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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
序章:始まりは君と
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6話:始まりの終わり

「――いいよ! 俺、龍翔くんと一緒に行く」


「いい、のか?」


 晟の同行表明に目を丸くする龍翔。ゴウの提案にも驚いたが、晟の了承にはもっと驚く。

 しかし、提案したゴウは全く驚いていない様子だ。まるでこうなるのを分かっていたかのように、龍翔を見てニカッと笑ってみせる。


「だって、ゴウ……さん? の、言ってることはあってるから。龍翔くんが俺と一緒にいたいって言ってくれてるみたいに、俺も龍翔くんと一緒にいたい。それでも龍翔くんが異世界に行かないといけないなら、俺も行く。行っていいなら、俺も行きたい」


「晟……」


「なら、これで決まりだな! リゥはアッキーラと一緒に向こうの世界に戻る!」


 晟の堂々とした言葉に気を良くしたのか、ゴウは晟と肩を組み一気に距離を縮める。少し戸惑った様子で晟は苦笑いをするが、ゴウはそれに気付いていない。


「けどよ、ゴウ。晟が付いてきてくれるんなら俺は文句はねーけど、今すぐどうこうってのは無理じゃねーかな。ここは一応公共施設で外に出る時に見つかったら面倒だし、俺も晟も親がいる。親にはそんなの説明できないし、異世界があって四天王とか天使とかがいるなんて知られたらそれこそ一大事だ。どうする?」


「確かに……」


 龍翔の最もな懸念に、晟も顎に手を当てて顔を悩ませる。が、しかし。ゴウはそんな龍翔の懸念に呆れたように溜息。この世界では最もな懸念が、ゴウからすれば取るに足らない問題かのように。


「お前、それ本気で言ってンの? 十五年もこっちにいたから、こっちの世界の常識が頭にくっついた的な? アッキーラは分かるけど、お前までそンな感じかよー」


 真面目な話をしているつもりの龍翔と晟に、ゴウは至極余裕な表情だ。

 本気で分からないような顔をしている龍翔に再び嘆息してから、ゴウがクロを指さす。


「何の為に、クロが来たと思ってン?」


「――! まさか……あー、そういうことかよ」


 ゴウとクロを交互に見て、全てを理解した様子の龍翔。しかし、晟は未だ理解出来ていない。そんな疑問の眼差しを向ける晟に、龍翔が説明を始める。


「つまりだな、晟。今まであんまり気にしてなかったけど、この病院静かすぎないか?」


「――え? あ、うん。確かに静かすぎる」


 龍翔の問いかけに、そっと耳を澄ませる晟。耳に手を当てて辺りをキョロキョロと見回す晟に、龍翔はさらに言葉を繋げる。


「それに、今日俺が目を覚ましてから、俺らはここにいるゴウとクロ以外に誰とも会ってない。――まぁ、とりあえずは時計見てみ?」


 そう言って病室に置いてある時計を見る晟。そして時計を見た瞬間、晟は目を丸くする。


「――動いて……ない?」


「そ。俺ら以外の人の動いている気配がないのと、動かない時計。つまり?」


「時間が止まってる?」


「ピンポンピンポーン!」


 龍翔の問いかけに晟が答えると、そのやり取りを楽しげに眺めていたゴウが正解の合図を出す。


「でーも、少し違うな。正確には、俺ら以外の時間が止まってる。今の世界で進んでるのは、俺らの体感時間だけだ。今止まっている人の前に出ても、その人に気づかれることは無い。異世界の話をこの世界で生きていく人間に聞かれるのはまずいからな。だから、この世界で動いていられるのは俺ら四人だけだ」


「――ん? 待てよ? それなら、晟の時間を止めてないってことは元々俺ら二人を連れ帰るつもりだったのか?」


 初めから晟も異世界に連れていく予定だったような口ぶりのゴウに、龍翔は疑問をぶつける。


「勿論、そのつもりだったな。この計画は少し前から作られてたものだ。リゥを連れ帰る時に、一人くらいは支えになる人物が欲しいだろうっていう考えでな。それで少し様子を見て、そこのアッキーラを選んだ。他にも何人か候補はいたけどな」


「なら、クロが最初からそれを言わなかった理由は? 最初から二人で来いって言えば、お前が来るような事態にはならなかっただろ?」


「だー、かー、らー! これは計画なンだってば! 最初からそンな話をしたら、変に強制力が高まるだろ? アッキーラを連れて行った方がいいかもってのはあくまでも俺らの考えで、大事なのは二人の気持ちだ。その気になれば二人を無理矢理に異世界に連れ帰ることだってできる。でも、俺らの思い違いで実はそこまで仲良くなかったとかじゃ困ンだろ? だから試したのさ! 二人の信頼を!」


