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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
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番外編①:思い出溢れる大晦日

皆さんこんにちは。今回は、大晦日から正月をテーマとした短編です。

12月31日に龍翔たちが行った、テーマパークでの話となります。クリスマスで初登場だった翼も目立つ話となってます!

 十二月三十一日、十二月二十五日のクリスマスが終わり、その年最後の日となる大晦日。その過ごし方はそれぞれだが、大凡の人は恋人や友人、家族などの大切な人たちと過ごし、年越しを迎える。

 しかし、大切な人というのは人それぞれ。そして今日この日、天野龍翔もまた、大切な人たちとの思い出を築く。


 ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼


 時は十二月三十一日午前八時。

 場所は龍翔たちが住んでいる羽依美(ういび)市にある羽依美駅。

 そしてそこにいるのは、最近の大きな行事でイツメンと化した龍翔と晟、それから優輝に蒼空、蓮、翼。そこに優也を加えた七人だ。


「龍翔がテーマパークとか、かなり珍しいんじゃねーの? 人混みとか大嫌いだったんに」


「んあー? 行くメンツにもよるっしょー。晟たちが行きたいって言うなら、たとえ火の中水の中だわ」


「火の中はともかく、水の中はおまえ大好きだろ……」


 駅のホームで電車を待つ間、龍翔にそう話しかける優也。龍翔たちは今、大晦日のこの日にテーマパークへと向かおうとしている。

 そして今回は、せめて年越しくらいの息抜きとして優也も参加している。


「水の中が好き?」


「あー、俺泳ぐのめっちゃ好きだからさ。夏休みとか、優也とかクラスのヤツらとプールとか海とか行くんよ。まぁ俺が一番はしゃいで一番最初にバテるんだけど」


「それじゃダメじゃん……」


「はしゃぐと疲れんの! あー、でも晟が一緒に来てハグっとしてくれれば疲れ飛ぶよ?」


「んー、あともうちょいで電車来るね」


「分かりやすく無視るなぁ!」


 優也の″水の中が好き″という言葉に、晟は目をキョトンとさせて首を傾げる。そんな晟をさり気なく且つガッツリと誘うが、晟はくるりと時計の方を振り向いて完全にスルー。そんな晟に、龍翔は子供っぽく地団駄を踏んでつっこむ。


「それより、今日バテないでよね! 明日だってあるんだから!」


「まぁ、疲れたら晟がハグっとしてくれれば解決するよー」


「嫌でーす。バテたら置いていきまーす」


「えぇー……いいじゃんハグー!」


 悉くハグを拒否される龍翔は、頬を膨らませて不貞腐れる。


「なら俺が脇腹擽ってあげるよー! まずは今、一回だけやっとこー!」


「やだ! それだけはもうやだ! やめて、ちょ、追ってこないでってー! ね、助けて翼!」


「いいよー。その代わり、後で観覧車二人きりね?」


「やっぱいい! 翼のその笑いは絶対ダメなやつ!」


 脇腹を狙って追いかけて来る優輝から逃げ、龍翔は翼の後ろへと回る。そして翼に助けを求めるが、その条件が怖い。少し意味深な笑みを浮かべる翼は、龍翔の後輩で随一のサイコパスだ。

