上げます。二人は見逃してください。」


「いや待て。そんなk「いえ!私の命を差し上げます!攻撃したのは私です!!」


「だからそこまでn「何カッコつけてんだよ!アタシが犠牲になる!2人みたいに頭もよくねぇし、足引っ張ってばかりだし、こんなことでしか役に立てねぇんだ!頼む!アタシをヤッテくれ!!!」


「君たち。あまり人の話を最後まで聞かないタイプだろ。では改めて・・・・」


オーダーは一度咳ばらいをし、なかなかシリアスな雰囲気にならない場を整える。


「選択肢は二つ。1つはここでの記憶を消去して洞窟の入り口に戻ること。もう一つはここで起きたことを絶対口にしないこと。こっちは君のその呪いの解除もしてあげる。さぁ、どっちにする。」


「なにを考えているのですか。あなたに何の得もありませんよ。」


「やはり君は優秀だ。特別に答えてやろう。『戯れ』だ。」


「戯れですか。」


「圧倒的な力を持つ者のみが許された特権の一つ。いたずらに国を一つ滅ぼす奴もいれば、ただ傍観に徹しているものいる。それと同じさ。それで、どっちがいい。」


「・・・・・・・・前者で。」


「お前がそういうなら」

「私たちはそれに従うだけ」


「戯れとは言ったが一応、理由は聞いておこう。明らかに後者の方が得だと思うがね。」


「確かにこの身体は不便なことも多いです。でも、この身体になってからの冒険は何事にも代えられない大切な思い出なんです。ここで戻してもらったら、いまの冒険の意味が無くなってしまいますから。」


「冒険が思い出になる。長らく忘れていたよ。」


オーダーが手をかざすと三人の糸の拘束が魔力のよってドロドロに溶けて解放された。

ブレイルたちの元に時計の様な魔方陣が展開し、ゆっくりと逆回転を始める。


「これで君たちとはお別れだ。本当に短い時間だったが楽しかったよ。じゃあな。」


魔方陣の時計の針が徐々に加速し逆回転の速度が上がる。三人の動きがこれまでの行動の逆再生が始まり洞窟の外まで戻っていった。


「若様。これでよかったのですか?」


「フラムまで言うか。」


「上で聞いていましたけど、楽しそうにお話されていましたよ。」


「そうか・・・・そうかもな。」


(わ、若様の横顔!しかも微笑みの横顔!あぁ、幸せ過ぎます・・・・)自然と笑みを浮かべるその横顔を独り占めしたフラムは決して顔に出すことなく人知れず幸福に包まれていた。


「そろそろコオリたちも戻ってくる頃合いだ。最悪の場合、封鎖もありえるから周囲の大型魔物の配置と空間の切り離しもしないといけないな。」


「空間圧縮を行ってから切り離した方が良いのでは。」


「元に戻すときに周辺への影響が大きくなる可能性がある。いくら冒険者ギルドの管轄外といっても存在の認識はされている筈だ。悪質なダンジョン荒らしが入った場合には、ある程度の制限が冒険者たちに設けられると同時に、ダンジョン内の増え過ぎた魔物も間引かれてしまう。バランスの観点から見れば必要なことなんだけどね。兎にも角にもコオリとマクリーの報告待ちだ。」


「ではご報告させていただきます。」


背後から発せられた機械的な女性の声にフラムは「ひゅい!!」と驚きの声を出してしまった。


「戻ってきたか。それじゃ、報告の方よろしくね。」


「かしこまりました。マスター。」


結論から申せば、洞窟内の凍結魔法に関しては問題ないとのこと。ただし、洞窟内に生息していたゴブリンの約7割は蘇生不可能状態。そのことからこの洞窟は封鎖。後に繁殖工場から補充することとなった。

ゴブリンの繁殖力からして補充には2週間程度。ダンジョンが元の状態に戻るまで長くても1か月。

その間はよく似た別のダンジョンを用意することにした。

この世界にもよく似た世界がある。一般にはパラレルワールド(あちら側)と呼ばれており、何かあった時のために準備しておいてある。そこから同じような洞窟を複製、こっちの世界(こちら側)に張り付ける。

ほぼ同じ世界のために影響力は少ないが、それでも世界線が違うためにどこかしら綻びが発生してしまい。不具合が起こる可能性も考慮して、ダンジョンの復元が完了し次第、入れ替えを行う。


人間の知らないところではこうした地道な作業も行われているのである。


オーダーは結界を解除させ、空中に描いた転移の魔法陣から皆で元の世界に戻っていった。









そして洞窟の入り口


「なにが起こるかわかりませんから気を付けてください。『マジェスディスタ』」


「詠唱破棄。僕も練習した方がいいのかな。」


「人には得手不得手あるから、少しずつやっていけばいい。」


「アタシの火炎剣みたいなものだろ?」


「似て非なるもの。また今度説明するから。」


男性剣士が一人。女性剣士と女性魔法使いが一人ずつ。

三人パーティーが洞窟に入ろうとしていた。


「なにがあるかわかりませんから、いつでも戦闘ができるようにしておきましょう。」


女剣士は左手の小盾の具合を確認し終えると抜刀した。

男の剣士は腰の剣に手を添え、奇襲に備える。

魔法使いは右手に魔石を二つ付けた杖を、左手に高レベルの魔導書を開いて構えた。


「行きましょう二人とも。ここに僕の呪いを解くカギがあるかも知れませんからね。」


「いくぞー!」

「おー!」




簡単な生物解説


ゴブリン


高い繁殖力とコミュニケーション能力を持ち合わせている。

モノ作りが得意な個体も多く、市場に流れてくるゴブリン製のものは高級品。

種としてはあまり強くないが、集団で襲ってくるので油断していると返り討ちにあう。

洞窟で集団で生活するものもいれば、人間と共にいるものもいる。

人間社会に溶け込んでいる個体は友好的。ダンジョンや野生のゴブリンは警戒心が強い。



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