63話:不可思議な気配
ライの見立て通り、目立った外傷を負わずに合流したスイとイオ。ここまで長引いた理由も、決定打に欠けたということで間違いないだろう。水と毒では、確かに決定打には欠ける。
「でも、ここだったらイオの毒も大活躍なのねー!」
「てめ、このチビ……! テメェ何やりやがった!?」
親指を立ててウインクするイオの背後から、怒りに満ちた怒鳴り声が響く。
「んー? お兄の話だと、阿修羅って結構強いんよねー? だからー、イオの毒でちょこっと弱くなってもらっただけなのねー」
クラウゼルの怒鳴り声に対し、声変わりのしていないイオの高く緩い声。明らかに温度差のある二人が対峙し、イオの前にはレツたちが並び立つ。
「阿修羅が頑丈だってのは、結構前に兄貴から聞いてんだ。だから、それをどうにかするための時間稼ぎ。イオが兄貴のとこに付いてないって時点で、こっちに来ることは分かってたからな」
「おー、イオ待ちだったー? イオ、きゅーせーしゅな感じねー?」
「うん、そうだね。でも、ここからは僕たちに任せて」
毒を以て毒を扱うイオは、個人戦はともかく、集団戦にはあまり向いていない。さらに、消極的なイオの性格からしても、あまり戦闘に参加する事が少ない。
周囲を巻き込むことのある属性と、戦闘をあまり好まない性格。その二つを併せ持ってしまったイオは、戦闘の援護に回ることが多いのだ。
「分かったのね。あ、でもみんなクラフトが結構減ってるのね。この後何かあるかもだし、一応、利毒かけとくのね」
「お、おう。この前のことがあってから、その利毒も若干怖くなってきたな……」
「む……イオはそこまで毒の制御下手じゃないのね。そんな加減を間違えることなんてほとんどないし、怖がるのは失礼なのね」
厚意でかけた利毒を、不本意な形で怖がられるイオ。たしかにレツの心配も分からないことではないが、イオも毒の扱いにはしっかりとした自信を持っている。その為、それを怖がられるのは心外だ。
そんな不本意な形で僅かでも疑念と恐怖を抱かれたイオは、むぅっと頬を膨らませる。
瞬間――、
「――ッ!?」
突然と現れた巨大な気配に、レツたちは目を見開いて息を呑む。
今まで、どれだけ視線を外したとしても、対戦相手であるクラウゼルからは意識を外さなかった。それは意識しているものではなく、長年の戦闘から培っていた無意識によるものだ。
戦闘に於いて――特に相手が強い場合、一瞬の気の緩みが命取りとなる。そんな状況下にいることも少なくない十二人衆は、対戦相手から意識を反らすことはなかった。
しかし今、一瞬とは言え意識を反らした。本気を出せば一秒にも満たない間に詰め寄れる間合いで、意識を反らしてしまったのだ。
「――チッ、予定よりかなり早ぇじゃねぇか」
意識を反らしたことに気付き、レツたちは直ぐに臨戦態勢に戻る。が、予想していたような攻撃は全く来ず、クラウゼルの意識も今の気配に向かっていた。
「テメェらも気付いたんだろ? 弱化だのなんだので地盤を整えてたところ悪ぃが、もう戻らねぇとだ。まぁ、またすぐにぶつかることになるだろうがな」
そう言うと、その場で深く腰を落とすクラウゼル。そして次の瞬間、地面を蹴るようにして跳躍。
今まで立っていた地面に大きなクレーターを残し、一瞬にしてその場から離れる。
「なっ、おい待て!」
「レツ! 追いかけないでください。きっとあの人の言う通り、またすぐに会うでしょう。それよりも――」
「この気配の方が、優先ってか……」
一方的に戦闘を放棄し、そのまま遠くへと消えて行ったクラウゼル。その後を追うように足に力を入れたレツを、隣にいたフウが腕を握って止める。
フウやレツ、さらにクラウゼルが感じた気配は、全て同じものだ。そしてそれは、この場にいた全員が等しく感じたもので、ライやネス、スイ、イオたちも感じ取っている。
「この気配――今まで感じたことはありませんが……」
「でもたしかに、似たような気配は知ってる」
この場にいる六人が感じ取っている気配とは、対象にする相手の保有するクラフトの存在だ。
その者の力量を表すクラフトは、多ければ多いほど気配が大きくなり、その者の持つ適性や心情で、雰囲気や特徴が変わる。
例えば、この場にいるレツの場合。火属性に特化したレツのクラフトは、十二人衆の中ではトップクラスの量を持つ。その為、赤色の大きな気配と表されることが多い。
さらにもっと気配を察知することが上手い者ならば、その明るく溌剌とした性格から、赤く大きく、激しい気配と察知される。
逆に、レツよりもクラフトが少ないフウの場合は、黄緑で穏やかな気配と表される。
また、属性や性格が似ている者は気配も同じように似ることが多く、レツとゴウ、スイとレイなどは似ている気配と感じ取られることが多い。
さらに、属性や性格が対照的であったとしても、同じ存在や近しい実力の場合も似ている気配と感じられることが多い。
そして、今回の場合――、
「ボクたちが知らない気配ということは、少なくとも兄さんたちではありません」
「でも、この感じ……」
「はい。たしかに兄さんたちの物ではありませんが――」
もしも今感じられた気配がリゥらのものであった場合、十二人衆であるフウらが分からないはずがない。よって、今の気配がリゥたち四天王の物ではないと、フウはそう断言する。
が、しかし、そんなフウの断言に対し、何か引っかかるものを感じている様子のレツ。そしてそれは、レツだけに言えた物ではなく、さらにはフウも例外ではない。
「――でも、そんなことってあんのかよ?」
「有り得るか有り得ないかで聞かれれば、普通に考えて有り得ないことでしょう。でも、ここまで似ていては断言も出来ません」
感じたことの無い気配に心当たりがあるのか、眉間に皺を寄せながら問いかけるレツ。そんなレツの問いかけに、フウも明白な答えを出せない。
何故なら、レツたち六人が感じ取った気配は――、
「――兄貴たちと同じ、『四天王』の気配」




