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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
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68話:馬鹿とバカ

 目の前に現れた四つの影。決して初めて感じるものでは無いその気配に、リゥは額に嫌な汗をかく。


「――テメェらの、その気配は……」


「そうだ。ここまで似ていれば、嫌でもわかるだろ? この四人は、お前と同じ――『四天王』さ」


「――ッ!?」


 震える両手を強く握り締め、額に浮いた汗が頬から首を伝って襟の中へと流れ込む。しかし、今のリゥにはそんな汗を拭う余裕もない。

 そんな様子のリゥに、心底嫌な笑みを浮かべるゼンジ。心から余裕が喪失したリゥに対し、ゼンジの笑みからは余裕が感じられる。


 二人のその差は、やはり二人の間に立つ四つの影が問題だろう。


「おや? 珍しいな。歴代最強とも呼ばれる今代の四天王――その中でも最も実力があると支持されていたお前(リゥ)が、恐怖で動くことさえ出来ないか? やはり、十六年間のブランクはそうそう埋められないだろう……良かったよ。あの時、お前だけでも死んでくれてな」


「テメェ、まさか……!」


 リゥの余裕のない表情に、悪辣な笑みを浮かべて嘲笑するゼンジ。そんなゼンジが放った含みのある言葉に、リゥはハッと何かに気付く。


「おっと、この場じゃ下手な行動は起こさない方がいいぞ? お前も忘れているわけじゃないだろ。ここに、何の為に来たのか」


 何かに気付いた瞬間、込み上げてきた怒りで思わず構えてしまうリゥ。そんな戦闘態勢に入ったリゥに対し、ゼンジは右手をリゥに向ける。ストップの合図でリゥに忠告すると、ゼンジはリゥに向けた右手で椅子脇のボタンを押す。


「――ッ、アキラ!!」


 ゼンジがボタンを押した直後、部屋の奥から出てきたのは、檻の中で繋がれているアキラだ。目立った外傷もなく服や髪なども乱れていない。どうやら連れ去られた直後に閉じ込められ、その後は何も干渉されていないようだ。


 しかし、それがいい事かと言われればそうではない。アキラの様子を見れば、憔悴していることは一目瞭然。連れ去られてから三日ほど経っているが、その間アキラに与えられたのは水と少量の食事だけ。

 それも命を落とさない程度のもので、決してまともとは言えないものだ。


「りぅ、くん……」


 まともに眠れていないのだろうか、健康的そのものだったアキラの顔は、目元に色濃いクマを作り、アキラの魅力の一つだった笑顔は欠片も残っていない。


「アキラ! 待ってろ……今!」


「――おっと、そうはさせない。さっきお前を確実に仕留めると言ったが、実は本当の目的はそれじゃない。お前がこっちの条件をそのまま受け入れれば、このガキの身柄は渡してやろう。それとも、全盛期から劣るお前の力で、嘗ての四天王四人を相手にするか?」


 アキラの繋がれている檻に飛びつこうとするリゥを抑えるのは、リゥの前に立ちはだかった『四天王』と呼ばれている四人組。生気の宿っていないその顔は、死んでいると喩えてもいいほどの表情だ。命令に従うだけの機械のようなその顔には、自意識や感情を一切感じない。

 が、しかし。それらの力は本物だ。四人がかりで抑えられているとはいえ、四天王であるリゥが全く身動きを取れない。


「――受けるかどうかは別として、その条件はなんだ?」


「ほう。流石に想い人が捕らわれていると違うな。まさかここまで鎮静できるとは」


「御託はいらねぇ。とっとと本題に入れ」


 得体の知れないそれら四体を相手にすることを避けたいと思ったリゥは、抵抗せずに体の力を抜く。


「なら、単刀直入に言おう。――聖陽郷の四天王を辞め、邪陰郷側に付け」


「――なに?」


 正義感の強いリゥを鎮静化することは、簡単なことではない。普段から落ち着いているレイやゲンはともかく、感化されやすいリゥやゴウは問答無用とばかりに攻撃的になることが多い。

