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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
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74話:一縷の光

 ゴウやレイが戦闘を開始した頃。時を同じくして、ゲンもまた初代四天王の一角と対峙していた。


 ゲンの対戦相手は、初代四天王リーダーと呼ばれた名無(ナム)だ。

 唯一無二の戦闘スタイルと言うシロの言葉を脳に刻んだゲンは、その出方を伺うために敢えて攻撃を仕掛けない。しかし、そんなゲンの行動に合わせているのか、名無(ナム)もまた一歩も動こうとしない。

 暫くお互いに動かない沈黙の時間が続きながら、埒が明かないとゲンが攻める。

 予備動作無しに前進し、一秒と満たない時間で距離を詰めるゲン。ゲンのこの接近速度に反応できるのは、初見であれば四天王程の実力を持っていても難しい。よって今回の名無(ナム)も、前例通りにゲンの初撃を受ける。そう思われた瞬間――、


「――ッ!?」


 目の前で直立していたはずの名無(ナム)が、上下逆さになっていた。


「奇想天外……恒久な身体で何千年も放置され、いざ目覚めてみれば嘗ての同胞はその意を持たぬとはな」


 ――否。上下逆さになっていたのは、ゲンの方だ。名無(ナム)に近付いた瞬間、彼の間合いに入ったゲンはその足首を取られ、それに気付く間もなくぶら下げられていた。

 一瞬の内に近付いたゲンを、その一瞬を超える一瞬で宙吊りにした。そして自分の不格好に気付いたゲンがその体勢から反撃を試みた瞬間。名無(ナム)はゲンの足首を掴んだまま体を約三百度ほど捻り、その反動を利用してゲンの体をぶん投げた。

 一周――三百六十度以上の強力な回転により生み出された遠心力は、外側にあるゲンの頭に血を集中させる。脳震盪とも捉えられるほど頭がガンガンと揺れ、目眩以上に視界が歪む。

 まさに空を切る程の速度で投げられ、遠のく意識の中でゲンは体に走る痛みをひしひしと感じていた。目にも止まらぬ早さで投げられたゲンの体に当たるのは、普段から空気中を迷っている塵だ。普段は目に見えることもほぼない小さな砂や塵が、超速で動くゲンの体に当たり火花を散らしているのだ。

 そして全身に打ち付ける塵に顔を歪めさせていた次の瞬間、ゲンの顔が爆ぜるように一気に蒼白なものとなる。


「――くはッ!?」


 ゲンを雑にぶん投げた後、名無(ナム)はそれを超える速度で移動。そして仰向けに飛んでいたゲンの背中を、真下から蹴り上げたのだ。


「ふむ? やる気十分と言った形だから攻撃してみたが……なんだ、一般人だったか?」


「――!」


 ゲンを蹴り上げた名無(ナム)は、軽々と吹き飛んだゲンを見上げて嘆息。そんな名無(ナム)の発言に、ゲンの体がピクリと動く。


「そこそこに鍛えられているようだから期待していたのだが……」


「――るな」


「ん? 今、何か言っ――」


 嘆息した名無(ナム)は、蹴り上げたゲンを追うようにして跳躍。再びゲンに追いつくと、ゲンが小さく何かを呟いた。

 そして、聞き取れなかった言葉に対し、名無(ナム)が首を傾げようとした瞬間――、


「ナメるなァッ!!」


 仰向けで上昇していたゲンが、青筋を立てて怒声を上げる。それに目を丸くした名無(ナム)の筋肉が強ばった一瞬――コンマにすら表せないその一瞬に合わせ、ゲンは体を反転。そしてその回転を利用したまま、名無(ナム)の脳天に足の甲を叩きつける。

 すると、ゲンを追って跳躍して来た名無(ナム)はそのまま蜻蛉返りのように頭を下にし、跳んで来たときと同じ軌道で地面に急降下する。


「上がって来い。今の攻撃だけで沈むとは思えん。俺はお前と違い、相手の力量くらいは測れる」


 盛大に砂埃を上げて地面に叩き付けられた名無(ナム)を、上から見下ろしているゲン。初めの一方的な攻撃で相当なダメージを負ったと思われたゲンたが、ゲンの体には傷一つ付いていない。

 ″そこそこに鍛えられているよう″ではなく、″この上なく鍛え上げられている″のだ。そうしてゲンの力量を測り違えた名無(ナム)は、今も尚土煙の中からその姿を現さない。


 ゲンからの攻撃を警戒しているのか、土煙が晴れるのを待っているのか、視界の悪い土煙の中に誘き寄せるつもりなのか。一向に動く気配のない名無(ナム)に、ゲンも今度は自ら動こうとしない。

 ゲンが動こうとしない理由は、大きく分けて二つ。今の攻撃だけで倒せるはずがないという予想に疑いはなく、必ず立ち上がってくると確信していること。

 そして、先の激突。ゲンが初手を譲ることなど、今までそうあったことではない。不意打ちでも対応出来るゲンが、自分から仕掛けたにも関わらず初手を奪われた。その時点で、ゲンの警戒心は過去最高まで上がる。


「想術なら、或いはあったかもしれんな。だが、無いものを強請っても仕方の無いことだ。今代の四天王の一人として、持てる全てをぶつける。今回も、今までと同じことをするまでだ」


