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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
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45話:赤い漆黒

 暗く、ただただ暗く、手を伸ばせばそれすら見えないほど暗い空間。土の臭いが強く、床も壁もゴツゴツしていて、天井も低い。そんな洞窟のような空間に、二つの心音だけが響く。


 その中では、喋ることはもちろん、動いてガサガサと音を立てることも出来ない。呼吸をするにも音を立てないように慎重になり、今だけは心臓でさえ止まってほしいほど。

 しかし、止まってほしい心臓はそんなことお構い無し。時が経つに連れ、心音はどんどんと大きくなる。


「お、かあ、さん……」


「しっ! 喋っちゃダメ!」


「で、でもぉ……」


 隣にいる母に、恐怖心を我慢できず話しかけてしまう少年。真横にいながらも顔の見えない少年に、母親は小声で話しながら指を立てて口に当てる。

 しかし、怯える少年はそれだけで落ち着くことが出来ない。それと言うのも、少年と母親とでは受ける恐怖の度合いが違う。

 それは年齢などの問題だけではなく、もっと根本的に違うのだ。


「また、なにか見えたのね?」


「う、うん……今、すごい近く。家の近くまで来てる……」


「――ッ!? それなら静かにしてないとダメじゃない! お願いだから、頑張って?」


 話すまいとしていても、その話を続けてしまう母子。そして少年の言葉を聞いた母親は、今までの僅かな余裕を一瞬で失う。


 ***   ***   ***   ***


『この辺じゃねぇのかよ……ったく、隠れやがって。なーんで俺が探さなきゃなんねぇかな』


 頭をボリボリと掻きながら、愚痴を零す男。太陽が完全に落ち、夜も更けた一つの集落に、その男は現れた。

 太陽が落ち、屋外を照らすものは村の灯しや月ほどしかないはずの集落。そんな集落で何の不自由も感じさせず、男はズンズンと歩を進める。

 強いて言うならば、多少熱く、足場が悪い。しかしその原因は、仕方の無いこと。何故ならば――、


『ちょっとやりすぎたか? はぁ、めんどくせ』


 男が歩く、木材や石材などで足場の悪い道。その原因を作ったのは、他でもないその男なのだから。


『かったりぃから燃やしてみたけど、流石に家にはいねぇか……ってーことは、地下かどっかにいんのかね?』


 足場の悪い道に、汗を流すほどの熱。その原因は、男が手始めに放った炎にある。

 男は、この集落に着いた途端に炎を放ったのだ。


『おいガキ。とっとと出てこねぇとこの地一帯吹き飛ばすぞ?』


 ***   ***   ***   ***


「お母さん、今……」


「分かってる。でも、出ていっちゃダメ。あなたまで、失いたくないの」


 外から聞こえる声に怯えながら、少年は母親の手を強く握る。そんな自分の子どもを抱き寄せてあげたいという気持ちを押し殺し、母親は小さい声でそっと言葉を返す。

 しかし、その声を発することさえ我慢すればよかったと、母親は直ぐに後悔する。

 何かが壊される破壊音が響き、狭く暗かった室内が照らされる。


「――ッ!?」


「ああ、こんな所にいやがったのか。ったく、手間かけさせやがってよ。おら、とっとと出てこいよ、ガキ」


 恐怖に怯える母子が身を潜めていたのは、自宅の庭にある軒下から入れる地下。とはいえ、そんな立派に出来たものではない。軒下に空洞を掘り、簡易的な入口を付けただけのものだ。


 そしてそんな簡易的な入口を無視し、上から降りかかるようにして現れた男。男は母親に抱きつく少年を指さし、不機嫌そうな形相で母子を睨む。


「この子は、私がお腹を痛めて産んだ子なの! あなた達のような人に渡すつもりはないわ。帰ってちょうだい」


「あー、悪ぃんだけどよ。俺はそこのガキを連れてかねーといけねぇの。そっちのつもりとか知らねぇから」


 目の前に現れた男に、母親は少年の頭を抱く。そして睨み返した少年の母親に対し、男も冷たく蔑んだ瞳を向ける。


 男の目的は、母親に抱かれている少年を連れて行くこと。そのために母子の住む集落に時折足を運び、少年を探す。

 今までは少し探して見つからなければ、すぐ帰っていた男。それが今夜は、集落に火をつけて本格的に探し出したのだ。


「これが、あなたの見ていた男なのね?」


 目の前の男を指さし、母親は少年にそう尋ねる。

 男が来る時はいつも母親のそばにいて、母子はずっと一緒に隠れていた。つまり、母親が見ていない顔ならば少年も知らないはずだ。

 しかし母親の質問に、少年はコクリと頷く。


「見てた……そうか、噂は本当だったんだな。『魔眼』の持ち主、アイくんよぉ……」


 ――『魔眼』


 その言葉を聞いた瞬間、少年――アイの目が赤黒く輝く。


 『魔眼』とは、遥か遠くまで見通せる『遠眼』や、物を細かく捉える『細眼』、真実を見透す『真眼』等、その他多数の『眼』に纏わる能力『特異眼』の中でも最高位の能力。そんな『魔眼』の能力は、その全てを扱える眼なのだ。

