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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
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46話:我がある儘に

 声のする方へ向かったリゥとアキラ。最上層である1層から階段を降り、低酸素の環境に苦しんでいたアキラも今では普段通り。明らかに下へと降りてきている。


「――ここが最下層……か?」


 二人の目の前に広がる、異様な空間。

 洞窟のように声が響くその空間は、階段から漏れる光に照らされて漸く数歩先が見えるほど。そこでリゥはアキラの手をしっかりと握り、アキラもまたリゥの手を握る。


「誰……?」


「「――!?」」


 暗闇の奥から聞こえる声に、リゥとアキラは息を呑む。しかし、驚いた理由は声がしたからというだけではない。奥から聞こえたその声に、二人はしっかりと聞き覚えがあったのだ。

 そして二人は声のした方を見て、ぐっと目を凝らす。


「アイ、か?」


「なんで、僕の名前……ぁ」


「思い出してくれたか? あの日のファクトリーでの……まぁ一方的だったが、その約束を果たしに来たぜ」


 相手の顔どころか、人影すら見えない現状。

 お互いに顔が見えるまで近付きたいところだが、リゥとしてはアイのそばを離れられない。かと言って、何も考えずに暗闇に入れば危険がある。

 そう考えてるうちに、暗闇の中から足音が近付いてくる。そしてだんだんと人影がはっきりとしてきて、アイが姿を現す。


「さっき、神様って言ってたよな。いるかも分からない神に縋りたいくらい、困ってんだよな。――でも、この世に神はいない。だから、お前の神は俺がやるぜ。アイ」


「――っ、帰って、ください……僕がここから逃げたら、お兄ちゃんが……お母さんが……!」


 アイがここに来たのは、兄や母のためであり、自分のためではない。もしも自分のためであるなら、アイは喜んでリゥの手をとるだろう。

 しかし、それは許されない。アイが逃げてしまえば、あの夜に別れた母に、アイのために邪陰郷へ入った兄に、迷惑をかけてしまう。

 ここでの仕事を全うして帰らなければ、意味が無いのだ。


 とはいえ、リゥもアイを連れ出さなければ意味が無い。

 過去、十二人衆を初めとした沢山の人々を救ってきたリゥ。それは今回のアイも、例外にはしない。


「お前の兄貴――アリトとは、もう既に確認を得てる。アリトのやつも、お前がここから逃げることを望んでるよ」


「お兄ちゃん……が?」


「ああ、だからな? 兄貴の為を思うなら、ここでお前が逃げてやった方がいい。そもそも、この支部を潰せばアリトも解放されるだろ?」


 リゥとアリトは、今までに面識があった訳では無い。邪陰郷が動いたのも前世のリゥが他界してからであり、その後にもアリトと会う暇はない。

 しかし、2層でシロたちと別れる際、リゥとアリトはたしかに繋がった。リゥとアリトがなぜ繋がったのか、それは本人たちでさえ分かってはいない。

 それでも、アイを助けたいという思いは双方の間で合致し、アリトはアイのことを任せた。その想いを託されたリゥは、ここで助けなければならないのだ。


「でも、みんな、強い……」


「強いのは、なにもアリウムたちに限ったことじゃねーよ。この塔には、俺の他に四天王が二人、天使が一人。そして何より、俺の自慢の十二人衆が全員揃ってんだ。一番最初に別れたゲンなんかは、もう決着をつけてる頃だろうよ」