 そんな翼と観覧車で二人きりは、必ず何かが起こる。上に上がれば時間が経つまで降りられない。翼と二人きりで出られない密室に入るのは、相当な勇気と覚悟が必要だ。

 よって、龍翔は翼の後ろからも退避。そして今度は、蓮の後ろへと回る。


「れ、蓮は助けてくれるでしょ!? さすがに、変な条件出さないよね!?」


「龍翔くん。そう言えばしりとりの続き終わってない。俺の『座右の銘』で終わったから、次は龍翔くんだよ」


「今!? え、今!? 今それ言う!? どう考えてもそれ出来る状況じゃないやん!」


「でも終わってないし……」


「あーもう分かった! イソギンチャク! この続きはまた後でだ!」


 唯一、素直に助けてくれそうだった蓮も、何故かしりとりの決着を今になって付けようとする。そんな蓮に、取り敢えずイソギンチャクとだけ返して次へ逃げる。


「もう蒼空でいい! 同級生だし、何とかなるっしょ!?」


「龍翔くんがこれからいじらないって約束するなr」

「よしやっぱいい! 次だ!」


「なんで!? なんで俺の時だけそんなに早いの!?」


 念のために蒼空の方へも行くが、条件を言い終わらせる間もなく次へ回る龍翔。

 龍翔としては、いじらないという条件が無理なのと、この状況でも蒼空をからかいたかったというのが主な理由だ。


「んでもってやっぱり晟だ! お願いだから助けて! お年玉あげるから!」


「龍翔くん、なんで俺の時だけお年玉とか言うの? 俺がお年玉で釣れるーって思ってるんでしょ?」


「だってー、晟そーゆーとこあるやん? まだ物をぶら下げれば食いついてくれる可愛いお年頃かなーって思ってさー」


「そうやって子供扱いするなら絶対に助けてあげないからー」


 一周まわって晟に助けを求め、『お年玉』という物で釣ろうとした龍翔。しかし当然ながら、子供扱いされた晟は怒る。


「分かったよ、ごめんって。向こうでアイス買ってあげるから機嫌直して?」


「え、ほんと? そしたらチョコね!」


「――っ? あ、アイスは欲しいんだな。何だかんだ言って、やっぱ晟は可愛いなぁ……」


「うあっ、ちょ、やめてよー!」


 お年玉で釣ろうとした龍翔に怒った晟だが、アイスを買うと言った今回は何故かしっかりと食いついてくる。今回は晟のツッコミを狙ったのだが、何故か味の指定までしっかりとされて、龍翔は一瞬驚く。

