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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
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41話:リゥの思惑

 シロたちと2層で別れた後、リゥたちはアリウムが待っているであろう最上層を目指していた。

 今回の目的は二つ。その一つは、邪陰郷の殲滅だった。邪陰郷のアジトと思われていた迷い森に上陸し、そこにいるであろう邪陰郷を相当する。しかし、迷い森にあるのは第6支部のみ。つまり、今回の一つ目の目的は第6支部の制圧へと変わった。


「支部長の立場にあるアリウムは、この上にいるはずだ。気を引き締めて行くぞ」


 体力の限界に近づいたアキラを抱え、先頭を走り続けるリゥ。その声に、後ろに続く十二人衆たちはコクリと頷く。

 流石はリゥに育てられた精鋭部隊と言ったところだろうか。十二人全員が呼吸を乱さず、一定のペースを保って階段を駆け上がる。


「リゥくん大丈夫? 疲れない?」


「んー? 余裕よ余裕。アキラも抱っこされてたいでしょー?」


「別にそんなことないし! リゥくんの自己満足でしょ!」


「なら降りて走る?」


「う……それはちょっと、まだ疲れてるし……」


 1層というゴール地点を目前にして、全く緊張感のない会話を続けるリゥとアキラ。

 こっちの世界に来て、一緒に生活し始めてから約二ヶ月。出会ってからなら、既に一年半程も経っている。にも関わらず、アキラは素直になれていない。

 とはいえ、リゥもツンデレのアキラを揶揄うことを楽しんでいる。アキラからの対応にも満足しているため、アキラへの対応も変えようとはしない。


「リゥ兄、そろそろ!」


「お、マジか。分かった。アキラ、ここから上は冗談やってらんねぇかもしれねぇ。とりあえず、俺の傍から離れんなよ?」


「う、うん。リゥくんも、離れないで……ね?」


 漸く緊張してきたのか、リゥの言葉を素直に受け入れたアキラ。両手でリゥの服をギュッと掴み、瞳をうるうるとさせるアキラ。

 そんなアキラに、リゥも少しだけ目を開く。が、直ぐにアキラの気持ちを理解。

 いつもと変わらないように振る舞っていても、アキラの心には恐怖があった。それを、頑張って隠そうとしていたのだ。

 最後にアキラを再度強く抱き締め、腰を落として目線を揃える。


「当たり前だろ。何がなんでも守ってやる。でも、俺が動かないといけない時もある。その時は、誰でもいいから十二人衆と一緒にいてな。んで、みんなも守ってやってくれ」


「当たり前よー! 兄貴が動かなきゃなんない時なら、俺様たちが絶対に守ってやるってー!」


 言い切って、自分の胸をドンと叩いてみせるレツ。若干子供っぽいその行動も、今のアキラには心強くてたまらない。まるで見せつけるかのように、ざっくりと開けてある胸元からは、細くも引き締まった胸筋が見える。

 そしてその後ろに続く全員が、アキラの心強い味方なのだ。レツのように闘志を燃やす者、ずっと落ち着いている者、緊張感を表に出さずに余裕で笑っている者。そんな十二人衆が、ありとあらゆる方向から、アキラの不安をかき消してくれる。