 目線を落とすアイの不安は、やはりそう簡単に尽きるものでは無い。それはリゥにも分かっていることであり、だからこそ全てを話そうとする。

 人を不安にさせる原因は、無知や思い込みが大きい。それを知っていれば不安にならなくて済むことも、それ一つを知らないだけで無数の不安が覆う。


 つまり不安を搔き消すには、プラスになる情報を与えればいい。

 アリウムらが強いと思われているのならば、それ以上に強い者がいると教えればいい。

 そうすれば、アイの中から一つの不安要素が消える。


 それを繰り返して不安を最小限にすることが、今のリゥがやるべき事。そのための会話をするために、リゥは言葉を繋げようとした。


 その時――、


「――ええ、たしかに決着は着いたかもネ」


「――ッ!? お前は!」


「邪陰郷第6支部4層の待人、アリハルちゃんでーす! 残念ながら、アイくんはまだ渡せませーん」


 ――リゥとアキラの目に映ったのは、突如としてアイの後ろに現れた幼女の姿。その姿は、この第6支部内で見たことのある人物――アリハルの容姿そのものだ。

 口調や素振りも明らかにアリハルのもので、ほぼ100%本人であろう。

 しかし、だからこそ、解せない。


 目の前にいるアリハルが本物ならば――4層の待人本人ならば、何故、ここにいるのか。


「なんで、お前が……」


「そんなの決まってるでしょー? ワタシがー、あのおじさんをー」


「ゲンを倒せなくて逃げて来た、か。なるほどな。それなら解せるわ」


「ちょっ!? なんでワタシが逃げて来ないといけないのよ!」


 目を見開いて驚きを露わにするリゥに対し、煽るように語尾を伸ばして喋るアリハル。が、それだけではリゥのペースは崩せない。直ぐに素に戻り、リゥはアリハルのセリフを途中で断ち切る。

 そんなリゥにアリハルは声を大きくし、頬を僅かに赤らめる。


「なんでか? そんなの決まってるだろ。お前がゲンに勝てるわけがねぇ。それだけだ」


「なんでそう決めつけるの? ワタシの強さ、お兄さんには分からないわよネ?」


「たしかに、お前の強さは知らねぇ。けど、俺とゲンの強さは知ってる」


「何が言いたいの……」


 発言の意図が分からないリゥに、未だペースを取り戻せないアリハル。それでもリゥのペースには流されまいと、呼吸を整えてから落ち着いた口調を取り戻す。

 そして相手が誰であろうと自分のペースを崩さないリゥは、ピンと人差し指を立てて堂々と話を続ける。


「つまり、現状でゲンは俺よりも遥かに強い。そんなゲンがお前に負けたら、俺の勝ち目は無いに等しい。――と、するとだ。俺の、アキラとアイを連れて聖陽郷に生還するって目標が達成できない」


「それがなんだって言うのよ……その通りじゃない」


「なーにを言っている? そんなことあるわけがないだろう? アキラや十二人衆に加えてアイを仲間にする。そしてショタがまた一人増えて、現状のショタハーレムがまた一段と活性化するんだ。あ、この場合のハーレムは人数の多さを表すだけな。まぁ確かにキャッキャウフフも出来れば望むが、未だ純粋なショタが多くてな。まぁそんな純粋さに惹かれて好んだってのもあるけど、純粋じゃなくても好むことはある。寧ろそっちでも大歓迎だ。ただそんなショタが現状で少ないってだけ。だから今はブロマンスに近いんだが、それでもショタに囲まれればそれだけでハーレムだ。ハーレムを作るのに多くて困ることは無いし、アイみたいな大人しくて気弱な感じのショタが今いないからな。傍で一緒にいてあげて頑張るショタを愛でるのもハーレムを実現させた者の特権だろう。自分のモノではないショタが自分の近くにいる。物ではなくしっかりとした意思のある人だからこそ、成長や経過――その過程を見ることが出来る。身近にいる沢山のショタが俺の目の届く範囲でゆっくりでも成長していく。そしてそれを特等席で見ることが出来る。さらにその手助けでさえもできる。――その状況を作るために、俺がここで負けるなんてあっちゃァならねぇ」


