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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
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78話:各々の役目

 イルとレツの高火力に任せた大技をぶつけるべく、その準備のための時間を稼ぐフウたち。ライが二人に与えた五分という時間――たった三百秒、彼らは自分たちの後ろにいる五人までの距離を死守しなくてはならない。


「――竜巻(トルネード)!」

「――雷電の抱擁(エレクトリカルハグ)!」


 まず初めに攻撃を仕掛けたのは、広範囲且つ直接的なダメージを与えられるフウとライだ。広範囲に渡って螺旋状に風を巻き上げる竜巻にライの電撃を乗せ、砕鬼(サイキ)の行動を妨害しつつ少しでもダメージを与える。

 しかし、肝心の砕鬼(サイキ)はダメージを負うどころか顔色一つ変えずに平然と立っている。そんな薄気味悪い違和感に、フウが首を傾げる。


「――流石に、あれだけの攻撃を浴びせてノーダメージはおかしくないですか? リゥ兄さんたち四天王に劣るとは言っても、十二――いえ、半分の六人でも集まれば戦いにはなります。それなのに今までの攻撃が全く効いてないとしたら、他の四天王たちでも勝てないかもしれないということになりますよ」


「うーん……確かにおかしいなー。手応えはあるし、後半になってからは一応傷くらい付けてる。一応ダメージは入ってんのかなー?」


 今の攻撃でも、砕鬼(サイキ)の体には浅い傷が幾つも入った。致命傷となる傷はないものの、少しくらい顔を歪めてもいほどの量だ。それなのに眉を顰めることも苦鳴を上げることもなく、攻撃が止むまでただ無言でその場に立っている。


「てかこれホントに生きてるんです? 全然生きてる気しないですよ?」


「え、じゃあ生きてないでしか!? 我生きてないの無理でしよ!? 生きてないのに動いてるとか無理でしよ!?」


「でも動きを止めるならセトと自分が適任ですよ。ライとフウでも長く動き止められないなら、やっぱり自分たちがやるしかないです」


 人の嫌いなものランキング上位に入るであろう虫と幽霊。かなりの虫好きなセトだが、生きていないものを相手にするのは無理らしい。大きく開けた目に少量の涙を浮かべて、急に怖いことを言い出したネイに向かって激しく手を震わせる。

 そんなセトを宥めるネイは、自然を操れるという能力の延長線で生命という自然の象徴を直感で感じ取ることが出来る。とはいえ、生きているかどうかなど体を触ったり呼吸を確認したりと色々な確認方法があり、そこまで得意気になれる能力でもない。

 しかし、相手が生きていることを前提とした戦闘では、ネイのその能力が活かされる。確認する暇がない戦いの中で、生きているかそうでないか、活発に働いているかか死活発に働いているか、ネイにはそれが分かるのだ。


「ネイ的にはどー思うんー? アレ、やっぱり生きてない?」


 セトの頭を撫でるネイに、後ろから話し掛けるネス。そんなネスの声に振り返ると、ネイは顎に手を当てて考え込むように下を向いた。


「生きてるって言う感じはしないですね。血は通ってなさそうですし、呼吸もしてなさそうです。それに頭も動いてなくて……そう! イータンで見た、人型鉄塊みたいな感じです!」


 イータンとは、聖陽郷の東にある発展陽都。他の地域に比べて工業や化学が発展していて、電気を主として動く機械が開発されている。


「おー! それ多分、人型鉄塊じゃなくて人型駆動機なー!」


「ライは知ってるですか?」


「アレは蓄電した電気を使って動かしてて、ライがたまに電気を補充しに行くんなー! んで、もしも人型駆動機と同じなら、多分それを動かしてる何かがあるはずだなー。動かすための電気がオイラたちで言うところのクラフトで動きは最初に命令するやつだから、頭が動いてないっていうなら、多分アレを動かしてる何かが別にあるはずなー」