 そしてその持ち主が、他でもないアイであると。男はそう言った。


「アイの『眼』は、あなた達のような人のためにあるんじゃないの。金輪際、私の子に近づかないで」


「なら、おまえはその能力をフルに使えてんのか? その赤黒()で、いろんなヤツらに嫌われてんじゃねぇか。今回だって、おまえら母子の所為だって言われてんだぞ」


「それはあなた達の所為じゃない! 私たちはそんなの望んでない。それにこの眼で困っていたとしても、いつかはこの子を大切に思ってくれる人が現れる。この子の眼は、この子を――アイを大切に思ってくれる人のためにあるの」


「そんないつ現れるかもわからねぇ、現れねぇかもしれねぇやつを待つのか? そんな下らねぇことしてねぇで、こっちに来た方が遥かに楽だぞ」


 母親は、自分の(魔眼)に苦しむアイの為に。

 男は、アイに宿っている(魔眼)の為に。


 双方が求めていることは、アイを自分の元に置いておくこと。


 それがアイのためか、アイの力のためか。それだけの違いである。


「お、母さん……」


「アイ、大丈夫。お母さんが、絶対に守ってあげるからね?」


「僕は……もう、いいよ」


「アイ、何を言って……」


「僕の所為で、この村のみんなが困ってる。お母さんも困らせるし、僕のこの眼があるから……だから、僕はここから出て行く。その人と一緒に、行くよ……」


 アイの言葉に、戸惑いを隠せない母親。驚きに目を丸くし、母親は絶句する。


 アイは、自分の眼で周囲の人々が迷惑しているのを、ずっと気にしていたのだ。


「そんなこと、許せるわけないでしょう!? お兄ちゃんを……アリトを失った今、あなたまで失いたくないの!」


「僕の所為でお兄ちゃんに迷惑かけたから! 今度はお母さんにまで迷惑かけたくないの! 僕が行けば、みんなに迷惑かからない。お兄ちゃんにも会えるし、大丈夫だから……」


 母親の傍から立ち上がり、男の方へ向かおうとするアイ。そんなアイの腕を引き、母親はアイを必死で引き止める。

 アイの兄であるアリトは、アイの代わりとして自ら男の元へ発った。そして今度は、アイまでもが自分の元から発とうとしている。それを許すまいと声を大にして叫ぶ母親の顔は、目から零れる涙で覆われている。

 しかし、アイも心から望んでいるわけではない。アイの年齢は、今年五歳になったばかりだ。まだまだ母親のそばにいるべき歳で、アイも母親からは離れたくない。

 それでも、母親にこれ以上の迷惑をかけたくない。そして兄であるアリト一人に、押し付けたくないのだ。


「お仕事頑張って、絶対にお母さんのところに戻ってくる。お兄ちゃんと一緒に、絶対に帰ってくる! だから、お願い……泣かないで……」


「私は、迷惑だなんて……お兄ちゃんも、そんなこと……」


「みんなに守ってもらってばっかりじゃ、僕が嫌なの! 僕はお兄ちゃんに守られたから、僕がお母さんを守るの!」


 アイと母を守るために、自らを犠牲に捧げた兄――アリト。

 アリトがいない時は、アイが母親を守る。アリトと別れる際、アイはアリトとそんな約束したのだ。

 そして今が、母親を守る時。アリトであれば、他の守り方があったかもしれない。

 しかし、アイにはこれ以外の守り方が分からない。だから、兄であるアリトと同じように自らを犠牲にする。


「別れの挨拶は済んだかよ? さっさと行くぞ、面倒くせぇんだ」


「は、はい……じゃあ、お母さん、行ってくるね。これまで守ってくれてありがと。ずっとずっと、大好きだよ」


「アイ、待って……待って、待って――」


 いつの間にかアイを握っていた母の手が離れ、アイは男に近付く。

 そして、今まで守ってくれた母親に手を振り、アイは男の隣に立つ。すると男はアイの腕を握り、壊した穴から地上に出る。


「俺は邪陰郷第6支部の幹部、ベイ。こいつの兄もそこにいる。俺らの目的が済んだら、返してやるよ。――まぁ、死ななければの話だがな」


 地上に出た男は、自分の素性を明かす。今までに何も自分のことを語らなかった男――ベイが、この時初めて自分を語ったのだ。

 そして最後まで一切の笑みを浮かべず、鋭い眼光をそのままにしてその場を離れる。


 そんなベイの言葉を聞いた母は慌てて外に飛び出すが、もう二人は見えるところにいない。

 辺り一面が炎で覆われている中、アイとアリトの母親は一人で静かに涙を流す。

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