表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
97/146

番外編③:年明けの初詣

リアルタイムで読んで下さっている方々、あけましておめでとうございます!

前回の大晦日企画短編から一年がすぎ、令和となってからの年越し企画短編。昨年の物と話が続いていますので、もし新規の方がいらっしゃいましたら是非番外編①から御一読下さい!

また、昨年から引き続き読んでくださっている方々、本当にありがとうございます!今年もまだまだ頑張っていくので、今後も是非よろしくお願いします!

 龍翔たちが眠りについてから数時間。まだ日が昇るには少し早い時間に、龍翔は僅かに感じる違和感からふと目を覚ました。


「ん、んん……? つばさ……?」


「――! り、龍翔くん……あ、お、起こしちゃった……?」


「いやまぁ、うん……何してんの?」


 しっかりと開ききれない目を意識して開き、違和感のある胸周辺に視線を落とす龍翔。薄暗い部屋でぼやける視界に目を凝らすと、そこには自分の腹部に腕を回して胸に顔を押し当てている翼が映っていた。


「え、いや、んっと……何か起きちゃって、寝ようとしたんだけど寝れなくて、落ち着きたかったから……」


「それで俺に抱きついてるの……?」


 龍翔の問いかけにあたふたとしながら答える翼。電気の付いていない部屋でシャッターとカーテンの閉まっている窓からは月明かりすら差し込まない。ほぼ闇に近い状態のその部屋で龍翔に翼の表情を確認することは出来ないが、所々詰まる震えた翼の声から慌てていることは予想出来る。


「ご、ごめんね……! 離れるから! もう寝る!」


「――待ーって」


「ぁ、ぇ……え? え、ぇ……」


 龍翔と目が合ったことに気付き、慌てて手を龍翔の体から退ける翼。そんな翼の手を引っ張り龍翔が自ら自分の体に巻き付けると、翼は戸惑ったように首をあちこちに振る。

 きっと、あともう少し起きるのが遅ければ、翼は落ち着いて眠りにつけただろう。そう思えるほど翼の頭は回転していなく、微妙に状況が掴めない結果何故か翼は龍翔の服をガっと掴む。

 予想以上の慌てぶりを見せる翼に、龍翔はもう笑いが堪えられない。と言うより、元より堪えられていない。何とかバレないようにニヤけるだけで留めておいた龍翔だが、思わずプッと吹き出してしまう。


「昼間は襲うとか言ってるのに、よくハグで我慢出来たね」


「だ、だって……もしそんなことして、龍翔くんに嫌われたら嫌だし……だから抑えないとって思ってるけど、昼間はやっぱり龍翔くんにベタベタしちゃうし……」


「あ、あれでも一応は抑えようとしてたのね。全然全く一ミリたりとも出来てなかったと思うけど……」


 龍翔の言葉に、「う……」と言葉を詰まらせる翼。あれでもしも抑えようと頑張っていたなら、本来の翼はどうなってしまうのか……微妙に気になるところだ。

 しかし、今はそれよりも優先してあげなければいけないことが龍翔にはある。このまま慌てて落ち込んでいる翼を抱いているのも可愛いし全然アリなのだが、要らない心配をさせるのは心が痛む。そうして龍翔は翼をギュッと抱き寄せ、翼の頭を抱えるようにして胸に当てる。


「そんなの全然気にしてないよ。昨日も全然気にしてなかったし、これからもしない。甘えたいだけ甘えていいし、くっつきたいだけくっつきな。襲うとかはまぁ……うん、一旦置いといて。俺の事好きでいてくれるなら、俺はそんな翼を否定したりしない。あ、でもしないとは思うけど、痛すぎるのはダメだよ? 翼の変態寄りサイコパスも否定はしないけど、人体実験みたいのは流石にダメね」


 笑いながら冗談目化して、龍翔は翼を落ち着けるように背中を摩る。

 腕の中にすっぽりと収まり、僅かに震えている翼の小さな体。無言で顔を胸に押し当てる翼を優しく撫で続け暫く時間が経つと、ふと翼の顔を押し当てる力が弱まった。すると、その直後に静かな翼の寝息が聞こえる。


「寝ちゃったか。――好きになってくれてありがと、翼。おやすみ……」


 胸の中で静かに目を閉じ、穏やかな寝息を立てる翼。そんな翼の目に滲む涙を起こさないように優しく拭き取ると、龍翔は静かに微笑んで目を閉じる。


 そしてその朝、二人が他の誰よりも遅く起きたのは、言うまでもない。


 ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶


「もー……どっかの誰かさんたちが寝坊するからめちゃめちゃ混んでるんですけどー!」


 多くの人で賑わう神社の中――を、見ながら、神社の外周で頬を膨らませる優輝。そんな優輝に、龍翔は只管背中を叩かれる。


「だからごめんってー! 仕方ないでしょー」


「何が仕方ないのー!」


「どっかの誰かが俺の背中に乗ってゴーカートに乗らせてその後で担がせたからだよー」


「う……いやでも! ゴーカートの後に勝手に持ち上げたのは龍翔くんじゃんっ!」


 延々と叩き続ける優輝の手を押さえ、言葉でいじり返す龍翔。そんな龍翔の言葉に頬を赤くしながら、優輝は本気で龍翔の腕を叩く。


()ったー! もー、優輝がいつまでもツンツンして素直にならないからでしょー。叩いたり背中に乗ったりスキンシップは一番多いくせにさー」


 叩かれた腕を摩りながら、それでも尚優輝を弄り続ける龍翔。

 しかし、優輝からのスキンシップが多いのは事実だ。翼からのスキンシップもかなりのものだが、翼と仲良くなったのはつい最近。三ヶ月近くで知り合ってから二年になる優輝とは、それまで色々なスキンシップがあった。