 しかし、アイスで機嫌を直すという晟の可愛さ。まだ幼さの残る晟の頭を、龍翔はなんとなく掻き回す。


「なんか龍翔くん、いつの間にか俺の事忘れてるし……」

「俺のところには、助けてくれって言って来ねぇし……」


「よく分かんないなぁ……」

「納得いかねぇなぁ……」


 龍翔が逃げ回っている間に、いつの間にか忘れられてしまって無理解に苦しむ優輝。

 龍翔が後輩たちを頼る中で、見向きもされずに助けを求められず納得のいかない優也。

 そんな二人は、それぞれの意味でため息をつく。


 ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶


 そんなやんわりとしたやり取りを経て、龍翔たちは目的地であるテーマパークへと到着する。

 片道約一時間の電車に揺られ、時刻は10時過ぎ。開園時間ジャストで入り、まずはゆらゆらと中をふらつく。


「最初どこ行くん?」


「んー、最初でしょー? あ、コーヒーカップとか近いよ?」


 手を頭の後ろに回して歩いている龍翔は、園内を見回しながらそう尋ねる。すると優輝は、入口で貰ったマップを広げながら近くにあるコーヒーカップを指差す。


「こ、コーヒーカップはやめないか……? ほら、近さだけならメリーゴーランドも近いぜ?」


「え、なんでー? 優也くん、そんなにコーヒーカップ苦手なの?」


「いや、苦手じゃないし乗れるんだけどさ……」


「なら大丈夫だよ! 行こー!」


 コーヒーカップに行こうとする優輝たちを止める優也。珍しくどこか慌てたような表情で、冷や汗をかいている。


「コーヒーカップが四人乗りだから、三、四で分かれる?」


「あ、俺は龍翔と一緒じゃなけりゃいーぜ! 龍翔もできるだけ多くの後輩の方がいいだろ!? な!?」


「なんでそんなに食い気味なんだよ……まぁ、後輩と乗りたいのは事実だけどよ」


「したら俺は龍翔くんと乗るわー! 晟と蒼空も行こーぜー?」


「んじゃ翼と蓮はこっちな」


 何故か龍翔と一緒に乗るのを頑なに拒もうとする優也。そんな優也に龍翔たちは首を傾げるが、それを否定する理由もない。

 龍翔と一緒に乗るのは、晟と優輝と蒼空。優也と乗るのは、翼と蓮。そうして七人は、コーヒーカップに乗り込む。


『えー、それでは間もなく動き出します。動いている最中は、手をカップの外に出さないようお願いします。――それではスタートです』


 ――ガッ


「おっしゃァッ!」


「え!? なに!?」


 開始のアナウンスが終わり、BGMが流れ出した瞬間、龍翔がカップ中央のテーブルを掴み、意気込むように叫ぶ。


「おぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


「え、ちょっと待って! 龍翔くん回しすぎ! 回しすぎだって――!!」

「ちょ、やばいやばいやばいやばいやばい!」


 コーヒーカップが動き出すと同時に、龍翔はテーブルを勢いよく回し始め、カップが物凄い勢いで回旋。

 回している龍翔の発狂と、それに乗っている優輝たちの悲鳴。その声は、コーヒーカップの上を通った絶叫マシンから聞こえるよりも大きいほどだ。


「あーあ、始まっちゃったよ……二分間地獄だな、アレ」


「あれって止められないの? 大丈夫?」


「それが止められたことないんだよなぁ……」


 ゆったりと回るカップの中で、激しく回る龍翔たちを眺める優也たち。物凄い速度で回し続ける龍翔たちを見て、蓮は止められるのではないかと不安そうに見つめる。

 そして約二分間のBGMが終わり、コーヒーカップが止まる。


「ふーっ、久々に満足ー!」


「ちょっと待って、龍翔くん……ちょ、立てないんだけど……」

「なんでそんなに平気に歩けるの……? めっちゃ目回ってるんだけど……」


「えー、あれだけでー? 仕方ないなー。ほら、掴まれぃー」


 コーヒーカップが止まり、満足そうに両手を掲げて伸びる龍翔。そんな龍翔の後ろでは、目が回ってコーヒーカップから降りることすら出来ない優輝たちがぐったりとしている。

 そんな三人の(そば)に戻った龍翔は、晟を背負いながら、優輝と蒼空の肩を持つ。


「あー、やっぱり自力じゃ降りられないよなぁー。お疲れ様、ドンマイ……!」


「優也くんが龍翔くんと乗りたがらなかったのって、これ……?」


「そーよ。かなり気持ち悪いっしょ? あんな思い二度としたくないしな……」


「分かってたなら教えてよぉ……一番最初から結構ヤバいじゃん……」


 龍翔に体を支えられて降りてくる三人を、苦笑いで迎える優也。そんな優也を見て、頑なに拒もうとしていた理由を理解した優輝。それを実際に体験すれば、嫌でも分かる事だった。


「ちょっと張り切り過ぎたかなぁ……ごめんね?」


「んーん、少し休めば大丈夫。でも、コーヒーカップはもうダメね」


 近くにあった椅子に頭を預け、グダっとしている三人。その目の前にしゃがみ込み、龍翔は三人の顔を覗き込むように謝る。


「あ、そしたら俺と乗りに行こ! 優輝くんたちが休んでる間、俺と行こ!」


「つ、翼? おまえ正気か? マジでやめといた方がいいぞ。龍翔のアレはシャレになんねぇ」


「大丈夫ですよー! 龍翔くんがあれで目回さないなら、二回目でどうなるかも気になりますし。それに、龍翔くんの体力が分かれば色々参考になるんで!」


「ちょっと待て、俺の体力はなんの参考にするんだ? それ次第じゃ俺も行くかどうかを考えるz……ってちょいちょいちょい! 引っ張るなって、まだ行くとは言ってなぁぁぁぁぁ」


