64話:気配の正体
レツを初めとした十二人衆の六人と、その対戦相手であるクラウゼル。そんな七人が察知した気配に気付いたのは、彼らだけではない。
突然と現れた巨大な気配。それが感じられるのは、リゥとレツたち以外の十二人衆――その七人が向かった、アキラが捕らわれていると思われる巨山だ。
寒候期には降雪で真っ白に染まるノーマントだが、暖候期である今は迷い森と同じ程の草木が生え揃う。そしてその中でも異彩を放つのが、死の山脈と恐れられるノーマントの最北にある山岳地帯だ。そこだけは何故か寒候期の降雪が多く、暖候期の気象も荒い。その為自然災害が起きやすくなり、人が安易に踏み込める場所ではなくなっている。
つまり、鉱山地帯として知られるノーマントの中でもそこだけは鉱業を行われない。
そんな死の山脈を隠れ家にすれば、先ず誰かに見つかることは無い。そして現に、今まで誰一人として気付いていなかった。
そんな邪陰郷の本拠地のある巨山に現れた気配に、戦闘中だったゴウとゲンもそれぞれ目を向けていた。
そしてそれと同時に、遠くの複数人もまた――。
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「たしかに、兄貴たちと同じ四天王の気配だ」
「でも、兄さんたちの気配とはそれぞれの特徴が違う――。それに、兄さんたちの気配は別に感じられています」
「うん、そうだね。お兄ちゃんの気配はその気配のすぐ傍に、ゴウさんとゲンさんも、そっちの方に向かってる。これは僕たちも、行くべきだよね?」
先刻現れた四つの巨大な気配は、リゥたちと全く同じ、四天王の気配だ。それは誰一人として疑いを持たず、そのまま話を進める。
しかし、疑いを持たないことと、疑問に思わないことは違う。そしてその疑問は、不安にも成り得るものだ。
ここで悩んで考えているよりも、その場に向かって合流した方が良い。そう考えた六人は、抱えていた頭を上げて巨山の方へと目を向ける。
「――それなら、私たちと一緒に行きましょうか」
「――ッ!? し、シロさん……?」
リゥたちの集まる巨山に、自分たちも合流しようと移動を試みたレツら六人。そんな六人の耳に響いた声に目を向ければ、そこにはシロが立っていた。
「なんであんたらがここに? 向こうの警戒をしてたはずじゃないのか? ――それに、そいつらまで連れて来て」
突然背後に現れたシロに、疑問が尽きないレツ。リゥたちがここを襲撃することによって手薄になる聖陽郷を守るため、そこを警戒し何かの襲撃に備えるのがシロの役目だったはずだ。
しかし、それを任されていたはずのシロに加え、レイまでもが来てしまっている。
そして何よりレツが気にするのは、そんな二人の後ろにいる、優輝たちだ。
「――今の気配は、感じ取られましたよね。あれは十中八九、四天王のものです。そして、ずっと四天王に仕えている私なら、この気配がどの代の四天王なのかが分かります」
「じゃ、じゃあ、この気配はやっぱり……」
天使であるシロとクロは、昔から代々四天王に仕えてきた存在だ。そしてそれは、リゥたちの代よりも遥か昔、初代の頃からずっと仕えてきている。そのため、レツたちに分からない四天王の気配でも、シロからすればどの代の四天王かが分かる。
そしてそんなシロが感じ取った答えは――、
「ええ、リゥ様たちではない、歴代の四天王――それも、『初代』四天王の気配です」
シロの発言に、目を見開いて言葉を失うレツ――否、言葉を失ったのは、レツだけではない。レツの後ろにいたフウたちも、全員が言葉を失い呆然としている。
「ま、待てよ……初代だと? 今生きてる四天王は、兄貴たちとその先代だけ――それに先代も、今じゃかなりやばい状況なんだろ? それがなんで、初代なんて昔の連中が?」
「それは私にも分かりません。ですから、この目で見るまでは確証を得られない。だから私たちが来たのです。――それに、初代四天王と敵対することがあれば、今の戦力では到底勝てないですから」
額から頬、そして顎まで伝わり、地面に落ちる冷や汗。そんな汗をかきながら、レツは明らかに動揺する。
そんなレツの疑問に答えられる範囲の答えを出すシロも、決して顔色がいいわけではない。寧ろ、初代四天王の力をしているからこそなのか、誰よりも動揺している様にも見える。そしてその上で、自らその存在を確認しに来たのだ。
「因みに、聖陽郷の方は心配いらない。アリスとアイくんが残り、異変を察知し次第僕たちに連絡が来る。今は何も動いていないと言っていたから、邪陰郷の全勢力もここに集中していると思うよ」
「そうですか、だからシロさんとレイさんのお二人が……それで、クロさんがいないのは何故でしょう? それに、後ろの彼らは?」
「クロは別件で別行動をしてもらってる。直に合流する手筈になってるから、暫くしたらこっちに来るよ。優輝くんたちは、正直連れてくるかどうか迷ったよ。でも、僕たちがいなくなることで聖陽郷は明らかに手薄になる。そこでアキラくんみたいに連れ去られたら、今度こそリゥがどうなるか分からないからね。本人たちの所望もあって、今回は付いてきてもらうことにしたよ」
シロの横からレイが話し、そんなレイに受け答えるフウ。レイやフウも動揺していない訳では無いが、冷静沈着で穏やかな二人は、レツに比べてそこまで焦ってはいない。また、初代四天王の強さが分からず確証も持てない分、シロよりも不安は少ないのだろう。
「とりあえず話はこの辺にして、私たちもリゥ様の元へ行きましょう。これが本当に初代の方々だった場合、世界の定理が崩れることになります。――私が天使である以上、それを見過ごすわけにはいきません」
もしもこの気配が初代四天王のものだった場合、誰かが『死者の蘇生』を行ったこととになる。この世界での禁術とされているそれは、未遂であっても厳重監禁、実際にそれを行った場合は、蘇生された死者を完全成仏させた後、実行犯は即決死刑。
元の世界とは違い法律や憲法などはないこの世界でも、それだけは誰もが知っている世界の条理。それに反した行為は、何者であっても許されない。
「分かった、取り敢えずリゥたちの元へ急ごう。レツくんたちも、もちろん来るよね?」
「とぉーぜん! 俺様たちも兄貴と早く合流したいですしね」
そう言って、転移の用意をするシロにレツたちが近付く。そうして一箇所に十二人が集まり、中心にいるシロがクリスタルワンドを一振り。集まった自分たちの頭上に円を描き、光の幕がシロたちを包み込む。
「――転移」
直後、その場から十二人の姿が一瞬にして消え、リゥたちの集まる邪陰郷の本拠地に到着していた。




