59話:烈火の如く
「「――炎壊ッ!!」」
他の属性と比べても頭一つ抜けた高火力を誇る火属性。そんな火属性の中でも、扱いやすい上にかなりの高火力を誇る想術。それが、炎壊だ。
他の属性で放つ『ディストラクション』とは違い、圧倒的な火力を持つ火の炎壊。そんな想術の威力は、誰が見ても一目瞭然。
そして今回の攻撃に際しても、それは例外ではない。想術の放たれた先――真下のノーマントは、そこで戦闘に備えていた邪陰郷の雑兵を巻き込み大きなクレーターを生んでいた。
「後ろだと!?」
「たった二人だ、狼狽えるな! 全員で迎え撃て!」
セントの方向を警戒しすぎたのか、誰一人として警戒していなかった背後。完全な死角からの攻撃に、外を警戒していた邪陰郷の四分の一ほどが成す術なく散る。
――それも、ゴウとレツ、たった二人の一撃によって。
「雑魚はどォでもいいンだよォ! 幹部クラス出てこいやァ! なンなら裏切り野郎でも出せやァ!」
「ゴウさん! 先ずは雑魚片付けないとっス! 他の幹部とかは兄貴以外が何とかするんで、俺様たちは雑魚処理が先です!」
「それはお前に任せた! こンくらいなら余裕だろ! 雑魚は全部くれてやンよ!」
「それ自分が強いのと戦いたいだけじゃ……って、まぁいいや! したら俺様が全員片付けてやるわー!」
広範囲高火力の想術を繰り出し、何百何千という敵を近寄らせすらしない二人。そんな中で、雑魚処理に飽きたゴウはそのままどこかへ飛び立ってしまう。
性格とセリフからするに強い敵を探しに行ったのだろうが、レツもそんなことでは慌てない。雑魚処理だけというのもつまらないが、ゴウがいなくなったことでその処理はレツが一任。たった一人で大軍と戦えることに、レツの闘志は燃え滾っている。
「お前らがいるから俺様は兄貴と満足するまで喋れてねーんだぞ! さっさとこんなん終われせてやらぁー!」
戦闘に向けた闘志なのか、邪陰郷に向けた怒りなのか。どちらとも、と言うのが正確だろうが、その気持ちがプラスに動いていることは確かだ。
現に、地面が見えないほど密集していた邪陰郷は、その半分以上が崩壊。指揮を執る者が欠けたのか、団結も見えなくなっている。
「そんなんで兄貴にケンカ売るとか、何億年待ったって早すぎるな! 聖陽郷と兄貴と、兄貴に育てられた俺様を舐めんなぁー!?」
ただ只管に想術を撃ち込むが、それもただ単にばら撒いているわけではない。確実に仕留められる威力に調整し、撃ち漏らしも討ち漏らしもゼロ。的を外すことなく、仕留め損ねることも無い。
「うーん……ゴウさんに任されて数は多くなったけど、やっぱり強くないとつまんねぇか……終わったら兄貴と組手でもしてもらうか」
意識を戦闘外に向けても、放つ想術の一切を外さないレツ。四天王と天使に次ぐ上位階級として、聖陽郷での超戦力と言われるだけのことはある。
「よし、やっぱり弱いのは飽きる! 撃ち漏らしとかしたら兄貴に怒られるか否か……んや! そもそもの話、俺様なら撃ち漏らさねぇな! ――熱探知」
残りの人数が四分の三を切ったところで、ボソボソと独り言を呟くレツ。そうして自問自答を声に出し、本当に悩んだのかと聞きたくなるほどあっさりと自己解決。
ゆっくりと目を瞑り、静かに意識を集中。そしてその数秒後にパッと目を開け、レツは大股を開く。
「――『神器』紅蓮鎚――『奥義』舞い散る炎の華!」
直後、振り翳した右手の中に炎で構成された巨大な鎚が現出。すると反対の左手を前に翳し、こちらには巨大な火球を構成。そしてその火球に向かい、紅蓮鎚を一振り。大きく振り降ろされた紅蓮鎚は、巨大な火球を粉々に砕く。
次の瞬間、砕かれた火球の破片が散開。そして飛び散った破片の一つ一つが、確実に邪陰郷の一人を仕留める。
「いよーし! 撃ち漏らしゼロ! 討ち漏らしゼロ! 圧倒的完勝!」
飛び散った破片が全て消え、レツの周りで立っている影はゼロ。その光景が、レツの完全なる勝利を意味する。