「スキンシップじゃない! 弄ってるだけ! 龍翔くんがバカだから!」


「最後のいる!? バカとか言わないで!?」


「だって事実じゃんー! ばーかばーか!」


 純粋な悪口を受け、かなり深くまで心を抉られる龍翔。そんな龍翔に下瞼を引っ張りながら舌を出して、優輝はまだまだ煽り続ける。

 すると龍翔は顔を伏せ、そのまま誰とも目を合わせることなく沈黙。龍翔の唯ならぬ雰囲気に、全員が足を引き摺って後退りする。


「……った」


「り、龍翔くん……?」


「怒った。あー、怒った。怒ったわ。完全にブッチン切れた」


「ちょ、え、ごめん……り、龍翔くん? ごめんね? ね、ちょっと……わっ、わわわわわっ、ちょっ……ねぇ!」


 目の前にいても聞き取れないほど小さい声から、龍翔は段々とそのボリュームを上げて行く。

 そんな龍翔にズルズルと迫られ、少しずつ後ろに逃げながらも優輝は両腕を握られる。完全に怒らせたと思った優輝は本気で謝るが、龍翔はその声を一切聞かない。

 腕を押えられたままくるりと後ろに回られ、腕を掴まれていたはずの龍翔の手が一瞬で優輝の膝裏に移動。すると次の瞬間、優輝はそのまま足を掬われ軽々と持ち上げられる。


「あー! 久々に怒った! 神社に入るまでこのまま! 往来のど真ん中で恥を晒せー!」


「いや、ちょ……っ! 待って待って! ほんとにやめて! 恥ずかしい! ねぇってば! 龍翔くん! 謝るからー!!」


 龍翔の腕の中で、足をバタバタと揺らして足掻く優輝。膝の後ろで龍翔の腕がしっかりとクラッチされていて、円を描く龍翔の腕と体の真ん中に優輝の腰がすっぽりと収まる。

 そう。今の優輝は、龍翔の腕の中で体育座りをしているような形だ。


「ぜーったいにやだ。いつまでもツンツンして全然デレないし、いっつもエスばっかで素直にならない優輝が悪い。どうしても嫌なら自力で逃げ出しなー」


「逃げ出せるならとっくにやってるよ! でも龍翔くん、前のと何か変えてるじゃん! 足捕まえられてたら全然出られない!!」


 以前も弄り過ぎという理由で優輝はこの『技』を食らったことがある。そしてその時は、折り曲げていた足を伸ばし腕で腰を押し上げることで何とか脱出することが出来た。しかし、今回はそれが出来ない。

 その時と同様腕で腰を押し上げるが、内側から足を掴まれている状況では腰を龍翔の腕の中から持ち上げられない。それどころか、捕らえられている足を持ち上げられることで必然的に腰が下に行き、ただただ体力が奪われることになるのだ。


「んーっ!!! あーもー! むーりー!」


「はい無理ね。じゃ、大人しくしてて。騒ぎすぎると他の人にも迷惑でしょ」


「――! それは龍翔くんが……」


「何か言った? このまま列から外れて最後尾まで戻ってあげようか?」


 完全にマウントを取り、ここぞとばかりに後ろから煽る龍翔。そんな龍翔に言い返そうとするも、その瞬間龍翔は一歩踏み出し列を抜けようとする。

 この状態で再び最後尾まで戻るなど、どう考えても地獄だ。それに、後ろに戻るまでの間列に並んでいる人々に恥を晒すことになる。

 ただでさえ前後の人からクスクスと笑われている優輝は、観念したのかすっかり大人しくなった。


 ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶


「あー! やっとここまで来たよぉ……もーほんとに地獄! めちゃめちゃ並ぶしめちゃめちゃ笑われるしー!」


 小一時間神社の外周に並び漸く神社境内に足を踏み入れることが出来た六人。その中でも最もそれを待ち侘びていた優輝は、龍翔が鳥居を潜った瞬間に腕から飛び降り、その場で大きく伸びる。


「そんなこと言って、何だかんだ優輝も嬉しかったんじゃないのー? 一年生が入って晟とか翼とかに龍翔くん取られて、結構寂しかったくせにー」


「は!? そんなことないし! 取られて寂しがるとか、晟じゃあるまいし!」


「ねぇ! 俺も別に寂しいとか思ってないんだけど!? 蒼空くんみたいに弄られるのも好きじゃないし!」


「いつ俺が好きって言ったの!?」


 漸く思う存分体を動かせる開放感に浸る優輝に、後ろから笑いながら煽る蒼空。そんな蒼空に優輝が突っ込み、突っ込みに余計なことを言った優輝に晟が突っ込むみ、その序に最初に煽り出した蒼空を煽る。円をなぞるように続く煽りと突っ込みの連鎖を、龍翔と蓮は後ろから笑う。


