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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
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40話:待人、アリト

 リゥたちが離れた2層では、シロとアリトが正面から対峙していた。

 シロの後ろには第一特戦隊の五人が戦闘態勢を取っていて、その後ろでは治癒隊の二人が待機している。


「リゥ様と話していた内容は分かりませんが、この場を任された以上、我々も手加減は出来ません。よろしいですね?」


「はい、もちろんです。意図的に手を抜くのは失礼ですしね」


「同感ですね。それでは――!」


 互いの戦闘意思が合致し、シロが先手を取る。一歩目を強く踏み込み、アリトに向かって直進。

 ――しかし、アリトの目の前に届いた瞬間に軌道を変更。倒れるように体を右に倒し、スタート地点からアリトというゴール地点までの直線から外れる。


砲撃(ショット)ッ!」


 体を倒したシロは後ろに振り返り、待機していた特戦隊に短く合図を出す。

 すると、シロの目の前を白い光が通過。シロを通り越し、丸腰のアリトへと向かったのだ。


「なにっ!? ……くっ!」


 目前でシロに躱された直後、一瞬で襲いかかる砲撃。逃げることは不可と考え、アリトはその砲撃を受け止める。しかしアリトは、剣はもちろん剣をしまうための鞘すらをも持っていなかった。

 つまり今の砲撃を、素手で――否。


「やはり、袖の中ですか……」


「なるほど。私の隠し武器を暴くためにわざと、フェイントを入れたのですね」


 ――素手ではない。砲撃を止めたアリトの腕には、鋭く光る二本の短剣が握られていた。

 右手に握るのは、美しい曲線の描かれた三日月刀のような形。左手に握るのは、真っ直ぐな直線を描くオーソドックスな形。どちらともシンプルな形で、その刃は艶やかな銀色に輝いている。


「少々ゆとりのありすぎる袖に、違和感を覚えましてね。一種のファッションとも思いましたが、あなたの性格が几帳面で真面目そうでしたので」


「そうですか。それを見極めた上で、今のような行動を取ったと……ですが、あと一歩足りませんでしたね。この剣は、こういう使い方があるんですよ」


 言いながら、アリトは爽やかに笑って見せる。そして右手に持った短剣を軽く振り、短剣を前に向ける。

 アリトが短剣を向けた先にいるのは、第一特戦隊のカイとクレハ。アリトを目掛けて砲撃を放った二人だ。二人の右腕には、さっきの砲撃を放ったであろう砲口が装着されている。

