44話:目的の道中
1層で別れ、十二人衆たちと別行動を取ったリゥとアキラ。
しかし、椅子の奥に隠されていた部屋には何も無く、その部屋から続いているものは下に続いている階段のみ。
このまま引き返し十二人衆との合流も考えたが、それではリゥの目的を果たせない。そして目の前にある階段は、リゥたちが上がってきた階段とは違う。
頭の中に浮かぶ条件全てを次々と潰し、リゥは先に進む――下に降りる選択をした。
「これ、どのくらい降りてるの?」
「さぁなぁ……でもまぁ、2層に繋がってないのは確かっしょ。地下とか行くんかな」
階段を下っている途中、リゥに背負われているアキラがポツリと呟く。そんなアキラの言葉に、リゥもまた首を傾げる。
これまでの階段は、直接1層まで続く階段はなかった。階段を上り切った先に角層の入口があり、その反対側に上へ上がるための階段がある形だ。
よって5層から2層までは、全ての層を経由しなければ上には上がれない。が、今降りている階段にはそれがない。既に歩いた距離を思えば、2層を通り越して3層に着いてもいいほどに降りたはずだ。
そこで角層にぶつからないのであれば、地下があると考えるのが妥当だろう。
「それより、リゥくんの目的って何? 」
「ん? あぁ……ここに来る前、ファクトリーにいた頃のことは覚えているだろう? 邪陰郷の、黒鴉だかなんだかが攻めてきた時のことだ」
「うん。その後、リゥくんの家にギルっていう人も来たよね」
リゥたちが今、十二人衆たちと別行動を取っている理由。それは全て、リゥが自分の目的のために動こうとしていることにある。
しかしその目的がどういうものなのか。十二人衆は、その目的について聞こうとしていなかった。
「そうだ。んでもって、その二回の襲撃どちらともにいたやつが二人いただろ?」
「たしか、ベイって言う人と、アイっていう子だよね? でも、その二人を含めた二人は全員……」
「んや、全員じゃない。ベイの方は、たしかに倒した。俺がギルと戦ってる間にヴォルフたちがな。んでもって、そのほとんどが地下牢に繋がれてる。それはギルも例外じゃない」
「じゃあ、アイって子は?」
ベイ率いる黒鴉の襲撃後、リゥの家を襲ったギル班。統率者であるギルとリゥが戦っている間、その他の残党はヴォルフたちリゥのペットが相手をした。
そしてヴォルフたちに倒された者は、聖陽郷内にある地下牢に入れられている。
しかし、リゥの口からはアイという名前が出てこない。それは、忘れているようでも、必要じゃないと省いているようでもない。
敢えて、その名前を言っていないかのように、意図的に避けているのだ。
「――アイは、捕まえてない。倒してもなければ、手すら出してない。一切の攻撃を加えず、そのまま逃がした」
「逃がしたって、どういう……?」
「そのままだよ。俺のペットの中に、キクって名前のチーターっぽいのがいる。そのキクに頼んで、隙を見て逃がしてもらったんだ」
その知られざる事実を聞き、アキラは真横にあるリゥの顔を凝視する。
その横顔は、決して冗談などを言っている表情ではない。まして、自分の行いを悔いているわけでもない。
自分の行いが正しいと考え、それを信じている様子だ。
「なんで、そんなこと……? そんなことしたら、他の人に怒られちゃうんじゃ?」
「それは問題ない。ゴウたちの目の前で宣言してるし、このことはほとんどが知ってる。十二人衆がその目的を聞かなかったのも、必死になって俺を止めたのも、その目的がわかってるからだ」
ベイとアイが、初めてファクトリーを襲ったとき。リゥはゴウたちの前で、″アイを助ける″と宣言していた。
それならば、リゥの目的を把握していてもおかしくはない。そして十二人衆が知っていた場合、あの慌てようで止めに入るのも納得出来る。
「たしかに、アイって子がどこにいるかなんて分からないし、誰といるかも分からない……だから、クラくんとかが必死になってたんだね」
