42話:過去と現在
「――それじゃ、後はおまえら十二人衆に任せたぞ」
二人は、目の前で対峙している人物に。一人は、真横で手を握っている人物に。十二人は、目の前で背中を向ける人物に。
たった一人の、たった一言で、1層にいる計十五人の動きが凍てついた。
膠着と沈黙が続く中、その中の一人がそれを打ち破る。
「リゥ兄さん、それはどういうことですか? あの御二方の対処を私共に任せ、リゥ兄さんは加勢しないということですか?」
膠着と沈黙を破ったのは、後ろで待機していた十二人衆の一人。そしてその中でも、最も頼れるとされる存在、クラだ。
そんなクラがリゥの元へ近付き、そのままリゥと向き合う。
「加勢しないって言うよりは、出来ないの方が近いな。――俺には、もう一つやるべき事があるんだ」
「それは、私共とあちらの御二方との戦いよりも優先しなければならないことですか? はっきり言って、支部長やその補佐とされる存在の力量は全く把握できません。――それに、リゥ兄さんが戻ってくる前。聖陽郷へ攻めてきた、邪陰郷の幹部がいました。私もあの方と応戦していましたが、後にゲン様が加勢して下さらなければ難しかったです」
「ああ、それは知ってる。――でも、本当は2層にも十二人衆を置く予定だったんだ。それでも二人以上いる可能性が分かったから、お前らを全員残した。その分、シロには頑張ってもらわないとだけどな」
リゥとしては、各層の勝率を少しでも上げたいと思っている。そしてその場合、天使の補佐に十二人衆を置くことはかなりの良作だ。そのためにゲンやゴウには十二人衆を付けず、最後まで一緒にいた。
しかし、2層の待人であるアリトの発言。アリウム、アリハル、アリス、アリトに次ぐ、五人目の刺客の存在。その事実を知ったリゥは、最後まで十二人衆の全員を残したのだ。
「私共十二人衆が全員で応戦すれば、あちらの御二方と同等に戦えると言うのですか?」
「そうだ。現にゴウなんかは、幹部でもある待人とタイマン張ってる。それに、この前来た幹部との戦いもクラとレツとフウで応戦してたんだろ? 今は一人にその倍をかけられるし、お前らはその時よりも強くなってる。――違うか?」
「たしかに、そうですね……でも、リゥ兄さんがいればもっと確実になると思うんです!」
落ち着いた口調でクラを説得するリゥ。言っていることも確かで、クラはそれを肯定せざるを得ない。
しかし、それでリゥがいなくなることを受け入れられるかと言われればそうではない。リゥの言葉は肯定できるものだが、それを受け入れることは難しいのだ。
よって、リゥの言葉を肯定しつつも、クラはリゥの説得を試みる。その理由は、勝率を上げること。しかし、それは表向きな理由でしかない。
クラがリゥを止める理由は、他にあるのだ。
「それに、リゥ兄さんが単独行動を取るのは危険です。たしかにリゥ兄さんは強い。それは、育ててもらった私共もよく解っていることです。――でも、今のリゥ兄さんは完全じゃない。リゥ兄さんに万が一のことがあれば、それはどうしますか?」
「たしかに、今の俺は万全じゃない。支部長が出てきただけで、俺が単独行動をすることは危険かもしれない」
「それならば、やはり思い留まって……!」
「でも、やんなきゃいけないことはやんなきゃいけないんだ。ここであの二人とやり合ってからじゃ、遅いかもしれない。手遅れになる前に、やらなきゃいけないんだよ」
クラの必死の説得にも、リゥは首を横に振る。
クラの言うことにも一理あり、それはリゥも理解できる。そして理解をしている。が、それでもやらなければならないことはやらなければならない。
自分の身が危険だと判っていても、しようとしている行いが無謀だと分かっていても、クラの心配が当然だと解っていても、それを曲げることは出来ないのだ。