 第一特戦隊の銃撃班である二人を目掛け、アリトの剣先が輝く。


「私の短剣は、向かってくる非直接的な攻撃を全て吸収し、任意で放つことができる。短剣を持っていることがわかっても、さすがに能力までは分かりませんよね」


 剣先の輝きが光を増し、膨れ上がるように体積を膨張させる。そして、今しがた二人が放った砲撃。その白い光が、今度はアリトの剣先から放たれる。


「ええ、そうですね。しかし、それが分かれば対処は容易です」


「対処は容易、ですか? それではあのお二人の犠牲には目を瞑ってしまうと?」


「いいえ。犠牲を出す戦いは、リゥ様の思想に反します。必要な犠牲と割り切ることも、途中で諦め見捨てることも、私たちは一切しません」


 シロの発言に、アリトは光の矛先にいる二人へ目を向ける。そんなアリトの問いかけに、シロは首を横に振る。

 そして光は、射撃班である二人の目前まで迫っていた。


「「――反射板(リフレクト)」」


 落ち着いた口調を揃え、カイとクレハは左手を前に出す。

 すると、その手と光の間に一枚の透明な板が現出。そしてその板の奥では、板に当たり軌道を変えた光がアリトへと向かっている。


「そんなことをしても、再度吸収すれば良いだけのこと……!」


「ええ、そうですね。しかし私は言いましたよ。能力が分かれば、対処は容易だと」


 反射板によるリフレクト。再び矛先をアリトに変える光に、アリトは短剣を構える。両手に握った短剣を顔の前で重ね、光は短剣に吸い込まれ始める。


「――ッ!? まさか……!」


「「銀閃(ぎんせん)……鎌鼬ッ!!」」


 アリトの剣に光が吸収される最中、背後からの殺気にアリトは後ろに振り向く。

 前方を光によって塞がれたアリトの裏へと回る二つの影。その正体は、第一特戦隊の剣撃班。エンジとレントだ。

 アリトの背後ーーその頭上にいる二人は、自らの剣戟を詠唱。研ぎ澄まされ、銀色に輝く刃。それを下から掬い上げるように払った瞬間、不可視の刃がアリトに牙を剥く。

 それは、特戦隊に入る誰もが身につける剣技、『銀閃』の一つ。風にのせた不可視の攻撃を放ち、対象の体を蝕む攻撃、『鎌鼬』だ。


「く……っ、やむを得ませんね……! はぁッ!」


「言ったはずです。対処は容易だと」


 重ねていた短剣を離し、右手に握った短剣を後ろに向けるアリト。左の短剣で吸収を続け、右手の短剣で今吸収した分を放つ。

 見事に前後の攻撃を回避したアリトだが、これで体の自由は制限をされた。両腕が塞がれ、身動きが取れない状態だ。

 そんなアリトを見て、シロが高々と跳躍。そして右手に持つクリスタルワンドを回し、右腕を後ろに伸ばす。


「ゴウ様。少々()()致します」


 ステッキを体の前に移し、その先端にある水晶を足元のアリトへ向けるシロ。しかし、シロが唱えたゴウはここにいない。3層で戦っているゴウの名を唱えたのだ。

 とはいえ、シロもそれは重々承知している。だから、シロはゴウを呼んだのではない。詠唱、即ち唱えたのだ。

 そして、シロがゴウの名前を唱えた瞬間。シロのステッキが紅く輝き――否、輝いているのではない。水晶を取り巻く紅い光は、炎そのもの。つまり、燃えているのだ。


「――借炎(レンタルフレイム)。これが私の能力の一つ、『空間の借用(レンタルスペース)』です」


 水晶を取り巻き、轟々と音を立てていた炎。それが、アリトの足元へと移る。

 炎を生成し放出したでもなく、炎を構成して引火させたでもない。ゴウの扱う炎を『拝借』し、アリトの足元に移したのだ。

 そしてそれが、『場』を司る天使であるシロの能力の一つ。周囲の想術などを空間ごと借り、任意の場所に移転させる。シロが使って初めて、その真の力を発揮させる能力だ。


「私は『場』を司る天使。3層で戦闘中のゴウ様の炎を空間ごと拝借し、貴方の足場に届けたのです」


「こ、これが天使の能力……一部の空間を切り抜いて、場所を借りるとは……!」


 自分を囲う炎に、大量の汗を流すアリト。その表情は苦痛そのもので、見ていることも嫌になる状況だ。

 しかしそんな状況でも、地に足を付けて立っている。精神を集中させ、目前の痛みにもしっかりと耐えている。それだけの精神力は、アリトが戦士であることの証。そして戦士であれば、この程度では諦めることなどない。


