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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
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79話:リゥの正体(中編)

 ゼンジの蹴りを屈んで躱し、頭上を通り過ぎようとするゼンジの右足に下から振り上げた足を当てるリゥ。十字にクロスしたリゥとゼンジの足はその場で一度止まり、その直後二人の足は同時に反発した。


「――確かに、以前の貴様とは違うようだ。しかし、それがなんだと言う? 貴様の自信の源であったその体術も、俺のものとほぼ五分だ。元からゴウよりもクラフトが少なかったお前がそれすらも失くして、どうして俺に勝てる?」


「まだまだ、お前は全然分かってねぇな。こんくらいの体術、前の俺でも出来てんだよ。俺の体術はこんなもんじゃァねェ」


 そう言うと、リゥは屈んでいた体勢を直してゼンジの前に直立。足は肩幅よりも少し大きく開き、腰を落として重心を下に。そしてそこから右足を足一つ分前に出し、今まで構えたことの無い戦闘態勢を取る。


「――右自護体」


 静かに息を吐き、小さく呟くリゥ。そして両手を少しだけ前に伸ばすと、リゥはそのまま一回の蹴りに全速を乗せて距離を詰める。


「右の相四つ、体落!」


 一瞬で距離を詰めたリゥは右手でゼンジの襟、左手でゼンジの右手の袖を掴み、そのまま間髪入れずにゼンジを自分の左後ろへと引く。そして体勢を崩したゼンジの右足の前に自分の右足を差し出し足を引っ掛け、リゥは体の勢いを殺さずに反転。ゼンジの体が僅かに浮くかと思った瞬間、その体を地面に投げ落としていた。


「――がふはッ!?」


「中段突きッ!」


「ごふッ、くぁはッ!?」


 地面に投げ落とされて噎ぶようにして咳込むゼンジの腹に、間髪入れず拳を捩じ込むリゥ。力強く握った拳が腹部にめり込み、ゼンジは目を剥いて吐血する。


「――また、俺は汚しちまったな。最後まで正しく使えなくて、ごめん……」


「――それは違うよ!」


 右手で顔を覆うリゥの言葉に、遠くから否定を入れる声。その声に振り向けば、そこには優輝たちの集団から一人抜けた蒼空が立っていた。


「それは違うよ、龍翔くん。龍翔くんに武道とか教えてた人たちは、龍翔くんがやったこと間違ってるなんて思ってない! 龍翔くんがあの時戦ったのは、自分の為じゃないでしょ! 三年生に囲まれてた小学生を、助けるためでしょ?」


「――っ! なんでそれを、蒼空が知ってるんだ……?」


「――だって、あの時龍翔くんが助けた小学生の中に、俺もいたから」


 そんな蒼空の言葉に、リゥは大きく目を見開いて絶句した。そして蒼空は、そんなリゥに目線を合わせて動かさない。


「俺も、あの時助けてくれた人が龍翔くんだって分からなかった。一年くらい経ったあとだから。でも、中学入って卓球部に喧嘩強い人がいるって聞いて、もしかしたらって思った。あの時からずっと、全く知らない俺たちを助けてくれた龍翔くんに憧れてたから」


 普段はそう長々と自分を語らない蒼空。自分よりも相手を優先してしまうところがあり、流されることが多かったのが蒼空だ。しかし、今の蒼空はそんな素振りを全く見せない。周囲の目も全く気にせず、目の前の龍翔(・・)に三年前からの想いをぶつける。


「だから、俺がそのことを優也くんに話した時、優也くんは急いで龍翔くんの友だちのところに行ってた。優也くんにすら本当のこと話してなかったんだね」


「――別に、それが理由に出来るなんて思ってなかったから。守るためだけなら、三人の攻撃を受けつつ蒼空たちを逃がせば良かったんだ。それなのに、そこに齧り掛けの武道を持ち入れて勝手に汚した。話したところで、そんなのは俺の言い訳に過ぎない。俺は、あいつらの大事なものを汚した……!」


 目を瞑り、眉間に皺を寄せ、力強く拳を握る。そうして僅かに震えるリゥの瞳には、溢れ出た涙が滲んでいた。


「だから! それが違うんだって! 俺が話した後、優也くんはその人たちに話に行った。そしたら、みんな納得してたんだって。でも、みんなで龍翔くんのこと一人にしたから今更謝りになんて行けないって……クラスも違って、なかなか会う機会もなくて、そのまますれ違っちゃってただけだよ! 龍翔くんの友だちは、みんな龍翔くんに汚されたなんて思ってない!」


「――そう、なのか……?」


「うん。それで、もしも機会があれば言って欲しいって言われたことがあるの。――「助けないといけない誰かを助けるためなら、何も悩まないで全て使え」「弱い者を守るのが、強い者の務めだ」「人道外れない限り、武道はいつでも自分の味方」だって」