「あーあ、今度は龍翔くんが捕まっちゃうのね……」


 意味深な言葉を残しながら、その言葉の本意を伝えずにコーヒーカップへと龍翔を引っ張る翼。何も言われずに引きずられ、龍翔は片足が浮いた状態でトコトコとついて行く。


「乗っちまったらしゃぁねぇ! 行くぞぉー!! 回れぇぇぇぇぇぇっ!!」

「ひゃっふぅぅぅぅぅー!!」


「翼のやつ、龍翔のあれについていけんの……? え、まじ?」


 龍翔の回すコーヒーカップに、悲鳴をあげるどころか楽しんですらいる翼。カップの縁を掴んでずっと目を瞑っていた優輝たちとは打って変わり、両手を放りだして楽しんでいる。


「俺も俺も! 俺も回すー!」


「あいよー」


「いっけぇー! コーヒーカップでぐるぐる回って掻き回されて、龍翔くんと一緒に……」

「よぉしそこまでだ! 何となく危険な感じするからそれ以上は言わなくていい!」


 またもや訳の分からないことを言い出そうとした翼に、慌ててその口を抑える龍翔。そんな二人の距離感はかなり近くなっていて、まさかクリスマスまで敬語を使っていたとは思えないほどだ。


「あの二人、あんだけ回して普通に喋ってんのな……三半規管どーなってんだよ」


「それに、なんかデートしてるみたいだね。あの二人」


「あれ、晟もしかして妬いてるの? まぁたしかに、晟は龍翔くんと仲良かったもんなー」


「ち、ちがっ! そんなんじゃないからっ!」


 頭を抱えて首を振る優也の横で、小さく呟いた晟。そんな晟の呟きに、優輝が晟の後ろから肩に手を乗せて揶揄う。そんな優輝の言葉に、顔を赤くする晟。

 そんなやり取りをしていると、龍翔と翼がコーヒーカップから降りてくる。


「はぁ、はぁ……やばい……」


「どうした? さすがに翼との二回目はキツかったか?」


「いや、そうじゃなくて……」


 呼吸を荒くして戻ってくる龍翔は、赤らめた頬を両手で挟みながらゆっくりとしゃがむ。


「やばい。つばさとのるの、いままでいちばんたのしかった……」


 顔を持ち上げて、優也たちを見上げた龍翔のその顔は、なんとも力なの無い顔だった。

 真っ赤に染まった顔にはたくさんの汗をかいていて、目と口元は力なくとろけている。そしてそんな表情で行われる乱れた呼吸は、なんとも言い難い卑猥な雰囲気が漂う。


「おまえ、なんか変な扉でも開いたか? 微妙にエロいし、激しく気持ち悪いぞ?」


「だって、やばすぎるんだもん……あれはまる……つばさ、もっかい……もっかいいこ……?」


「しょーがないなー。もっかいだけだよー?」


「ぎゅむ。らすと」


 力なく頷いて、力なく返事をして、力なく歩く龍翔。その足取りはかなりフラフラしていて、翼に手を取られて漸く歩けている形だ。


「あーあ、洗脳されちゃった……」


「洗脳って……まぁでも、たしかに間違ってはないかもな。乗る前まではめっちゃ警戒気味だったのに、あんなにべったりだしなぁ……」


「龍翔くんって、本当に何が素なんだろうね。本当に分からなくなってくる……」


 そんな話をしながら、優輝たちはコーヒーカップに乗る龍翔たちを眺めている。


「俺が回していい?」


「ぎゅむ」


「やった! よーし、うりゃぁーー!! ぐるぐるぐるぐる、回れ回れーー!!」


「んーーーーーー!! さいこぉーーーーーー!!」


 コーヒーカップに乗った瞬間、力のなかった龍翔は一転。