「あああー!! 三人ともズルい! 特に優輝くん! 俺の龍翔くんなのにずーっと一緒にいて! 俺の龍翔くんなのに!」


 三人が煽りのループを続け、龍翔と蓮がそれを見て笑う。そんな中、一人だけ密かに怒りを積もらせていた翼。五人の後ろから頬を膨らませ、若干目を充血させながら翼が叫ぶ。


「ちょ……どうした翼?」


「どうしたじゃない! 俺の龍翔くんなのに皆で取り合ってさ! 龍翔くんは優輝くんのことずっと抱いてるし!」


 突然怒り出した翼に、慌てて近寄り手を掛ける蓮。そんな蓮の手を振り払い、翼は尚も叫び続ける。


「いや、別に俺らは取り合ってなくて……」


「でも実際ずっと龍翔くんにくっついてたじゃん! 途中から寝掛けてたし!」


「そ、それは……!」


 段々とヒートアップしそうな翼を落ち着けようと、弁解に入る優輝。しかしそんな言葉も直ぐに打ち切られ、言い返す言葉を失う。


「――何だかんだ言って皆龍翔くんのこと好きじゃん! なのに好きじゃないとか言って、寂しくないとか言って……俺は龍翔くんと話せなくて寂しかったのに、話せてる皆が何でそういうこと言うの!? 俺なんかまだ、全然龍翔くんと一緒にいられてないのに……二人で遊んだことも無いのに……何で素直じゃない皆が龍翔くんと一緒にいれて俺がいられないの! 皆……皆、大っきら――んぐっ」


 込み上げる怒りを言葉にして表に出し、マシンガンの如く只管に優輝たちを撃ち付ける翼。そして言葉の最後には、極め付きの言葉を放とうとする。


「――ごめん。ごめんな。でも、それ以上はダメだ。思ってもないことを言って、人を傷付けちゃいけない。感情に任せて放った言葉は、いつか自分を苦しめる。それ以上言ったら、翼は絶対に後悔する」


 ――しかし、そんなことを龍翔が許す訳もない。それまで翼の言葉を噛み締めるように耳を傾けていた龍翔が、翼の放とうとした一言に瞬時に反応し、すぐさま翼の体を抱き寄せる。


 憤りと悲しみを一緒くたにした涙が流れる翼の顔を胸に押し当て、翼の言葉を途中で止めた龍翔。そのまま翼の頭を優しく撫で、再び強く抱き締める。そして翼の怒りを治め、悲しみを拭い、龍翔は翼と正面から向き合った。


「――でも、優輝くんたちは思ってないこといつも言ってて……」


「だから、多分何か思ってても向こうから言い出せてないでしょ。でも、翼は違う。素直に俺の事好きって言ってくれて、何かやりたいことがあったら直ぐに言ってくれる。言ってくれれば、俺は出来る限り尽くしてあげるよ。翼がしたいこと、言ってみな。思ってること、言いたいこと、全部俺にぶつけてみな」


 翼の頬を両手で挟み、目と目を一線に結ぶ龍翔。そのまま目を合わせ続けて向き合うと、翼の目から再び涙が零れる。


「――龍翔くんと、一緒にいたい。手繋いでたい。ハグしてたい。おんぶして欲しい。抱っこして欲しい。頭撫でて、後ろから抱いて持ち上げて、俺の顔みて笑って……それで、それで……俺の事、ずっと好きでいて欲しい……っ!」


 そう言って、今度は自ら自分の顔を龍翔の胸に押し当てる翼。そんな翼を三度(みたび)抱き寄せ、龍翔はそのまま翼を抱き上げる。


「――ありがと。翼が今言ってくれたこと、これから全部叶えてあげる。でも、ここも混んでるからあんまり人が通るとこで立ち止まってちゃダメね。それと、翼には先にやるべきことがあります。何でしょうか?」


 拝殿に参拝する人々が通る道の端から、さらに神社の端へと場所を移す龍翔。そしてある程度人の行き来が少ない所に着いてからそっと翼を降ろすと、首を傾げて問いかける。


「――優輝くんと、蒼空くんたちも。ごめんね」


「ううん、大丈夫。全然気にしてないよ」

「俺らも、翼の気持ち考えてあげられてなくてごめん」


 地面に降ろされた翼は龍翔の後ろから付いてきていた優輝たちの方へ向かい、そのまま深く頭を下げる。

 先の翼の言葉も、決して悪意があった訳では無い。普段から思っていたことに怒りを乗せたことで結果的には優輝たちを責めるような形になってしまったが、心から責める気があった訳では無いのだ。

 そんな翼の心情も理解した上で、優輝たちもそれを責めることなく自分たちからも謝罪を入れる。龍翔が最後の言葉を止めてくれたおかげで、仲を悪くすることなく綺麗に流すことが出来た。

 そんな翼たちを微笑みながら眺め、その後龍翔たちは漸く参拝に向かう。


 ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶


 拝殿の賽銭箱の前まで到着し、六人横並びで立つ龍翔たち。賽銭箱に五円玉を投げ入れ、カランカランと鐘を鳴らすと、六人同時に二礼二拍手一礼。

 やけに長い合掌が続き、蓮が二礼することになった一礼。その一礼で薄目を開けていた龍翔が笑いそうになりながらも必死に堪えると、その後六人は階段を降りて出店の方へと足を運ぶ。


「――んで、皆は何願ったのー?」


「はい出たー! 絶対に一人はそーゆーこと訊くよねー!」


 階段を降り終え、出店の方へ向かうまでの道中。龍翔は翼の手をギュッと握りながら先頭を歩く。

 そんな龍翔の質問に、それを待っていたとばかりの速度で突っ込む優輝。誰よりも早く反応した優輝は龍翔を指さしながら、満足気に笑みを浮かべる。


「えー、別にいいじゃーん。気になるでしょそりゃ。ねー翼ー?」


「んー? 俺ぁねー、『龍翔くんともっと仲良くなれますよーに』だよー!」


「うん、まぁ……翼のは龍翔くんも大体分かってるよ多分」


 優輝のツッコミに、繋いでいた翼の手を上げて首を傾げる龍翔。そんな龍翔に飛び付き、翼は素直に自分の願いを暴露。しかしその分かりきっていた答えに、龍翔含めた全員が苦笑い。今更過ぎる翼の龍翔愛に、誰も驚きはしない。


