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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
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47話:準備運動

 開始の合図無しに、同時に踏み込んだリゥとアリハル。

 しかし、同時だったのは踏み込みだけ。その後は各々の戦闘センスによって動き方も変わる。

 そして逸早く攻撃を仕掛けるのは、少年二人のために戦うリゥだ。


 左足で踏み込んだ直後、予備動作なしに中段の回し蹴りを放つリゥ。それに反応できなかったアリハルは、リゥの回し蹴りを真面に食らう。


「初手から避けることは疎か、ガードすることも出来ないなんてな。ゲンの奴に遅いとか言われなかったか?」


「だま、れ……!」


「んー、やっぱし一撃KOは難しいか。それでも今のは図星だな。あーあとそれから、直ぐに機嫌悪くなるタイプ?」


 回し蹴りを放った右足を浮かせ、戦闘態勢(ファイティングポーズ)で左右に体を振るリゥ。

 両腕を体の前に起き防御の体勢は取っているが、その態度にはかなりの余裕を感じられる。


「あいつも! テメェも! ワタシのことを遅せぇ遅せぇって言いやがって! ナメてんじゃねぇよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


「ブチギレて漸く本気ってか。なんともまぁ、テンプレ化したやっちゃな」


 怒声を上げ、一直線に飛び込んで来るアリハル。一瞬で距離を詰め、リゥに向かって拳を突き出す。


「んでもってテンプレ通りだと、判断力が鈍るはずだけど……やっぱテンプレだな」


「なっ!?」


 明らかに防御の体勢を取っていたリゥだが、アリハルの右手が自分の間合いに入った瞬間、引き付けに引き付けた最後で左に避ける。

 そして目の前にある腕に手を添え、そのままアリハルの体をくるりと回す。


「こんな小細工にも簡単に引っかかって……本気で勝ちに来てるのか?」


「――そう、ネ……いいわ。ならワタシも、本気を出してあげる」


「また口調変えやがって……情緒不安定かよ。てか″お前も″って、俺は全然本気じゃねぇけど?」


「いちいちうるさいわネ……でも、ワタシが本気を出せばお兄さんも本気を出さないといけなくなるわ」


「ああそうかよ。ならその本気、出してみな」


 再び口調が変わったアリハルに、呆れ顔でため息をつくリゥ。

 何がきっかけで口調が変わるのかは分からないが、それは考えても意味の無いこと。そう割り切ったリゥは、それ以上は口調に触れない。


 そして本気を出すと言ったアリハルに対し、リゥは全身の力を抜く。足を肩幅に開き、軽く腰を落とした体勢。自然本体に近い形だ。


「これからワタシが本気を出すって言ってるのに、なに? ノーガード?」


「本気がなんなのか知らねぇかんな。変にガード固めるよりもこっちの方が対応しやすいんだよ」


 リゥの体勢に、眉を顰めるアリハル。リゥの思考が詠めず、(ほとほと)対応に困る。

 しかしそんなアリハルとは裏腹に、リゥは当然自分のペース。口調をコロコロとかえるアリハルにもペースを乱すことなく、終始自分のペースで進んでいる。


「まぁいいけど、それで後悔しないことネ」


「お前も、ませてるロリは好き嫌い別れるからな。気ぃつけな」


「お兄さんの言ってること、時々わかんないことがあるわ。でもそんなこと、もうどうでもいいわネ。――ここで散って」


 冷たく睨みつけるアリハルに、全く合わせようとしないリゥ。冷のアリハルと温のリゥで、その場の空気は一向に纏まらない。

 そんな空気が漂う中で、アリハルの口調がさらに冷たく、そして鋭くなる。


「おうおう、そんな怖いこと言ってると……ッ」


 鋭く痛い口調で放たれる言葉に、やれやれと首を振るリゥ。瞬間、リゥの言葉が途中で途切れる。


「リゥくん!?」


 息を呑み、一瞬だけ膠着したリゥにアキラが叫ぶ。そしてその言葉で我に返り、リゥは自分の頬を拭う。

 拭った右手は僅かな血が付着していて、それはリゥの皮膚が傷つけられたことを意味する。そしてその被害は、頬だけではない。

 リゥの着ていた衣服も僅かに傷つき、衣服で包まれていない部分の皮膚も傷付いている。


「どう? 無詠唱の風刃(ブレイド)


 その声に前方を見れば、そこには右手を翳して微笑んでいるアリハルの姿がある。


「無詠唱の、想術……」


「そうよ。ワタシにもこのくらいはできるの。驚いたでしょー?」


「あー、口調戻して浮かれてるとこ悪いんだけどよ? 無詠唱の想術ってのは、こういうのを言うんだぜ?」


「なに、これ……」


 静かに呟いたリゥに、笑いながら胸を張ったアリハル。しかし、そんなアリハルを見つめるリゥの表情は今まで通り。

 余裕の笑みを浮かべ、リゥはパチンと指を鳴らす。

 そして驚きに目を丸くするアリハルの周囲を、無数の球体が囲っている。紅に揺らめくその球は、自ら発する熱で周囲の空気を歪める。


 見ているだけでも辛くなるその球は、リゥが作り出す炎の想術――『擬似太陽』だ。

 悪天候の日でも外での活動や選択などが出来るようにと、自らの手で開発したリゥ独自(オリジナル)の想術。その規模は自在にコントロール出来るため、あらゆる所で活躍している。

 例えば、曇りの日にも洗濯物を干したり外で遊ぶための時であればその規模は小さくて済む。が、その場だけ雨が降って欲しくない場合は、地面に落ちる前の雨を蒸発させることも可能だ。