 そして戦闘に入った場合、高火力の想術を撃ちまくるだけのゴウよりも、勝利一点を見据えて確実に一手一手を決めてくるリゥの方が仕留めることが困難だ。

 そう考えると、アキラを人質にした邪陰郷の行動は大きな賭け。リゥが感化されて暴走する可能性も、十分にあった。

 しかし、邪陰郷は見事、その賭けに勝利した。アキラを人質とし、リゥを鎮静することに成功したのだ。


 よって、ゼンジは落ち着いて交渉に入る。


「お前が邪陰郷に入るのなら、そのガキは解放しよう。一緒に邪陰郷に引き入れてもいいし、逃がしたって構わない。元の世界に戻してやることも可能だ。――どうだ? 大事な想い人がこれ以上傷つかずに済む。悪い話ではないだろう?」


「――もしも俺が、邪陰郷に入れば、アキラには一切干渉しないのか?」


 邪陰郷に入った場合のメリットだけをしっかりと伝え、ゼンジはリゥの心を揺さぶりにかかる。そしてその結果、リゥの心は見事に揺らいだ。

 自分の信念を捻じ曲げたことの無いリゥが――いや、違う。

 リゥは今回も、自分の信念を捻じ曲げてなどいない。アキラという一番の存在を優先する。何があっても最優先最重要にし、絶対に守る。その信念を、リゥは今もなお、突き通そうとしているのだ。


「俺が邪陰郷に入れば、本当に……!」


「りぅくん……?」


 正義感と信念の狭間で葛藤するリゥ。聖陽郷の四天王として、聖陽郷の対立組織である邪陰郷に入ることなどあってはならない。

 しかし、アキラの先輩として、後輩に危害を加えることもあってはならない。


 四天王は、聖陽郷を守る立場。


 先輩は、後輩を守る立場。


 二つの立場として、リゥには守るものが大きくわけて二つある。

 どちらを取ればいいのか、どちらを取ることが正解なのか――そんなこと、決まっている。


 アキラを奪われたあの日――暴走して意識を失い無の空間を彷徨ったあの日。リゥはそこで答えを出したのだ。


 何が正解なのか。

 何が正義なのか。

 何が義務なのか。

 何が役目なのか。

 何が使命なのか。


『それは全て、己がやりたいと思うこと』


 あの空間で、リゥが導き出した答え。己がやりたいことこそが、正解であり 正義であり 義務であり 役目であり 使命である。

 つまり、リゥが望むことこそが、答えになるのだ。


「――なら、俺の答えは一つだ。俺はアキラが救いたい。アキラがこれ以上傷つかずに済むのなら――」


「――炎壊(ディストラクション)ッ!!」


「――ッ!?」


 導き出した答えを、リゥが言葉にしようとしたその瞬間――リゥが苦しそうな顔を顰め、ゼンジがニヤリと笑い、アキラが心配そうな表情で瞳を潤わせた瞬間。

 彼らのいるこの部屋に、大きな詠唱と爆音が響き、天井が一気に吹っ飛ぶ。


「ッ、なん……!? まさか――ッ!!」


「馬鹿げた交渉をする奴が一人と、馬鹿げた交渉に頷こうとしたバカが一人。馬鹿とバカの交渉は、見るに堪えねェなァ……」


 天井が吹き飛び、見晴らしの良くなった一室。青空に浮かぶリゥたちを照らし付けるのは、真っ赤に燃える太陽――否。


「――ゴウ!」


 聖陽郷の四天王が一人――ゴウだ。


「――さて、と。俺たちを裏切ったテメェにも言いてェことは多いが、先ずはこっちのバカをどうにかしねェとだな。――リゥ、お前何考えてンだ? さっき、あいつの言うこと受けようとしてなかったか?」


「――」


 リゥたちの上に浮いていたゴウがさっとリゥの前に降り立ち、ゼンジの方からリゥの方へと視線を移す。そしてその移した視線で、ゴウはリゥをギッと睨み付ける。


「――ッ!?」


 ゴウの問いに無言になるリゥの首が、勢いよく九十度回転。それはリゥの意思によるものではなく、ゴウの平手打ちによるものだ。

 バチンと大きな音をたて、リゥの頬を思い切り叩いたゴウ。そんなゴウの平手打ちを受けたリゥは、赤く腫れた左頬を抑えながら俯く。


「お前、アキラが救えンなら邪陰郷に入ンのかよ? アリトとアイのやつを邪陰郷から引きずり出しといて、自分は邪陰郷に行くのか? 邪陰郷がまともじゃないと思ったから、そこに捕われてる奴を解放しようとしたンじゃないのか!? アキラが救えりゃ、今までお前がやってきたことは全部水の泡にしてもいいのかよ!?」


