表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
69/146

53話:戦闘という名の殺人

 約束を交わした直後、一歩後ろに離れたリゥは右手の指を伸ばす。


炎纏(カバー)


 己の右手を見つめ、小さく詠唱した瞬間、リゥの右手は真っ赤な炎で覆われる。

 そんなリゥの手を見つめ、優輝たちは絶句。目の前で初めて魔法のようなものを直視し、口を開けたまま唖然とする。


 そして、その手をゆっくりと土の柱に当てるリゥ。そのまま叩き斬ることはせず、熱で溶かしながら一本一本外していく。


「――このまま枷を外すのは熱いから、今は繋ぎを斬るだけな。ちょっと重いかもしれないけど、我慢してくれ」


 自分が通れるようになるまで格子を外し、優輝たちの元へ歩み寄るリゥ。そしてそのまま土枷を繋いでいる部分を途中で溶かし、四人の手足を自由にする。


「あ、うん。ありがとう……」


「ん、じゃあこのまま――ッ!?」


 四人を立たせ、そのまま宮廷へと戻ろうとした瞬間。突然と足場が揺れ、リゥたちは体勢を崩す。


「あーあ、せっかく捕まえてきたのに……僕たちの苦労も理解して欲しいよね? そう思わない?」


「誰だお前……!」


「あーあ、そうやって直ぐに誰か知りたがるよね? 少しは自分で考えようとかしない?」


 リゥが壊した格子の奥。そこには、リゥが足場にしていた樹に立つ男がいる。そしてその手に持つのは、炎を纏った長剣。細く鋭い剣は、その刃の部分に赤い炎を纏わせている。


「君がコイツの土檻を溶かし斬っちゃったから、僕も君の木を斬らせてもらったよ? お陰でほら、コイツも元気になったと思わない?」


 言いながら、証拠品として突き出すような形で大樹の一部を放る男。

 瞬間、大樹による捕縛が解けた生物は、再び活動を再開する。


「――くっ、炎烈アクティビティフレイム!」


「んな!?」


 生物の動きが再開した瞬間、目前にいる男に向かい炎の刃を放つリゥ。そんな急な攻撃に回避の遅れた男は、そのままその炎に直撃。そしてその威力に押され、一気に遠くへ吹き飛ばされる。


「ここに残るのはマズい、早くここから出るぞ。――氷路(アイスロード)


 動き出した生物の中に長居すれば、いつ攻撃を受けるかがわからない。この生物にそこまでの思考力がなかったとしても、振り落とされる可能性もある。

 つまり、この中に居続けることは凶。少なくとも、吉と出る可能性はないに等しい。

 そう考えたリゥは、入ってきた方から地面に向かって氷の道を創る。


「行くぞ」


 短く合図し、そのままその道を滑り降りるリゥ。本来ならばしっかりとした道を創るべきだが、今はそれだけのものを想像している時間が無い。

 よって、今回創ったのは若干の壁を作った簡易的な滑り台のようなもの。それを立ったまま滑り降りると、リゥは素早く横に避ける。


水泡(クッション)