 今度は最初から翼が回し、龍翔は両手を広げて高らかに叫ぶ。周りのどのカップよりも盛り上がっていて、周囲の目など気にもしていない。

 そんな龍翔たちを見ていると、見ている方が恥ずかしいを超え、いっそ見ているだけで楽しくなってしまう。


「龍翔のやつ、コーヒーカップに乗った瞬間元に戻ったな」


「なんかあれだよねー。龍翔くんといれば、どんなとこでも飽きるとかなさそー」


 そんな風に眺めていれば瞬く間に二分が過ぎ、龍翔と翼が笑い合いながら戻ってくる。


「お、今度は龍翔も大丈夫なん?」


「いやー、さっきはあまりにも楽しすぎて取り乱しすぎたわー。でもやっぱ楽しいな、翼が一緒に来てくれてて良かったぜー。もうほんとに翼大好き!」


「え、大好きなの? それじゃーあとで観覧車乗ってくれる? 二人きりで」


「もー乗ってあげるよー! マジで翼さいこー! ほんと、どこにでも行ったげる!」


 警戒心をゼロにして、人目も気にせずに抱き合う龍翔と翼。サイコパスも込みで全てを受け入れ、二人は完全に打ち解ける。


「えー、そんなこと言っちゃっていいの? 晟がずーっと嫉妬してるよ? 龍翔くん」


「し、してないよ! なんでそこで俺を出すの! 別になんとも思ってないし!」


「そんなこと言ってないで素直になりなよー。じゃないと翼に盗られちゃうよ?」


「盗られるとかないから! そういうこと言うと絶対に龍翔くんからかってくるんだから、やめてよもう!」


 ものの数分で仲良くなり過ぎた二人に目を向け、晟を指さしながら優輝が龍翔に話しかける。

 そんな優輝の言葉に、晟はまたもや顔を赤くしながら、若干焦ったように怒る。


「大丈夫だよー。翼を好きになっても、晟を嫌いになったりなんかしないからー。晟のことも、ずーっと大好きなままだよ?」


「ほらからかってくるじゃんー! もうやだー! 別に龍翔くんに好かれても嬉しくないしー!」


「そーゆーこと言わないでよ! せっかく好きだよって言ってあげたのに、悲しくなってくるじゃん!」


「俺別にお願いしてないもーん。龍翔くんが勝手に言っただけだしー! 俺知らなーい!」


 子供すぎる言い合いをする二人に、それを見ている優輝たちの心も和む。龍翔と翼はべったりとした仲の良さだが、龍翔と晟はほんわりとした仲の良さであり、仲の良さは全くもって別物。


 しかし、龍翔が軽く口にする『好き』という言葉。軽くポンポンと吐き出している言葉だが、その意味は決して軽いものではない。龍翔はいつでも、その相手に合った意味の好きを、本心で送っているのだ。

 それを理解されているからこそ、多くの後輩に好きと言っている龍翔でも嫌われない。そしてそれは晟にも言えることで、晟もそれが理解出来ているからこそ、龍翔といつまでもじゃれていられるのだ。


「まーまー、そんなことより次行こーぜ? ほら、メリーゴーランドとかでいい?」


「いいぜー。どうせほとんどのアトラクション行くつもりだし、近場からどんどん制覇やでぇー!!」


「まぁ、メリーゴーランドならコーヒーカップみたいにならないもんね。いいよー」


 龍翔と晟のじゃれあいがヒートアップしないうちに、優也は次のアトラクションを決める。

 コーヒーカップのトラウマが消えず少しだけ警戒する晟たちだが、自分で操作することのないメリーゴーランドであればコーヒーカップのようにはならない。そうして、全会一致でメリーゴーランドに乗る。