「流石は俺様! 威力も数も完全にジャスト! コントロールも抜群! 火力も抑えたからクラフトにも余裕あり! まだまだ戦えんなー!」
――『奥義』とは、ある程度の実力者ならば必ず持っているいる、その個人特有の技だ。普通の想術などとは違い、その者オリジナルの唯一無二の技。
そんな奥義の威力は、一般的に使われる想術とは段違い。勿論それぞれの個人差などはあるが、一般的にそれが決まれば、一発で盤面がひっくり返るとも言われている。
しかし、そんな奥義がいいことばかりとも言えない。威力は確かに申し分ないが、強攻撃にはその分の代償は付き物。
特に奥義の場合は、その技自体が完全オリジナル。自分だけの技を考えることにも時間がかかる上に、使っている者がいないため習得にも時間がかかる。
そして、それだけの威力を出すためには、それだけのクラフトも使う。完全に自分のものにするまでは、数年といった年月がかかる。
とはいえ、奥義ともなれば数年で習得出来ればいいほどなのだ。場合によっては数十年とかかるし、そもそも99%の人がそれを持たないまま人生を終える。それこそ、数年単位で習得できるのは四天王くらいのものだ。
いくら四天王であるリゥに育てられた十二人衆と言えど、元の素質は四天王よりも劣る。その為、奥義の習得に於いて『神器』というものを使う。
『神器』とは、リゥが発案した十二人衆が各々持つ十二種の武器のこと。その全てが所有者のクラフトで創られるため、この世に一つしか存在しない。
そして神器を媒体のようにして使い、奥義の威力や成功率などを大幅に上げる。
例えば今回の場合、火を操るレツが自らのクラフトを使用し、自ら炎で構成した『神器』紅蓮鎚。炎で形成されたそれは、工事などで使う鎚そのもの。
普段はそれを振り回して戦うのだが、敵が多かった場合などは今回のようにも使う。オリジナルの武器というだけあって、色々な用途で使えるのが神器の強みだ。
そしてその神器を上手く利用し、それを使った技を自分の奥義とする。武器を使う分、それに合ったものをイメージしやすく、さらには単純に威力が上がる。勿論、その武器を直接扱う打撃系統の奥義もある。
しかし、今回の攻撃はレツが神器を使う中でもかなり得意としていた技だ。
そんな久々の奥義が完璧に決まり、紅蓮鎚を担いだレツは満足げに笑う。
「これで俺様も強敵と戦えるわけだけど――ッ!?」
自分の仕事を終え、次の標的を探そうと辺りを見回すレツ。
瞬間、足元に飛んできた短剣を後退して回避。後退と同時に跳躍し空中に浮いたレツに、大量の短剣が容赦なく襲いかかる。
「くっ……炎幕ッ!」
「へえ、流石は火の十二人衆ってとこ? もう、ざっと百本くらい用意したと思うのに、やっぱり少なかったかな」
炎幕で降りかかる短剣を全て破壊し、瞬時に地上へ降りるレツ。そして次の攻撃にも警戒し、紅蓮鎚を構える。
しかし、警戒した攻撃の第二波は無く、その代わりに男の声が聞こえる。
その声の主は、藍色のハットを深々と被り、藍色の髪を足まで伸ばし、顔を藍色の仮面で覆い、藍色の袋のような服を身につける、藍色尽くしの男だ。
「この辺の雑魚は今片付けたし、幹部か支部長ってとこだろ?」
「ほう、急な攻撃を仕掛けられてもその余裕ぶりか……へえ、不意打ちに対する怒りとかはないんだ?」
「ここに着いた時点で――いや、そっちが兄貴のアキラを攫った時点で、この戦いは始まってんだ。その中で勝手に油断したのは俺様だし、それでも俺様は無傷。怒りなら、お前らの所為で兄貴と全然話せてない事のが大きいな」
そう言って、はぁっ とため息をつくレツ。実際、今の不意打ちでの危害は無し。そして、レツとしても緩んだ気を引き締められた。
考えようによっては、プラスとも取れるのが今の現状だ。
「丁度、雑魚ばっかりで退屈してたところだしな。まぁそれで、誰? 名前はどうせ忘れるから、どの立場なのかだけでいいや」
