65話:捜索の道中
時は少々遡り、邪陰郷の本部に不意撃ちを仕掛けた直後。ゴウとレツが炎壊を放ったと同時に、ゲンは初めから目をつけていた幹部クラスの気配の元へ直行。そしてスイやイオ、フウ、ライ、ネスたちも、各々の標的を定めて攻撃を仕掛けていた。
そんなゴウたちが動き出したなか、攻撃を仕掛けず動き出そうともしない影が七つ。空中でピタリと止まったままただただ下を見下ろしている影の一つは、今回の邪陰郷掃討作戦に於いて主となっている目標を持つリゥだ。
今回の掃討作戦でアキラを取り返すはずのリゥにとっては、今の一分一秒もが無駄に出来ないはずだ。しかし、だからこそ、リゥは無駄な行動を省く。
アキラを救うためには、先ず初めにアキラを見つけなくてはならない。そうとなれば、極力無駄な戦闘を避け、アキラの元へ直行する必要がある。
「――そのための音探知だ。頼む、正確に測ってくれ」
「リゥ兄に頼まれたことなら、俺はなんでも熟すよ! でも、その代わり――」
「分かってる。これが終わったら、お前らの願いは全部叶えてやる。だから、今だけはアキラに集中してくれ」
今すぐにでも動き出したい気持ちをグッと押し殺し、考えつく限りの最善を尽くそうとするリゥ。しかし、そんなリゥも焦っていないわけではない。
シロと一緒に来ればよかったはずの距離で安全策を取り、態々遠回りをしたのだ。それだけの時間を使っている今、瞬きをしている時間すら惜しい。
音探知は、元々音属性に属する技であり、音に適性を持つリゥにでも使うことが出来る。しかし、探知系統の技は他の想術とは異なり、どれだけその属性に対する適性が強いかで精度が変わる。
即ち、全属性のリゥよりも、音に特化したサドの音探知の方がより正確な結果を得られるのだ。
「――見つけた! こっち!」
「よくやった。ここからは全速力で飛ばすぞ!」
瞑っていた瞳をパッと開き、即座に急降下して行くサド。そしてそれに続き、リゥたちも全速力でサドを追う。
幸い、シロからの付与はまだ有効だ。そしてそこに全速力を乗せることで、一定距離までならば瞬間移動にも負けないほどの速度が出せる。
「ここ。この洞窟の最奥から複数人の心音があるよ」
「――たしかに、どうにかして気配は抑えているようだが微かに複数人の気配が感じられるな」
気配とは、対象の内側に流れるクラフトの内、体外に漏れている一部分の存在。体内に篭っているクラフトは、あまり気配として感じられることが無い。
つまり、体内でクラフトを制御し体外に漏らなさければ、気配はかなり抑えることが出来る。
「――こそこそしてる暇もねぇし、どうせさっきので気付いてんだろ。堂々と正面から突破する。自分勝手で悪いが、今回から『解禁』だ」
「いちいち謝ることねぇよ。そもそも、今までのアニキが甘かったんだ。んで、上限はあるのか?」
「無しだ。全力使って、本気で力貸してくれ」
「上限なし――か。ッしゃァ! 久々に暴れたらァッ!!」
洞窟の入口に仁王立ちで降り立ち、そのまま堂々と中へ歩を進めるリゥ。
そんなリゥが放った『解禁』という言葉。それは文字通り、禁止としていた命令を解くこと。そして今回リゥが解いたのは、強制力はほぼゼロの半分暗黙のルールと化していた命令の一つ、『不殺』のルールだ。
十二人衆とは、元からかなりの素質を持っていた子どもたちの集団。今までに集めた十二人の素質をそれぞれ開花させ、個の戦闘力と団結力を高めた少数精鋭のチームだ。
年齢的には何十歳にもなるが、肉体や精神は時を止めた時のまま。クロの能力で成長を止めた時から、それらはほぼ成長していない。
よって、可愛いままの十二人衆には『不殺』のルールを課している。そこまで強制力のないルールではあるが、十二人衆はそれを可能な限りで守っていた。
しかし、今回の『解禁』によって、そのルールはないも同然のものとなる。そしてそれは、戦闘派のイルたちにとって嬉しいことこの上なし。来ている服の袖を捲り、万遍の笑みを浮かべて構える。
