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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
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43話:驚愕の連鎖

 当時の最終目標とされていた、邪陰郷第6支部の1層。リゥとアキラがいなくなったその場で、十二人衆は数年ぶりに全員での戦闘を開始した。


 今まで、個人や数人で戦っていたことの多い十二人衆。各々個性が強く、様々な場面で活躍できる存在だとされていた。

 しかしその反面で、性格上のぶつかり合いも多くある。そのため、それぞれの分野や相性で別れることが多かったのだ。


 例えば、レツとクラ。二人は十二人衆の中でも中心となる存在だが、その在り方が違う。

 レツは常に集団の最前線に立ち、突っ走って行くタイプだ。その持ち前の闘志で仲間を奮い立たせ、チーム全体の士気を高める。

 そしてそんなレツと対象的な存在、クラ。クラは常に集団の中心に立ち、引っ張って行くタイプだ。その持ち前の冷静さで仲間の結束力を高め、チーム全体の連携を高める。

 どちらともリーダーとして評価される素質だったが、その方法の違いからぶつかることが多々あった。

 現に、リゥが命を落とした時もその二人はぶつかった。が、今は違う。レツも感情に左右されることが少なくなり、クラも情熱的になることが多くなった。

 今回のリゥとの会話が、その表れだろう。


「俺様たちが全員で戦うなんて、どんぐらいぶりだよ?」


「ざっと数年ってとこでしょうね。今までは連携が取り難かったですが、今回はそうも言ってられません」


「僕たちが早く終わらせて、お兄ちゃんの援護に行かないと!」


 先に攻撃を仕掛けたネイとセトに続き、次々と飛び出す十二人衆。そんな彼らからは、嘗てのような蟠りも見えない。同じ一つの目標へと進むべく、今、思いを一つにしているのだ。


「あの二人を追う……それはたしかに、アタシたちにも同じこと……ねぁ!?」


「――岩柱(ピラー)。テメェらとは理由が違ぇだろ。オレらの邪魔すんな」


 セトの虫をなんとか振り切り、集団からいち早く離れるアリウム。そんなアリウムが、一本の岩によって宙に打ち上げられる。

 そして宙に舞ったアリウムに、上から話しかける声。声の主は握った拳を高々と振り上げ、そのままアリウムを目がけて振り下ろす。


「――イル!」


「雑魚なら今ので仕留められたんだけどな。支部長クラスじゃそうもいかねぇか」


 自分の真下に目を向けながら、ため息混じりにボソッと呟く少年――イル。

 とても鋭く、冷たい残酷さを感じるイルの瞳。その瞳に映っているのは、今の攻撃を物ともしないアリウムの姿だ。

 拳を叩き付けられ、地面と衝突する直前。丸めた足を抱きながら宙で体を回し、そのまま衝撃を和らげて着地したのだ。


「レディに不意打ちなんて、なかなか酷いことするじゃない。あなた、それでも男?」


「オレが男なのには違いねぇが、戦いが始まった最中に不意打ちとか言ってんじゃねぇよ。テメェが勝手に油断してただけだろ」


 立ち上がったアリウムは、真上にいたイルを見上げる。そして彼への悪態を顕にし、鋭い目付きで睨み付ける。

 そんなアリウムの態度に、イルは一切表情を変えない。

 事実、この戦闘はリゥを先へ行かせるためのもの。リゥを行かせまいとアリウムたちが動き、その応戦を任せられた十二人衆。その戦闘の延長戦であるこの戦いは、既に始まっていたものだ。


「イルの言う通り、もうこの戦いは始まってます。――波打(アクアテール)


