勇者と戦士と魔法使いとおちゃめ機能
一話を二つか三つに分けているのっていいかも
長いと読みにくいからね
洞窟内に入った勇者たちはまず異常な光景に驚いていた。
「勇者様。わかりますか。」
「ああ。なんでこんなことになっているんだ。」
「ん?なにが変なんだよ。」
勇者と魔法使いは氷漬けになった洞窟と、その氷に閉じ込められている魔物のレベルの力の差に違和感を感じていた。
「戦士さん。ちょっと真面目な話になるんだけど、ここにいる魔物は?」
「ゴブリンだな。」
「それじゃ、ゴブリンの巣穴になっている洞窟の適正レベルはいくつ?」
「18前後。」
「そうだね。でもこのレベルの凍結魔法はレベル40クラスのそれ。」
「つまりどういうことだ?アタシにはさっぱりだ。」
「この洞窟にはとんでもない外道がいるか、とんでもない魔物が住み着いているか、ってこと。」
「あ、なるほどね!!」と判子を押す仕草を取って理解を示す。
「でも安心しな。どんな奴がいようとも、このアタシがぶっ飛ばしてやるよ。」
「アハハ・・・・ほんと相変わらずですね。そこが良いところなんですがね。」
勇者の苦笑いと共に言われた「そこが良いところなんですがね。」が女戦士の脳内でリピートされ戦士から乙女の顔になって悶え始めた。
「だ、大丈夫ですか!なにか罠が」
「罠じゃない。ただの妄想癖。」
魔法使いの状況判断が、洞窟よりも冷たかった。
「とりあえず防御魔法を掛けるから動かないでね。『マジェスディスタ』」
魔法使いの持つ杖の先端がキラキラと光ると3人の身体がうっすらと光を放つ透明な衣に包まれ、洞窟内の冷気をシャットダウンした。とはいえ低級な防御魔法であることには変わらない。
勇者の衣服には耐火と耐寒の効果があり、魔法使いの衣服には対魔力に対する効果が備わっている。そして女戦士は人より暑さや寒さに対して強いだけだった。
リガントは強力な凍結魔法ではないが、漏れ出す残留魔力から発せられる冷気はそこそこ冷たい。なので念には念を入れておくのが頼れる後衛職の仕事である。
「戦士さん。そんな薄着で大丈夫ですか?」
「ん?ああ!問題ねぇ!それにさっきの魔法をかけてもらってから全く寒さを感じねぇんだよ!!」
「気を付けて。低級の魔法防御だからちょっと強い魔法がくると簡単に破られちゃう。それに『リガント』っていってもここまでの威力で使っているなら、そこかしこから生えている氷柱とか凍っている壁とか魔物とか、あんまり触らない方がいい。危険だから。」
ちょっと頭の悪い仲間がいても、ちゃんと説明してあげるのが頼れる仲間の仕事である。そしてこういうところでちょっとずつちょっとずつポイントを稼ぐのもできるヒロインの証でもある
若干のドヤ顔を披露したと思ったら、恥ずかしかったのかすぐに顔を隠して戦士、勇者、魔法使いの順に並びなおし洞窟の奥へと進んでいった。
☆
ピッピッピッピッピッピッ
コオリの映し出しているモニター画像にはスキャンされた洞窟の立体映像が投影され、入り口の方に出現した3つの赤い点がゆっくりではあるが移動している。ゴブリンの巣窟となっているダンジョンにありがちな罠に関しても壁のいたるところが凍結しているために、始動するための仕掛けが動かない。
「生体反応が洞窟内に入りました。それと同時に防御魔法『マジェスディスタ』の反応がありました。詠唱破棄での発動が確認されましたのでそれなりの実力があるも魔法使いがいると思われます。」
フラムが糸を伝い立体映像を確認すると、オーダーとわずかにアイコンタクトを交わすと暗闇の中に姿を消して入り口の方へ天井伝いに移動していった。あまりにも静かすぎる行動と気配の無さに目で追うことでしか、その姿を確認することができなくなっていた。
特殊な目を持つハーフアヌビスのビーシャンだけが、天井を伝って歩く彼女の姿を曲がり角で見えなくなるまで見送っていた。
クイックイッ
オーダーの袖を2回引っ張ると頭をポンポンと軽く撫でて応えた。
「若様。フラム。角。見えなくなった。」
「そうか。まあすぐに戻ってくるし・・・・二人とも甘いものでも食べるか。」
甘いものと聞いて「いいの!」とはしゃぐマクリーとコクンッと頷くビーシャン。
特にマクリーは道中の呪い解消や蘇生のための魂の拘束を強める作業でちょっと疲れ気味であった。表には出していないが、顔を観れば何となくわかる。
「マスター。こちらの菓子を収納しておりますのでどうぞ。」
コオリは左手の人差し指を一本外してオーダーに差し出した。
