72話:激しく轟く爆音と叫喚
「――っつーわけで、シロたちと別行動したクロがオレら先代を呼びに来た。時を司る天使であるクロが、禁じ手を行使したんだ。オレもお前も、それに応える義務があるな」
「クロが禁じ手を……それでゲキさんが、ここに来たンスね」
ここに来た経緯を大まかに説明し、ゴウの隣に並び立つゲキ。攻撃重視のゴウにとって良き師であったゲキは、容姿だけでなくその性格も嘗てと変わらない。
懐かしく頼もしい師と並ぶことで、ゴウの心にも余裕が出来る。
そしてそんな二人は、ゲキの炎土壁を破った牙狗ら四人と再び対峙する。
「禁じ手――禁術とも呼ばれるそれは、時を司るクロの場合、一時的に対象の時間を戻すこと。一定時間が過ぎれば術は解除され、行使した側とされた側は例外なくその存在が消える。そのタイムリミットまで、数時間……時間はねぇ、初めから飛ばすぞッ!!」
ギラリと目を光らせ、目の前の四人に正面から突っ込むゲキ。さらりと半日で死ぬ宣言をされたゴウだが、禁じ手に関しての知識は昔からあった。今更それを聞いたところで、激しく動揺するようなことはない。
それどころか、残りの時間を有意義に使えるようにと、より一層気合が増した。
「オレが前で攻める! ゴウは後方から援護してくれ!」
「押忍!」
構える両腕に炎を纏わせ、そのまま牙狗たちの目の前まで突き進んだゲキ。後ろに構えていた腕を前に伸ばした瞬間、両腕の炎が牙狗たちを飲み込むように膨張。
四人全員を飲み込んだ炎は彼らを薪にしてさらに火力を上げる。
「――土壁囲い」
「炎烈ッ!」
炎に飲み込まれた四人を、一面だけ残して土の壁で囲うゲキ。そして囲わなかった一面には、後ろで待機していたゴウが想術を打ち込む。
「オラァァァァァァァァァッ!!」
「づっ、アァァァァァッァァッァ――ッ!」
持続的に放ち続けられる炎烈に、土壁の中からは断末魔のような苦鳴が響き渡る。そしてゲキもゴウの隣に立ち、二人で合わせるように炎烈を放出。
そんな二人の攻撃は、邪陰郷の苦鳴が止むまで放ち続けられた。
「――やったか?」
「あ、それリゥが言うところの『ふらぐ』ってやつらしいッスよ。なんでも、「やったか?」的な言葉を言ったあとは、大体相手が生きてるってお決まりがあるらしいッス」
「そーかそーか……したらそのふらぐってやつは、强間違いじゃなさそうだな」
放ち続けていた攻撃を止め、徐々に煙が晴れていくのを目を凝らしながら見つめるゲキ。中を覗き込むような視線で状況確認しようとするゲキに、ゴウはふとリゥの言っていた言葉を思い出す。
そしてゲキが立てたフラグは、そんな話の直後に見事回収された。
「なるほンな。幹部三人が肉壁になって、初代の受けるダメージを最小限に食い止めたってか」
「どーりで土壁が壊れねーわけだな。オレの想術がこんだけ強かったのかって、過信しそうになってたぜ」
風に吹かれて晴れた煙の奥から現れた、ボロボロに焼き焦げた焼死体。脳からの命令を受けなくなったその体は、なんの予備動作もなく地面に倒れる。
そしてその奥から顔を覗かせるのは、至って攻撃前と変わっていない牙狗の姿だ。目の前で味方が三人命を落としたのにも関わらず、牙狗の表情は全く変わらない。一切の感情を表さないその顔に、ゴウは身の毛がよだつのを感じる。
「やっぱ、生き返ってるのは体だけか。前々から随分と趣味の悪い禁じ手だと思っていたが、正体が聖陽郷の敵だってんなら納得もいくわな」
「ゲキさん、それって……?」
「ああ。初代四天王が今の時代に生きてるわけがない。あの野郎の禁じ手――死者の蘇生だろうな」
死者の蘇生。それは、文字通り死者を蘇生するという禁じ手。死者を蘇生するという事は、この世の輪廻を覆す行為だ。
リゥの転生とは違い、死した体にもう一度生を吹き込む。それは文字通りの生き返りであり、転生のような生き変わりとは根本から異なる。
死して別の生を受けるのが輪廻であり、死して同じ生を受けることはあってはならない。が、この世には稀にそのような『世界の理』を捻じ曲げる輩が現れる。
「――勿論、禁じ手なんか誰もが使えるもんじゃ無い。使えるのはあの野郎と天使の二人くらいで、その三人の誰かが命を落とせば別人格として禁じ手を使える奴が現れる。あの野郎は、それがあってはならないとしてその三人を不老とした。でも、不老は出来ても不死というのはそんな簡単なことじゃない。それこそ輪廻に関わることだと、三人は不老というところで留まったんだ」
「――そうか。あの野郎がクロに攻撃してアキラを連れ去る時にクロを殺さなかったのは、別人格として生まれ変わることが厄介だと思ったのか」
「まぁそれでクロが禁じ手を使ったんだから、結果は裏目に出たわけだけどな。クロの覚悟が、あの野郎の予想より強かったわけだ」