「な? こんだけ頼れるヤツらが多いんだ。だから、何も心配しなくていい。する必要なんてない。今は、ただただみんなを信じてればいい」


 恐怖も不安も、全てをかき消し和ませてくれる十二人衆。そのメンバーに見とれていれば、次は後ろから声がする。

 落ち着いていてなお、レツのような心強い口調。そして全てを包み込んでくれるような、優しさに溢れている声。

 その声の発声主――リゥの方を見て、アキラの心は最高潮に到達する。


「あと少し。もうすぐ上に、目的の1層がある。俺が直々に組んだ精鋭部隊であるおまえらの実力、しっかり見せてくれよ?」


「当然! 兄貴がいなくなったあと、もっと強くなってるんだぜ! 大船に乗った気でいてくれや!」


 そんな会話を交え、リゥたちの足は再び1層へと向かう。


 ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶


 階段を上り終えた先。そこには、今までと同様に異質な雰囲気と扉が待ち構えていた。

 ゴクリと息を呑み、リゥは首だけで後ろを向く。何かを訴えかけるようなリゥの視線に、十二人衆たちはその意図を感知。各々が警戒心を高め、戦闘態勢に入る。

 それを確認し、リゥは再び扉に向き合う。そしてドアノブに手をかけ、その扉をグッと押す。


「やっほー!! よーやく来ましたなー。って、やっぱり全員では来ないんだー。まっ、いーけどねー! それよりも、遊びに来たんでしょー? ほらほら、遊ぼーよー!」


 ドアを開けた瞬間、奥から聞こえた声に、リゥたちは聞き覚えがあった。

 幼い女子のような、キーキーとした高い声。全く悪意の感じられない、純粋な口ぶり。表も裏もなさそうな、若干煽りにも聞こえる口調。

 まっすぐに伸ばした白髪に、幼く愛らしい顔。塔に入る前、最上層から降ってきた少女のクローンと瓜二つのその容姿。

 ――第6支部支部長のアリウムだ。


「やっぱり、1層で待ってるのはお前か。今回はクローンじゃなく本人、そう思っていいんだよな?」


「もちろん! あたしが第6支部支部長、アリウムよ!」


「そうか。――んで、もう一人はどこにいる? 他にもいるだろ?」


「え? なんのこと? ここにはあたし一人よ? もー、あたしみたいな女の子が好きなのは分かるけど、何人もいると思っちゃダメだよー!」


 目付きを鋭くし、一直線にアリウムを睨むリゥ。そんなリゥの腕の中にいるのは、今の言葉にキョトンとしているアキラだ。

 緊張感からか、体を小刻みに震わせているアキラ。自分を包む腕の中から、心配そうにリゥを見上げている。


 また、リゥの発言の意図が分からないのは、後ろで待機する十二人衆も同じこと。その中の誰の行動もなく、そのまま沈黙が続く。


「――リゥ兄、どしたの?」


「――ちょっと気になることがあってな。サド、探してくれるか? 俺の勘違いならいいけど、一応」


「探すって……分かった、リゥ兄の頼みだもんね。――音探知(ロケーション)


 沈黙が始まってから、一分が経とうとした頃。十二人衆の一人であるサドが沈黙を破る。後ろから、リゥの様子を伺うように話しかけたサド。そんなサドに向けられたリゥの目は至って真面目なもので、ふざけてる要素は微塵も感じられない。無理解だったサドも、その視線から何かを察する。

 そしてサドが目を閉じると、リゥたちは呼吸まで止めたかのように静かになる。


「――僅かな息遣い、微かな鼓動、全身を脈打つ血流……少し息が荒くなって、鼓動と脈拍も若干早くなった。あ、息呑んだ」


 目を閉じた後、独り言のように呟くサド。そんなサドをアキラは不思議そうに見つめるが、リゥたちは普段通り。


「場所は?」


「――前の、上の、音が僅かに遮られてる……ん、目の前の壁裏。屋根に近いとこ」


 サドの呟きに、リゥが短い言葉で反応。リゥの問に、サドは自分が聞いている音の出処を確認するかのように呟く。そして答えの場所が判ると、真っ直ぐにその方向――睨むだけで動こうとしないアリウムの後ろを指差す。


「ほう? この辺……かっ! ――ってうお!?」


 サドの指差した方向に跳び、壁に向かって強烈な蹴りを放つリゥ。そして破壊されたその壁の中から、一つの影が飛び出す。

 飛び出してきた影を見て、咄嗟に体を反らす。とはいえ、空中で好きに動くことは難しい。そのまま体勢を崩し、リゥは止むを得ず地面に着地する。


「――ッ! アキラッ!!」


 影よりも遅く着地したリゥの目に映ったのは、一直線にアキラへと向かう影の姿。その影に気付いたリゥは、直ぐに踏み込む。が、微妙に遅い。体勢を崩してからの跳躍では、普段通りの速度が出せないのだ。


(しば)()!!」


「くっ、あぁッ!」


「リーにの邪魔はさせないです。アキラくんは、リーににとって大切な人。リーにが守りたいと思う人なら、ネイたちも守るです」


 影がアキラに近づいた瞬間、それを待っていたかのように伸び出す木。アキラを狙う影を捕らえるべく巻きついた木は、木と言うよりも蔦に近い。

 そしてその蔦を辿った先にいるのは、片膝を付いているネイだ。床と接触しているネイの手元には、僅かに盛られた土がある。

 そこから蔦を一瞬で成長させ、影を捕らえたのだ。


「ふ……っ、リゥ、くん?」


「アキラ……勝手な行動してごめんな? 大丈夫? 怖くない? 怪我とかしてない?」


「もう……リゥくんは心配し過ぎだって。まぁ、少しは怖かったけど大丈夫。それに、さっきもネイさんが守ってくれたでしょ。だから平気」


 蔦に捕えられた影を越え、一人になっていたアキラの元へと向かうリゥ。そのままアキラの胴に腕を回し、膝立ちの状態で抱きつく。

 アキラの無事を確認し、少し落ち着いた様子のリゥ。ふぅ、と安堵の息を漏らしたリゥは、ハッと気付いたようにネイの方を見る。


「ああ、そうだった。ネイ、ありがとな。本気で助かった」


「いえいえ。リーにが守れない時は、ネイたちの出番ですから。――それより、あっちの人です。なんでリーにはここに二人いるってわかったですか?」


「いや。俺が二人いるって言ったのはなんとなく。つまり直感だな」


「え? 直感ですか?」


 思いがけないリゥの言葉に、目を丸くするネイ。リゥのことを心から敬愛するネイは、明確な根拠があってこその発言だと思っていた。それが直感だけだと知って、リゥを見るネイの目付きが変わる。

