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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
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61話:協力と囮と

 集団戦に於いて、味方との相性は各々の実力以上に大切だ。

 算数や数学の場合、1+1は2にしかならない。しかし、集団戦の場合は千にも万にもなり、場合によってはマイナスになることもある。

 つまり、個の実力の総和が総戦力になるわけでは無いのだ。


「ボクの風とレツの火は相性がいい。これは、リゥ兄さんにも言われましたよね」


「わーってるよ! 俺様の高火力を、フウの風に乗せて拡散すんだろ!? 何回言われたと思ってんだ!」


 レツとフウ――つまり、火と風というのは、戦闘において相性の良い属性だ。


 火の強みは、今更言うまでもないがその火力。しかし、範囲攻撃や継続的な攻撃では威力が分散され、それを補うためにはクラフトを上乗せする必要がある。すると直ぐにクラフト切れを起こし、長期的な戦闘が不可能になる。


 風の強みは、広範囲に渡る攻撃だ。自然の風を利用することもできれば、簡単に範囲を拡大できる。しかし、その威力で短期決戦を望むことは難しい。長期決戦に持ち込むか、範囲を限りなく集中させて威力を上げるしかない。


 高火力だが範囲攻撃が苦手な火と、広範囲に攻撃できるが威力が低い風。しかし、そんな対照的な二つが合わさった場合、お互いの強みをそのままに、お互いの短所を補うことが出来る。


 例えば、炎渦の竜巻(ファイアサイクロン)の場合。広範囲に届く風に火の火力を乗せ、相手を囲うように攻撃を仕掛ける。すると相手は逃げ場を失い、必然的に炎の渦に飲み込まれる。さらにしっかりとした調整を行えば、風が炎の威力を上げることとなり、より強力な攻撃となる。


「さっさと片付けて兄貴のとこに行く! だからしっかり合わせろよ! 今回は俺様の想術が基準だ!」


「分かってますよ。なんだかんだで、レツの火力に合わせるのは得意ですから――!」


「「――炎渦の竜巻(ファイアサイクロン)!!」」


「また同じことを……さっき効かなかったのが分からねぇのか!」


 確かに、ファイアサイクロンは今しがた撃ったばかりだ。そしてその技は、誇張なくほぼ効いていなかった。

 しかし、そんなことは百も承知。これで仕留められるなど、初めから思っていない。だから今度は、ただのファイアサイクロンではない。


「今はオイラもいるかんなー!」


「――ッ、ず、ァァァァァァァッ――!?」


 レツとフウのファイアサイクロンに向けて、両手から電流を放つライ。ライの放電がファイアサイクロンに飲まれ、巻き起こる炎の渦に磁界が発生。


「本来はここでグラにお願いしたいところですが……」


「今はオラしかおらんのよなー。でも、普段やる事と勝手は同じやから……フウが手伝ってくれれば!」


「ええ、もちろん!」


「「収縮(コントラクション)」」


 フウとネスの声に合わせ、磁気を帯びたファイアサイクロンが凝縮。飲み込まれているクラウゼルを中心に、炎と電気を取り込んだ、風の半球体が構成される。


『合技、拷問の檻(トーチャードーム)!』


 四人の目線が対角線を描き、交わった中心に点Oとして置かれる半球体。拷問の檻(トーチャードーム)と呼ばれたそれは、火、電気、風、そして念力によって構成された、文字通りに拷問の檻。

 元は十二人衆全員で放つ合技の一つであり、強力な奥義である拷問の檻(トーチャードーム)しかしそれは、威力向上やそもそもの成功率を上げるもの。全員で行えないとしても、十分すぎるほど強力な技だ。

 例えば今回の場合、レツが放つ火の熱量は摂氏三千度。ライの放つ電気量は、電流約十万アンペア、電圧約五百万ボルト。そしてその二つをフウの放つ風速約五百メートルの風で覆い、最後にネスの念力を加えて半球体に形を整える。