「もー。俺絡みなら俺が出来る限り叶えてあげるんだから、もうちょっと自分のことに使えばいーのに」


「いーのー! 今の俺は龍翔くんが一番だから、他にお願いないもん。それに、どうせ皆も同じようなことお願いしてるでしょー?」


 抱きついた翼をギュッと抱き寄せて持ち上げ、龍翔は翼と額を合わせる。

 龍翔の言うことは最もなことだが、今の翼の中での龍翔は龍翔が思う以上に大きくなっている。それも、先の翼の溜め込んでいた言葉だけでは全然一割にも満たないほどに。

 しかし、それは何も翼に限ったことではない。自分からの愛が大きい分、龍翔は翼や優輝、晟たち周囲の後輩が秘めている自分への愛をほぼ把握していないのだ。そしてその秘めた愛を龍翔よりも把握している翼の言葉に、その場にいる全然が「うっ」と言葉を詰まらせる。


「ふーん? なるほどなるほどぉ……? 因みに、優輝は何をお願いしたのぉー?」


「べ、別に何だっていいでしょ! お願い事他の人に言うと叶わなくなるんだよ!!」


「ほぅほぅ。つまりは絶対に叶えたいことお願いしたんだぁー? それでそれで、一体なーに?」


 どうしても優輝たちの願い事が聞きたい龍翔に、顔を赤くしながらも頑なに答えない優輝。しかしそんな優輝の態度が更に龍翔の興味を引き、龍翔の質問(煽り)は止まらない。


「もーほんとうるさい! 怒るよ!? てかまた翼に怒られるよ!?」


「ぅぇっ!? やだやだ! 翼怒ってないよね!?」


 言いたくない、しかし言わなければ煽られ続ける。そんな板挟みの中で、優輝はそのループを抜けようと翼を出す。

 危うく新年早々大惨事となりかけた先の翼の暴走は、元を正せば龍翔から翼への意識が低下していたことが原因だ。そしてそれは、優輝の願った事柄に固執する今にも同じことが言える。

 そしてその優輝の発言に、龍翔は瞬時に翼に目を向ける。


「怒ってないけどー、優輝くんが何でそんなに言いたがらないんだろーって思うー。龍翔くんが好きなら好きでいいのに、構って欲しいからってわざと意地悪してる感じー?」


「ち、違う! 今回は普通に言いたくないの!」


「今回はー?」


「――っ!! 今回も!!!」


 頑なな優輝の態度に、ジト目を向けてカマをかける翼。そして案の定優輝はそれに引っかかり、優輝の掘った墓穴を龍翔は逃がさない。

 まるで協力プレイでもしてるかのような翼と龍翔に、優輝の顔の赤みはまた一段と増す。


「――もういいよ、分かった。『これからもこのメンバーでずっといられますように』ってお願いしたの……!」


 頬から額、耳までを赤く染めた優輝は、龍翔の粘りに根負けして渋々願い事を暴露。しかしその答えに返ってる反応が怖いのか、目を瞑ったまま下を向いて誰とも顔を合わせない。

 そんな優輝の反応に龍翔は僅かに口角を上げ、アイコンタクトを取ってから翼の元を離れるとそのまま優輝の体に腕を回す。


「――ま、知ってた。昨日の夜も言ってたし。だけど、もう一回本人の口から聞きたくってさ。ありがと、優輝」


「――っ、バカにしないの……? 笑わないの?」


 静かに包み込み、優しい言葉をかけて頭を撫でた龍翔。そんな龍翔の言葉に、てっきり煽られると思っていた優輝は意外な返答に目を開く。


「いやごめん。正直ちょっと笑ってる……堪えるのちょっと辛かった」


「――っ!? もう! 結構耐えられてないじゃん!! 何もう正直に言ったのに!!」


 しかし、煽られなかっただけで龍翔はさっきからニヤケを堪えられていない。そんな龍翔の素直な自白にバッと顔を起こすと、案の定全然笑みを抑えられていない龍翔に優輝は再び顔を赤くして怒る。


「でも、バカにはしてないよ。優輝にそう思ってもらえて嬉しいし、俺も同じ想いだし。ありがとうって思ってるのは、ホントにホント」


「――ふん! あっそー! 別に、俺は同じでも違くてもいいしー!」


「えー! 何それー!」


 優輝が顔を上げてから吊り上がっていた口角を下げ、至って真面目なトーンに戻る龍翔。しかしそんな龍翔の言葉に、優輝はフイっと顔を背けて塩対応。結局最後の最後でいつものツンな優輝に戻ってしまい、龍翔は口を歪めて不貞腐れる。


「あーあ、優輝ってば本当に素直じゃないよねー」


「うるさい!! じゃあそういう蒼空はどうなんだよ! 何お願いしたんだよ!」


「お、確かに気になる気になるー!」


 顔を背けた優輝の後ろから、頭の後ろに手を組んで煽る蒼空。龍翔でも翼からでもない同学年からの煽りに、優輝は視線を蒼空に移して食ってかかる。


「俺はあれだよ。『龍翔くんにいじられませんよーに』って」


「えー? 龍翔くんに弄られてる時満更でもない顔してるのにー?」


「そんなことないよ! あれ擽られるのとか結構辛いんだよ!?」


「えー、絶対楽しんでるよー。ねー龍翔くん?」


「そーねー。俺は蒼空のツボみたいな所知ってるし、今更楽しくないとか言われたらショックー」


 実際、龍翔から蒼空への弄りの殆どが擽りだ。しかし、その擽りは普通の物とは質が違う。蒼空が何処のどんな刺激に弱いかを把握している龍翔は、そこを徹底的に攻める。

 だからこそ、龍翔の擽りは蒼空の中でも特別。擽りだけから来ている笑いじゃなく、蒼空は絶対に擽り自体を楽しんでいる。龍翔にはそんな自信があり、優輝たちもそんな予想がついていた。