「メリーゴーランドならやっぱり白馬っしょー! ――晟、一緒に乗る?」


「えっ、あ、うん……り、龍翔くんがどーしてもって言うなら、別にいいよ?」


「うんうん。どーしてもだから。どーしてもだから乗ろーねー」


「し、しょーがないなー」


「ありがとなー」


 メリーゴーランドの白馬を眺める龍翔は、自分を見る視線を感じその方向へと目を向ける。すると、どこか不安げな目をしている晟と目が合った。

 その瞳が訴えるものは、誰が見ても一目瞭然。白馬に乗ろうとする龍翔と、一緒に乗りたい。そう思いながらもそれを言い出すことができない、そんな目だ。

 そんな晟に優しく微笑みかけ、バレバレなことに気付けていないツンデレな晟の頭を撫でる。


「晟って、やっぱり素直じゃないな」


「まぁ、そこが可愛いところなんじゃない? 見ててほっこりするもん」


「晟くん、クラスとかだとあんなキャラじゃないのにねー。やっぱり龍翔くんと同じで、相手によって結構変わっちゃうんだね」


「まぁ、そーゆーとこが似てるから仲良くなれるんだろうしね。類友って言うの?」


 恰も龍翔のお願いを聞いてあげたことにしようとするツンデレな晟と、それを黙って受け入れる龍翔。その二人のやり取りを見て、優也たちは晟に聞こえないような小さい声で話す。


「んじゃ、龍翔と晟がペアね。こっちももう決められたから、次で乗ろっか」


「おう、おっけー」


 余計なことを言わずに龍翔と晟のペアを成立させ、入口へと並ぶ。そして音楽が終わり、龍翔たちもそれぞれの馬やゴンドラへと騎乗。

 そうしてアナウンスが終わり、BGMが流れ始めるとメリーゴーランドがスタート。前に座る龍翔は、後ろに座った晟の手を自分の腰に手を回し、腹部の前でその手を掴みながらゆったりと揺られる。


「んー、激しいコーヒーカップもいいけど、ゆったり回るメリーゴーランドもいいよなー」


「龍翔くんがあんなに回さなかったら、コーヒーカップだってゆったりできるんだよ?」


「それじゃつまらないだろー。コーヒーカップは自分で回せるんだから、そこを楽しまないとなー」


 メリーゴーランドに揺られながら、後ろの晟に少し体重を預けてコーヒーカップと比べる龍翔。そんな龍翔に掴まりながら、後ろから顔を覗き込むようにして首を傾ける晟。そんな会話のやりとりだけ見ていれば、そこまでベタベタしないカップルにも見える。

 そんな風にゆったりと回り、次は絶叫マシンの方へ行く。


「ほ、ほんとに乗るの……? 俺、絶叫無理なんだけど……」


「あんなにコーヒーカップ回してるのに絶叫無理なの!? ジェットコースターくらい大丈夫じゃない!?」


「いやダメ。ほんとに無理。絶叫だけはマジでダメ」


 ジェットコースターの前に来て、唐突に駄々をこねる龍翔。近くの柱にしがみついて、それ以上は近付こうとしない。青ざめた顔で小刻みに首を横に振り、龍翔はそこでフリーズだ。