 それが今回四人で放つ、拷問の檻(トーチャードーム)だ。


「まだまだ、この程度じゃ仕留めらんねぇ! 確実に――叩く!」


 眼光鋭く、目の前にある半球体をキッと睨むレツ。そんなレツは真上に跳躍し、右腕を後ろに振り翳す。

 そして、二度目となる紅蓮鎚を構成。振り上げた右手の中に巨大な鎚が現出し、持ち手に左手を添える。


「ズァラァァァァ――ッ!」


 咆哮し、握った紅蓮鎚を大きく一振り。真下で渦をまく拷問の檻(トーチャードーム)に向かい、ありったけの力で叩き付ける。

 すると、それを受けた拷問の檻(トーチャードーム)は一瞬にして破砕。そして巨大なクレーターを生み、地割れを起こし、クラウゼルを地中の奥底へと突き落とす。


「――」


 レツの攻撃に沈黙し、四人は底の見えない亀裂に目を向ける。

 結果を確認するまでは、全くもって安心できない。これはどの戦いに於いても言えることだが、今回は特に相手が相手だ。それに何より、これほど簡単に終わるとは、誰一人として思っていないのだから。


「――来る」


 少し離れたところで眺めていたフウたちとは違い、直接攻撃を仕掛けその亀裂を真上から覗き込んでいたレツ。そんなレツが目を細め、顔を上げる。

 そして僅かに後ろへ跳ぶと、亀裂の奥底から鈍い音が近づいてくる。


「――クソがァァァァッ!!」


 地面を突き破り、大量の土砂をぶち撒けながら飛び上がってきた人影。そして着地と同時に再び砂埃を起こしたその人影は、叩き落とされたクラウゼルだ。


「ガキどもが……舐め腐りやがって! あんなんで仕留められるとでも思ったか!?」


「ったく、うるせぇな……別に思ってねぇよ。だから、まだまだ俺様たちの攻撃は終わってねぇ――!」


 僅かに息を上げ、明らかに声を荒らげるクラウゼル。しかし、そんなクラウゼルにはこれと言ったダメージは見られない。

 あれほどの攻撃を受け、その体にも傷を負っている。業火によって焼かれ、電気を受けて黒く変色し、風の刃によって切り裂かれた、クラウゼルの皮膚。出血も少ないわけではなく、常人ならば口を利くことも出来ないだろう。

 しかし、クラウゼルは常人どころか人間ですらない。純血の阿修羅であるクラウゼルにとっては、まだまだ重症と呼べるような状態ではないのだ。


 レツたちの攻撃に憤慨し、大きく怒鳴るクラウゼル。そんなクラウゼルに、レツも負けじと大声で対抗。

 紅蓮鎚をグッと握り締め、大きく構えるレツ。そんなレツを前に、クラウゼルが地面に上段の右腕を突き刺す。


「戦闘種族である阿修羅は、その環境を武器にする。つまりこの場合、我の武器はこの――地面だ!」


 そう言って、突き刺した右腕を引っこ抜くようにして持ち上げるクラウゼル。そして引き抜いた右腕には、不格好な岩の塊。

 クラウゼルは己の右腕に、地面という武器を纏わせたのだ。


「――フン!」


 野太い声を出しながら、右腕を大きく横に振るクラウゼル。そんな右腕に纏っている地面は、レツの身長の約二倍。レツの紅蓮鎚よりも僅かに長く、体格差も含めリーチでは確実に勝てない。

 だが、この世はリーチが全てではないのだ。自分たちの師であるリゥも、全くもって体格がいい部類ではない。それでも、それを言い訳にすることなく、その壁を遥かなる技量でどんどんと越えていく。