無駄に時戻しを使われることを恐れた行動が、結果として自分の首を締めることになった。『あの野郎』の行動が凶と出たと、鼻で笑ってやる牙狗。
自らがこの後命を落とすことになると知っていても、牙狗は全く動じることがない。
「つーか、オレとしては最後に思いっきり戦えんのが嬉しいんだわ。最高の後輩と一緒に戦えることがな」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないッスか。まぁ、俺も気持ちは同じなンスけど……ね!」
言い切ると同時に、無詠唱で炎の弾を放つゴウ。
そんな炎の弾を、軽々と片手でかき消す牙狗。
この力で言えば、やはり初代の方が強いだろう。そしてそれは、ゴウも薄々勘付いている。
しかし、今は一体一の勝負ではない。
この世で最も尊敬し敬愛していた『先輩』が、一緒になって戦ってくれているのだ。
「良い弾幕だ! 腕上げたな、ゴウ!」
ゴウの炎をかき消した牙狗の目の前に現れたのは、自らの全身を想術でコーティングしたゲキだ。両腕に火と雷を纏い、両足は氷で纏わせる。
攻撃用主属性――即ち、火、水、風、雷、氷、土の六属性。それらを扱うゲキは、超攻撃特化型にして戦闘における盤面を優に傾けさせられる存在である。
「――撃ッ!!」
炎を纏わせた右腕を大きく振りかざすゲキに対し、左手の爪を上手く使い右手を簡単に封じ込める牙狗。しかしゲキも負けじと左手で牙狗の右腕を捕らえる。
感電に警戒した牙狗はゲキの左肩に噛みつき、ゲキは氷でコーティングした右膝を牙狗の横腹にめり込ませる。
「これが数十年間実戦から離れてた人の戦いかよ……」
一歩も引かないその攻防は、高火力想術に任せた戦闘をしてきたゴウには到底真似出来ない。肉弾戦特化のゲンならば可能なのだろうが、ゲキの戦いもゲンの戦いも、ゴウには理解し難いものだ。
目の前の攻防を見て呆気にとられるが、その攻防でもゲキが押されている。最初にゴウが攻撃し、その後からの攻防であるにも関わらず、やはり牙狗は押されていない。目の前の戦いに目を奪われている暇など、今のゴウにはなかった。
「炎砲ッ!」
押され始めたゲキを見て、ゴウは少し離れたところから援護射撃。牙狗の頭を狙った攻撃は見事に命中し、二人の間に距離を作った。
「またもや良い弾幕だ。助かったぜ、ゴウ!」
「――いえ。そろそろ決めたいとこッスね」
ゴウの攻撃を受け、一瞬たじろいだ牙狗。その一瞬をついて後退したゲキは、ゴウの隣に降り立つ。
そんなゲキはニカッと笑いながら親指を立て、ゲキのそれにゴウは一瞬口篭りながらも牙狗の方に向き直る。
「そうだな……ゴウ、激で行くぞ」
「――っ!? でも、ゲキさん……それをやったらゲキさんが……」
「どうせオレはあと少しで死ぬんだ。考えるだけ考えといて一回も実践しなかったのが、ずっと心残りだったんだよ。――最後に、一回だけやらせてくれ」
左手を置いた右肩をぐるぐると回し、再び戦闘態勢を執るゲキ。そんなゲキの背中を見て、一瞬躊躇ったゴウも覚悟を決める。
「――ぶっつけ本番で悪ぃが、頼むぜゴウッ!」
「――あァ、やってやらァ!」
牙狗に向かって走り出すゲキの後ろから、無数の炎を構成するゴウ。その炎は先に走ったゲキを追い越し、牙狗を中心にして縦横無尽に飛び回る。
逃げ場を無くした牙狗の関節を、四肢を氷で覆ったゲキが絡めとる。唯一動く首でゲキの腕噛む牙狗だが、四肢を覆った氷を簡単に砕くことは出来ない。
そして牙狗の体が段々と凍っていき、二人は完全に一体化した。
「――本当に、いいンッスね」
「ああ。短い時間だったけど、久々の共闘……楽しかったぜ」
キラキラと光る瞳で、ゲキとゴウは最後の瞬間を微笑み合う。そして久々にして最後の共闘に感涙しながら、ゴウは腕を大きく広げる。
「塩水、旋風。――電撃ッ!!」
牙狗をしっかりとホールドしたゲキは、自らの周囲に水を発生させ、その周囲に風を起こす。そしえ電気を通しやすい塩水をその場に留め、ゲキは激しい電撃を放出。
電気を通しやすい塩水は旋風によって掻き回され、それに乗った電撃は二人の周囲をグルグルと回る。
さらに、今までに放ってきた炎の想術で出来た牙狗の傷口から電流が侵入。体の中でも比較的電気の通しやすい血液に電流が流れ込み、牙狗の全身に電撃が走る。
「激しく……」「――っ、轟けェっ!!」
「「合技! 一弾指の激轟!」」
大音声で叫ぶゲキとゴウ。二人の声が完全に重なったと同時に、最初に放ったゴウの炎が二人を目掛けて一気に凝縮。広大な大地に爆音を轟かせ、超弩級の激しい爆発が起こる。
辺り一面はその爆風で平らな更地となり、そこに残るのはたった一人の影。
「弾幕として褒められても、少ししか嬉しくねぇっスよ、ゲキさん。まだまだ、ゴウは背負えてないってことっスか……?」
一人残った影は地面に両膝を突き、ボロボロと大粒の涙を零す。