「うー……確かにまぁ、うん。つまんなくはないけど、楽しくなくはないけど……」


「はいはい、わーったわーった。擽ってーとか素直に言うの恥ずかしいもんねー。いーよ蒼空は言わなくて。また今度徹底的に擽ってあげるから!」


「確かに他の人に擽られるのとは違うけど、龍翔くんに擽られるのは擽ったすぎて辛いの! てか弄られるのは晟でいいでしょ! もう俺の話終わり! 次、晟!」


「え、やだ! 俺は蒼空くんと違う! 本当に弄られたくない!!」


「俺だって弄られたいとは思ってないよ!!」


 ハッキリとしない蒼空の言葉に、含みのある笑みを浮かべる龍翔。そんな龍翔の笑いに恐怖を覚え、蒼空はすぐにでも標的を自分から移そうとする。そして同じ弄られキャラの晟にそれを擦り付けようとするが、晟の弄りに対する拒否反応は蒼空ほど小さくない。


「はいはい、んで結局晟はなーにお願いしたのー?」


「えー。龍翔くんが高校落ちますよーにとかー?」


「高校落ちても中学は卒業するから中学校じゃ会えないよ?」


「そーゆーことじゃないっ!!」


 結局蒼空は自分から狙いを外すことが出来、狙い通り晟に質問が移る。そんな晟も蒼空のように上手く躱そうとするが、龍翔から晟への弄りはそれほどのことで止みはしない。ノータイムで晟への弄りの最適解を見つけ、戸惑う晟に万遍の笑みを浮かべる。


「龍翔くんって何言っても揶揄ってくるじゃん!」


「だって揶揄った時の晟が可愛いんだもーん。弄りたくなるような反応する晟が悪いのー」


「知らないよそんなの! 龍翔くんの訳わかんない性癖が悪い!」


「そんなこと言うなら彼女なりなんなり作ればいいのにさー? したらクリスマスも初詣も彼女と来れば俺もデート中にシャシャるようなことしないよ?」


 万遍の笑みで揶揄う龍翔を、顔を赤くして睨む晟。しかし、龍翔はそんな晟の可愛らしい反応が大好物。自分の性癖が悪いと断言された龍翔は、それもまた平然とした顔で返す。


「煩いなー! 出来ないの!! 出来るんだったらとっくに作ってますー!」


「えー。この前晟が告白されてるの見たけどなー」


「は!? いやいやいや! 嘘でしょ! じゃー何処で見たか言ってみなよ!」


「え? 校舎裏、帰り道、後はメール?」


 龍翔の言葉に、赤みがかっていた顔で目を丸くする晟。龍翔からの思いがけない言葉に若干焦っている晟だが、揶揄われる頻度が高い晟はこれもまたカマをかけただけの揶揄いだと気付きドヤ顔で龍翔を煽り返す。

 しかし、形勢逆転かと思われたのも束の間。そんな晟の言葉に一ミリも慌てる様子なく、その上三つも答える龍翔。

 龍翔から返ってきた答えに、晟は元より優輝たちも目を大きく見開く。


「え、待って……ほんとになんで知ってんの?」


「だーから言ったじゃーん。告白されてるの見たけどなーって!」


「え、晟って三回も告白されてんの!?」


「晟モテモテじゃーん! まぁ普通に見れば顔とか整ってるし、分からなくもないけどねー」


 正月早々まさかの事実に、優輝や蒼空も当然の如く食いつく。思わぬ所でモテ事実を暴露され、一瞬蒼白とさせていた晟の顔はその彩度を上げて赤く染まり返る。


「いやまぁ、そんなこと言っても告白場面見たの晟だけじゃないけどね」


「え、どういうこと?」


 優輝たちの集中が一斉に晟へ向かった直後、その状況を引き起こした張本人である龍翔はさらに意味深な言葉を放つ。そんな龍翔の言葉に、晟を初めとして優輝たち全員が振り返ると、龍翔はまた万遍の笑みを浮かべていた。


「んー? 部活終わり、夏祭り、図書館。――思い当たる節があるんじゃない?」


「「「――っ!」」」


「――! 優輝くん、蒼空くん、蓮も!?」


 誰とも名指ししない龍翔の言葉に、優輝、蒼空、蓮の三人が同時に息を呑む。


「り、龍翔くん! 待って何で!? 部活終わりって、あの時誰もいなかったよ!? 皆帰ったあとじゃん!」


「俺だって、あの時の夏祭り龍翔くんとはすれ違っただけだよ!? 龍翔くんも友達といたじゃん!」


「え、そんなこと言ったら俺あの日二人きりだったし! あの日は龍翔くんは当たり前として誰とも会ってない!」


 どうやら、龍翔の言ったものはそれぞれ優輝と蒼空と蓮で間違いないらしい。三人とも完全に知らないところで龍翔にバレていて、今までにないほど焦っている。


「いやごめん、三人とも本当に告白だったんだ。それっぽかったから言っただけで、実際その場面見たわけじゃないんよね」


「え、どういうこと?」


「例えば、優輝の時は部活終わりにたまたま忘れ物気付いて部室戻ろうとして、その時に優輝が女子に呼び止められてたから。もしかして告白なのかなって思って慌てて帰ったの。お陰で忘れ物そのままにしちゃったけど」


