77話:犬猿の共闘
イオに治療されるクラとスイから視線を外し、イルとレツは視線を砕鬼に移す。
「イル、一時休戦だ! 二人で掛かるぞ!」
「わァってる! 先ずはコイツをぶっ殺す!」
そう言うと、イルはその場に残りレツだけが前に出る。そしてある程度砕鬼に近付き、そのまま腰を落として前傾姿勢をキープ。
「イル!」
「あァ! 岩柱!」
レツの合図で、イルはレツの足元に岩柱を生成。部分的に地面を隆起させ、そのままレツを砕鬼の顔面近くまで上げる。
「――『神器』、紅蓮鎚!」
突き上がる岩柱の上で、再び神器を手にするレツ。そしてその炎で出来た鎚を構え、砕鬼の顎を目掛けて振り上げる。
「おォ――らァッ!!」
振り上げた神器はそのまま砕鬼の顎に直撃し、大きく後ろに仰け反らせること成功。砕鬼の体勢を崩すことが出来たレツはそのまま岩柱から飛び降り、空中で再び紅蓮鎚を振り翳す。
「オラァッ! ――いいぞイル!」
「地壊!!」
岩柱から飛び降りたレツは着地す前に自分の足元だった岩柱を粉砕し、着地と同時に大きく後退。その後ある程度距離が取れたレツの合図に合わせ、イルもそれを待っていたとばかりに素早く反応。
『地壊』の詠唱の直後、砕鬼の足元の地面が粉々に砕かれる。
今回イルが使ったディストラクションは、レツやゴウの使う炎壊とは違う『地』の想術。
想術には、その属性固有のものと多属性が汎用できるものがある。例えば、火属性の熱探知と音属性の音探知、氷属性の氷剣と雷属性の雷剣など。特徴としては、名前に属性を指すような言葉が使われていないことが挙げられる。
そして今回、対象を破壊するための想術であるディストラクションを、地面を破壊するための地属性の地壊としてイルが放った。
体勢を崩した砕鬼は足場を崩され、踏ん張りが効かなくなった状態でそのまま後ろに倒れる。
「イル! 穴!」
「――大地の破局! これでいいか!?」
倒れた砕鬼を確認し、再び砕鬼に近付くレツ。そして砕鬼の真上まで跳ぶと、下で次の準備をしているイルに合図を出す。
そんなレツの合図に、地壊とは比較にならないほど大きな規模で地面を破壊するイル。
そんなイルのド派手な攻撃で砕鬼が倒れている地面にピンポイントで地割れが発生し、全くそこの見えない大穴が空く。
「十分だ! 獄炎の誘い!」
イルの空けた大穴に落ちる砕鬼に、こちらもまた炎烈とは比較にならないほどの炎で追い打ちをかけるレツ。
「オラ、今だ! 全員でめいっぱい撃ち込め!」
「――大霹靂!!」
「――颶風!」
「――超重力倍増!」
「――物体操作!」
「――大樹の追走!」
レツの獄炎の誘いに続き、イルの合図で次々と撃ち込まれる想術。攻撃属性のライやフウに続き、グラはより倍率を上げた重力を掛け、ネスは得意の念力で周りに散らばっている岩の礫を当て、ネイは自ら生やした大樹を伸ばして追い打ちをかける。
「どう、だ……?」
何メートルも先の地底深くへ、何倍もの重力を掛けられて落ちた。さらにはその落ちる間もずっと、炎や雷の攻撃を受けている。あまりにも深いところまで落ちたのか、底に打ち付けられる音すらもイルたちには聞こえない。
「――! まだだよ!」
「――なっ!?」
見えない穴の底を覗きながら確認していたイルたちより、地底から聞こえた僅かな音に逸早く反応したサド。そんなサドの反応から数秒遅れて、イルたちにも漸くゴロゴロという鈍い音が聞こえてくる。
「みんな避けろ!」
地底から響くその音に十二人衆全員が漸く反応した直後、徐々に近付く音と共に地面の揺れが大きくなった。
そしてその異常なほどの地震に、イルとレツは治療中のクラとスイを抱え、十二人衆全員が即座に退避。そしてふと後ろを振り向くと、イルの空けた大穴から砕鬼が跳び出てきた。
「ゲンさんの脚力も半端ないからそこはビビらないけど、あんだけ俺らの想術食らってそんな力出るのかよ……」