「だったら……だったら! 俺はどうすりゃいいんだよ!? アキラが捕らわれてて、俺が邪陰郷に入ればアキラは解放するって言ってんだ! だったら、俺が入るしかねぇだろ!? 他に……他にどんな方法があるって言うんだよ!?」


 俯くリゥの胸倉を掴み、お互いの額が当たるほど近くまで顔を近付けて怒鳴るゴウ。そんなゴウに胸倉を掴まれたまま、リゥもゴウに怒鳴り返す。

 今まで、この二人が怒鳴っているところは何度も見てきた。しかし、今回の言い合いは今まで以上に白熱している。


 そして怒鳴り返したリゥに、ゴウはもう一度平手打ちを食らわせる。


「俺らを頼れよ!! お前、本当に馬鹿なのかよ!? 何で俺らを頼らねェ! 何ですぐにお前一人で答えを出そうとするンだ!? 仲間なンだから、頼りゃァいいだろうがッ!!」


「俺が、お前を頼って、どうすんだよ……? 俺がお前を頼って、アキラは救えんのか? 俺とお前が手を組んだだけで、アキラを確実に救えるって言うのかよ!?」


 量の瞳に涙を浮かべ、目を充血させながら怒鳴るリゥ。しかし、それでもゴウがリゥに向ける感情は怒りだ。同情どころか、リゥの発言の度にゴウの怒りが増していく。


「お前はよ、本当に……()鹿()なのか? 一緒にふざけられるバカじゃなく、頭が悪いだけの馬鹿なのか? 俺だけ? 俺とお前だけ? 馬鹿じゃねェの!? 何の為に四天王がいると思ってンだ! 何の為に天使がいると思ってンだ! 何の為に、十二人衆を作ったンだよ!? 四天王も、天使も、十二人衆も! お前の為なら喜ンで力を貸すさ! 自分の身に降り注ぐ危険なンか省みず、何一つ惜しまずに尽力するさ! その表れが、アレだよ!」


 ゴウは、最初に『俺ら』を頼れと言った。それは、ゴウだけではない。四天王も、天使も、十二人衆も含めた、聖陽郷の人々全員を指して言ったのだ。

 四天王として、聖陽郷のために尽力してきた四天王、リゥ。災害時には自ら動き、その後も定期的に被災地に顔を出す。そこで自分に出来る精一杯をやり切り、様々な地域に活力を与える。

 そんな様子を、四天王や天使、十二人衆たちは間近で見てきた。自分の仕事を全うするリゥを、ずっと近くで見てきたのだ。


 だからこそ、そんなリゥの為ならば、聖陽郷の四天王たちは惜しまず尽力する。その証拠として突き出したのが、ゴウの指さした先にある一つの影だ。


「――俺ら四天王が誇れるのは、個人の実力だけじゃない。こういう連携も、得意分野だろう?」


「ゲン! ――ッ、それは!」


 ゴウの指した方にいるのは、リゥたちの集団から少し離れたところに堂々と仁王立ちしているゲン。しかし、驚くべきはそこではない。

 ゲンがいることは、ゴウが来た時点で想像出来ていたことだ。よって、リゥが驚いたことはそれとはまた別。

 仁王立ちしているゲンの横に置かれた、アキラが捕らわれている檻だ。


「――まさかとは思いましたが、私たちも来て正解だったようですね」


「ああ。即席の作戦も、成功したからね」


「シロ! レイ!」


 ゴウ、ゲンに続き、次々とその姿を現す聖陽郷の重鎮たち。聖陽郷にいると思っていたシロとレイまでもが合流し、リゥは目を大きく見開く。


「リゥ。さっきゲンの言った通り、僕たちは僕たちなりの連携が取れるはずだ。そして、それは何も、四天王だけではない。聖陽郷の僕たちを、もう少しは頼ってもいいと思うよ?」


 そう言って、首を傾けながら優しく微笑むレイ。そんなレイたちはゼンジの方へと視線を移し、そのまま臨戦態勢へ。


 聖陽郷(リゥ)に助力し、邪陰郷(ゼンジ)と敵対する――戦闘意志を示した。

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