「お前、もしかして……! 昨日のわけわからん火災もおまえらの仕業か!?」


 二人を試したとの発言に、どこからどこまでが試しなのかが分からない龍翔は昨日の火災を疑う。

 そしてその答えは勿論――、


「勿論、俺らの仕業だ。発火も、教師とお前らを分断する木も、アッキーラだけを体育館に閉じ込めたのもな。因みに消防隊とかが来なかったのは、あの学校以外の時間をクロに止めてもらったからだ」


 そんなゴウの言葉に、龍翔と晟は呆気に取られる。

 そして暫く口をあんぐりと開けていた龍翔が、鋭い目付きでゴウに手招きする。


「――ゴウ、ちょっと俺の前に来て後ろ向け」


「ンー?」


 目の前に立てと言うような指示をした龍翔に、ゴウは首を傾げながらも素直に従う。

 そしてそんなゴウを前に軽く跳びながら、龍翔は少し立ち位置を変える。


「歯、食いしばれよ」


「ン? ――って、ンがっ!? アァァァぁぁぁぁぁぁァァァァッ!?!?」


 時が止まった無音の世界に、ゴウの絶叫が響く。


 ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶


「あー、クソ。痛ってぇー。何もそんなに強く蹴らなくても良くねぇか……? 痛てててて……」


 そう言って、、ぎこちない歩き方でゆっくり歩いているのは全身を赤で統一させた青年、ゴウだ。ついさっき病院内で龍翔の怒りの一撃を無防備に食らったゴウは、先を行く三人よりもかなり歩くペースが遅い。


「早くしろってー。日ぃ暮れるぞー?」


「誰のせいだよ……って、っ()ぅ……怪我も全部()してやったのに……」


()したのはお前じゃねーだろ」


 歩きの遅いゴウに、左手で大きく手招きをして急かす龍翔。そしてその横を歩くのが、龍翔の右手と手を繋いで歩く晟だ。今までもかなり仲の良かった二人だが、昨日と今日で心の距離はより一層縮まっている。理由は勿論言うまでもなく、お互いの伝えてきれていなかった気持ちをしっかり伝えられたことが大きいだろう。

 この点に関しては、龍翔も晟もゴウに感謝をしている。そのため制裁は一発で終わらせたが、完全に無防備だったゴウにはその一発がかなり効いたらしい。たしかにさっきの蹴りは、今までで聞いたことの無い程大きい音だった。

 しかし、さっきから中高生のようなやり取りばかりしている二人が、本当に四天王と呼ばれるほどの存在なのか晟は少し疑っている。とはいえ、そんな二人の性格は良くも悪くも接しやすい。龍翔が四天王だと分かっても、何ら変わりのない態度で接することが出来る。

 そんな事を思いながら歩いていると、いつの間にか龍翔の家に着いていた。、体感時間にして、およそ三十分程は歩いただろうか。時計が動かないので正確な時間はわからないが。


 先ずは、なるべく早く身支度を整えて異世界に行く。それが第一目標である為に、四人全員で準備に取り掛かる。


「おいリゥー! これなんだー?」


「あぁ、卓球台な。おまえが昨日焼き焦がした体育館にもあっただろ。その台で球を打ち合うスポーツがあるんだよ」


 どうやら、卓球というスポーツは異世界にないらしい。新しいおもちゃを見る少年のように目を輝かせているゴウに、龍翔と晟は顔を見合わせてクスクスと笑う。


「へぇ! 楽しそうだな! よし、持って帰るか! クロ頼む!」


「分かりました」


 そう言うと、クロはステッキを構え、ゆっくりと卓球台に翳す。すると卓球台は光の粒となり、一つ残らず水晶の中に吸い込まれていった。


「え、え!? 今何したの!?」


 突如として起こった目前の光景に、晟は目を丸くする。


「クロが持ってるステッキの水晶に収納したんだよ。大きいと運び難いからなー」


 サラッと説明する龍翔に対し、改めて異世界の凄さを痛感する晟。その仕組みについてはよくわからないが、とにかく凄いということだけはハッキリしている。


「よし、しっかり書き置きも出来たし、あとはそーだな……んー、あんまり持って行きたいってものもないし、俺のものは大体残ってるだろ? ゴウが目を引くようなもんがなければもう次行くけど、どうだ?」