「用事が終われば直ぐに戻って加勢する。もしもそっちが早く終わればこっちに来てくれ。それじゃダメか?」
「私は……リゥ兄さんを失う悲しみを、二度も味わいたくありません……! 十六年前のあの日、私を含む十二人衆の全員が崩れました。大全師様が指揮を執り、シム博士が手を挙げ、天使や四天王の方が協力し、聖陽郷の皆が助力してくれなければ、私たちは崩壊していたんです……!」
声を震わせながら、縋るようにリゥの服を掴むクラ。自分たちを示す言葉が変わり、勇ましかったクラの口調が弱くなる。
そしてそれを見ていた他の十二人衆も、顔を伏せ、視線を下げ、小刻みに震えている。嘗ての悲しさを思い返すように、嘗ての悔しさを噛み締めるように、力強く目を瞑り、力強く奥歯を噛み、力強く拳を握る。
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時は遡り、それはリゥが命を落とした直後のこと。
リゥが命を落とした原因は、時空の歪みに落ちてしまったことにある。
何者かにより歪められた時空を、最前線に立ち修復を行おうとしていたリゥ。すぐ後ろにはゴウが待機していて、歪んだ時空を力ずくで抑えていた。そしてその間に時空の歪みに入り込み、リゥは原因を突き止めようとしていた。
想術や想技を駆使し、なんとか解決策を探していたリゥだが、歪んだ時空は想像以上に厄介なものだった。クラフトの消費量が激しく、ありとあらゆる技術を行使していたリゥのクラフトは、どんどんと減っていった。
そしてとうとうクラフト残量が限界に達し、足場として使っていた想技が崩れる。自らの想像で創り出していた足場は、クラフトが無くなれば当然消失する。自分の足場に足を取られ、リゥはそのまま時空の歪みに落ちた。
その瞬間、目の前でそれを見ていたゴウは、リゥを追いかけようとした。が、最後の力を振り絞ったリゥの想術。圧倒的な圧力に押され、ゴウはそのまま時空の歪みから弾き出された。
本来ならば、リゥと共に命を落としていたはずのゴウ。それが最後のリゥの行動により、すんでのところで命を救われたのだ。
その事実に気を落としながら、ゴウは宮廷へと報告に戻った。力なく、ふらつきながら、目の焦点も合わぬまま、宮廷で待つ人々の前に立ったゴウ。
そしてその事実を全て話し、ゴウはそのまま立ち尽くす。
「――は? 兄貴が……死ん、だ……? んなこと、有り得ねぇ……おい、嘘だろ!? 嘘だよな!? いるだろ!? 生きてるんだろ!? おい! なんとか言えよ……!」
立ち尽くすゴウの服を掴み、前後に揺らす少年。それはリゥのことを兄貴と呼ぶ十二人衆の一人。レツだ。
リゥ以外の四天王には、いつでも敬語を使っている十二人衆。そんなことを全て忘れ、レツは思ったままの言葉を撒き散らす。
そんなレツに反撃せず、ゴウは目を瞑ったまま立ち尽くしているだけ。それでもレツの行動は収まらず、ただひたすらにゴウを責める。
「なんでだよ……! あんたは、兄貴の補助をするために行ったんじゃねぇのかよ……! なんで、なんで兄貴だけ死なせてんだよ!?」
「レツ、やめるんだ。ゴウさんだって、死なせたくて死なせたわけじゃない。リゥ兄さんだって、ゴウさんを責めて欲しいなんて思ってないはず」
ゴウを責め続けるレツの肩を掴み、必死にそれを止めようとするクラ。振り向いたレツの目を見て、眉間に皺を寄せながら首を横に振る。
「なんで、お前はそんなに冷静なんだよ!? 兄貴が死んだんだぞ!? 悲しくねぇのかよ!? なんでそんなに、落ち着いてんだよ……!」