 横に避けたリゥは、そのまま氷路(アイスロード)の終わりに水の塊を設置。その塊は弾むように柔らかく、割れることもない。

 そして優輝たちに向かって手招きし、四人はその水泡(バブルクッション)を目掛けて滑り降りる。


「よし、先ずは宮廷に……」


「あーあ、折角僕が出てきたのにさ? 不意打ちで攻撃とかどうなの?」


 地上に降り、そのまま宮廷へと走ろうとしたリゥ。しかし、そんなリゥを邪魔するように立ちはだかった男。今しがた遠くへ追いやったはずの相手が、再び戻ってきたのだ。

 そんな男に舌打ちし、リゥは後ろにいる優輝たちに目を向ける。


 このままここで戦えば、優輝たちを巻き込みかねない。しかし、宮廷まで送り届けなければ、道中で何があるか分からない。

 つまり、方法は一つ。


「――保護屋(ドーム)。直ぐに終わらせるから、少しの間だけそこにいてくれ」


 リゥが詠唱した瞬間、後ろで固まっている四人を中心に、半径数メートルを半球状に囲う氷が展開。無色透明のそれは、太陽の光を反射させながらギラギラと光る。


「あーあ、僕が誰かも知らないのに? そうやって直ぐに終わらせるとか言っちゃうんだ? それってどうなの?」


「どうも何もねぇよ。テメェと後ろのデカブツを片付けて、その後邪陰郷も根絶やしだ」


「あーあ、そう。本気で殺り合うつもりなんだ? ならいいよ、教えてあげる。――僕は邪陰郷第5支部の支部長、デルネ。

因みに分かってないようだから教えてあげるけど、後ろのアレは監獄土人形(プリズンゴーレム)。その名の通り、監獄の役目を果たす土人形。僕たち邪陰郷が作り出したものだよ。でも、コイツは今 僕専用だからね。僕の命令しか聞かない」


 そうして、意外と丁寧に情報を渡してくれるデルネ。その丁寧な情報が全て本当だとすれば、リゥとしてはかなりの好都合。

 第5支部がどれほどの実力か分からないが、実力の高い順に1支部から続くのだとすれば、6支部よりも少し強い程度。その上、邪陰郷直属の幹部ではないらしい。

 となれば、倒すことにそこまでの手間は掛からない可能性が高い。そして、後ろのゴーレムもデルネの命令にしか従わない。

 つまり、デルネを倒せば強制的にゴーレムは機能を停止する。


「テメェの命令しか聞かねぇってことは、優輝たちをここに連れてきたのはテメェの仕業か?」


「あーあ、漸く理解した? そうだよ、僕が向こうの世界でそいつらを攫い、こっちに来てからゴーレムに放り込んだ。いやぁ、命令された四人が都合く固まってるんだもんね。お陰で手間が省けばっ!?」


 悠々と、余裕綽々な顔でツラツラ喋り散らすデルネ。そんなデルネの横っ面に、リゥの拳が一突き。防御する間もない一瞬の攻撃に、直撃を食らったデルネは地を跳ねるようにして吹っ飛ぶ。

 今のデルネの言葉で、リゥの狙うべき物がハッキリとした。

 リゥが狙うべき物。それは――、


「――テメェの首だ」


 轟々と、内側から沸き立つ怒り。その怒りの全てを、目の前にいるデルネに向ける。

 そして、リゥの逆鱗に触れたデルネが向かう先はただ一つ。()のみだ。


「誰の命令だか知らねェが、テメェだけは絶対に許さねェ。俺を本気で怒らせた今日。それがテメェの命日だ」


「あー、あ……ったく。また不意打ちなわけ……?」


 リゥが言い切った直後、若干ふらつきながら立ち上がるデルネ。余程リゥの攻撃に加減がなかったのか、口の中が切れて血をポタポタと垂らしている。

 そんな血を全て吐き出し、手に持っていた炎の纏った剣を口の中に入れるデルネ。そして切れた部分にそれを押し付け、無理矢理止血する。


「――死ね」


 短く呟き、瞬時に前に出るリゥ。それはこれまでの戦闘の中で、間違いなく一番の速度。一秒すら満たない中で、数メートル先にいるデルネの脇腹に回し蹴りを放つ。


「ぐがっ、かはっ……」


 一瞬の攻撃に、今度は遠くへ吹き飛ばないデルネ。しかし、それはデルネがした事ではない。リゥが攻撃の入れ方を変え、脚が直接食い込むように回し蹴りを放ったのだ。


「くそ、がっ……!」


 しかし、その行動が凶と出ることもある。リゥの回し蹴りを真面に食らっても、未だ戦闘を続行しようとするデルネ。そのまま左手でリゥの足を掴み、右手に持つ長剣を大きく振り翳す。


「――刺茨(スティング)


「ずぁっ!?」


 デルネの振り翳す長剣が、大気中に弧を描いた瞬間。それを掲げる腕とは逆サイドに走る激痛に、デルネはその長剣を地に落とす。

 剣を掲げた右腕の逆サイド――即ち己の左腕に走った、悶絶するほどの激痛。あまりの痛みから、半目になって歪んだ視界。その歪んだ視界が捉えたのは、リゥの足から伸びた針に突き刺される己の左腕だ。


