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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
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76話:怪我をさせた鬼、怪我をさせた犬猿

「さァてっと……さっさと片付けんぞ!」


 初代四天王、『巨人族の族長』砕鬼(サイキ)を前に、イルはメラメラと闘志を燃やす。


「シロさんの話だと、完全に巨人化したコイツは山も簡単に砕くんだっけか? だとすると、イルと俺様でも肉弾戦は厳しいよな」


 目の前でどんどんと大きくなっていく砕鬼(サイキ)を前に、肉弾戦の可能なレツがイルの横に並び立つ。


「だァから態々全員で来たんだろ。肉弾戦で勝てんならオレ一人で十分だっての」


「いやいやいや、イルで大丈夫なら俺様だけの方がもっと早く片付くわ」


「はいはいそこまで。イルはレツに突っかかりすぎ。早く片付けて、直ぐリゥ兄さんの所に帰るよ」


「レツも、肉弾戦じゃなくて想術使うんだからね。ちゃんと僕たちに合わせてよ?」


 隣に並んだレツに、イルは強めの口調で突っかかる。そんなイルとレツの間に割って入り仲裁を試みるのは、十二人衆の中でも感情的になりにくいクラとスイだ。普段落ち着いている彼らが、言い合いになりそうだった二人をそれぞれ落ち着かせる。


「チッ……おいレツ、足引っ張んじゃねェぞ」


「そっちこそ世話かけさせんじゃねーぞ」


 初代四天王との大一番の前に、大きな亀裂が入りそうな二人。正に犬猿の仲と言える二人の世話には手間がかかるが、この二人は十二人衆の中でも一二を争う主戦力だ。

 特に、この初代四天王との大戦。絶対に負けられないこの戦いでどちらか一人でも欠ければ、勝率は大幅にダウンするだろう。


「さぁ、さっさと片付けるぞ!!」


 まず初めに動いたのは、邪陰郷の雑兵をほぼ一人で片付けた火の使い手――レツだ。イルの傍を離れると同時に攻撃態勢に入り、先ずは炎壊(ディストラクション)を直撃させる。


「――ぅぉっと!?」


 しかし、既にかなり大きくなっている砕鬼(サイキ)には、火傷一つ与えていない。そんな砕鬼(サイキ)から鋭い拳を一直線に飛ばされ、レツはギリギリ体を逸らして回避する。


「先ずは動きを止めよう。イルは液状化、グラは重力倍増(ハイパーグラヴィティ)、ネイは(しば)()、ネスは物体操作(サイコキネシス)でお願い」


「あい……よ!」

「わかったー!」

「了解です!」

「任せーやー!」


 クラの指示通り、四人は即座に想術を行使。砕鬼(サイキ)の足元がドロドロと崩れ、上から掛けられた重力に押される砕鬼(サイキ)はどんどんと埋まる。そんな砕鬼(サイキ)の足には無数の細い蔓が絡まり、それを引き千切ろうとする手は引っ張られるように動かない。


「――よし。氷結の足枷(フローズンシャックル)!」


 クラの指示に合わせた四人の想術は、かなり完璧に近い形で決まった。そしてそこにクラが追い打ちをかけるように、地面に埋まった足を氷で覆う。

 地面に引き込まれる砕鬼(サイキ)の足は膝まで沈んでいて、今のクラの氷で太ももまでが拘束された。


「次、総攻撃!」


「っしゃ! そのまま押さえとけ! 炎烈アクティビティフレイム!」

落雷(サンダー)!」

爆斬風(エアロバースト)!」

波打(アクアテール)!」


 またもや次もクラの指示で、身動きの取れなくなった砕鬼(サイキ)に攻撃用想術を得意とする四人が完璧な順番とタイミングで総攻撃を仕掛ける。

 そして一斉に投下された想術に土煙が上がり、十二人衆たちは攻撃の手を一旦止める。


「――みんな離れて!」


 僅かな沈黙が続いた後、一人の掛け声に合わせて一斉に後退する十二人衆。その指示を出したのは、今まで目を閉じて静かにしていたサドだ。


 リゥと別れたあとからずっと静かだったサドは、サド以外には感じ取れもしない音波(エコー)を発してその反響を聴いていた。そしてそのはね返ってくる音から、砕鬼(サイキ)の行動や周囲の状況を把握。いつ砕鬼(サイキ)が拘束を破り反撃をしてくるかを、ずっと音で探っていた。


「流石、聖陽郷随一の探知力は伊達じゃねーな。こんな煙ったい状態じゃ全く分かんなかったぜ」


「でもまぁ、向こうもこっちが見えてたわけじゃなさそうだね。体が大きいから手を振れば誰かしらには当たるだろうけど、それが分かってれば当てに来てる攻撃じゃない分避けやすい」