圧倒的な砕鬼の体力を前に、冷や汗を流しながら、レツは引き攣った顔で苦笑い。ゲンたち今代の四天王と比べても圧倒的な力を持つ砕鬼に、十二人衆全員が完全に余裕を失う。
「――イオ。俺ら全員のクラフト、一回だけ全快に出来るか?」
「セトとかサドが殆ど使ってないから出来なくはないけど、それやるとあとはスイとクラ治すのでギリギリなのね。弱化とか、他の支援も、何も出来なくなるのね」
「分かった、それでいい。一回だけ俺らのクラフト全快にして、その後はクラとスイの治療に専念してくれ」
「分かったのね。――利毒・増量」
勢いよく地面に着地した砕鬼を前に、クラを預けるためにイオの傍に寄るイル。しかし、レツとの共闘であれだけの大穴を空けるには、イルのクラフト消費量もかなりのもの。上がりそうになる息を整えながら、イオのこれ以降の戦闘不参加と引き換えにクラフトを回復。
万全の状態を期し、レツと共に再び十二人衆の前に出る。
「こいつに生半可な攻撃は効かねぇ。その上、向こうの攻撃は一撃で瀕死モノだ。油断してると、アニキとの約束守れなくなんぞ」
「でもこいつ、俺様の神器でも俺たちの同時攻撃でもそこまでのダメージ負ってねぇぜ」
「ああ、そうだな。でも、こいつはオレらの攻撃を避けねぇ。どういう訳か知らねぇが、多分こいつは避けるって行動しねぇぞ」
そんなイルの言葉に、レツを含めた十二人衆が全員ハッとしたように目を大きくする。
思えば、初めの同時攻撃の時も、レツとイルの共闘の時も、その後の同時攻撃の時も、砕鬼は毎回全て直撃している。避けることも、ましてや防御することも無く、明らかに全て受け切っている形だ。
「だから、こいつが余裕ぶっこいてオレらの攻撃を受け続けるなら、大技で一気に仕留めればいい。んでもって、その大技はオレとレツでキメる」
「――!? イルとレツが!?」
イルの言葉に、さっきよりも大きいリアクションで驚く十二人衆。しかし、今のイルの言葉に驚いたのは、イルとレツを除いたメンバー。指名されたレツは、何の疑問も抱いていない様子だ。
「この中だと、オレとレツが一番短時間で火力を出せる。それも、一撃ならゴウさんに負けねぇ程のだ。でも、ゴウさんと違って準備に結構な時間が要る。そのための時間を、お前らで稼げ」
イルの作戦、そしてその命令に、冷静に対処するライ。随分と上から目線の発言だが、イルの言葉には一定の信憑性があり、そして今のこの状況。ライも、意地を張っている場合出ないことは分かっている。レツとの協力をイル本人から提案した時点で、イルも自分一人で大丈夫などという変な意地は貼っていないだろう。
しかし、一か八かの大博打に出ては失敗した時のリスクが高い。よって、ライとしては作戦が成功するかどうかの確証を望む。
「それ、成功する?」
「させる」
何の濁しもない単刀直入な質問に、短すぎるほどの返事で返すイル。そんなイルの言葉に一瞬目を丸くしながらも、イルの目を見ているうちにライの口角は徐々に上がる。
「分かった、了解。――よーし、皆! イルとレツが大技撃つまでの時間、きっちりバッチリ稼ぐのなー!」
イルの目と言葉に納得し、笑顔で振り返ったライ。そのまま右腕をぐるぐると回し、砕鬼の方へ歩いて行く。
「あげられる時間は五分! それまでに完成させてなー!」
「十分だ。やるぞ、レツ」
「おう!」
時間稼ぎを笑顔で快諾したライに頷き、その場から一旦距離を置くイルとレツ。そんな二人が準備に入ったのを見届けると、ライの周りにはイオとクラたちを除いた七人が満を持して集まる。
「五分、何があっても後ろの五人に近づけない。それが今回のオイラたちのミッションな!」
「ボクたちだけだと火力不足ですけれど、五分耐えればいいんですからね。倒せないとしても、時間稼ぎは必ず完遂します」
そう言って、ライを初めとした七人は今にも攻撃を仕掛けてきそうな砕鬼に目を向ける。そして攻撃を仕掛けられる前に、自ら距離を縮めるべく全員でばらけながら前進。砕鬼一人を七人で包囲し、五分間のカウントダウンが始まる。