「がっ……んだ、これ……」


 リゥが行ったのは、自らの足に棘を生やし、その針をそのまま突き刺すという攻撃――それも、想像力と集中力を駆使した想技だ。

 使用する為の条件が厳しく、柔らかな想像力と果てしない集中力が必要。

 今のリゥは自分の怒りを利用し、デルネを倒すということだけに集中した。つまり、一点に注がれる集中力がそのまま想技に移ったという事だ。


 しかし、想技は少しでも集中力が掛けると解かれてしまう。つまり、怒りで情緒が不安定な現状では、瞬間的な発動しか出来ない。その為リゥの足からは既に針が消え、その代わりにデルネの腕には太い穴が空いている。


「――止血、してやるよ。まぁ、出血だけじゃなく息の根も止まるかもしれねぇけどなっ!」


「ずぁっ!?」


 悶えるデルネの右腕を掴み、そのまま力任せに放り投げるリゥ。投げられたデルネの着地点にあるのは、先の脱出時に作り出しておいた水泡(バブルクッション)

 優輝たち四人が乗っても壊れなかったそれが、デルネの着地に合わせて破裂。水しぶきを上げてデルネを包み込んだ瞬間、リゥは静かに詠唱する。


永久凍土(エターナルフリーズ)


 瞬間、デルネを覆った水が一瞬にして凍結。そしてそれに抗うことも出来ず、デルネは黙って氷の中に沈んでいく。


「これでゴーレムも機能は停止……コイツもぶっ壊してやりてェが、後で研究にでも使いそうだな。ぶっ壊すのは後回し……それより――」


 完全に動く気配のなくなったゴーレムを見上げ、指をポキポキと鳴らすリゥ。しかしそんなゴーレムから視線を外し、リゥはゆっくりと優輝たちの方へ歩く。


「――」


 優輝たちの前に来たリゥは、そのまま黙って保護屋(ドーム)を解除。何も喋ろうとしない優輝たちに何か言葉をかけようとするが、今のリゥは彼らの目の前で人を一人殺めている。


 何も分かっていなかった状況で、つい数ヶ月前まで仲良く話していた先輩が殺人。今までの出来事で明らかに世界や常識が違うことはわかるが、それでも身近で仲良くしていた人が殺人をしていれば、優輝たちの反応も当前だろう。


 だが、それを理解した頃にはもう遅い。怒りに心を浸食されていたとはいえ、その行為と事実は変わらない。優輝たちにかける言葉が見つからないまま、リゥはその場で黙り込む。


「――あり、がと……」


「――っ!?」


 黙り込むリゥの手を握り、一言喋りかける優輝。そんな優輝の行動に息を呑み、リゥはハッと顔を上げる。


「あ、ああ……その、一旦戻って話を――」


 自分を追い詰めるリゥを救うかのように差し伸べた優輝の手。そんな優輝の想いを心のどこかで察し、リゥは辿々しく言葉を繋げようとする。


 しかし、その瞬間。リゥの話を途中で打ち切るかのように、鼓膜を劈くような爆音が鳴り響く。


「――ッ!?」


 慌ててその音の方へ目を向ければ、土煙を上げながら崩壊する宮廷が目に入った。


 そして、それを見たリゥの脳裏に、一直線の電撃のようなものが走る。今の現状で最も恐れるべき最悪の事態。考えることすらしたくもない、天変地異とも呼べる災厄。

 そして頭の中を電撃とともに駆け巡るのは、たった一つの人影。

 そしてその人影が頭の中をグルグルと駆けずり回り、一瞬で脳内を埋め尽くす。


「――アキラッ!!」


 咆哮し、リゥは手を握られていたことも忘れて一直線に跳躍。瞬間的に引っ張られた優輝は咄嗟に手を離し、リゥは優輝たち四人を残して宮廷に突き進む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