「悲しくないわけないだろう!? 私だって、リゥ兄さんが死んだことは悲しいさ! 未だに信じられないし、信じたくもない! それは、レツだけが思ってることじゃない! よく周りを見ろ。イオとセトが、あんなに落ち込んでるところを見たことあるか!? 私たち全員が一斉に涙を流したことなんて、あるか!?」
声を荒らげるレツより、さらに声を荒らげるクラ。普段は誰よりも落ち着いているはずのクラが、声を荒らげている。
そしてそんなクラが指差す先では、悲しみに崩れる他の十二人衆が見える。
「お兄、ちゃん……まだ、色々、教えてもらいたいこと、あったのに……色々教えてくれるって、言ってたのに……!」
膝を着き、泣き崩れるスイ。握った拳を床につけ、その手を涙でびしょ濡れにする。
「兄さんが、いなく……? なんで、だったら、ボクはこれからどうすれば……! 兄さんがいなくなったら、どうすれば……!」
膝から崩れ落ち、天を仰ぐように上を向くフウ。片手で顔を覆い、それでも涙を零す。
「まだ……じゃん……! これからだったじゃん! なんで、兄や……! これが終わったら、思う存分遊ぼうって、言ってたじゃん!」
床に四肢を着け、小刻みに震えるライ。そのまま体を丸くし、泣きじゃくる。
「なんで、俺を、置いて……! みんなが離れても、リゥ兄だけは離れないって、言ったのに……! どうして、いなくなるの……!?」
床に顔を付け、握った拳を力なく床に叩きつけるサド。そのまま手から血が出るほど叩きつけ、床に擦った額からも血を流す。
「お兄……お兄……いつも、一緒って……! イオは中毒性あるから、離れられんねって……! ずっと抱いてたいって……!」
リゥと一緒に写った写真を、ひたすらに眺めるイオ。その写真を両手で握り、そのままグッと胸に押し当てる。
「また今度、虫取り行こうって言ってたのに……にぃにがまたいっぱい取ってくれるって、言ってたのに……」
「リーに……リーにがいなくなったら、自分は誰に頼ればいいですか……? 自分を褒めて、優しく頭を撫でてくれるのは、誰なんですか……?」
部屋の隅に座り、泣きじゃくるセトを抱くネイ。ネイの胸に顔を擦りつけるセトの頭を抱え、ネイもまた涙を流す。
「アニキ……いつか絶対超えてみろって、言ってたじゃねぇか……! いなくなったら、オレはあんたを超えられねぇだろ……!」
近場で固まっていた十二人衆の集団からはずれ、部屋の壁を思い切り殴るイル。その後自分で岩の塊を創り出し、ひたすらにそれを殴り壊す。
「リゥちー、あんまり使えないぼくの能力を、イイじゃんって褒めてくれたの、リゥちーだけで、もっと褒めてもらおうって、頑張ってたのに……」
自分の手を見つめ、リゥの言葉を思い返すグラ。普段は浮いているグラが地に足を付け、そのまま力なく立ち尽くす。
「兄ちゃん、なんで……オラの他に念力得意な人いなくて、兄ちゃんだけは出来るからって、念力勝負しようって、約束してたのに……!」
使い手が少ない念力に特化したネスは、その能力で力比べをする相手がいない。その唯一の相手が、オールラウンダーであるリゥだったのだ。そんなことを思い、頭をブンブンと揺らしたネスはそのまま頭を掻き毟る。
それを見たレツは、それ以上言葉をあげない。
そして再びゴウの方に向き直り、頭を下げる。
「その、すみません、でした……兄貴のこと、受け入れられなくて……ゴウさん責めても仕方ないのに、どうしていいか、分からなくて……」
「あ、ああ……気にするな。リゥを救えなかったのは事実だし、明らかに俺の落ち度だ。それに、お前ら十二人衆がどンだけリゥを慕っているのかも分かる。今回のは、俺の責任だ。本当にすまなかった……」
「いや、ゴウだけの所為じゃないさ。あの場で協力できなかった僕たちにも責任がある。全ては僕たち全員で、責任を取らなければならないことだろう」