そしてそんなイルに続き、次々と臨戦態勢に入る十二人衆。ある者はイルと同じように袖を捲り、ある者は羽織っていた上着を脱ぎ捨て、ある者は髪の毛をかきあげ、イル、サド、クラ、ネイ、セト、グラの六人が、リゥの横に並び立つ。
「目標はアキラの奪還! その為の手段は問わねェ! 邪魔する奴らは全力で容赦なく潰す! アキラを救えたら即座に離脱しろ!」
「了ォ解ッ!!」
眼光を鋭く光らせたリゥの堂々たる声は、聞いただけで闘志を奮い立たせるようなものだった。
そして、そんな声に感化されたイルたちは準備万端。動き出す用意を整えていた彼らは、リゥの合図に合わせて全速力で洞窟の奥へと突き進む。
「――さて、と。予定より少し早めのご到着ですねぇ。これは予定を前倒しにして、先ずはわたくしがご相手を――」
洞窟の中をどんどんと突き進み、突き当たったところを左に曲がった瞬間、リゥたちの視界が捉えたのは、中性的な顔立ちの男。細目でニコッと笑っている男は、細身で筋肉もなく、武闘派でないことは火を見るより明らかだ。
よって、リゥたちは即座に距離を詰めることを選択。勢いをそのままに、全速力で突進する。
「邪魔だァァァァァァッ!!!」
一秒でも早くアキラの元へ行きたいリゥは、戦闘を意識して構え直す十二人衆とは対照的に、防御もせず無防備に突っ込む。
確かに、相手が戦闘に向かない場合は防御の必要などゼロに等しい。リゥと男がステゴロのような殴り合いをすれば、防御などせずともほんの数秒で男はダウンするだろう。
しかし、武闘派でないことが戦えないことに直結するわけではない。
何より、リゥたち七人を見て笑みを浮かべるほどの余裕ぶりだ。肉弾戦が出来ない一方で、それを優にカバーするほどの特技があるのだろう。
――例えば、そう。リゥたちが最も得意とする、想術など。
「想定内。――爆斬風」
速度を落とさず素通りしようとしたリゥに向けて放たれた、風の斬撃。当たれば体が蝕まれ、擦り傷や切り傷では済まない。風刃とは威力も規模も違う爆斬風は、直撃した対象が爆ぜるほどの威力を持った風の斬撃。
この威力の想術は、流石のリゥも無視出来ない。
「普通に……死ねェッ!」
叫び、そのまま右手を前に突き出すリゥ。しかし、突き出した右腕では照準を合わせない。
正確に相手を狙うわけでもなく、ただの虚仮威しでもない。怒りと焦りに満ちたリゥは、直感で正確且つ繊細な想術は打てないと確信していたのだ。
そして、そんなリゥが放った想術は、攻撃としても防御としても扱える、土属性の想術。突き出した右手の掌から、円錐状の土柱を構成。その土柱が男の方へと伸びるに連れ、先端の表面積も急速に拡大する。
次第にその土柱は洞窟の通路を塞ぐほど大きくなり、男から放たれた爆斬風の威力を押し潰しながら男へ牙を剥く。
リゥが造り出した今の土柱は、攻守どちらともに長けた土属性の高等想術、龍岩柱だ。そんな高等想術を、しかも無詠唱でやってのける人間など、リゥ以外には十二人衆のイルほどしかいないだろう。
「――人間でありながら、しかも無詠唱でこの規模の想術を……やはり、四天王の名も伊達ではありませんね。とはいえ、この程度も想定内ですが」
リゥの想術を目の当たりにしても、男は笑みを崩さない。そしてそんな笑みを保ったまま、男は僅かに浮遊。そしてそのまま右手を前に翳し、鼻を鳴らし更に口角を上げる。
「――ッ!? アニキの龍岩柱を、ああも容易く……!?」
「――クソ大事な時に、クソめんどくせぇ相手に絡まれたもんだな。支部長クラスなら一瞬で葬ってやるとこだが……テメェ、直属幹部だろ」
「ご明察。その通りですよ。漸く話をさせてもらえそうなので、この辺りで自己紹介を。――わたくしは邪陰郷 直属の幹部、エルフ族のセルビアと申します。以後、お見知りおきを」
耳にかかっていた髪を搔き上げ、その特徴的な耳を露にした男。セルビアと名乗った男は、正真正銘エルフなのだろう。
そしてその名を聞いた瞬間、リゥの目付きが変わっていた。