「えぇ、折角だから名前も名乗らせてよ。――では、僕は第4支部支部長のクラウゼル。ああ、直属幹部とかじゃなくてごめんね」
「名前 長……まぁ忘れるまでは覚えとくけど、うん……もう忘れた。やっぱいいや、とりあえず第4支部の支部長な」
「うん、手厳しいね。まあ、確かに君たちからしたら、長いのかな? 四天王といい天使といい君たちといい、その全員が二文字だもんね」
表情、口調、仕草。お互いに自分のペースを崩さず、淡々と話を進める。
「俺様たちの名前は、全部兄貴に付けてもらったんだ。
――烈火の如く燃え盛る魂で、どんな相手にも引かない。その炎は水では消されず、風では散らされず、暗黒にも飲まれず、何者にも劣ることの無い、永遠の灯火。道を照らし、その主を握る。燃やし尽くし、焼き焦がし、照らし付ける。それが俺様――レツの由来だ」
そう言い切ったと同時に、レツの持つ紅蓮鎚に纏わる炎が激化。激しく燃える炎で神器を包み込む。
「ああ、話が長引いたね。そう、僕らの目的は戦いだ。うん、そしたら、始めようか」
「望むところだ――ッ!」
指の間に短剣を挟み、両手で合計八本の短剣を構えるクラウゼル。指で挟める数を丁度袖から出している辺り、やはり短剣の扱いには慣れているのだろう。問題は、その短剣が何本あるかだ。
初撃で百本を壊したが、その分の短剣がどこに仕舞われているのか。もしも短剣がクラフトで作り出した想術の系統だとすれば、どれほどの短剣が作れるのかを知る必要がある。
「――てことは、やっぱ壊すしかねぇな!」
「うん、そうだね。まあ、試してみるといいよ」
過去に短剣使いと戦闘したことがないわけではないが、百本以上を軽々と扱う相手はいなかった。つまり、この手の相手は今回が初。
よって、レツは考えることを放棄。考えても無駄だと割り切り、紅蓮鎚を振り上げて前進する。
「俺様の炎はありとあらゆるものを燃やし尽くす! そんな短剣、何本出しても変わんねぇ!」
「うん、そうだね。でも、君のクラフトにも限界がある。そう、僕の短剣と君のクラフト。どちらが先に切れるかだね」
そう言って、距離を詰めるレツに向かって次々と短剣を投げるクラウゼル。右の四本を縦に投げ、次に左の四本を横に投げる。そして左の短剣を投げると同時に、右の短剣を補充する。
そんな一連の動作で縦横交互に飛んでくる短剣を、その神器で全て弾くレツ。
「ねえ、そろそろ疲れてくる頃じゃない? ほら、僕の短剣が先に尽きるのは、考えにくくない?」
「――」
レツが振り回している紅蓮鎚は、約二メートル。レツの身長の、凡そ1.5倍だ。
自分に合った武器とはいえ、延々とそれを使い続けられるわけではない。現に、レツがそれを振り回す速度は僅かに落ちてきている。
もうそろそろ突破口を見出せなければ、レツの体力が先に尽きるだろう。
「アァァァァァァァッ!」
咆哮しながら紅蓮鎚を片手で振り上げ、反対の手で想術での攻撃を試みようとしたレツ。
そうして手に意識を集中させた瞬間――
「――風刃!」
「――物体操作!」
――瞬間、不可視の刃がクラウゼルの服を切り裂き、不可視の力がクラウゼルの武器を奪う。
そんな攻撃の発動場所を目で辿れば、そこにはフウとネスがいる。
「支部長クラスを一人で相手をするのは、難しくないですか?」
「そーそー。一人で先走ったらあきまへんでー」
「ったく、俺様だけで大丈夫だっての……」
そんなレツの対応に、「まあまあ」と言いながら歩み寄るフウ。それに続いてネスもレツの横に並び、三人の視線は目の前――最悪の敵へと向かう。
「まさか、邪陰郷にこんな敵がいるたァ思ってなかったな……」
そんなレツたちの目の前にいるのは、四天王でさえも手を抜いて相手出来る敵ではない。
その残酷な戦闘法から最凶とも言われる戦闘種族、その名は――
「阿修羅――ッ!」




