50話:集団戦の醍醐味
時は少々遡り、リゥとアリハルの戦闘が始まった頃。リゥの離れた1層では、十二人衆とアリウムらの戦闘が激化していた。
「――氷剣。私は接近戦に征きます!」
「――雷剣。想術じゃ巻き込んじゃうからなぁー」
それぞれ形状の異なる剣を構え、真っ向からアリキに近付く二人。自ら近付き接近戦に挑むのは、十二人衆の中でも一二を争う剣使い――クラとライだ。
自ら構成した氷を剣状に固め、一本の剣を両手で握るクラ。至ってオーソドックスな形状の剣を構え、左右に動きながら正面突破に挑む。
対してライは、小さな雷をそのまま手に持つ形だ。凹凸があり 決して整った形ではないそれは、棒切れと言った方が的確だろう。そんな歪に固まった雷を片手に一本ずつ素手で握り、上からの接近を試みる。
「これが噂に聞く想技とやらか? なるほど、存外大したことではなさそうだ」
「これが想技? 違いますよ。想技はリゥ兄さんしか出来ません。私たちでは、リゥ兄さんのように想技を使いこなすことなど出来ませんから」
「そーそー。それに、兄やでも想技使う時はめっちゃ集中するもん。想技やってるときは、オイラたちでも話しかけられないしねー」
腰元から取り出した剣で、二人の攻撃を素早く弾くアリキ。そして剣を弾かれ僅かに後退した二人を見て、アリキは余裕そうな表情を浮かべる。しかしそんなアリキにも尻込みせず、クラとライも至って普通だ。
しかしそれは、当然と言えば当然のことだろう。
元々、クラとライが作り出した剣は想技ではない。氷と雷が形を持っただけで、そう言う物と化したのだ。
想術と想技の共通点は、想像で何かを現出、又は構成すること。その共通点以外は、全くが根本から異なるのだ。
よって、今回二人が使ったものは想技ではない。
「そうですか。ですが、あなた方もそれは使えないのだろう? それならば問題はない。想術でもなんでも、俺に剣術で勝てると思わないことだ」
「でも、連携じゃ勝てないよね」
「なっ!?」
突然とアリキの後方から聞こえた声。そんな声に耳を向けた瞬間、アリキの手から剣が消える。
そんな事実に驚愕の声を漏らし、余裕綽々だったアリキの表情が一気に崩れる。
「貴様は……!」
「『念力』特化の十二人衆、ネス。オラたちの人数はその名の通り十二人。普通に考えれば六人で一人と戦うことが出来るんやよ。剣士にとって必要なもの、先ずは剣よね。んでもう一個、はいどーぞ」
目を向けた先にいたのは、アリキの手から消えた剣を手にしたネスだ。アリキから奪った剣はしっかりと握っているわけではなく、手元に剣をフワフワと浮かせている形だが、どうしてかそこから取り返せる気がしない。
そんなネスが余裕そうに微笑し、その後指をパチンと鳴らす。
「重力倍増」
「ぐぅっ!?」
ネスが指を鳴らした瞬間、別の声が聞こえたと同時に四肢をつくアリキ。ここ数十分で聞いたことのある詠唱に、アリキはハッと顔を上げようとする。
「さっきのよりも重くしてるんだー。もう一人のアリウム? って人が動けなかった重力よりさらに強くしてるから、顔も上げ難いでしょ?」
「剣を扱うあなたにとって、剣と機動力は奪われたくないものじゃないですか? 四天王の人たち比べれば個の戦闘力はまだまだですが、連携こそが私たちの取り柄であり、十二人衆の戦闘の醍醐味ですからね」
顔を上げようとしたアリキの上、そこにいるのは、フワフワと浮いているグラだ。ついさっきアリウムにも重力倍増をかけたグラが、今度は重力を増やしてアリキにかけた。
そんなグラの攻撃で身動きを取れなくなったアリキの前に、クラが歩いて近付く。
「リゥ兄さんには、あまり過度な攻撃をしないようにと言われています。私たちもそれを望まないので、出来れば投降して頂けませんか?」
アリキに近づき、そのまま降参を促しながら手を伸ばすクラ。
リゥ曰く、「可愛い十二人衆に惨いことをさせたくない」とのことだ。戦闘の前、リゥはこの言葉を毎回のように伝えている。そしてそれは、十六年ぶりの今回も例外ではなかった。
戦闘において、相手を倒すだけではならない時。もしくは倒すだけというのが難しい時。そんな時には、残酷な決断を行わなければいけないときがある。
しかし、リゥも十二人衆も、そんなことは望んでいない。だから今回も、不必要なまでの攻撃はする必要が無い。
そう考えた矢先、そんな思考が凶と出る。