 主に紛争地域や貧民街での仕事を担う十二人衆は、あまり発展している地域には向かわない。そのためイータンには向かうことが少なく、そこの情勢や技術については疎いのだ。

 そんな彼らの中で唯一イータンに出向く機会が多いのが、電気を操るライ。発電所で発電している電気の多くはイータンの各一般家庭へ送られるため、実験などに使う電力はライが与えている。


「まぁ何はともあれ、今のアレには戦闘に於いて重要な知能が無いということですよね。それなら、ボクたちにもやりようはあります。先ずはボクたちで攻撃して、スキが出来次第ネイとセトは一時的にでも拘束を。最後の二人の拘束で、残り四分弱稼ぎますよ」


「うう……生きてないのは怖いでしけど、あと少し耐えてにぃにによしよしされに行くでし!」


 ネイとライの出した情報を纏め、その場を仕切り直したフウ。そんなフウに鼓舞され、目に涙を浮かべていたセトもそれを拭い前に立つ。そして既に準備を終えているネイと並び、視線を合わせるとお互いコクリと頷く。


大霹靂(ライトニング)!」

爆斬風(エアロバースト)!」

物体操作(サイコキネシス)!」

超重力倍増(ウルトラグラヴィティ)!」


 前にいるネイとセトを飛び越え、空中から想術を次々と放つ四人。

 どれだけ撃とうと全く衰えない相手の勢いに抵抗するため、一発一発の想術にクラフトを注ぎ込み過ぎている。そのため、全く攻撃を受けていないはずなのに体力の消耗が激しい。


「――今いける!」


 継続的に想術を放ち続ける四人のクラフトが減り、想術の威力が弱まり出した瞬間。攻撃には加わらず後ろで待機していたサドが、前にいるネイとセトに合図を出した。


「――捕縛の大樹キャプチャーズユグドラシル

「――十糸(じっし)蜘蛛(くも)(いと)(がら)め」


 サドの合図に合わせた、ネイとセトの静かな詠唱。目標を目で補足せず、二人は両の瞳を軽く閉じている。

 しかし、そんな二人の様子とは裏腹に、ネイとセトの想術は一寸の狂いもなく砕鬼(サイキ)の体を縛り上げる。

 片膝を地面に突き両手を地面に置いたネイは、その手の数センチ先から大樹を生やして砕鬼(サイキ)を捕縛。対してセトはその場に立ったまま手を広げ、両手計十本の指先から伸ばした糸で砕鬼(サイキ)の体に巻き付く大樹毎絡め取る。

 そしてセトの糸が幾百幾千と巻かれ続け、最後には楕円形の球体が出来上がった。


「「――合技、大樹の繭」」


 巻かれる途中でそれを引き千切ろうとする動作も見られたが、二人の想術はそれを超える速さで砕鬼(サイキ)を包み込んだ。

 しかし、砕鬼(サイキ)を縛るのは所詮木と糸。岩ほどの頑丈さはなく、氷ほどの相手の熱や体力を奪う効果もない。二人の合技の完成から暫くして、繭には大きな亀裂が入った。


「――っ、もう出てくる!?」


 五分経過まであと二分を切ろうとした頃、砕鬼(サイキ)の手が繭に亀裂を入れて突き破る。そしてそれから間もなく、内側から繭は真っ二つに引き千切られた。


「あと少し、時間稼ぐのな!」


 そう言うと、ライは逸早く走り出し、砕鬼(サイキ)に向かって距離を詰める。


「――雷剣(ソード)紫電斬空(しでんざんくう)!」


 砕鬼(サイキ)に向う途中で右手に雷剣を握り、砕鬼(サイキ)の大きい一撃を避けて懐に潜りさらに上昇するライ。そしてその後、下から払ったライの剣に、砕鬼(サイキ)の喉元が斜めに切り裂かれる。


「やっ……んあっ!?」


 しかし、やはり砕鬼(サイキ)には痛みに苦しむという動作がない。普通の人間であれば痛みに傷を押さえるであろう今の瞬間も砕鬼(サイキ)は全く顔色を変えず、目下で無防備な体勢を晒すライを手で払い飛ばす。