「そーだな。さっきのタッキューってやつ以外は大丈夫そうだな。あとはお前らがさっきから持ってるその四角い平べったいやつが気になる」


「ん? あぁ、スマホのことか。これは向こうにも持っていくから、向こうで新しく開発でもしてもらえばいいだろ。ちょっと準備に手間は掛かりそうだけどな」


「ン、それなら大丈夫だ!」


 珍しいものには目を光らせて食いつくゴウも、流石にもうそろそろ帰りたいのか早めに受け入れる。


「――グッバイ! 今までありがとう」


 今まで過ごしてきた家に別れと感謝の言葉を伝え、次は晟の家へ向かう。かなりさっぱりとしたお別れだが、長居はすればするほど感傷に浸ってしまう。

 変な気持ちになる前に、龍翔は足早にそこを去る。


「ふぅー、やっと晟ん家かー。何気に入るのは初めてだなー」


「たしかにー。俺が龍翔くんの家に行ったことは何回もあったけど、俺ん家には入ったこと無かったよねー」


「せやなー」


 晟は龍翔の家に上がったことがあるため、そこまでの躊躇いがなかった。

 しかし、初めてで龍翔が躊躇するかと言えば、それは違う。それどころか、初めての興奮でテンションが上がっているくらいだ。


「とりま始めるか! さー、お邪魔しまーす!」


 そう言って、ルンルンと晟の家に入っていく龍翔。龍翔の家の時と同じく、ここでも異世界行きのための準備を整える。とはいえ、大体のものは向こうでも調達できるため、あまり持っていくものは無い。晟が大切にしていたものや、ゴウが目を輝かせるようなものがあるかもしれないので一通りチェックするが、やはりそこまで時間はかからない。


「晟の部屋発見! 突入ー!!」


「あ、ちょっとー!」


 初めての晟の家でテンションの上がっている龍翔は、晟の部屋を見つけるや否や勢いよく扉を開ける。そんな大はしゃぎの龍翔を見て、晟もすぐに後を追う。


「はぁー! 片付いてるー!」


「そう? 普通だよー」


 テンション上がりまくりの龍翔に対し、晟は至って冷静だ。多少の気恥ずかしさで若干頬を赤くしているのの、取り乱す様子はない。


「おっ、ベッド! っとー!」


「あ、ちょっとー! 寝てないで手伝ってよー」


 ベッドに飛び込みゴロゴロとしている龍翔を見て、晟は少し口を尖らせる。


「あ、これ晟の服ー? けっこーあんねー。全部持っていくかー!」


「え、服くらい少しだけ持って行って向こうで買えたりしない?」


「買えるけどー、晟に似合う服があるか分からないしー……ほら、この寝間着とかめっさ似合ってるじゃん! かーわいー!」


「なんか揶揄ってない!?」


「そんなことないってー。可愛いと思うぞー?」


 テンションが上がり若干いじってるようにも聞こえるが、龍翔的には本心だ。本心と一緒に我儘でもあるが、これだけテンションの上がってる龍翔を見るのも久しぶりなので、服は全部持っていくことにした。

 そして両親や友達への手紙を書き終え、晟と龍翔は大体の準備が整うと他の部屋を物色していた二人と合流する。


「今までありがとう――ん、バイバイ!」


 そう言って、晟も自分の家に感謝と別れの言葉を告げる。家に向ける目は若干キラキラと輝いているが、龍翔は敢えてそこに触れない。いじるのが好きな龍翔も、その程度の常識は弁えているつもりだ。


「よし、それじゃ準備も整ったし、異世界に向けて出発だな。――最後に確認だけど、晟は本当に一緒についてきていいのか?」


「うん、大丈夫! ちゃんと手紙は書いたし、龍翔くんもいるから!」


「そっか、分かった。でも、辛くなったら言いなよ。どうしてもってなら、戻してあげることもできるから」


「ん、ありがと!」


 そんな最後の確認をする二人に、クロがゆっくりと近付く。


「あの、提案があるのですが、もし宜しければこの世界の時間をずっと止めておくという手もありますよ? そうすれば、戻ってきたい時に戻ってきて時間を動かせば、二人はいつも通りに接してもらえるはずです。まぁ、その場合うっかりこの世界の話をされてしまうと困るのですが……」


「お前、そんなことできたのか?」


「はい、一応時を司る天使なので。まぁ少し時間もかかりますが、お二人さえよろしければそのようなことも可能です」


 思いがけないクロの提案に、二人は驚愕する。そして顔を合わせて頷き合い、クロの方を見る。


「それは有難いけど、さっき言った通り俺も晟も異世界で生きると決めた。初めからこっちの世界に戻ってくること前提じゃ、何か心残りみたいになって思い切り楽しむことが出来ないかもしれない。だからこっちの世界に戻るのは最終手段だし、辛くなるのも最初の内だけだ。数ヶ月なら戻っても何とかなるし、大丈夫だと思う。ありがとうな」


「そうですか。いえ、お二人がそう決心されてるのであれば問題はありません。最悪の場合、時間と一緒に記憶をも巻き戻すことも可能ですしね。使わなくて済むくらいに楽しんでもらえるのが一番なのですが……」


 龍翔の言葉に、少し表情を曇らせるクロ。しかしそんなクロの表情の変化に二人は気付かず、そのまま会話を進めてしまう。


「そうだな。俺もその力を使わなくて済むように、晟と全力で楽しむさ。な、晟!」


「うん!」


 クロの提案にしっかりとした決意を顕にして、二人は万遍の笑みで向かい合う。


「そンじゃー、話も纏まったみたいだし、そろそろ行くぞー?」


「おう!」

「うん!」


 そうして、新しい新生活の扉が開く。

 波乱万丈となる、激戦の新生活の扉が――。

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