 なら、レツたちもそれをしなくてはならない。真似でも、二番煎でも、オリジナルでなくとも。師に、兄に、リゥに、インスパイアされ、それをこれからの糧とする。

 リゥなら何をするか、どうすれば相手との距離を埋めるか――。

 そんなこと、考えるまでもない。


「兄貴がやるこたァただ一つ! 邪魔なもんぶっ壊して、俺様たちのペースに戻せばいいんだろうが!!」


 叫び、岩を突き刺した右腕を構えるクラウゼルに、正面からぶつかって行くレツ。右腕に握った紅蓮鎚を大きく振り翳し、目の前に突きつけられる大岩へと叩き付ける。


 瞬間、大きな衝撃音が鳴り響き、岩と紅蓮鎚――両者の武器が、同時に崩壊する。


「んなこたァ想定通りだ!」


 壊れた紅蓮鎚に目も向けず、そのまま直ぐに手放すレツ。そんなレツの自らの武器の崩壊にすら向けなかった視線は、クラウゼルの後ろへと向いている。


(ブレ)――ぃっ!?」


「フウ!?」


 レツの視線が向いていた、クラウゼルの後ろ。そこには、後ろからの攻撃を仕掛けようとしていたフウの姿があった。

 しかし、背後からの攻撃を仕掛けようとしたフウの詠唱は、想術の発動前に途中で途切れる。


「忘れたか? 我ら阿修羅の一族は、この三面で既に死角を作らないんだ。どれだけ連携し背後からの攻撃を試みても、それは届くことがない」


「ああ、知ってるさ。阿修羅の背後は取ろうとするだけ無駄。そんなこと、兄貴にも他の四天王にも言われた。だからこそ、俺様もフウもどちらとも囮だ。何かを忘れてんのは、テメェの方じゃねぇのか?」


「この我が、何かを忘れているだと? 貴様らのこれまでの行いに、何か戦況をひっくり返すほどの攻撃があったか?」


「ええ。たしかに、ありましたよ……だからこそ、ボクも囮として攻撃を受けたんです」


 嘲笑うようなクラウゼルの言葉に、腹部を押さえながら立ち上がるフウ。

 先のフウの攻撃を封じたのは、今押さえている腹部への攻撃。クラウゼルは、レツの紅蓮鎚で砕かれた岩を、岩に干渉していなかった中段の腕で握っていたのだ。

 そしてその破片を、後ろにいるフウへと豪速球で投げ付けた。

 何とも古典的な攻撃だが、剛腕を持つ阿修羅の一族が行えば人をも容易く殺せる必殺技となる。


「だとしても、それが分かっていれば問題はありません。こうなることが分かっているのであれば、この程度の対処は容易に行えます」


 そう言って、服の中に手を入れるフウ。そしてそこから何かを握り、そっと手を引き出す。


「この球は、小さな風の塊です。見ての通り風によって構成されているこの球には、僅かですが衝撃を和らげる効果があります」


 風の球体をその手に乗せるフウに、安堵の息を漏らすレツ。その反応を見るからに、囮になるための準備に関しては知らされていなかったようだ。


「んだよ、ちゃっかり準備してやがったのか。心配して損したぜ」


「ふ、心配してくれたんですね。ありがとうございます」


 呆れたようにため息をつくレツに対し、首を傾けて穏やかに笑うフウ。そんなフウの笑みに、レツは照れくさそうに視線を反らす。


「あのよ、お前らがどんな小細工で衝撃を和らげたとか、そんなことどうでもいい。勝手に和んでるけど、結局はなんだ? 囮とか言っておきながら、結局は何も起きてないじゃねぇか」


「あー、囮……囮な。ちゃんと意味は成してるぜ? ほら、アンタの死角で攻撃の準備してるからさ」


 そう言って、パチンと指を鳴らすレツ。その瞬間、レツが砕きクラウゼルの周囲に転がっていた岩の破片が、一斉に宙へと浮き立つ。


「阿修羅に死角などないと……何度言えば分かる! そんな攻撃、とうに把握済みだ!」


 己を囲うようにして浮いた岩を、覇気だけで粉々に砕くクラウゼル。全体的に歪で拳ほどの大きさがあった破片は、ただの砂へと変わった。


「少し離れたところで、さっき念力を使っていたやつが機会を伺っているような目をしていた。それだけ分かれば大凡何がやりたいのかくらい分かるってもんだ。あまり阿修羅をナメるな」


「そっちこそ、あんまり俺様たちをナメんじゃねぇよ?」


「あ? ――ッ!?」


 レツやフウと違い、少し離れていたネス。そんなネスが遠くから操作した岩を砂へと変えたクラウゼルは、イラついたような目で遠くにいるネスを睨みつける。

 そんなクラウゼルに茶々を入れたのは、クラウゼルと正面から向き合うレツだ。煽りも若干入ったようなレツの声に、分かりやすく気分を害している様子のクラウゼル。

 しかし、その直後に異様な気配を察知し、クラウゼルは上空を見上げる。


「――奥義、直下型大電撃(ライトニングメテオ)!」


 上空に目を向けたクラウゼルに向けて落とされた、規格外の大電撃。この世の全ての雷を一点に集めたような電撃が、一人の阿修羅に向かって投下された。

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