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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
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36話:ゲンvsアリハル

「さてと、お兄さんたちを上に行かせることには成功したけど……おじさんたちだけでいいの? 他にいた二人のお兄さんも、強んでしょ?」


「残った俺たちだけでは、おまえを倒せないとでも?」


「だって、ワタシって強いよ? お兄さんも強いんだろーけど、さすがにネ……」


「ほう……」


 ゲンや第二特戦隊だけでは役不足だと言うアリハルに、ゲンが仕掛ける。持ち前の跳躍力を活かし、瞬時に相手との距離を詰める。速攻で挑み、無理矢理にでも肉弾戦に持ち込むのがゲンの戦い方だ。


「きゃはっ! 確かに凄いネ! ――でも、早いのはおじさんだけじゃないわ!」


「――猪口才ッ!」


「きゃっ!?」


 肉弾戦に持ち込もうとしたゲンから飛び退き、広大な4層を跳ね回るアリハル。そんなアリハルを見て、ゲンは目を瞑る。

 チクタクと時間が過ぎる音を聞き、その音が14回に達した瞬間、ゲンカッと目を開き、右足をバネにして左前へ跳躍。そのまま空中で体を捻り、左足を回す。

 瞬間、先程まで笑いながら跳ね回っていたアリハルの悲鳴が聞こえる。


「な、んで……」


「――遅い」


「なっ……ワタシが、遅い……? そんなはず、そんなはずないわ! 」


「頭に血が上っている。我武者羅に動いても意味がない」


 素早さの利点は、目に見える動きで相手を翻弄すること。翻弄できる理由は、動きの予想が難しいから。つまり、予想さえできればなんてことは無い。それを理解できていたゲンは敢えて目を瞑り、動きを予想する。

 中途半端なただ速いだけの速度。それは動きを単調にするという欠点があり、予測がしやすくなる。

 自信のあった己のスピードを遅いと評価され、我武者羅に動き回るアリハル。ゲンのような歴戦の人物を相手にするには、アリハルはまだ幼すぎるのだ。

 アリハルは、見た目からして十歳手前。少しませている部分もあるが、それでもゲンを相手にすれば幼すぎる。ポテンシャルがあっても、知恵や技術が足りない。


「――おまえらは、特に加わらなくていい。周りを警戒してくれ」


「御意!」


「一人で……このワタシを、4層の待人を、第6支部の幹部を、一人で相手するつもり!? ナメないで……ナメないでっ!!」


 自分の後ろで戦闘態勢をとる第二特戦隊に、周囲の警戒を促すゲン。そんなゲンの態度に、アリハルは分かりやすく憤慨。アリハル対ゲンのサシとなっただけだが、それさえ納得のいっていないアリハルは真正面からゲンに突っかかる。


「直線的に向かって来るとは……まだまだだな」


「上から物をっ、言うなぁ!」


 真正面から直進してくるアリハルの体を自分の後ろへと払い、ゲンは軽く避ける。簡単に払われたアリハルは体勢を崩しながらゲンのいる後ろに向き直り、もう一度直進する。


「はっ! はっ! はぁっ! なんで全然当たんないの!」


「遅い」


「遅くなんて……ないっ!」


 アリハルの攻撃をいとも簡単に避けるゲン。その呼吸は全く乱れず、表情も一切変わらない。


「――おまえ、本当に幹部なのか?」


「な、なにを……」


「ストレートに言えば、おまえは強くない。この前来たベイとか言うやつもだ。あいつは幹部を降ろされていたらしいが……」


 次から次へと攻撃を繰り出すアリハルから一定の距離を置き、二人の戦いが止まる。そしてゲンは声を低くして、アリハルに冷たく鋭い視線を向ける。

 ゲンの視線から目を逸らすように、アリハルは視線を下に落とす。


「だから、嫌なのよ……」


「――なに?」


「ギルは、紛れもなく幹部の一人。生まれ持ったあの能力だけが評価されて、幹部になった。ベイは、実力も能力もなかった。だからそれを幹部の座に置きたくないってことで、幹部から降ろされたわ」


 ゲンとは視線を合わせず、アリハルは下を向きながらそう話す。

 見えない顔も明るくはなく、話し方や雰囲気から瞳を曇らせていることも分かる。


「元々、ワタシたち待人は幹部じゃなかったのよ。でもそんなことがあって、幹部は次々と変えられたわ。少し前にあなたたちを襲った幹部みたいな存在は、支部長以外にいない」


「つまり、待人はそこまで強くないと?」


「そ、そんなことないわ! たしかに幹部になるのは嫌だけど、ワタシはベイなんかよりずっと強い! ――だから、負けるわけにはいかないのっ!」


 ゲンたちが警戒していた幹部の実力は、十二人衆が複数人で苦戦するほどだった。そこに四天王であるゴウとゲンが駆け付けて倒した形だ。

 そんな幹部が各層にいると警戒していたが、それは嬉しい誤算。しかし、アリハルは自分の弱さなど認めない。言い切ると同時に、再びゲンに突っ込む。


「悪いが、遊んでる暇はない」


「ふざけないで……ふざけないで……! そうやって、ワタシを、見下すんじゃ……ねぇぇぇぇ!」


「なっ!? くっ……」


「ワタシは負けない! ワタシは弱くない! テメェを、ここから上には行かせねぇ! ここで、死にやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 ゲンの発言に、何かが切れたアリハル。声と言葉、そして態度が一気に豹変する。