「関節の部分を回していただければ、収納の魔法陣が展開されますのでどうかお使いください。」
指示通りに指の両端を摘まんで捻ると、指先から光が伸びて魔方陣を展開した。魔法陣を真横から見れば薄くて本の1ページよりも薄いため、まるで何もないところから「ぬぅう」と湧き出てくるように見えてちょっとだけ君が悪い。ただ待ちきれないのかビーシャンは魔方陣から出てくる端からもぐもぐし始めた。
「こらビーシャン。行儀が悪いぞ。ちゃんと全部出るまで待つんだぞ。」
「若様。お飲み物はございませんの?」
「確かに焼き菓子だらけだから、なにか欲しくなるな。」
オーダーが胸元から一冊のノートを取り出し、ページを1枚破り捨てた。
ノートの表紙には古代魔法文字で『魔法陣スクロール帖(使い捨て)』と手書きで書いてある。
なお古代魔法文字は基本的に全世界共通の部分が存在しているため、そこそこ古代魔法文字の知識がある人間ならどういう魔法なのかくらいは読み解くことができる。
ノートのページが床に落ちると、そこら中に散らばっていた斧や棍棒や槍が集まり鉄製と木製の部分に分かれ、鉄は鍋に形を変え、木は焚火や焚火台や椅子といったものに変化した。
「錬金術とはまた違ったものですね。これは若様のオリジナルですか?」
興味深そうにマクリーが訪ねる。確かにこれはオーダーの半オリジナル魔法ではあるが、その実態はオーダーの血液を媒介とした超高密度高魔力高性能の3K魔法陣。そのため、同じようなことを一般魔法使いがしても、そのクオリティは天と地、月とスッポンなんてありきたりな言葉では表現できないくらいの差がそこにはある。
勝手に焚火に火が付くと、今度も勝手に鍋の中に水が溜まり出す。
☆
フラムは洞窟の入り口の方に天井伝いに移動すると3人の人間が見えてきた。
(男と女の戦士が二人、女の魔法使いが一人。装備している防具はそこそこ優秀な部類。推定レベルは30以上40以下。いや、あの背の低い男の戦士。あの見た目で二人よりレベルが高い。40・・・・いや、少なく見積もっても45はある。何かしらの呪いであの見た目になっている?)
「ん?」
(こっちを見た!!?)
音もなく、姿も見えず、気配すら感じさせない天井のフラムの方を女戦士が見つめた。
「どうかしましたか?」
「あ、ああ・・・いや、なんか見られている感じがして・・・・」
女戦士のその一言でまるで別人のような顔つきになった勇者が腰の剣に手をかけて、いつでも戦闘が可能である状態になった。
(あいつら、思っている以上にできる。なにより勘が鋭い。)
「もしかしたらまだ動いている罠があるかもしれません。二人とも気を付けてください。」
女戦士は左手の小盾と右手の剣を握りしめ直し、魔法使いは杖だけでなく魔導書を開き、3人とも戦闘可能状態で進みだした。
(若様へ報告に戻らなくては)
フラムは来た時と同じように音と気配を消して天井の闇の中を縫うようにしてオーダー達のいる場所へ戻っていった。
「勇者様。この洞窟に入る前から感じていたおどろおどろしい魔力の淀みですが、もしかしたら私の持っている以上に危険な存在が放っているかもしれません。」
「そうだね。どうしてかわからないけど、なんかゾワゾワするんだ。『そっちに行っちゃいけない』って言われているような感じ。」
「二人とも魔力ってのを感じ取る力があったな。アタシにはそんな力が無ぇからわかんねぇけどさ。どんな感覚なんだ?」
「うーんとですね。人によって感じ方が変わりますけど、僕の場合、背中と眉間が痒くなる感じです。」
「私はちょっと息苦しくなる。」
「おいおい大丈夫か?」
「平気。すぐに慣れて落ち着くから。」
「そっか。まぁ本当にヤバくなったらちゃんと言えよ。」
女戦士はちょっぴり荒っぽいが結構仲間思いの熱い女なのだ。そういうところが好きな男というは意外といるもので、行く先々の街や村の酒場でナンパされることが多い。
☆
場面は戻ってオーダー達のいるダンジョン中央部
遮音の結界を張って、優雅なひと時を送っているところにフラムが帰ってきた。
東方では忍びと呼ばれる人間も同じようなことができると聞いたことがある。果たして彼らは本当に人間なのだろうかという疑問が浮かび上がる。
「若様。ただいま戻りました。報告の前に、私にも一口いただけませんか。」
「食べながらで構わない。誰がいた。」
「はい。前から順に両腕に虎の刺青のある女戦士、推定レベル35。見た目は子供のような強い男の戦士、推定レベル40。かなりの実力を持つ女魔法使い、推定レベル40。この3人です。」
「装備に特徴はあったか?」