「ああ、そうだな。これ以上アイツらを苦しませたくない。だからこそ、絶対に負けねぇし、絶対に失敗しねぇ」
別れる前、クラが見せた心配そうな顔。叫ぶクラは若干涙ぐんでいて、心の底から心配しているようだった。
そんなクラを初めとした、十二人衆の顔が脳裏を過る。
「リゥくんがそこまでやるのは……そこまでみんなのことを想うのは……なんで?」
「俺がここまでやるのは、それをやりたいからだな。みんなのことを想うのは、みんなが好きだからだ。十二人衆は特に、弟みたいなもんだった。アイツらが小さい頃から、ずっと一緒にいたからなー」
「十二人衆のみんなも、リゥくんのことお兄ちゃんって呼ぶよね。呼び方はみんな違うし、グラくんだけはリゥちーだけど」
「アキラも兄貴要素入れて呼んでもいいんやで? リゥおにーちゃんとか、その辺? あ、アイを助けたらアイにも兄貴要素含んで呼んでもらおっかなー。結構なショタだったし、気弱な感じも可愛いからな。リゥおにいさまとか、その辺? あいや、ここはやっぱりもう少し攻めて……」
アイを見つける前から、事後妄想に浸るリゥ。そんな妄想を膨らませるリゥはかなり楽しそうで、その瞬間だけは今の緊張を忘れているようだった。
しかしそんなリゥの背中では、アキラの表情が僅かに曇る。
「リゥくんは、可愛かったら誰でも……」
「――呼び方も定まらな……ん? 今なんて言った?」
「いや、ううん。なんでもない」
「えー、それずるー」
「いいから! 速く行くの!」
呼び方についての妄想を膨らませ、色々と候補を上げていくリゥ。そんなリゥに聞こえるかどうかの小声で、アキラはボソッと心の声を漏らす。
その声に首を傾げるが、アキラとしては伝えたかった内容ではない。今のは意図せず出てしまっただけであり、なんとか誤魔化そうとする。
そうしてリゥの首を前に向け、背負われているだけのアキラが指示を出す。
「走ってるのは俺なのになー……」
「リゥくんがおんぶしてくれるって言ったんでしょ。俺はなんにも言ってなかったもん」
「ぐぬ……あーあ、こんなことならアキラの服を半ズボンにしとけば良かったなぁ……」
「なんで半ズボン?」
はぁ、とため息をつくリゥに、アキラは顔を覗き込むようにして首を傾げる。
「おんぶしてる時って、支えるために太ももの辺り持ってるでしょ? アキラに半ズボン履かせとけば、直接アキラの太もも体感出来たなぁって」
「そこまで短いのなんて履かないし! てか、リゥくんはどういう基準で俺の服選んでんの!?」
アキラにとって言われるだけでも恥ずかしいことを、全く恥らわずペラペラと答えるリゥ。そんなリゥの言葉に、アキラの方が赤面してしまう。
「そこまで短くなくても、走ってるうちに捲れるだろうから。服選ぶ基準はー、そうだなぁ……例えば今日の服は、森で木の枝とかに引っかかるかもしれんから、長袖長ズボンでアキラの肌が傷つかないようにした。アキラの体に傷は似合わないかんね」
「それは真面目なんだね……で、本音は?」
「邪陰郷のヤツらなんかに、アキラの綺麗で可愛いくてエロい肌を見せてやる義理はねぇ! まぁあとは、森のジメッとした空気なら、長袖長ズボンで汗かいて服をパタパタする。その時に捲れた服から覗けるアキラのお腹を堪能したかった」
真面目そうな理由を並べるリゥに、本音を尋ねるアキラ。アキラの経験上、リゥに「本音は?」と尋ねたあとは、よほどのことがない限り全てを話す。
よって、アキラはリゥの話に違和感を持った時はダメ元でも毎回使うことにしているのだ。そして案の定、一度は隠そうとした本音をリゥは今日もペラペラと打ち明ける。
「一個目と二個目でちょっと矛盾してるし! もうリゥくんが選んだ服着ないから! 今度からは自分で選びますー!」
「え! それはないってば! まだまだアキラに着せたい服が山ほど……」
「じゃーまともだったら着てあげますー!」
「なら断言して約束もしよう。まともな服の方が少ない!」
「ならダメだよ!!」
いっそのこと清々しいほどに断言するリゥ。そんなリゥの言葉に間髪入れず、アキラもまた即答する。