 突然の変化にゲンは目を見開き、一瞬の戸惑いを見せる。高々一瞬の戸惑いだが、アリハルのスピードを前にしている今では致命的な時間だった。

 事実、ゲンとアリハルの戦いに於いて、アリハルが遅いわけではない。ゲンがアリハルよりも速く、その差が大きかったのだ。

 しかし、ゲンが見せた戸惑いは現実での一瞬。ゲンの中での一瞬ではなく、アリハルの中での一瞬でもない。誰から見ても、等しい一瞬だった。


「くっ……ずぁっ……!」


「ゲ、ゲンさん! い、今援護を!」


「させるかよぉ! ――二陣遅せぇよ! とっとと行けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 一瞬の戸惑いを見せたゲンは一気に押され、その場に膝をつく。ゲンが膝をつくことはかなり珍しく、滅多にあったことじゃない。そんな状態を見た第二特戦隊がゲンの援護に行こうとした瞬間、アリハルの怒鳴り声とともに多くの男たちが現れる。


「そこのヤツとはワタシが戦う! テメェらはアイツらをなんとかしやがれ!」


「オォーーッ!!」


「まさか、第二陣がいたとは……二特! 俺の援護はいらん! 二陣を止めてくれ!」


「御意!」


 第二陣にアリハルが命令し、第二特戦隊にゲンが指示する。二陣は雄叫びをあげて第二特戦隊に襲い掛かり、第二特戦隊は短く返事をして二陣を迎え撃つ。

 そんな攻防の中で、ゲンとアリハルは黙って対峙。ゲンは溢れ出る鬼気を放ち、アリハルは険悪感を全開にする。そして、存在しない合図に合わせ、二人は同時に踏み込む。


「死ねやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「変わったものは気迫……いや、力も多少は変わっているか」


「テメェなんぞに負けてたまるかってんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


「それでも、まだ遅いな」


 態度が豹変したアリハルは、攻撃の威力も移動の速度も数段増している。が、ゲンはそれをものともしない。速く多く繰り出される攻撃を、全て避ける。


「くそっ、くそっ、くそっ! 当たれよぉぉぉぉぉぉ!!」


「当たって欲しいなら、当てに来たらどうだ」


「だぁぁぁまぁぁぁれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 自分の攻撃が当たらないことに憤慨するアリハルを、刺激するように呟くゲン。そんなゲンの発言でアリハルの怒りはさらに増す。

 ゲンとアリハルの戦いは、もはや戦いとも言えなくなっている。

 我武者羅に腕や足を振り回すアリハルを、難なく避けるゲン。アリハルの攻撃はたしかに雑だが、その速度は常人に測れたものでは無い。そして当たれば壁をも簡単に破壊できるほどの威力。威力、速度ともに常人離れしたものだ。


「ワタシがっ! テメェなんかにっ! 負けるわけがっ! ねぇんだよぉ!」


「悪いが、そろそろ俺も攻撃するぞ」


「ふざけ……くっ……なぁっ!?」


 ただひたすらに殴り掛かるアリハルの両手を取り、落ち着いた口調で呟くゲン。そんなゲンを睨みつけ、アリハルは腕を腕を引こうとする。

 しかし、約十歳のアリハルがゲンの力に勝てるわけがない。そのままゲンに振り回され、上に放り投げられる。


「悪いな。しばらく寝ていてくれ」


「なに、を……」


 ゲンは上に飛ばしたアリハルを追いかけるように跳躍し、一瞬にして追いつく。そのままアリハルの首に、ピンと伸ばした中指を刺す。そして中指がアリハルの首に到達した瞬間、アリハルはガクリと気を失う。

 出血はしておらず、外傷は全くない。アリハルからは痛みを表す悲鳴も上がらず、静かに落ちたのだ。


「げ、ゲン様! こいつら……うぁっ!?」


「多勢に無勢か、よく耐えてくれた! こいつらを片付けて、直ぐにリゥたちを追うぞ!」


「は、はい!」


 アリハルが気を失い、ゲンとアリハルの勝負がついたすぐ横で、第二特戦隊が次から次へと出てくる第二陣に手を焼いている。

 第二陣の人数は、第一陣よりも遥かに多い。さらに一回で出てくる訳ではなく、何回にも分けて次から次へと湧くように登場する。


 そんな第二陣を見て、ゲンも第二特戦隊を手伝うが、計り知れないほどに数が多い。ゴウのような高火力使いがいれば一瞬だが、ゲンは肉弾戦特化であるため、地道に倒していく。


 ――そこから消えた、幼女の姿に気付かないまま……

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