「――ライ!」


「次はボクが行きます! ッ、ッ、ッ、ッ――」


 払い飛ばされたライと入れ替わるように、今度は空中に飛び出して突っ込むフウ。空中で微弱な風を起こし、短い呼吸でリズムを取りながらその風を踏み台にして砕鬼(サイキ)の手を器用に掻い潜る。


「――風爆(バースト)! くっ……」


 そしてライが斬った首元まで近づくと、フウはそのまま想術を放つ。

 しかし、そんなゼロ距離の攻撃でもビクともしない砕鬼(サイキ)。そんな砕鬼(サイキ)の攻撃にもフウは注意を割き、ライを払い飛ばした時と同じ手の動きに合わせて風を放ち、瞬時にその場を離脱。しかし延々と追ってくる砕鬼(サイキ)の手にとうとう挟まれ、逃げ場を失ったフウはそのまま地面に叩き落とされる。


「――くぁはッ!」


「フウとライはオラに任せぇや! ネイとセトは攻撃を止めて!」


 地面に倒れているライとフウに手を伸ばし、そのまま念力を行使するネス。二人の体を同時に持ち上げ、そのまま急いで砕鬼(サイキ)から離す。


「我が気を引くでし! その間にネイはアレの足を取るでしよ!」


「分かったです! 気を付けるですよ!」


 そしてそんなネスの指示通り、ネイとセトは各々の想術を行使して砕鬼(サイキ)の足止めに掛かる。


「――神器、蝶の|翅翼。蝴蝶舞踊(こちょうぶよう)


 ネイの横から走り出してそのまま前に跳ぶと、セトの詠唱に合わせて蝶のような翅が背中から生える。セトの体より大きく黒みがかった青いそれは、カラスアゲハを彷彿とさせる鮮やかな翅だ。

 そしてその芸術とも呼べる翅を小刻みに動かしながら、セトは砕鬼(サイキ)の顔周辺をグルグルと飛び回る。


「セトの神器、久々に見たけどやっぱり速いです。自分も、負けられないですね。――(しば)()


 目の前で飛び回る砕鬼(サイキ)の足元に、何本もの太い蔦を捻り絡めた(しば)()を巻き付ける。


「今です! グラ、引っ張ってくださいです!」


「任せて! 重力軽減(ゼログラヴィティ)――かぁらぁのぉぉ……いっっせぇぇぇぇのっっっっっせっ!」


 ネイの合図で、砕鬼(サイキ)の足に巻き付けた(しば)()を肩に担ぐグラ。そして溜めに溜めた掛け声に合わせて一気に引っ張り、一人で砕鬼(サイキ)の巨漢を地面に引き摺り倒す。


「おー! 流石グラだなー!」


「ライ! 大丈夫なの?」


「ギリギリの所でガード出来てなー。まだ痛いけど、スイたち程じゃないなー」


 グラの怪力に、拍手をしながら近付くライ。その後ろにはネスとフウもいて、フウもどうやら致命傷を避けていたようだ。大方、雷剣と風の想術でなんとか衝撃を和らげたのだろう。


「おー、皆無事みたいで良かったでしなー! 一応目は潰してきたから、安心していいてしよー」


 砕鬼(サイキ)を崩したネイとグラの元に、時間稼ぎ班が続々と集まる。そしていつの間にか翅をしまっているセトも合流し、最後はずっと後ろで砕鬼(サイキ)を警戒していたサドを待つばかり。

 つい先刻まで綺麗な翅翼を広げていたセトの万遍の笑みとは裏腹な「目を潰す」発言には、誰も突っ込まなかった。


「ふぅ、これでもう少しは楽に――」


「まだ終わってないよ!!」


「――おぅわっ!?」


 首を斬り、そこに追い撃ちをかけ、目を潰して体を倒した。しかしそれでも、砕鬼(サイキ)の動きは止まらない。耳を劈くようなサドの声に驚きながら砕鬼(サイキ)の方を向くと、砕鬼(サイキ)は見えていないはずの目を開けたままライたちの方に向かっている。