 蒼空が今伝えた言葉は、一言一句間違えていない本人が言っていたそのままの言葉。そしてその伝言は、恐る恐る顔を上げたリゥには当時の彼らの声に聞こえた。どれが誰からの言葉かなど、訊かずとも分かる。それだけ長い時間を、龍翔は彼らと過ごしていたのだから。


「あいつらが、そんなこと……俺が勝手に、誤解したままいただけか……」


「そうだよ。だから、龍翔くんは何も悪くない。もうそんなこと、全然気にしなくて――」


「――いや、それは駄目だろう」


「――ッ!?」


 リゥと蒼空の会話の途中。蒼空の言葉を途中で打ち切り、跳ね起きでその場に立つゼンジ。そしてそのまま力強く地面を踏み締めながら、ゼンジは数歩で龍翔の前まで辿り着く。


「『人道外れない限り』……とか言われてたな。なら、お前はもう無理だ。前世の核を戻した時点で、お前は最早人間じゃない」


「――? 何を言っているんだ? 前世の核を戻したとしても、人間は人間だろう」


 目の前のゼンジの発言に、リゥは眉を顰めて首を傾げる。

 リゥの言う通り、核の戻したところで人間であることには変わりない。但し、それには一つ条件がある。


「核を戻しても人間なのは、前世が人間だったやつだけだ」


「――!? じゃ、じゃァ何か!? 俺が人間じゃなかったと!?」


「ああ。そうだとも」


 ゼンジの言葉に、リゥは言葉を失う。言葉どころから今のリゥは呼吸でさえ失念しているだろう。それだけ、ゼンジの言葉はリゥに重い物をぶつけた。


「――俺が、人間じゃない……? 何を言ってるんだ! 人間じゃなければなんだ!? 巨人か? 妖精か? 獣人か? 亜人か? どの種族の特徴も、何一つ持ってなかっただろ!」


「確かに、今お前が挙げた中の種族には属していない。それに、お前が種族としての特徴を持たないのも無理はない。何せ、お前は混血だからな」


「――!?」


 腹の中から煮えくり返った劇場を、何とか言葉にして表に吐き出したリゥ。しかし、そんなリゥの脳から再びゼンジは言葉を奪う。そしてリゥはまたもや絶句し、顔に滲む冷や汗の量を増やした。


「――――――ぅ。――違う。違う違う違う違う違う違う! そんなわけが無い! 俺は、第6支部でお前の部下から過去を見させられたぞ! 俺の父も母も、普通の人間だった! 何も、変わっているところなどなかった!」


「何をそんなに焦っている? 心からそう思っているのであれば、そんなに慌てふためく必要はなかろう?」


「――っ!!」


 数秒間の沈黙の後、突然声を大にして叫ぶリゥ。そんなリゥに、ゼンジはリゥの心を見透かすようにジト目を向ける。


「お前が慌てているのは、何か心当たりがあるからじゃないのか? ――例えば、他とは違う何か(・・)がある」


「――――」


「図星みたいだな。まぁ、確かにお前には他と違う物がいくつかある。例えば、つい先日のような暴走。アレも、決して一回だけじゃないだろう」


 次から次へと突き付けられるゼンジの言葉に、リゥは今度こそ何も言えなくなる。閉じた口の内側で下唇を噛み、目元から顔全体が顔が歪む。

 ゼンジの言う通り、今のリゥには幾つもの心当たりが浮かんでいた。その数も、決して一つや二つではない。何十年も生きていたリゥの記憶からは、そう思えることもあり、そう思っていた記憶もある。何も、自分が他の人間と違うと思うことは初めてじゃないのだ。

 しかし、今までは今回のように追い詰められたことなどなかった。違うかもしれないということは思っても、それ以上は何も考えていなかった。なのに、今は何故、頑なに否定しているのか……

 龍翔時代に教わった武道を正しく使えないと言う不安からか、今まで人間として生きてきたリゥの人生を否定されているように思えるからなのか。リゥの頭は、何周回っても導き出せない答えをぐるぐると周り探し続ける。


「――もう、戦うという意志が頭から抜けているな。高々自分の種族くらいでそこまで気を動転させるようでは、これから先が思いやられる……」


 既にゼンジを捉えていないリゥの目に、ゼンジは深く嘆息する。そして失望したかのような軽蔑の眼差しをリゥに向け、そのまま何も反応をしなくなったリゥの背後を難なく取った。


「やはりお前を加えるのはやめよう。気が弱すぎる。そんなに直ぐ周りが見えなくなられては全然戦いにならない」


 そう言うと、ゼンジは右手の指を真っ直ぐ伸ばし、鋭い手刀でリゥの首を素早く叩く。


「――かはっ」


 避けることは疎か、防御も受身も取れないまま、地面に四肢を放り出して横たわったリゥ。


 そんなリゥの前にレツを初めとした十二人衆が集合したのは、シロとクロが慌てて前に出ようとした直後だ。

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