「んなことするわけないだろうがァッ!」
「――ッ」
耳が痛くなるほどの怒声と共に訪れた、地響きとも思える衝撃。直後、その衝撃によって起きた土煙がクラたちを包む。
そんな中で、クラを含めた四人が一気に後退。
四方に散らばったクラたちの中心には、アリキを庇うようにして立つ人影――アリウムがいた。
「ったく、こんなことであたしを動かすんじゃないわよ。あなたはあたしの補佐でしょう? これじゃあたしが補佐してるじゃないの」
「申し訳ありません、少し油断しました……」
「――まったく、油断しすぎよ。それだから第6支部は時間稼ぎすればいいとか言われんの」
息を切らし、膝に手をつきながら立ち上がるアリキ。そんなアリキを不機嫌そうな顔で見下ろし、アリウムはため息をつく。
そしてそのため息混じりの言葉に、クラがピクっと反応する。
「時間稼ぎ?」
「ええそうよ。あたしたちに四天王は倒せないだろうから、あのちびっ子を攫うだけでいいみたいなことも言われるしね。まぁ確かに、ここにいる待人や幹部は大して強くないもの。大して実力のない下級が集められた場所よ。だから他の支部より数は多いけど、勢力で言ったら明らかに最下位ね」
「そんなこと、敵である私たちに教えてもいいのですか? まぁ、知ったところでどうってことはないでしょうけど」
「別に事実だもの。仕方ないわ。あたしはアリハルと違って、正しいと思えば受け入れるわ。無理に意地張って逆ギレとか、疲れるだけだしね」
第6支部の評価に、苛立ちを見せるどころか悔しささえもみせないアリウム。たしかに今の発言を聞いていれば、アリウムが周りからの評価を気にしていないのは火を見るより明らか。
余り物の寄せ集めのような評価を受けていたとしても全く腹を立てないアリウムは、自分の力量を弁えているのだろう。
だとすれば、十二人衆を前にしての余裕も本物だ。下手に意地を張っているわけではなく、心の底から余裕を感じているのだろう。
しかし、逆を返せば油断しているということ。そこを突けば、早い段階で勝負が決まる。
幸いにも、アリキの武器はネスの手元にある。そしてアリウムは、武器を所持していない。想術も扱えるだろうが、今までは体術で戦闘をしていた。
つまり、アリキとアリウムから同時に奪えるもの。そして尚且つ、奪った時の効果が大きいもの。それを奪った瞬間、一気に勝負が決まる。
「グラ!ネス!ネイ!」
「重力倍増!!」
「人体操作!!」
「縛り木!!」
沈黙に包まれた1層で、それを破ったクラ。そんなクラの呼びかけに、グラ、ネス、ネイの三人は瞬時に反応。まるで意思の疎通を行っていたかのように、三人の詠唱が重なる。
「大地の檻!!」
「極寒の檻!!」
重力倍増で動きが鈍り、人体操作で体の動きを確実に制限。この二つだけで攻撃をすることはもちろん、歩くことさえままならない。そんな機動力を奪う組み合わせは、体術や剣術を扱う相手に最適だ。
そしてそれに追い打ちをかけるように、二人の体を縛り木で拘束したネイ。
さらにはそれに加え、今度はイルとクラが縛り木を土と氷で覆う。
重力に念力、自然、土、氷。相手の機動力を完全に奪う拘束技だ。
「これで完全拘束。レツたちは状態維持を、サドは周囲の警戒をお願いします」
「おうよ。任せとけ!」
「音探知」
アリウムとアリキを完全に拘束し、二人はこれ以上の身動きを取れない。それをフウが確認し、レツとスイは監禁状態にある二人の体調を管理する。
それはレツが体温を調節し、スイが体内の水分を調節するといった形だ。
本来ならば体のケアは治癒隊が行うことだが、今この場には治癒隊がいない。下層にいる治癒隊が合流するまで、レツとスイで応急処置をする。
そしてそんな二人を気にするレツに対し、周囲の音による索敵が得意なサドは周りを警戒。新たな刺客が現れてもすぐに対応できるよう、しっかりと索敵を熟す。
「――そしたら、グラとネス、それからネイとイルとクラは二人の監視をお願いします。それに加えてレツとスイは二人の体調を管理して、サドはこの層の警戒です。そしてボクたちは、四人で兄さんを追います」
「分かった。そしたら僕たちはこのままここに残り、ゴウさんたちと合流出来たら後を追ってもらうよ」
「分かりました、それではよろしくお願いしますね」
そう言って、フウを先頭にライ、イオ、セトの四人は1層の奥へと向かう。