「はい。女戦士はビキニアーマーを、男の戦士は軽装でしたが特殊金属が織り込まれている特注品。魔法使いはよくあるローブに尖った帽子ですが、高レベルの魔導書を所持しておりました。」
「それだけ分かればいい。コオリ。」「はい。マスター。」
洞窟に映し出されている三つの赤い点の情報が更新される。
「ではこの3人は無力化しつつ、今回のダンジョン凍結問題を解決するための作戦を説明する。」
オーダーが一度手を叩くと、世界が一瞬だけズレた。
「これが若様の空間魔法。噂には聞いていましたが凄まじいものです。」
コクッコクッ
世界魔法大全を読んだことのある魔法使いの皆々様におかれましては、既に周知のことだとは思うが、マクリーが言うように空間魔法というのは、魔法という括りの中においてかなりの高難易度かつ激レア魔法として認知されている。いま使ったのは通称『スペース・ギャップ』世界に存在している空間同士の隙間に入り込む魔法。そしてアクションはあったものの無言詠唱である点がその凄さを証明している。
「まず今回の作戦、フラムは天井で待機。コオリ、マクリー、ビーシャンの三人は洞窟の奥に進んで引き続き解凍と解呪と魂の束縛を。」
「若様はどうするのですか?」
「記憶の消去と改ざん、それと三人を洞窟の入り口に転移させる。」
「若様。自分だけ良いとこ取り。ビーシャンも『そうだそうだ』って頷いてます。」
コクッコクッ
「まあまあ。マクリーには洞窟の死霊を、ビーシャンには結界を、コオリには魔法の構造解析と対抗魔法を、フラムは護衛に。みなしっかりと役割を持って行動してもらってる。私だけ何もしていないんだ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
コオリ以外の三人が今回の行動を思い返すと、オーダーのしたことは世界移動の転移と今行っている空間移送の2つだけ。世間一般にこれをアッシー君という。
「わかりました。このフラム。若様のお指示に従います。」
「わたしも。従う。」
コクッコクッ
「それじゃ、そういうことで・・・・・」
オーダーが再び手を叩くと、一瞬だけ世界がズレて元に戻る。
「マスター。先行して行ってまいります。」
「行ってきます。」
コクッコクッ
「よろしくね。三人とも。」
「若様。上で待機しております。」
☆
洞窟を進むにつれて微かに聞こえていた焚火の音が徐々に大きくなっていく。
女戦士は曲がり角の手前で立ち止まり、大剣の側面の反射を使い焚火に写る人影を確認した。
(戦士さん。誰かいましたか。)
(顔は見えねぇが、誰か一人いる。焚火で暖を取っている。)
(でも気を付けて。あれだけの結界を張れるんだから、きっとかなりの実力者。)
(警戒はするけど、なるべく穏便に済ませよう。できれば結界のことと、僕の呪いのことについても聞きたいから。)
(了解。)
(うん。)
自然な足取りで歩きだした3人の足音がゆっくりと焚火に近づいていく。
「誰だ。」
焚火の男――オーダーが背後にいる三人に尋ねた。
「ただの冒険者です。ここがレベル上げにちょうどいいと聞いて来たのですが、この有様で。冒険者ギルドへ報告する前に、無理のない範囲で調査もしておこうと思いまして。」
「アタシはこいつ一人だと心配だから付いて来たんだ」
「私は二人だけだと心配だから付いてきました。あなたは一人ですか?」
「私一人できた。うん。せっかくこんなところで出会ったんだ。ちょっとだけ暖を取りながら話さないか。」
(どうしますか勇者様。)
魔法使いが勇者と女戦士にテレパスを繋いで頭の中だけで会話をし始めた。
(先に進むのもいいですけど、一旦ここで休憩しましょう。)
(ここで回復しても問題ないと思うぞ。)
(カップは用意してありますので、鍋だけお借りしましょう。水はそこら辺の氷を溶かしてから浄化すれば問題ありません。)
(バッグに薬草も解毒の薬もあった筈だから問題ねぇな)
(それじゃあ、ここで休憩するってことで)
この間、0.1秒未満。魔力による有線テレパスによる脳内会話は、脳の電気信号と同等のスピードを持って繋がっている相手へ思考を飛ばす。これをもしインターネット上でのタイピング速度とするなら、そのスピードは1フレームで200文字以上の入力を可能とする。
「ええ。せっかくのお誘いですので、ご同伴させていただきますね。そうでした。お鍋をお借りしても。」
「別の構わない。この洞窟に転がっていたものだが、結構綺麗な状態でな。勿体ないし使わせて貰っている。水はそこら辺の氷を溶かせばいい。浄化はできるか?」