レツとゴウの会話に、割って入ったレイ。そしてその後ろには、最後の四天王であるゲンと、主郷である大全師もいる。
「今回のことは、元はと言えば私が指示を出した事です。最終的な全ての責任は、主郷である私にある。その為に、ここからはリゥを取り戻すために尽力させてください。リゥは、君ら四天王にとっても、十二人衆にとっても、そして聖陽郷の人々にとっても、大切な存在。私も尽力し、必ずリゥを取り戻すと、そう約束しましょう」
レイと一緒に来た主郷――大全師。今回の指示を出した張本人として、次の行動の為にも尽力すると、そう宣言した。
自分の指示を責めるのではなく、それで止まらないために、いち早く次の行動を起こす。それは勿論、自分を責めていないわけでは無いし、開き直っているわけでもない。
ただ、自分を責めて楽になることはしない。最も悔やみたいのは四天王で、最も悲しみたいのは十二人衆。そこで主郷の大全師がそのどちらかに傾けば、どちらかの心を余計に苦しめることになるのだ。
よって今は、主郷である大全師が指揮を執る。
「――それならば、私たちも尽力しなければなりませんね。いえ、元よりそのつもりではありましたが」
「クロ、ですか……今回の事で、御身の協力は心強い。――そこで念の為に聞きますが、やはり時間を戻すことは不可能でしょうか?」
主郷、四天王、十二人衆。聖陽郷に於いて上位クラスの立場を持つ存在が集まる中、最後の上位称号――天使の称号を持つクロが合流する。
聖陽郷を統べる主郷に、聖陽郷でも最強戦力の四天王。さらに主郷の直属として四天王に仕える天使。そして最後に、四天王リゥが育て上げた少数精鋭の戦闘部隊。
その中でも数人欠けているが、これで上位称号全ての存在が集まったことになる。
「――出来るかどうかでしたら、出来ないとは断言しません。ですが、この場で時間を戻しても、あの場所の時間には干渉できません。また、時空の歪みは大変厄介なものです。あの場所で時間を戻せば、どんな支障が出るか分かりません……」
「なるほど……それではやはり、時間を戻すことは不可能なわけですね」
「ですので、今はお姉様にお願いしてあります」
「お姉様……シロのことですね? なるほど。それで、解決の目処は立っているのですか?」
上位称号を持つ中で、この場にいない人物は二人。命を落としたリゥと、『場』を司る天使のシロだ。
そしてそのシロが今、解決策を見つけるために一人で時空の歪みに足を踏み入れている。
しかし、それはまだ調査段階に過ぎない。リゥを救う解決の目処は、未だに皆無である。
「それならば、核を捜して頂きたいところですね。それさえ見つけていただければ、その後は私が尽力致しましょう」
宮廷の中に響く、新たな声。その場にいた全員の視線が、その声のする方へと向く。
そしてそこに居たのは、僅かに歳を重ねた50歳ほどの男性だ。
そしてその人物こそが――、
「これはこれは、シム博士。 どうして御身がここへ?」
「リゥ様たちの成果に応じてその後の研究を、と思いましてね。ですが来てみたら、まさかこのようなことになっていたとは……」
「そ、そんなことよりシム博士! 核を見つけるってのは!? 兄貴の核を見つければ、何か出来んのか!?」
シムの言葉に一番の反応を見せたのは、その中でも一段と強く反応するレツを含めた十二人衆だ。宮廷のホール内でバラバラになっていた十二人衆が、一瞬の内にシムを囲う。
そしてその中で最も食いついたのが、今回の出来事に一番熱くなっているレツだ。
「ちょ、ちょっとレツさん! 落ち着いてください! これから説明しますから、一旦話してください!」