 ただ単に腕を振るっただけの砕鬼(サイキ)の反撃は、十二人衆の誰一人にも当たりはしない。攻撃の届かない安全圏に避難していた彼らは、まだまだ余裕がある。


「でも、今みたいな攻撃だと全く倒せそうもないね。安全策とはいえ、私たちの力ではどれだけ時間がかかるか分からない」


「それに、今ので自分たちの拘束も解かれてるです。これじゃ何回やっても同じですよ」


 徐々に晴れていく土煙の中からは、ほぼ無傷と言っていいほどの砕鬼(サイキ)の姿が見える。


「――仕方ないですね、作戦を変えましょう。安全策から、単純な強攻策に変更。イオの毒で弱化させてから、全員の総攻撃で押し切ります」


「お、待ってましたー! 俺様の得意分野だぜぇー!」


「うるせぇな……要は攻撃しか出来ねェってことだろ」


 クラの作戦変更の指示に、右腕をグルグル回しながら嬉しそうに戦闘態勢をとるレツ。そんなレツの後ろから、腕を組んだイルが不機嫌そうに独り言のように呟く。


「あん!? イルお前、今なんか言ったか!?」


 わざとレツに聞こえるような声量で呟いたイルに、レツはバッと後ろを振り向いてイルに近づく。


「あ? やんのかよ?」


「はいはいやめやめ。イル、何回言えばわかるんだい? レツに突っかかりすぎだ」


 またもや揉めそうになった二人の間にクラが割って入り、両手で二人を離れさせる。どうやらこの二人の間には、協調という言葉が存在していないらしい。


「取り敢えずイオの毒で弱体化させて、その後に十二人衆全員で総攻撃だ。二人は最悪私たちに合わせなくてもいいから、協力だけはしてくれ」


「わァーったよ……仕方ねェな」


「ハッ、相変わらずイルはクラに弱ぇーな」


「んだと、テメェ!」


「だーかーらー! レツ! イルが引き下がったんだから煽らないで! 後でお兄ちゃんに言うよ!?」


「わ、わかった! わかったよ! スイもそんな怒るなって……」


 クラが間に入り引き下がったイルに対し、そこを煽ったレツ。そんなレツに、今度はスイが怒る。


「テメェだってスイには弱いじゃねェかよ」


「あぁ!? もっかい言ってみろおい!」


「「だから二人とも――」」


 スイに抑えられたレツに、再び煽り返すイルと、それに反応して憤るレツ。延々とイタチごっこを続けようとする二人に、クラとスイが再び止めようとしたその瞬間――、


「――危ない!」


「――!? イル!」

「――!? レツ!」


「んあっ!?」

「うおっ!?」


「「あぁ――!」」


 ――クラとスイが二人を止めようとした瞬間、少し遠くから聞こえた十二人衆の誰かの声に、ハッと振り向く四人。すると、四人を目掛けて砕鬼(サイキ)の剛腕が物凄い速度で迫っていた。

 そんな砕鬼(サイキ)の攻撃に反応の早かったクラとスイはそれぞれ近くのイルとレツを手で突き飛ばし、なんとか攻撃範囲から外す。しかしその行動により二人は砕鬼(サイキ)の攻撃から逃げ遅れ、クラとスイは同時に吹き飛ばされた。


「クラ!」

「スイ!」


「――だい、じょう……ぶ」

「――つぎ、き、つけ……」


「「――っ、テメェ……!!」」


 砕鬼(サイキ)の剛腕に吹き飛ばされた二人は、たった一振りとは思えないほどのダメージを負っている。体中からの流血に、途切れ途切れの息。言葉を発するのがやっとの状態で、その声すらも掠れてギリギリ聞こえるかどうか。

 そんな二人の状態にイルとレツは眉間に皺を寄せ、強く握りしめた拳を小刻みに揺らし、噛み締める奥歯をギリギリと歯軋りする。

 そして二人は、その怒りを再びお互いに――否。二人の怒りは、とっくにお互いには向いていない。

 二人の怒りの矛先――それは、クラとスイに重傷を負わせた、目の前に仁王立ちする砕鬼(サイキ)だ。


「――イオ! 二人の傷を治せ!」


「え、でもあっちを弱体化させないと……」


「こっちは俺様たちで何とかする! 頼むから、治してやってくれ!」


「――ん、わかったのね。二人はイオに任せるのね」


 砕鬼(サイキ)に目を向けたまま、大きな声でイオに呼びかけるイル。クラの作戦では砕鬼(サイキ)を弱体化させる予定だったイオだが、イルとレツの頼みを聞き瞬時にその予定を変更。急いでクラとスイの元へ駆け寄り、二人の傷の治療に取り掛かった。


「――オレたちのせいで、二人に怪我させたんだ」


「二人を治す時間は、俺様たちでしっかり稼ぐぞ」


 ()()に怪我をさせた砕鬼(サイキ)に、()()スイ(・・)に怪我をさせたイルとレツ。


 怪我をさせた()と怪我をさせた者たち(犬猿)の戦いが、今幕を開ける。

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