「んなっ!?」


 イルの言葉に歯噛みしていると、新たな声と共に大量の水がアリウムに襲いかかる。

 それに気付いた瞬間、アリウムは腕を交差させて防御を試みる。が、遅いうえに意味が無い。

 防ごうとした腕よりも遥かに大きい水の塊は、アリウムの小さいからだを飲み込むようにして叩き付けられる。


「お? これってオイラも乗っていい感じ? いいよね? うん、いいと思う。ってことで……はい! 電撃(ショック)!」


 アリウムを巻き込みながら、勢いよく床に叩きつけられた波。水しぶきをあげながら弾けたそれは、太陽光に照らされて輝き、場違い感のある幻想的な光景を映し出していた。

 しかし、そんな感動も束の間。その波の存在に、無邪気な十二人衆――ライが目を向けた。

 そして独り言のような自問自答を繰り返し、両の手のひらから電撃を走らせる。放たれた電撃は瞬く間にアリウムを襲う水に触れ、一気に広範囲に広がった。


「おい、誰もいいって言ってないだろ! あーったく! 土壁(ウォール)!!」


 そんなライの行動を見て、イルが大声で怒鳴る。


 ――それもそのはず。このままでは、範囲を拡大した電撃がイルたちをも襲う。

 そんな中で平気でいられるのは、張本人のライだけだ。


 そうはさせまいとイルは咄嗟に詠唱し、廓大する電撃を覆うようにドーム状の土壁を展開。アリウムや水までもを包み込み、イルはため息をつく。


「お前のあれは、直接的に直流にしろって言ってるだろ。拡散型の並列にするときは、オレらのいないところでやれ」


「ごめんなー! 久々ではしゃいじゃったのなー! でも、兄やを助けるんだから早い方がいいだろー?」


「あれで倒せてたんなら、もうオレが倒してんだよ……」


 安易な行動に走ったライを、イルは睨むようにして指摘する。

 そんなイルに、ライも手を合わせて素直に謝罪。しかし、ライはそこまで本気で謝っていない。

 終始脳天気なライの考えに、イルから二度目のため息が出る。


 そしてイルたちが目を向けた先――アリウムを包んだ土壁に罅が入り、弾けるように砕かれる。


「ああもう! 服がボロボロ! アリキはなにやってんの! 早くこっち来なさいよ!」


「オイラのビリビリ食らってノーダメ!? え、あり!? ありなの!? ずっこー!」


 アリウムを囲っていた土壁が完全に崩れ、土煙が舞う1層。その土煙の中から、不機嫌に愚痴をこぼすアリウムが出てくる。


 そんなアリウムに目を丸くし、ライもまた不機嫌に地団駄を踏む。


「申し訳ありません。遅ればせながら戻って参りました」



「――あ、すみませんです! ちょっとだけ油断したです……!」


「大丈夫だよ。固まってた方が、僕たちもやりやすいだろうしね」


 不機嫌に怒鳴り散らすアリウムに、ネイたちと交戦していたアリキが合流。そしてそれを追いかけるように、ネイたちも合流する。


「そう言えば、イオはさっきからなにやってんの? 全然参加してなくないか?」


「うぇ!? あ、バレた……? いや、なんか派手に戦ってたから、いいと思ったんね……いやでもね、戦えって言われたら戦うのね。だから、そんな、睨まないで、欲しい、の、ね……?」


「まぁまぁ、イオの消極的は今に始まったことじゃないからさ。それに、イオの能力はライみたいな巻き込みが多いし」


 イルを初めとし、スイやネイ、ライなどが積極的に戦っていた中、一切戦闘に干渉していなかったイオ。そんなイオにレツが声をかけ、イルが睨む。

 二人からの視線に小さくなるイオを庇うようにして、スイが割って入る。そんなスイの言葉に「たしかに」と頷くように納得し、二人は再びアリウムたちの方へ向き直る。


 そしてスイもイオに微笑み、イオの手を引きながらイルたちに近付く。


「んで、こっからが本番ってとこだな。早く仕留めたいんだけど、なんかいい方法ねぇの?」


「あなたたち、本当にアタシらを倒せると思ってるの? 今までの攻防で分からないの?」


「言っとくけど、俺様たちも全くもって本気じゃねぇかんな?」


 1層にいる十四人が全員集合したところで、手っ取り早く終わらせる方法を尋ねるイル。そんなイルにアリウムが呆れたようにため息をつき、嘲笑うようにして十二人衆たちを見下す。

 そんなアリウムにレツが突っかかり、同じことを返すように嘲笑う。


「んー……イオは観戦でもいい? ほら、イオのだとみんな巻き込んじゃうかもしれないのね……」


「ねぇイオ。ここでイオが活躍したら、お兄ちゃんも褒めてくれるんじゃない? 何かご褒美とか貰えるかもしれないよ?」


「ん!? ご褒美!? ――お兄からの、ご褒美……?」


 またしても消極的な態度をとるイオ。そんなイオの肩に手を置き、スイが説得に入る。

 スイの放った″リゥからのご褒美″という言葉に、イオの表情が一転。大きく開いた瞳を輝かせ、表情が一気に明るくなる。


「お兄からのご褒美! ならやる! イオ、頑張んのね! なら、えっと、みんなを巻き込まない感じの……あっ、あれ! ――利毒・増量(インクリース)