 そんな龍翔の言葉に、キョトンと目を丸くする優輝。

 晟と違い誤魔化そうとすれば誤魔化せた状態だったが、晟の事で龍翔の言葉にはそれだけの可能性というか説得力というか、とにかく信憑性のようなものがあった。


「蒼空の場合は、俺に感謝して欲しいよね。祭りの後に遊ぼーってなって公園入っていこうとした時に俺が逸早く蒼空の事見つけて、ヤバって思ったから友だちに怪しまれながらも皆を引き返させたんだよ。そーしなきゃ告白シーンを五、六人に見られてた」


「うっそ……それはちょっと恥ずかしかったかも。その事だけはありがとうって言っとく」


「うんうん。それで一番お気の毒なのが蓮だよね。あの日って図書館で勉強中だったんかな? 女子と二人で。んでまぁ俺がたまたま図書館の前通ったら蓮が見えて、良い感じだったから告白されるかなーって! それだけー」


「え、それだけで俺当てられたの!? て言うかそんなんじゃ全然分かんないのに、何で告白と結びつけて自信満々に言えるの!」


 全て予想と想像の域を超えなかった龍翔の発言に、まんまと素直に騙された三人。蒼空だけは一応感謝出来る面があるが、それでも全て誰にも話していなかった内容だ。

 これで翼以外の龍翔への想いをハッキリとさせていない四人は、彼女を作れるのにも関わらず作らず、龍翔と一緒にいることがバレてしまった。


「龍翔くんがそんなに告白かもしれないって分かるのって、それだけ告白シーン経験して来たってことじゃないの?」


「――、――。――晟は何お願いしたの?」


「あ! 誤魔化した!」


「うるせぇ! 黙れ黙れー!!」


 優輝と蒼空、そして蓮の事実を見事言い当て、得意気に笑って満足そうにしている龍翔。しかし、どう考えても龍翔が見ていただけの光景では告白だと結び付けるには早い。優輝と蒼空はともかく、蓮に至っては本当に結びつけにくいはずだ。

 そんな龍翔の不可思議すぎる推察力に蓮が突っ込むと、龍翔は明らかにその言葉を無視。そしてその後も無理矢理過ぎるゴリ押しで何とか押し通し、結局自分は何も認めずにその話題から逃げ出した。


「――んーで! 話はズレたけど晟は何をお願いしたの?」


「えー。じゃーぁ、龍翔くんが教えてくれて揶揄わないって約束してくれればいいよ」


「いーよ? 俺のお願いは、『これからもこのメンバーでずっと一緒にいて、もっと仲良くなれるように』と、『みんな可愛いままでずっと好き(・・)でいてくれますように』だよー」


 晟の提示した交換条件を、何の渋りもなく答える龍翔。しかし、そんな龍翔の答えに今更晟たちは驚かない。それどころか、「やっぱりね」とでも言いたそうな納得の表情だ。


「まぁ答えるだろうとは分かってたけど、何で二つも願ってるの……」


「ていうか、可愛いままって何……」


「しかもずっと好きでいますようにって、今好きって確信してるみたい……」


「龍翔くん、やっぱり素直だよねー」


「えー、皆が素直じゃないだけでしょー! 結局みんな、龍翔くんのこと好きなのにー」


 龍翔の答えに、五人各々が順々に答えていく。

 その中で翼以外はほぼ苦笑いだが、誰一人として龍翔のその願いを否定はしなかった。それは結局、前者の願いへの共感と、可愛いと言われることへの内心の満足感、そしてこれからも好きでいるという無言の肯定なのだろう。


「はい! とにかく俺は言ったかんね! 次は晟!」


「俺は、取り敢えず龍翔くんが高校に受かること。これだけ遊んでて受からなかったら、これから先遊びにくくなるでしょ。だから、ちゃんと受かってよね」


「ほうほう……最初に誤魔化したお願いとは真逆ねー。別に最初から言ってても揶揄わなかったのにー」


「いや、最初から言ってたら絶対に「そんなに俺と遊びたいのかー」とか言うでしょ」


 そう言って、似ているのか似ていないのか分からないモノマネで龍翔に指摘する晟。確かに、最初から言っていれば龍翔は今の揶揄いを絶対にした。というか、今も揶揄わないという約束をしたから声に出さなかっただけで、心の中では今の言葉を丸々発していた。


「まぁだって、遊びたいって思ってるの俺だけじゃないんだなーって自覚出来るじゃん?」


「んー……それこそ今更な気するけどねー」


「ん、まぁたしかにそれもそう? でも直接言われんのと言われないのじゃ違うよー。――それで、残りは蓮だけど、そう言う蓮は何をお願いしたの?」


「え、俺? 俺はねー……」


 翼、優輝、蒼空、龍翔、晟と各々の願い事をカミングアウトしていき、残るは蓮一人だけ。元よりこのメンバーの中では一番静かで真面な蓮だが、偶に突拍子もないことを言い出すことがある。今回蓮の性格がどちらに傾くかで、意外と一番予想がついていないのが蓮だ。


「俺は、えっと……何もお願い出来てない」


「――え?」


「え、だから……なんか、思いつかなくて……皆と一緒にじゃ被りそうだったし、案の定被ってたし。でもその他に何かお願いごとってなくって、受験はまだ二年後だから、何もお願いごとってなかったなって」


 苦笑いして頭を掻く蓮に、優輝たちは「そっちかぁ……」というような反応。蓮のお願いが普通かそうでないかで気になっていた彼らだが、まさか何も無いという考えには至っていなかった。