「くっ……はぁぁぁぁぁッ!!」


 鎌鼬に対抗していた右の短剣。その剣先から放出される砲撃の威力を最大限に引き出し、鎌鼬を一気に粉砕。左の短剣でも吸収のペースを上げ、一瞬で光を全て飲み込む。

 そして両の短剣を下に向け、そのまま足元の炎に放出。その反動でアリトの体は宙に浮き、砲撃の威力で炎が消える。


「流石は四天王に仕える存在。ほか数名の援護があったとしても、その能力はたしかに強大……いえ、貴方が使って初めて強大になるのでしょうね。お見事です……!」


 元々空中から攻撃をしていたシロと、砲撃の反動を利用し宙に浮いたアリト。二人は向かい合ったまま地に足を付き、再び正面から対峙する。


「これでも、四天王の方々に鍛えられていますので。あの方達には遠く及ばずとも、掛けられている期待には応えなければなりません」


 シロの実力を素直に感心するアリトの言葉に、シロは謙遜も不遜もしない。

 シロは、リゥたち四天王のために死力を尽くして己を鍛えてきた。己の鍛錬は勿論、ファクトリーでの教官も務めていたシロは、教え子と呼べる者たちへの訓練にも手を抜いたことはない。

 とはいえ、それを自画自賛するほど自惚れてもいない。手を抜いていないと言うだけで、やれること全てをやり切ったというわけではない。

 そして正面にいるアリトから目を外し、リゥたちが向かった方向。今回のゴールとも言える、1層のある方を見る。


「――それにあの子たちに比べれば、掛けられている期待はまだまだですしね。あの歳であれだけの期待を掛けられているのですから、幸福になるのかそうでないのか……いえ、それが重みになることはあれど、幸福でしょうね」


 自分の脳裏に浮かんだ少年たちと自分を比較するシロ。自分よりも遥かに年下である少年たちが、自分よりも遥かに大きな期待を掛けられている。

 それを思えば、今の自分に掛けられている期待に邁進などする気も起きない。


「期待をかけられている少年たちもそうでしょうけど、その期待は幸福となる。そう言えるのであれば、期待を掛けている人も凄いですね」


「期待を掛けているのは四天王の方々ですからね。当然です。あの方たち……特にリゥ様に見込まれた人の大半は、その素質を開花させていますからね」


「そうですか。それではやはり、あの人に頼んで正解でしたね。お互いが認識する内容に齟齬がなければいいですが……」


 シロの言葉に安堵したような顔を見せるアリト。そんなアリトの話に、シロはリゥとアリトの謎の会話を頭に浮かべる。

 1層へ向かうリゥが、最後にアリトと話していた会話の内容。その内容に全く心当たりのないシロの眉間は、珍しく波を打っている。


「先程も、リゥ様とそのような会話をしていましたね。あの話の内容に、私は見当もつきません。それに、邪陰郷である貴方がリゥ様と繋がっているとも考えられません。どういうことでしょうか?」


「――確かに、あの人と私は今日……つい先程に初めて会いました。しかし、私は一方的に彼の存在を知っています。とはいえ、話を聞いただけですが」


「リゥ様の話を? 会議の盗聴を謀ったな二人組も、襲撃を仕掛けてきた黒鴉やギル班と名乗る集団も、邪陰郷と見られる存在は帰していないはずですが?」


「いいえ。どういう経緯かは分かりませんが、たった一人だけ帰された者はいます。そして彼の口から、四天王であるリゥさんのことを聞いたのです」


 ここ数ヶ月で、リゥたちは数名の邪陰郷と関わった。

 最初は、会議室の屋根裏に隠れゴウとゲンに見つかった二人組。その後ゲンからの拷問を受け、今は地下牢に監禁されている。

 そして次は、ファクトリーでリゥたちを襲った黒鴉。ベイが率いていたその集団は、ベイとアイを残した団員は掃討した。

 そして最後に、ギル率いるギル班。そこには、逃走したベイとアイもいた。しかしギルはリゥが倒し、ベイや他の集団もヴォルフたちによって掃討された。それは、その場にいなかったシロもしっかりと聞かされていた。

 そう、二人組は監禁され、無名の集団は掃討し、ギルもベイも倒した。名前の割れている二人は……二人だけは、倒した。


「――リゥ様の話では、アイという名の少年も出てきました。しかし、その少年を倒したという話は聞かされていません。――もしや、貴方はその人のことを?」


「ええ、その通りです。第6支部へ無事に生還したのはただ一人。我が弟、アイのみです」

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