「は!? おい! 利毒って体に良い毒のことだったよな!? おまえ、何考えてんだ!?」


「あっはっはっ、これは傑作ね! アタシたちが怖くてアタシたちの味方でもする気になったの? それはいいわ、面白い。あなただけは見逃してあげる。こっちに来なさい」


 利毒を構成し、その毒をアリウムに向かって放つイオ。


 『利毒』とは、文字通り体に利のある毒のことだ。体にいい食べ物などにも微量毒素があるように、イオは体に良い毒を作ることが出来る。

 そして今回のものは、『増量(インクリース)』と呼ばれる利毒である。


 つまり今のイオの行動は、アリウムに利毒を与えただけの行動だ。

 そんなイオに憤慨し、怒声を上げるレツ。その表情は至って険しく、利毒の効果を知っている表れだ。

 そのやり取りを目の当たりにし、アリウムは機嫌を良くしたように笑う。そしてイオに向かって手招きし、イオのことを歓迎する。


「――イオが好きなのは、お兄なのね。そんな女の人に興味無いし、別に加勢したつもりもないのね。イオは、お兄のために戦うのね」


「は? いやでもお前、さっき利毒を……」


 手招きしたアリウムにそっぽを向き、イオは口を尖らせる。

 しかし、利毒を与える行為はその対象に加勢したも同然。その事実と、イオの主張。事実と主張の矛盾に、レツたちは納得がいかない。


「たしかに、増量(インクリース)は利毒の部類なのね。でも、どんなに体にいい毒だって多量摂取すれば単なる毒。どの食べ物にも致死量があるみたいに、利毒にも制限はある。だから、なんでもかんでも増やせばいいってわけじゃないのね」


「あなた、何を言って……ぐっ……かはっ!?」


「アリウム様!?」


「あ、もう効いてきたのね。これ、イオの見てた限りだと初めてまともなダメージ与えられたのね」


 イオの主張に、理解が追いつかないアリウム。そんなアリウムが、発言の最中に突然吐血。苦痛を顕にした表情で、その場に腹部を抱えて蹲る。

 そんなアリウムの様子に、アリキの表情も一変。現状、この出来事に表情を変えていないのは、イオただ一人だ。


「な、にを……?」


「今イオが増加させたのは、胃の中にある胃酸なのね。元々、胃酸は胃液の主成分の一つ。胃に入ってきた食べ物の消化をお手伝いしたり、細菌を殺菌する役目があんのね。でも、その胃酸が増えれば胃粘膜が溶ける。そーすると、()そのものを溶かし始めんのね」


「つ、つまりおまえは……アタシの胃酸を増やし、アタシの胃を溶かしていると……?」


「厳密に言えば、溶かしてるのはイオじゃないのね。溶かしてるのは、あくまでそっちの胃酸なのね。イオはただ、その原因を引き起こしただけなのね」


 蹲るアリウムと視線を合わせるように、膝を抱えてしゃがみこむイオ。消極的な戦闘員として知られていたイオの初めて見る能力に、十二人衆までもが驚きを隠せない。


 今まで、イルやスイ、ライたちの攻撃をものともしていなかったアリウムが、これほどまでに苦しんでいるのだ。


「このままだと、胃を溶かし切った胃酸は体内に溢れかえり、体全体を内側から溶かし始めんのね」


「イオのやつ、まじかよ……」


「まさか、イオの利毒にあんな能力があるなんてね。僕も初めて見たよ」


 目前の事実に、ただただ驚愕するだけの十二人衆。イオを責めようとしたレツも、そんなレツから庇おうとしたスイも、そして他のメンバーも。例外は無い。


「胃を、溶かす……? は、はは……なら、やることは一つしかないわね」


「――。やってもいいけど、イオは見たくないのね。だから、ちょっと隠れさせてほしいのね! みんなも、あんまり見ない方がいいのね!」


「ちょ、ちょっと? イオ、どうしたんだい?」


 立ち上がるアリウムに、イオは何かを察した様子。そしてイオも立ち上がり、スイの後ろへ駆け込む。

 スイの背中にしがみつき、顔を背中に押し当てるイオ。そんなイオの行動に、理解が出来ないスイたちは首を傾げる。


「ぅ、くっ、がっ、あぁ、お、おぉぉぉぉぉぉぉぅえ……!」


 ――突然腹部を抱えて体を前に屈めたかと思えば、アリウムはどす黒く粘り気のある液体と共に何かを吐き出した。


「は!?」


「だから、見ない方がいいって言ったのね……」


 目の前で起きる、衝撃的な光景。その光景に、これまでで一番の驚愕を感じる十二人衆。そしてイオは、スイの後ろでカタカタと震えている。


「そ、それは……お前、もしかして……」


「ええ、そのもしかしてよ。このまま全身が蝕まれるくらいなら、こっちの方がマシよ……」


 レツたちの目前に広がる光景。それは、アリウムの足元に落ちたモノによって激しい動揺を引き起こす。


 アリウムの足元に落ちたモノ――それは、多くの人々に備わっている臓器。――胃だ。


 胃酸が増え、激しい痛みに苦しんだアリウム。そんなアリウムは、その原因である胃そのものを吐き出したのだ。

 そして吐き出された胃は、大量の胃酸によって溶かされていた。


「それじゃ、第二ラウンドの開始ね」


 胃を吐き出してスッキリしたのか、もう既に苦痛を感じさせない表情に戻っているアリウム。

 そんな切り替えの早さに驚きながらも、再び戦闘態勢に入る十二人衆。

 ここに、邪陰郷第6支部1層の第二ラウンドが始まる。

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