 暫く待っても一向に姿を見せない名無(ナム)は、既に五分ほどその姿を見せていない。もうとっくに砂埃も晴れて、大きなクレーターを作った地面が顔を覗かせている。普通なら、ここで倒したと見切りを付けてもおかしくない。

 しかし、名無(ナム)気配(クラフト)は未だその反応を弱めていない。それどころか、気配で居場所を特定出来ないようにクラフトを辺り一面に撒き散らしている様なのだ。全方向から感じられる名無(ナム)の気配を一つずつ感じ取り、ゲンはその中から本体のあるクラフトを探す。


「――無駄だ」


 一つずつその気配を探っているたゲンの後ろから、吐息のような低い声が聞こえる。ゲンから先手を奪った名無(ナム)が、今度はゲンの背後を取った。

 が、しかし。


「――はぁァッ!」


 背後に回った名無(ナム)に対し、ゲンは右足を高く上げてそのまま回転。目で確認するよりも先に、ゲンは回し蹴りをキメていた。ゲンの回し蹴りは名無(ナム)の側頭部にヒットし、流石の名無(ナム)も直撃したゲンの回し蹴りには体勢を崩す。

 そんな名無(ナム)を見て、ここぞとばかりにゲンは畳み掛ける。先ずはしゃがんで足を払い、さらに体勢を崩した名無(ナム)の頭を蹴り上げる。そして最後に、仰け反った名無(ナム)の顔面目掛け全体重を乗せた拳を放つ。


「俺が気配を探ればお前は俺の死角に回り込む――これは予想出来ていた。だから敢えてスキを見せるような動きをし、お前を誘き出した。真面に攻撃が入れば、俺にだって十分勝機はあるだろうからな」


 拳を作った右手を握り締め、ゲンは吹っ飛んでいった名無(ナム)を横目に見る。

 これまでは真面な攻撃が入っていなかったが、今回の攻撃は二つとも直撃。先の脳天への蹴りといい、今回の攻撃といい、四天王随一の筋力自慢のゲンの物理的な攻撃が確実に決った。そしてそれによる手応えは、当の本人自身も確かに感じている。


「――なるほど。これは確かに、一般人と言うのは些か間違いがあったか。しかし、スピードでは我に劣り、力では砕鬼(サイキ)に劣り、戦闘技術では牙狗(ガク)に劣り、想術では華依(カイ)に劣る。まだまだ未熟な貴様が、既に個として完成された我ら初代四天王に勝るものは何だ?」


「俺がお前らに勝るもの……か。確かに、今の俺たちでは、既に完成されたお前らに勝てないかもしれない。だが、個として既に完成されたということは、その個人全員のその先が無くなっているということだ。つまり、個人個人で戦えていたお前らには『協力』や『共闘』と言ったものは出来ない。そして完成されたお前らは、新しく成長することも出来ない。その二つが、俺ら今代の四天王がお前ら初代四天王に勝る部分だ」


「――なるほど? それが、貴様ら今代の四天王が我ら初代四天王に勝る部分か。それならば、我もそれを試したくなってきたな。貴様ら現聖陽郷と、我ら元聖陽郷……今は邪陰郷などと名乗っているんだったか。まぁその対立する二組が合流し、総力戦をするのはどうだ? 貴様を愚弄する気は無いが、ハッキリ言って今の貴様では我に勝てるとは到底思えん。他の人形と化した奴らはともかくな」


 そんな名無(ナム)の言葉に、ゲンは目を細めて黙り込む。

 確かに、ゲンも心の中では目の前の男の強さに驚愕している。初代が強いことは何度か聞かされていたゲンだが、ゲンたち今代の四天王は仮にも歴代最強と呼ばれていたのだ。それなのに、今目の前にした名無(ナム)には遊ばれているようにしか思えない。

 何の根拠もなく歴代最強と祭り上げられていた過去と、圧倒的な実力を初代に見せられた今。ゲンの頭の中での天秤は、今大きく後者に傾いている。


「――分かった。この提案に乗るのは一対一(サシ)だと勝てないと認めているようで癪だが、お前たち初代が強いのは確かだ。お前のその提案、有難く受けることにしよう」


「ほう? 自分と相手の力量差が量れるのは良い事だが、些か素直すぎやしないか? 歴代最強と謳われた四天王としての誇り(プライド)のような物はないのか?」


「俺たちが今背負っているものは自分ではなく聖陽郷の未来。身勝手な意地(プライド)のために行動出来る立場ではない。大切なものを守るために最前を尽くす。それが俺たち今代の方針だ」


「――なるほど。時が経ち人も変われば、同じ存在であってもその意義は変わるか。どちらが正しいなど、それを一概に決めるのは野暮と言うもだな」


「――? まぁ、その通りだ」


 名無(ナム)の意外な反応に、一瞬首を傾げたゲン。今の名無(ナム)の言葉は、何やら今の四天王を認めたような印象がある。


「今一番人が集まってるのは、我らの頭がいるところか。――我は他の奴らを捜してから行く。貴様も仲間の面々を集めて来るといい。また後でな」


 そう言うと、名無(ナム)は軽く地面を蹴ってその場から飛び去った。


「――初代四天王、名無(ナム)。思いの外、話が通じない相手でもなさそうだ」


 ゲンの中で、薄らと光る一縷の細い光が見えていた。

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