 しかし、蓮の考えることにも納得はいく。蓮は頭も良く合理的、効率的と言ったことを重視する。だから、今回も被ったら意味が無いということを考えたが故に唯一考えついていたものでさえ願うことが出来なかったのだ。


「――ふっ。あー、なるほどね。だから蓮は途中で一回顔上げてたんだ。そりゃそーよね。願い事なかったらすぐ終わっちゃうもんね」


「え! 龍翔くん見てたの!?」


「いやだってさ、皆がどれくらい真面目にお願いしてるのかなって気になるじゃん。したら皆結構ガチめな顔で礼してるし、そう思ってたら蓮が途中で顔上げて慌ててもう一回一礼するから。面白くて面白くて、マジで笑いそうになっちゃった」


 一人だけ二礼二拍手二礼になっていたあの様子と、願い事が決まらなかったというまさかの事実。ここに来てそれがピンっと繋がり、龍翔はスッキリした反面今になって笑いが吹き返してくる。


「えー、酷いー! 何か結局翼以外みんな揶揄われるじゃんー!」


「だーって翼は素直だもんねー?」


「ねー!」


「俺だって素直じゃないわけじゃないでしょー!」


 ツンデレでもなく弄られキャラでもない、至って安定しているポジションにいる蓮も、最後の最後で弄られる。結局最初から最後までずっと素直だった翼だけが弄られるという被害を被らずに終わった。

 しかし、自ら墓穴を掘った晟たちはともかく蓮は納得がいかない。告白のことも本当にただの偶然で、今回も考え過ぎたが故の災難。自分自身の落ち度が何もなかったのにも関わらず、結局は弄られてしまった。

 そんな蓮が頬を膨らませて拗ねるというかなりの珍事を目の当たりにし、龍翔は素早くポケットからスマホを取り出し写真を一枚。


「ちょっと、何撮ってんの!」


「えー。だって蓮が拗ねるとか珍しかったからー。ロック画にでもしよっかな……」


「絶対にやめて! 翼とのツーショットとかにすればいいでしょ!」


「え、それはホーム画だよー。二人でお揃い、ペア画だもんねー?」


「んー! そー!」


 わざと音を鳴らして堂々と撮った龍翔に、慌てて抵抗する蓮。しかしシャッター音が鳴ってからでは明らかに遅く、既にアルバムに入っている。

 そんな状態で設定画面を開いた龍翔のスマホを慌てて押さえ、今度はやられる前にしっかりと阻止。そしてこのメンバー内で一番回る頭をフル回転させて解決策を見出すも、それもまた龍翔には先を越されている。

 ホーム画面に戻り突き付けられるように見せられ、蓮は足を引き摺りながら後戻り。その後背中を丸めて腰を落とすと、かなり大きめにため息をつく。


「じゃあこーしよ! 皆で撮って、それをロック画にする! ならいーでしょ?」


「え? あーまぁ、それならいいよ」


「よし決まりー! じゃー並んで! 縦長で撮りたいから縦三の横二で撮るよ!」


 そう言うと、龍翔は一旦人気の少ない所に場所を移し、しっかりと用意されていた自撮り棒を取り出す。

 バックの背景を決めた龍翔らは、その場で一番下に晟と蒼空が中腰で立ち、その二人の後ろから覆い被さる様に龍翔と優輝が立つ。そして龍翔の上に翼、優輝の上に蓮が背負われる形で乗り、それぞれの配置が決定。


「はい、チーズ!」


「「「「「いぇーい!!」」」」」


 龍翔の合図に合わせ、晟たちはノリノリでポーズを撮る。


「それ後で送ってー! 俺もロック画面にするー!」

「あ、俺も俺もー!」

「みんなでしよーよ!」


 龍翔と翼のペア画に惹かれ、今度は今の写真を六人全員でロック画面にする。

 家に帰ってからでもいいものを何故か今直ぐにと設定しながら、龍翔たちは漸く出店のほうに向かった。


「うー、お腹空いたぁー……」


「そりゃもう二時だからなー。何食べるー?」


「唐揚げ! 龍翔くん食べさせて!」


「え、お、おお? まぁいいけど……やっぱり翼は急に来るね」


 力なく背中に持たれかかってきた翼に、腕時計を確認しながら振り向く龍翔。屋台の前を歩いているとその匂いが更に空腹を刺激し、急激に空腹感が増す。

 そんな屋台を見回して翼に声をかけると、龍翔の問いかけに翼は秒で反応。ぐたっと体重を預けていただけの翼に急に背中に飛び乗られ、龍翔は体勢を崩しながらも何とか耐える。


「ほか優輝たちは何食べるー?」


「俺たちも唐揚げとかでいいよー。その後で御神籤引きたいー!」


「おー、いいよいいよー。じゃー買ってくるからちょっと待っててねー」


「はーい」


 そう言うと、翼を背負ったまま二人で屋台に並ぶ龍翔。そして六人分の唐揚げを二人で持ち、そのまま優輝たちの元へと戻る。


「いくらだったー?」


「え? ああいいよいいよ、唐揚げくらい。ほら食べよー」


「ほらねー! 龍翔くんはいつも奢ってくれるよー」


 戻った時から財布を用意していた蓮に手を横に振り、微笑みながら買ってきた唐揚げを渡す龍翔。しかし、蓮よりも一年前から龍翔と遊んでいた優輝と蒼空、さらにハロウィンやクリスマスで既に奢ってもらっていた晟は今更驚きはしない。