「はい。魔法使いさんができるようなので。」
「それはよかった。」
女戦士が適当な氷柱をへし折って鍋の中のお湯に突っ込む。
「戦士さん!急に全部入れたらお湯が冷えてしまいますよ!」
「大丈夫大丈夫。ここにあるってことはゴブリン製の鍋の筈だ。自然に冷えるくらいでしか温度は下がらないし、中身が沸騰する温度までしか熱が上がらない。」
「そう言われてみれば、確かにゴブリンの持っている武器や道具の数々。店で売っているものとは全然違う。滅多なことじゃ刃こぼれもしませんし、折れる時も破片が出ずに綺麗に割れますし、結構スゴイのかも・・・・・」
「他にもいろいろとあるぞ。聞きたいか?」
「いいんですか!!」
少年のように目をキラキラとさせている見た目は子供の青年。
「例えば土で作られたゴーレムなんだけど――――」
「――――そ、そんな使い道が!」
「バジリスクは脳みそが二つあるけど――――」
「――――そっちが本体だったなんて!!」
「ミミックの種類によっては大変美味で――――」
「――――それは聞いたことがあります。たしか蟹脚と蛸脚が」
こんな会話がしばらく続いた後、魔法使いが口を開いた。
「そういえばあなた。名前を聞いていなかったけど、聞いてもよろしいでしょうか。」
「おっと。つい話が盛り上がってしまった。では改めて、私はオー・・・・」(しまった。考えていなかった。どうしたものか。)
「オー?」
「オー・・・・ルディン・・・・。そう。オルディン。」
「オルディンさんですね。私はローリエ。魔法使い。」
「僕はブレイルと申します。」
「アタシは・・・・キ、キ、キ・・・・・・キティ・・・・・」
女戦士は顔を真っ赤にして小さな声で答えた。
そんな可愛らしい姿を横目に、ローリエは尋ねた。
「オルディンさんは人に名前を聞くときはうんらたって言わないのですか?」
「言わないよ。」
「魔法使いなのにですか?」
「どうして私が魔法使いだと?」
「洞窟に入るときに結界が張ってありました。高度な隠蔽の結界です。自慢じゃありませんが、そこそこ腕に覚えのある魔法使いでなければ無意識のうちに避けて通るくらいのものでしたから。」
「実は結界を破られた感じも転移で内側に入った感じもしなくてね。なるほどなるほど。『エーテル・フィール』か。それで結界の魔法と魔力を同調させて侵入を悟らせなかったわけか。相当な実力者とお見受けした。それにさっきから手放していない魔術書。『常に警戒を怠らない』魔法使いの本に書いてある基本の一つだな。」
「そう。剣なら急所に刺せばいい。鈍器なら大事な器官を潰せばいい。でも魔法はそういった確実に相手を倒したという分かりやすい証拠がありません。瀕死の獣が一番怖いですからね。」
「うんうん」と頷くオーダー。これは魔法を扱うもの同士でしか分かり合えない何かがそこにあった。
「それで、ここからが本題。彼。呪いであの姿になっているの。本当はもっとかっこいい。今は今で可愛いからいいんだけど・・・・こほん。あなた、彼にかけられている呪い。どうにかできたりする?」
「呼びましたか?魔法使いさん。」
話題になったことに気が付いたのかブレイルが話に乗ってきた。
「君に掛かっている呪いのことでね。結論からいうとどうにかなる。」
「本当ですか!?」
「けど――――」
「けど?」
「――――あまり得意じゃないから失敗の可能性もある。」
「ローリエ。君にならわかると思うが、得意じゃない魔法も一応は練習はする。それでも伸びしろには上限がある。私の場合、結界魔法の才能はあったけど呪術はからっきしでね。大抵の呪いなら術者を倒せば解呪できるはずなんだが、それは試したのか?」
「はい・・・」
「そうか。それはかなり重いな。」
古今東西、魔法や呪術は術者を倒せばその効力が消えると決まっている。その例外としてあるのが神仏クラスの呪物や古くから伝わる因習による恨みつらみの重なりなどがあげられる。
そして一番簡単で一番たちの悪いのが、己の命と引き換えにするタイプだ。
前者2つは解決方があるのだが、後者のそれは術者が既に亡くなっているため術者を倒すという根本的な解決が不可能なのが本当に陰湿。
世の中、それだけの何かを抱えている人もいるからみんなも気を付けよう!!
簡単な生物解説
アヌビス
結界術に長けているが多く、城の警備や王の護衛を行っていることが多い。
好戦的な種も多く、剣術の腕も素晴らしい。
アヌビス種を全体的にみれば温厚な性格である。
そしてなりよりかわいい。