「あ、ああ……悪い。つい、熱くなって……」
「まぁ、レツさんを含む十二人衆の皆さんがどれだけリゥ様を好きなのかは分かりますから。それより、説明ですね……」
そしてそのままシムの説明が始まり、時空の歪みについて探るA班とリゥの生まれ変わりを探すB班が決まった。
時空の歪みに関わっていたゴウと、頭の回るレイ。それから時空の歪みに必要不可欠とされるシロがA班に入る。そして十二人衆は勿論、補助としてゲンとクロがB班に入った。
「――これより、時空の歪みの調査とリゥの生まれ変わりを探す。メンバーは今決めた人員を元に、他の戦闘員を分けて聖陽郷の全勢力を総動員させる」
その場にいた全員の前で、堂々とそう宣言した大全師。その後は大全師自らも動き、聖陽郷の戦闘員とされる人々を総動員させるために尽力した。
そんな大全師の発言が終わった直後にいち早く動き出したのは、やはり他でもない十二人衆だ。普段はグダついてしまうイオやセトも、今回はその素振りすら見せない。イオはその小さい体で走り出し、セトも自分の操る虫を総動員させる。
その他の十二人衆もすぐさま動き出し、嘗てないほどの行動力を発揮したのだ。
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十六年前に彼らが味わった苦痛は、リゥにも理解出来る。そしてそこから来る心配も、痛感できる。
師として敬い、兄として慕う。そんな存在であるリゥは、彼ら十二人衆にとって最もかけがえのない存在なのだ。
――しかし、だからこそ、だとしても。ここで引き下がるわけにはいかない。
たしかに、ここで引き下がればその心配は消える。
しかし、それは心配が消えるだけ。リゥの成すべきことが出来なかった場合、それは別のものを失うことを意味する。
何かを守るために何かを失っては、ならない。
何かを守るための犠牲を、リゥは許容できない。
だからこそ、残された選択肢は一つ。そしてリゥは、端からそれを選ぶつもりだった。
「たしかに、お前らには心配かけた。俺の死で迷惑かけたことは、心のそこから申し訳ないとも思う」
「それならここに残って、私たちと一緒に……!」
「――だから、今度は死んだりしない。最初に言った通り、生還して笑い話にする。アキラも絶対に守るし、俺も絶対に生きる」
自分の死によって悲しませたのなら、次こそはその死がないようにすればいい。
極論だが、単独行動をしようとも、リゥが死ななければいいのだ。
「それは、約束してくれるんですね? ここにいる私共全員に、約束してくれるんですね?」
「ああ、約束してやる。絶対に生きて戻って来る。イオのこともまた抱きたいし、セトとは虫取りの約束もある。スイとフウとネイには色々覚えて欲しいことあるし、ライとも遊ぶ。サドからも離れたりしないし、イルには俺を超えてみろって言った。グラの能力ももっと鍛えてやるし、ネスとも勝負しないとな。それに何よりレツとクラ。二人が主となって引っ張ってくれたのは、しっかり聞いてる。レツは感情的になってたっぽいけど、それだけ悲しんでくれたんだよな。クラは、その悲しさをグッと堪えて、どうにかまとめようとしてたんだよな。んでもって、全く違う二人が協力してたのも、知ってる」
十二人衆一人一人の目を見て、そう話すリゥ。その言葉に、全員が目を丸くする。十六年離れていても、それを思い出したのはつい数ヶ月前。前世で交わした約束も、リゥはしっかりと覚えているのだ。
「二度もお前らを悲しませたくない。その思いは絶対だし、嘘じゃない。その為に、死なないで生還する。だから、この場を任させてくれ」
真剣な表情で、リゥはじっと十二人衆を見つめる。そしてそのまま目を反らさず、暫く見つめ続ける。