 そして今回の物は、一つ一つの威力を最小限に抑えている。


「この球一つでも、さっきお前が放った風刃(ブレイド)数回分ほどの威力はあるだろう。無詠唱とかで威張ってないで、防御壁くらいは展開しな」


「――ッ!」


 そう言ってリゥは手を伸ばし、その手をアリハルへと向ける。そしてそのまま目を細め、一泊置いてから広げた手のひらをグッと閉じる。


 瞬間、現出した場所に留まっていた擬似太陽がアリハルを中心に凝縮。個々の間隔を一瞬で詰め、アリハルの姿が(あか)一色に包まれる。


「威力も規模も最小限。その程度じゃ瀕死どころか重傷にすら至らないだろう。この場にアキラとアイがいて良かったな」


 そう言って、リゥはアキラの方へウインクをする。

 当の本人であるアキラはキョトンとしているが、アキラやアイがいた事はアリハルにとってはかなりの幸運。もし仮に二人がいなかった場合、アリハルは黒焦げどころの話ではない。

 二人だけの空間だった場合、リゥは大規模な擬似太陽を構成し、その瞬間にアリハルの体は原型を留めることなく溶けて消えていただろう。


「まさか、無詠唱でこの威力なんて……聖陽郷の四天王は、そんなに強いの?」


「咄嗟の発動でもかすり傷で済んだんだ。良かったな。でも、一つだけ言っておこう。今ここに来ている四天王の中で、炎に特化したゴウってやつがいる。今はアリスと交戦中だが、アイツなら無詠唱でこの森を焼き尽くせるぞ?」


「そんな!? ――って、ワタシが驚くとでも思った? ごめんネ。ワタシはこの第6支部内でも一番の怖いもの知らずなの。今の話を聞いて、逆に楽しみになったわネ」


 リゥの言葉を聞いて尚、驚くどころか笑ってみせるアリハル。そんな対応にリゥは少しだけ意外そうな顔をするが、そこまで驚いている様子もない。

 アリハルの謎の余裕には引っかかるが、それだけではリゥが驚く要因にはならないのだ。


「そうか。でも、ゴウとの戦闘を楽しむことは出来ないだろうな」


「ここでワタシが負けるって言いたいの?」


「それ以外に何があると思うん?」


「別に何も。ただ、夢を見すぎなんじゃない? って思って……ネ!」


 お互いに余裕を見せつける二人のうち、先手を打とうとしたのはアリハルだ。一瞬でリゥとの距離を詰め、その懐に潜り込む。


「この距離なら……!」


 懐に潜り込んだアリハルはその右手をリゥの腹部に翳し、押し当てるように力を込める。

 瞬間、リゥの腹部とアリハルの右手の間にエネルギーが現出。そしてそれは刃へと形を変え、アリハルの手のひらからリゥの腹部へと向かって流れ込む。


 確かな感触にアリハルの口元が緩み、頭上を見上げる。

 そしてそこで目が合ったのは、苦痛の表情で苦笑いをするリゥの顔が――、


「ゼロ距離からなら、無詠唱でもダメージを与えられると?」


 ――ない。


 アリハルと目が合ったリゥの表情は、笑みこそ浮かべているものの苦笑いではない。余裕に満ちている、悠然とした微笑みだ。


「無詠唱を試みたのが間違いだったな。まぁ、詠唱ありでもあんまり変わらねぇけど。――四天王の有り余った財力、舐めない方がいいぜ?」


「財、力……?」


 リゥの言う財力とは、文字通りそのまま。四天王という存在に与えられる任務は簡単なことから難しいことまで幅が広い。簡単な任務だけで生計を立てる者がいる中で、難易度の高い任務は報酬ももちろん高い。それも単純な比例計算ではなく、高難易度は行える人物も限られるため、数倍数十倍の報酬を得ることも出来る。


 そしてリゥの使い道は、幼い子どもたちや貧困層への寄付が約半分。そして残りの半分は、トレーニング器具や戦闘用具などの購入を主とし、戦闘を含めた生活費注ぎ込む。

 そしてその戦闘用具の中には、己の身を守るための衣装もある。


「でもさっき、無詠唱の風刃(ブレイド)で簡単に……え?」


「さっき傷付いたのは、外見の衣装だ。問題は(中身)だ」


 二度目の風刃(ブレイド)で、確実に破れた衣装。その穴が空いた腹部からは、銀色に煌めく鎧のようなものが顔を出している。


「鎧を着てガッチガチじゃダサいだろ? でもまぁ若干心配があったから、服の上から分からないくらいの薄い鎧を着たんだよ」


 そう言って、器用に鎧だけを脱ぎ捨てるリゥ。身につけた外見の衣装はそのままに、上半身を守っていた鎧とその表面に付いているスポンジのようなものを外す。


「いやー、何となく柔らかいもん付けてないと触られた時にバレっかなと思ってな? したらこれが暑いの重いのって……ようやくスッキリしたわ」


 ガタガタと音を立て床に落ちる鎧は、その落ちる音だけで重量が分かる。そしてリゥはそんな鎧を付けたまま、この塔や森の中を走り回っていたのだ。


「でも、これで体が軽くなったな。――よし。第二ラウンド、開始だ」


 そう言って、ピョンピョンと跳ねるリゥが再び戦闘態勢(ファイティングポーズ)をとる。

 そしてこれから、リゥ対アリハルの本当の戦いが始まる。

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