 口調を変えたリゥは、一言も噛まず、一言も間違えず、一言も躊躇わず、まるで数時間練習してきたかのように、つらつらと言葉を並べる。

 並べた言葉には色々とツッコミどころが満載だが、そんなつっこみたい気持ちをアキラはぐっと抑える。

 そしてリゥは最後にスーッと息を吸い、呼吸をピタリと止めた後に再び言葉を繋げる。


「――つまり! ここから帰らねぇといけない俺は! お前には負けられん! よって! お前が俺より強いことなんて、有り得てはならん! だから! お前はゲンより弱い! そういうことだ! ――いや! そういうことじゃないとダメだ!」


 バンと両腕を広げ、ピンとアリハルを指さし、パチンと指を鳴らす。

 大きく派手な動きを付けたリゥの言葉には、かっこよさはともかくとして迫力だけはあった。そしてその迫力が、他者に″なるほど″という理解を促す。


「なっ、何を言ってるの……! そんなの、そっちの願いじゃない! 証拠もなければ推測にさえならない! そうじゃないといけないって、わがままなだけじゃない!」


「当たり前だぁ!! わがままと言うのは我儘と書く! 我とは″己″のことを示し、儘とは″そうある通り″という意味を持つ! つまり! わがままというのは己のある通り! 己のままを主張していいのは、強者の特権! だから! 強者である俺の特権なんだ! 分かったかぁ!?」


 なんとも自己中心的な見解を述べるリゥに、再び声を荒らげてしまうアリハル。

 そして熱が入ったリゥも声を大きくし、一つ前よりも一回り大きな動作を加えながら話す。

 そんなリゥに押され、アリハルは数歩後退り。前よりも一回り小さくなったようなアリハルに対し、リゥの迫力と威圧感は数段増している。


「――てことで、悪いがお前は倒させてもらう。後輩の前で、好きになった相手の前で、無様な醜態は晒せねぇからな」


「いきなり変わるんだから、やりずらいわネ……でも、ワタシも仕事は失敗できないの。あなたには、ここで落ちてもらうわ」


 明らかな闘志を燃やす二人に対し、その場の空気に乗れないアキラとアイ。そんな二人に目を向け、リゥは二人の手を取る。


「アキラとアイは、そこの隅でじっとしててくれ。あいつを倒した後、アイは俺らと上に上がってもらう。それでいいな?」


「でも、僕が逃げたら、お母さんが……」


「――アイ、現実から目を逸らすな。お前のその()があれば、分かっていることだろう?」


 リゥの提案に、未だ頷くことの出来ないアイ。アイがこの場から逃げることをアリトが望んでいたとしても、それが母親のためになるかは分からない。

 精神的にもまだまだ幼いアイは、兄の真似をすることで精一杯。そのために、その他の解決策を見出すことが出来ないのだ。

 そうして頭を悩ませるアイの両肩に、リゥがポンと手を置く。そして目線を合わせるように腰を落とした直後、リゥの目付きが変わった。


「そ、それは……でも、そんな……お母さんは……僕は、お母さんが……!」


「たしかに、まだまだ幼いアイにとっては信じたくないことかもしれない。でも、いつかはそれを認めないと行けない日が来る。現実は己の影であり、日の照るところに出れば必ず己に付きまとう。その影を晴らすには、自分自身が輝かなければならない。己に取り付く影を晴らすために、アイ自身が輝くんだ。そのためにまずは、現実に目を向けろ。そしてそれを受け入れろ。受け切れなかったならば頼れ。そうして人は、大人になっていく」


 数分前とは打って変わって、リゥの真剣な眼差しがアイの瞳を射る。そしてアイもその視線から目を外すことは出来ず、まるでお互いの瞳が繋がれたかのように、目を合わせ続ける。


「でも、これ以上、お兄ちゃんには……」


「何も、家族だけに頼ろうとしなくていい。家族だけが、アイを助けてくれるわけじゃない。今から俺はお前を助ける。だから、俺を頼れ。頼って、縋って、泣きついて、言葉に出来てなかったもん全てをぶつけてみろ。――その歳で、我慢なんかしてんじゃねぇよ」