「もー……いいもん。そんなに言うなら、アキラが寝てる間に色々やるから」
「――っ! 分かった、分かったよ! 着るってば! 着るから寝てる間とかやめて!」
意味深な笑みを浮かべるリゥに、体を揺らして反抗するアキラ。
リゥは有言実行することが多く、脅しだけの意味でものを言うことが少ない。そして拒否しなければ、大体のことが実行されるのだ。
「んまぁ、着てくれるなら俺はそれでもいいけどー」
「うう……その代わり、リゥくんの前でだけ、だからね」
「え、なにそれ……俺だけ特別? ほうほう……唆りますねそれ」
顔を赤らめ、目を合わせまいと俯くアキラ。
そして普段の調子を崩さないリゥの表情は、再びニヤけ顔に戻る。
「だ、だって! ――リゥくんはその……他の人に見られたらとか、考えないの……?」
リゥの放った言葉に対し、前半から後半にかけ段々と声が小さくなるアキラ。そしてリゥの首周りにかけられていたアキラの手に、僅かな力が入ったのを感じた。
そんなアキラの言動に、リゥの目がピクリと動く。
普段ならば確実に否定してくるところだが、今日のアキラは何かが違う。
いつもより少しだけ素直で、不安そうな顔をすることが多い。
「そりゃまぁ思うよ? アキラは俺だけのもんにしたいなーとかも思うけど、可愛いアキラを自慢したいなーとも思う。でも、アキラが嫌ならそれでいーよ。それでアキラの可愛さを独り占め出来るなら、喜んでそうしましょ」
「別に、そういうことじゃないけど……」
リゥは元々、独占欲が無いわけではない。寧ろ人一倍強い方で、意外と嫉妬深いこともある。が、それ以上に自慢することが大好きだ。
自己表現や自己アピールの多いリゥは、龍翔のときから自分の話や自慢が多い。一度火がつけば、止められない限り延々と話している。
そしてその自慢に、アキラを含めた後輩が入ることも多々ある。
『んで……』
「ん? リゥくん、今、なんか言った?」
「俺? いや、なんも言ってないと思うけど?」
言葉の途中で、少し口篭ったアキラ。そんな中で微かな声が耳に入り、アキラは話を変える。
しかしその声は、リゥのものでは無い。確認こそは取ったものの、明らかにリゥの声音とは違う。そして場所も、もっと離れた場所から聞こえたように感じた。
『――みさま……い、します……』
「ほら! やっぱりなんか言ってるって!」
「――うん、そうだな。この先に誰かいるのは確かだ。取り敢えず行くぞ」
声が聞こえるとすれば、それはリゥが向かっている先。つまり、階段の下からということになる。
そこに待つものがリゥの目的ならば、少しでも急ぎたい。
「あ、うん……大丈夫、だよね?」
「心配すんなって。万全の状態で元気ハツラツって言ったら嘘になるけど、こう見えても四天王だぜ? アキラに痛い思いはさせねーよ。さっきも言っただろ? アキラの肌に傷がつくのは嫌だって」
心配そうな顔を浮かべるアキラに、リゥは胸を叩いて自信満々な様子。
普段の言動や会話で忘れがちになるが、リゥはたしかに四天王の一人。ましてや、オールラウンダーにして十二人衆の創設者。そして四天王最強の呼び声もあるとされる程の実力者だったのだ。
そしてその戦闘技術も、ここ数ヶ月で何回か目の当たりにしてきた。アキラの目に映っていた戦闘中のリゥは、物凄くかっこよく、輝いていた。
まるでそれが、四天王としての本当のリゥであるかのように。
「何があっても守ってやるから、安心して俺にくっついてな。怖くても、一人で逃げようとかしなくていいかんね」
「分かってる。リゥくんが守ってくれるもんね。俺、リゥくんのこと信じてるからね?」
「おう! 信じて頼って信頼しまくってくれや! 俺は四天王である前に、アキラの先輩だからな!」
アキラを背中から下ろし、目線を合わせながらアキラの肩に手を置くリゥ。そしてニカッと笑い、リゥはそのままウインクする。
そしてアキラの手を握り、声がしたであろう階下へと向かう。