 そんな様子のネイに、「悪ぃ悪ぃ」と笑いながら、リゥは言葉を繋げる。


「別に、直感って言ってもてきとーに言ったわけじゃないぜ? アリウムの他に、もう一人いる。それは知ってたんだ。ただ、この層にいるかどうかは分からなかった。だから、とりあえず言ってみたんだ」


「それでも、もう一人いるっていうのは? どうして分かったです?」


「それも簡単だ。さっきの2層、アリトの話が気になってな。そこで、アリなんたらが多いなって話をしたろ? それで、あいつは五人いるって言ったんだ。4層のアリハルに、3層のアリス。んでもって2層のアリトと1層のアリウム。もう一人、足りないんだよな」


 リゥが指を折りながら数え、その言葉になるほどと頷くネイ。失望しかけていたネイの瞳に、輝きが戻った。

 そしてその言葉を聞いたアリウムは、図星と言わんばかりに顔を顰める。


「――ん? それにしてもよく手を出さずに……ああ、出せなかったのか」


「え? リゥくん、それってどういうこと?」


 隠しダネとして用意していたであろうもう一人の人物。それを見つけようとしていたリゥに、アリウムは妨害どころか言葉すら発さなかったのだ。

 そんなアリウムの行動を疑問に思い、リゥは振り向きながら首を傾げる。しかし、落ち着いた状態でアリウムを見たリゥは、アリウムが動かなかった理由を即座に理解した。


 その言葉の意図が分からなかったアキラは、アリウムに近付いたリゥの傍に寄りながら首を傾げる。


「アリウムは今、自らの意思で動いてないわけじゃない。自分の意思とは別に、動けない理由がある。そうだろ? グラ、ネス」


「あ、リゥちーやっと気付いたー? もー! ずーっと止めといてあげたのに、全然気づいてくれないんだもん!」


「まーまー、いーやない? 兄ちゃんも、アキラくんが危なくて心配やったんよ。それに、ちゃんと気づいてくれたしね」


「グラの重力倍増(ハイパーグラヴィティ)とネスの物体操作(サイコキネシス)か。気づくの遅かったのはごめんな? でも、二人ともサンキュ。助かったぜ」


 アリウムが()()()()理由。それは、リゥに呼ばれた二人――グラとネスにある。

 グラとネスは、各々重力と念力を操る十二人衆。その中でも重力を操るグラが、アリウムに掛かる重力を数倍に上げ、念力を操るネスが、アリウムの動きを封じたのだ。


「まぁ、もう解除していいよ。ネイも、縛り木は解いてあげな」


「はーい」


 リゥの言葉に、三人は声を合わせて返事をする。

 そして一斉に術が解かれ、アリウムと影は体の自由を取り戻した。


「――情けでもかけたつもり? 言っとくけど……」


「言っとくけど、あれくらいなら自力で脱出できた。か? だったらそうだろうな。寧ろ、情けをかけてもらったのはこっちの方だったりするわけだ」


「よくわかってるじゃない」


 体の自由を取り戻したアリウムの口調は、これまでの雰囲気とかなり異なる。

 細め為から放たれる、冷たい視線。僅かに歪めた口元から放たれる、棘のある口調。これまでのアリウムとは、何かが違う。


「あたしの口調が変わって驚いた? でも、こっちが本当のあたしだから」


「いや、正直言ってお前はどうでもいい。とりあえず、そっちのやつ紹介してくれねぇか?」


「ああ、そうね。――ほら、自己紹介なさい」


 態度が豹変したアリウムに対し、ほぼ興味を持っていないリゥ。そんなリゥの対応を受けても、アリウムは一切癇癪を起こしたりはしない。それだけ見れば、完全に大人の対応だ。

 そして影は、アリウムの横に並んで立つ。


「――ずっとこんな格好で悪かったな。でも、これを脱ぐ機会がなかったんだ」


「ああ、別にいいぜ。そのフード付きの黒コート、かっこいいしな」


「それは有難う。そして感謝序と言っては悪いが、名乗らせてもらおう。――俺の名前はアリキ。第6支部支部長補佐だ。宜しく頼む」


 第6支部支部長補佐、アリキと名乗った男。顔を隠すためなのか、深く被っていたフードを外し、その素顔が明らかになる。

 顕になったその顔は、中々に整った男前。そしてその口調や態度にも、かっこよさを感じる。外見も内面も問わないイケメンだ。


 そしてこの1層に、第6支部の支部長と、その補佐が揃った。

 目の前に並ぶその二人を撃破し、他の吉報を待てば上陸班としての任務は終了する。それを改めて噛み締め、アキラを含めた十二人衆たちは今一度気を引き締める。


「――それじゃ、後は頼んだ。この二人との戦闘は、おまえら十二人衆に任せたぞ」


 誰もが予想していなかったリゥの言葉。対峙するアリウムたちも、隣にいるアキラも、後ろで構える十二人衆も。その場にいる全員が、リゥと十二人衆の共闘を予想していたのだ。


 1層にいる全員の度肝を抜き、リゥはアキラの手をギュッと握った。

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