「――アレは目で判断してない! 多分、クラフトで俺たちのこと追いかけてる!」


 土壇場でサドが砕鬼(サイキ)のカラクリを暴くも、ライたちには今の砕鬼(サイキ)を止めるほどのクラフトは残っていない。慌ててその場を飛び退くが、迫り来る砕鬼(サイキ)の剛腕から距離が取れない。


「――氷雨の嵐(ヘイルブリザード)!」


 迎え撃つことも回避することも不可能。このまま全員纏めて砕鬼(サイキ)の剛腕の餌食になると、ライたちの誰もがそう覚った瞬間。銀色の声音が乾季に降り注ぐ慈雨の如くライたちの耳を打つ。


「――だからあれほど油断をしてはいけないと、常日頃から言っていたでしょう」


「――! クラ!」


「――水簾(フォール)。まぁ、僕たちが攻撃されたのもその油断のせいだけどね」


「スイも! 二人とも大丈夫なんです!?」


 絶体絶命のピンチを、既のところで防いだ氷雨(クラとスイ)砕鬼(サイキ)に向かい集中砲火された雹のような氷塊に押し戻され勢いを失った砕鬼(サイキ)は、続いて降り注ぐ滝のような水に体を地面に押さえつけられる。


「――攻撃を受けただけで、クラフトはあまり消費していませんでしたからね。それに、最後に一撃くらい与えないと、汚名挽回出来ませんから」


「最後の一撃……ですか?」


 攻撃を与えた直後、空中から降りてきたクラの言葉に、首を傾げるネイ。確かに今の一撃は強力だったが、相手はライやフウたちの猛攻を受けても全く怯まない砕鬼(サイキ)だ。流石に今の攻撃だけでは、落とせないはず。

 そんな疑問を抱いてクラの隣に降りてきたスイに目を向けると、スイは笑って頷いた。


「うん、最後。もう終わりだよ」


 そう言うと、スイは自分の後ろの遥か上空を眺める。

 すると――、


「――待たせたなァ! 時間とクラフトをみっちり掛けた、最強最高の合技。完成させたぞ!」


 スイが見上げた方向――その遥か上空では、太陽よりも眩しい赤く燃え盛る岩石のようなものが浮いている。


「さぁ征くぞ、皆はちゃんと避けろよ!」


 そう言うと、レツとイルは同時に右と左それぞれの腕を上げ、その天に伸ばした腕の延長線上にある岩石を腕を振り下ろすと同時に砕鬼(サイキ)を目掛けて急降下させる。


「「――合技、流星炸裂岩(メテオライトバースト)ッッッ!!!」」


 禍々しい程赤く光る炎に包まれた岩石は、今までイルが出していた物とは比べ物にならない。

 その大きさは砕鬼(サイキ)の巨漢を優に凌駕し、押し潰されれば一溜りもない。今までありとあらゆる攻撃を受け止め続けた砕鬼(サイキ)であっても、これを食らえば跡形もなく潰されるだろう。


 そしてその砕鬼(サイキ)を倒すべくして造られた岩石は、上空からその高度を下げると同時にどんどんと加速。轟々と大気を唸らせ、周囲の空気をも赤く染める。そして地上数百メートルの所からも敷き積もる雪を溶かし、更には地面までもを溶かし出す。


「「食らえェェェェェッッッッ――!!!」」


 叫び、上空から流星炸裂岩(メテオライトバースト)砕鬼(サイキ)を粉砕する光景を凝視するレツとイル。

 そしてそんな二人が叫び終わった時。ノーマントに真紅の炎柱が天を登り、天変地異ほどの大爆音を響かせて地面に衝突。一瞬間の後に辺り一面を焼け野原へと変貌させ、その中心には山一つ分ほどの大きなクレーターを生んだ。


「これで愈々……」

「俺様たちの……」


「「「「「「「「「「「「勝ちだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――!!!」」」」」」」」」」」」


 雪原の中に広がる荒野の真ん中で、十二人衆は息を揃えて歓喜の声を上げた。

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