「――っ! おにい、さん……! 僕、お母さんが、お母さんが、お母さんが……! ずっと一人で、お兄ちゃんとも会えなくて! 失敗したら怒られて……! 逃げたくても、逃げられなくて……!」


 アイの肩から手を離したリゥは、その手をアイの頭に廻す。そしてアイの頭を自分の胸に押し当てるように抱き、優しく頭を撫でる。

 そんなリゥにアイもまた抱きつき、アイの目からも遂に涙が零れる。


 ベイに連れられてから誰に頼ることも無く、ただただ我慢し続けたアイ。弱音を吐くことも、涙を流すことも我慢し、アイは兄との再会のために頑張った。

 しかし、リゥがアイへ放った言葉。その言葉がアイの琴線に触れ、我慢してきた涙を漸く流すことができた。


「お前はよくやってたよ。ファクトリーでも、俺ら四天王を前にして一歩も引こうとしなかなかった。辛い現実を受け入れたくない気持ちも、よく分かる。でも、それを人は受け入れなきゃいけない。その辛さも、よく分かる。だから、これからは俺を頼れ。苦しくなった時、それを俺に話せばいい。辛くなった時、それを俺にぶつければいい。悲しくなった時、俺のところで泣けばいい。お前はまだまだ、年上を頼っていいんだよ」


 泣きじゃくるアイの頭を優しく撫で続け、時々嗚咽すれば背中を摩る。そして耳元で囁き、アイの苦しみを一つ一つ解消していく。

 優しさや癒しを味わえなかった数年間の苦しみを、今の一時で全て帳消しにするリゥ。


 そしてめいっぱい泣くことのできたアイは、安心したかのようにスヤスヤと眠る。


「長い間、お疲れ様。今日からお前は、晴れて自由の身だ。アイを縛っていた呪縛は、全部俺が解いてやる。そのまま、安心して寝てな」


 涙のついている、穏やかな寝顔。そんなアイの顔をタオルで拭い、起こさないようにゆっくり抱き上げる。

 そしてお姫様抱っこのように抱いたままアキラの元へ歩き、アキラの横にアイを座らせる。


「――アキラ、アイを頼む。アキラもアイも、俺が守ってやるからな」


「うん、分かってる。信じてくらからね、リゥくん」


「おう」


 リゥからアイを託され、アキラはアイの手を握る。

 龍翔といる時も、リゥといる時も、どの状況でもほとんど最年少だったアキラ。毎回リゥに可愛がられていたアキラが、ここに来て初めて年下を託される。


 握った手の先にあるアイの寝顔がとても可愛く思え、アキラもリゥの気持ちを僅かに理解出来た。

 しかしそれと同時に、責任感をも実感させられる。

 後輩の面倒を見ていた龍翔が、どれほどの責任感を持って行動していたのか。その責任がどれほどの重さだったのか。今のアキラに全てを把握することは不可能だ。

 とはいえ、それでも多少は理解出来る。アキラという存在を背負っているリゥは、今のアキラと比べ物にならないほどの責任感を持っているのだ。


 そしてそれが理解出来たからこそ、今のリゥの後ろ姿がいつもよりかっこよく見える。


「待たせたな」


「本当よネ。あの子の何がいいのかワタシには分からないけど、まぁいいわ。ワタシがあなたを倒すのに必要なわけじゃないもの」


「お前が俺に倒されるのに、必要じゃないだろ」


 お互いに近付き、双方間の距離は腕を伸ばせば届く範囲までになった。

 そしてその距離で睨み合い、敵意と闘志をぶつけ合う。


「聖陽郷 四天王が一人――リゥ」


「邪陰郷第6支部 幹部、アリハル」


 落ち着いた二人の声が、各々の肩書きとその名を名乗る。

 そしてお互いが名乗り終えた直後、間髪入れずに攻撃を仕掛ける。

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