「はい翼。あーん」


「んぁーむ。んー! おいひー! ありがとー!」


 楊枝に刺した唐揚げを差し出し、それを一口でパクリと口に頬張る翼。そんな翼が食べている間に龍翔も食べ、食べさせて食べてを繰り返す。


「ほい翼、チュロスあったよー」


「んー? あー! 俺それ好きだよー! ん! んー!」


 唐揚げを食べ終わった後に、いつの間にかチュロスを買ってきていた龍翔。そんな龍翔の持つチュロスに口を伸ばす翼は、龍翔にチュロスを高く持ち上げられる。


「あー! たーべーたーいー!」


「んー? じゃー翼! はいタッチ!」


「んー! ターッチ!」


「ほいクルりんっ!」


「くるりーん!」


「はいギュッ!」


「ぎゅーっ!」


「ほいパクっ!」


「あーん!」


 龍翔の合図で、タッチ、ターン、ハグをノータイムでこなし、最後にチュロスにパクリと食いつく翼。龍翔の完全なアドリブにバッチリ対応する翼の対応力も凄いが、その対応力に圧倒されずに続ける龍翔もよく翼を理解している。二人で最後の最後までしっかりとこなし、満足気に笑っている。


「もー。二人だけの世界に入らないでよー!」


「早く御神籤引こーよー!」


「ごめんごめーん。じゃー行こかー」


 翼と二人で満足そうに楽しむ龍翔の腕を取り、引っ張って行こうとする優輝。そんな優輝に連れられて歩きながら、龍翔は残りのチュロスを翼に食べさせながら歩いて行く。


「んじゃ、いっせーので開くよ!」


「んー、わかったー!」


「いっせーの!」


「「「「「「はい!」」」」」」


 龍翔の合図で、六人は各々引いた御神籤を一斉に開く。


「おー、中吉ー」

「あ、俺大吉!」

「いーなー。俺末吉だー」

「え、凶なんだけど……」

「俺吉だよー!」

「お、中吉だー!」


 龍翔、晟、優輝、蒼空、蓮、翼の順番で円を作るように六人全員で御神籤を開くと、かなり疎らな結果になっている。


 中でも晟は大吉で大喜びだが、蒼空は一人だけまさかの凶が出てかなり落胆。「うあー」と唸りながら、一人でその場にしゃがみ込む。


「蒼空ドンマイ! 優輝も末吉だからあんま変わらんよ!」


「ちょっとそれ酷い! 一応吉だし! そう、一応吉! うん、吉!」


 丸くなる蒼空の背中をポンポンと叩き慰めると、蒼空の次に結果の悪い優輝を同類とする龍翔。そんな龍翔に優輝も少なからずそう思っていたのか、自分に言い聞かせるようにして否定する。


「もー、別に御神籤にそんなムキにならないでよー」


「龍翔くんはいいよね、中吉だから! 晟なんて大吉だし!」


 絶対に末吉が吉であると言い張る優輝に、呆れた様子で苦笑いする龍翔。そんな龍翔と大吉を出した晟を指差し、優輝は納得のいかない様子で地団駄を踏む。


「いーでしょー! やっぱ普段の行い?」


「え、そしたら龍翔くんが中吉なわけないじゃん」


「あ、確かに……」


「「あ、確かに」じゃねーよ! 俺そんなに言うほど悪いことしてないでしょ!」


 ドヤ顔で胸を張る晟に、何故か二次被害を受ける龍翔。今回は全く関係のない所から被害を受け、龍翔は眉間に皺を寄せて口を尖らせる。


「そうだよー。龍翔くんは悪くない! ただちょっと浮気性でちょっとすぐ後輩に手出してちょっと強引なとこがあってちょっと後輩のこと弄りすぎちゃってちょっと調子に乗ることがあってちょっと度が過ぎることがあるけど、龍翔くんは可愛いよ!」


「もう後半は何言ってるか分かんねぇ……! つーかちょっとが多過ぎるでしょ! そんだけあると結構悪い人なんだけど!?」


「え、じゃあ悪い人かも……」


「なんでっ!? 何でそうなるん!? いやいやいや! え……ええ!?」


 絶対に味方をしてくれると思っていた翼に裏切られ、もうどうしていいか分からなくなる龍翔。勿論翼も悪気がある訳では無いが、素直過ぎる性格が裏目に出たようだ。


「でも! そんな龍翔くんのことが結局みんな好きなんだよー! 俺からしたら敵だからちょっと嫌だけど……」


 一人で悄げる龍翔に抱きつき、何とか元気づけようとする翼。しかし言葉の最後で小さな本音が漏れ、龍翔含め優輝たち全員が苦笑い。ただ、そんな素直過ぎる翼を龍翔も優輝たちも憎むことが出来ない。

 そして今日何度目になるか分からないハグを交わし、毎度の如くそのまま龍翔は翼を抱え上げる。


「ぃよーし! んーじゃま取り敢えず、今年も頑張ろー!」


「「「「「おー!」」」」」


 翼を左手で抱えたまま右手を天高く突き上げる龍翔に、優輝たちも声を揃えて続く。

 そして大勢の人で賑わう神社を後にし、龍翔たちは明るく笑いながら家に帰る。





 ――これは、龍翔がリゥとなり四天王に返り咲く前の、穏やかで暖かな一日である。

年越し企画短編を読んで頂き、ありがとうございました!

昨年は年越ししてからの初詣を書きたいと思いつつ時間の都合で書けなかったので、一年回って書かせて頂きました!もし少しでも楽しめて頂けたなら幸いです。

また、他にも行事に合わせた短編が読みたいという希望を持つ方がいらっしゃいましたら、感想欄でもTwitterでも是非お申し付けください!それだけ楽しみにしてくださる方がいれば、それだけでかなりの励みになるのでよろしくお願いします!

それでは、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