「――分かりました。その代わり、私共の方が先に終わった場合。何よりも優先してリゥ兄さんを追います。それでいいですね?」
「ああ、いいぜ。終わったら直ぐに来てくれ。その時はまた頼る」
そう言葉を交わして、リゥとクラは頷き合う。そしてその後ろにいる十二人衆たちも理解を示し、リゥは再びアリウムたちの方に向き直る。
「んじゃ、そゆことだ。お前ら二人の相手は、俺の可愛い十二人衆たちが相手すっから。――その後ろ、空けてもらうぜ」
「――ッ! そう、気づいてたの」
「しかし、そうはさせられない。すまないが、阻止させてもらう」
リゥが指差した、アリウムたちの後方。そこにあるのは、たった一つの椅子。アリウムが座るには少々大き過ぎるが、問題はそこにない。
その椅子を目掛けてリゥが跳び出すと、それを阻止せんとアリキとアリウムが動く。
「リーには、自分たちにこの場を託してくれたです」
「つまり、この場でにぃにを守るのが我の役目でしなー」
巨大な木と大量の虫――ネイの縛り木と、セトの飼育する虫。それが、リゥを狙う二人に牙を剥く。
想術ではないその二つは、詠唱無しで操ることが出来る。想術でない分出来ることは限られるが、足止めほどなら十分に足りる。
それが自然や虫と共鳴した二人の強みだ。
「こんなものに、二度も苦しませられるわけがないだろう……!」
「ですよね。なので、絡めて強度は数倍にしてるです」
「――なっ!?」
リゥとの間に割って入る縛り木を、手刀で断ち切ろうとするアリキ。しかし強度を上げた縛り木は、それだけの攻撃では切れない。そのままアリキに襲いかかり、四肢を絡め取る。
「な、何この虫!? どこから湧いて……」
「どこからって、我からでしよ? にぃにと取った可愛いペットでし」
「こ、これのどこが……! ああもう、うざったい!」
「む……我のペットに攻撃しようなんて、いい度胸でしね。傷つけるなら、手加減しないでし」
自分を取り巻く虫に、嫌悪感を抱くアリウム。体の前で両腕を交差させ、一瞬で爪を伸ばす。
そしてその爪を苛立ちのままに振り回し、周囲を飛び回る虫に攻撃を仕掛けようとする。
そんなアリウムを見て眉間に皺を寄せながら、アリウムに向けた手を上下左右に動かすセト。その動きに合わせるように、全ての虫が一定に動き出した。
「ほーう……二人のその技、久しぶりに見たな。その調子で頑張ってくれ!」
「あ、あの……皆さん、頑張ってくださいっ!」
ネイとセトの攻撃に、嬉しそうな笑みを浮かべるリゥ。久しぶりに見る二人の戦闘を、懐かしく感じた。
そんなリゥに抱えられるアキラも、リゥにしがみついたまま十二人衆たちに声をかける。
そして二人は奥の椅子に辿り着き、一旦その場で止まる。
「ここから先、どうするの? なんにもないけど……」
「こういうのはな? 大体お決まりなんだよ。ここを押せばパカッとなって、こっちを引けば……ほらね?」
椅子の前に着き、周辺を見回すアキラ。そこには通路や階段などは見当たらず、リゥの方を向いて首を傾げる。
そんなアキラに微笑みながら、リゥは椅子の側面に隠されていたスイッチのようなものを押す。すると肘掛の部分がゆっくりと開き、中から出てきたレバーのようなものを引く。
そして椅子の奥に目を向けたリゥは、ドヤ顔をしながらアキラを見る。
アキラも目の前の光景に目を見開き、言葉を失った。
「んじゃ、一足先に行ってくるぜ。後は頼んだ」
そんなリゥの言葉に、それぞれの返事を返す十二人衆。その言葉は「うん」であったり「おう」であったり「はい」であったりするが、どれも覇気に満ちている声。その全てが頼りになる声であり、それを聞いたアキラの目に映るリゥは今までで一番の笑みを浮かべていた。