 そんな龍翔を見て、優也がそっと晟と翼に耳打ちする。


「龍翔なら、晟と翼が乗ろっていえば乗ってくれるから、ちょっと言ってきてみ。″龍翔くんと一緒に乗りたいなー″とか言えば、ひょこひょこついてくるから」


「え、やだよー。それで嫌だって言われたら恥ずかしいじゃんー」


「大丈夫だから。絶対に乗るから。ちょっと言ってきてみ」


 優也の提案に、少し戸惑ったような表情をする晟。そんな晟をなんとか説得し、最初から納得していた翼と一緒に龍翔の方へ向かう。


「り、龍翔くん? お、俺、龍翔くんと一緒に、ジェットコースター乗りたいなー……?」


「俺も俺もー! あれ、三人乗りなんだってー! 三人で乗りたーい!」


「うう、ほんと……? 晟と翼、俺と乗りたい?」


「ほんとほんとー! 俺と晟くんと龍翔くん! 三人で乗ったら楽しいよー!」


 若干口篭りながら龍翔を誘う晟と、明るくグイグイと行く翼。特に翼の態度が大きく龍翔の心に影響して、柱を掴む龍翔の手が緩まる。


「うー……一緒に乗ったらハグしてくれる?」


「するする! ハグもするし、ハミハミもするー!」


「いや、ハミハミは遠慮するけど……そっか、じゃー俺も乗る。でも、絶対に一緒だかんね?」


「やったー! ぜったーい! ほら、そうと決まれば一緒に並ぶよー! 晟くんも行こ!」


 ハグやハミハミの言葉に、完全に気後れしてしまっていた晟。最初の言葉以外何も言わずに話が進んでしまい、気づいた時には一緒に乗ることとその後のハグが決まっていた。

 多少ビクつきながらも龍翔は階段を登り、ジェットコースターの列へと並ぶ。そしていよいよ龍翔たちの順番が回ってきて、恐る恐る足を踏み入れる。

 震える龍翔を真ん中にして、晟と翼がサイドに座る。そしてその後ろには優輝と蒼空が二人で座り、さらに後ろに優也と蓮が並ぶ。


「うあぁ……やっぱやだ! 降りよ!?」


「だーめー! 今降りたら他の人に迷惑だし、ハグもしてあげないよ?」


「うぅ……じゃー始まるまで晟を抱く!」


「はぶっ!? なんで俺なの! ハグは降りてからでしょ! それに、抱くなら翼でいいじゃん!」


「俺は龍翔くんを抱くからー! はぐぅー!」


 震える龍翔は翼ではなく晟を抱き、翼は龍翔を抱く。人目を気にしない二人と同じ席に乗り、晟は恥ずかしさで顔を赤くする。

 そんな三人を後ろから優輝たちが笑い、周りの人や係員の人にも微笑ましげに見守られる。


「ほら、みんなに見られてるから! それにもうすぐ始まるから!」


「ふぎぃ……」


 腕の中にいる晟に顔を押し返され、龍翔は恐る恐る安全バーに手をかける。

 そしてゆっくりと動き出し、ガタガタと音を立てて上昇する。


「うあぁ……あともうちょっと、もう? 行く? やばい、やだ、こわっ、んん……いぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「わふぅ――――――――――!!」


 どんどんと上へ上り詰めるジェットコースターで、実況しているかのように心の声を口に出す龍翔。そしてとうとう一番上まで上がり、下がる瞬間に誰よりも大きく叫ぶ。


「んあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! むりむりむりむりむり! やぁぁぁだぁぁぁぁぁぁ!! ひびぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!! あばばばばばばばばっつば!?」


「ちょっ、今絶対に噛んだでしょ!?」


「あがあがあが、痛ぃぃぃぃぃ……」


 ぐるぐると周り、ぐねぐねと蛇行するジェットコースター。それで叫びまくった龍翔は、これ以上ないほど盛大に舌を噛む。

 恐怖と痛みに悶絶する龍翔は、最早完全にダウン。前の壁に体重をかけ、完全に頭を伏せてしまう。

 しかしジェットコースターは容赦なく進み、悶絶する龍翔を乗せて動き続け、やっとの思いでゴール。


「い、いやぁ……泣いて帰ってくるだけの人はいましたけど、さすがに口の中血だらけで帰ってきた人は初めてですよ……?」


「ふ、ふひはへん……はほ、ほほひはふひひふっへはひはふは?」


「もう『は行』しか喋れてないじゃん……」


 盛大に舌を噛み、這い蹲るようにしてジェットコースターから降りた龍翔。そんな龍翔を見て、流石の係員も苦笑い。

 溢れ出る血を何としても落とすまいと、龍翔は必死に上を向いて喋る。


「えっと、何を言ってるか分かりますか……?」


「多分、″この近くに水ってありますか?″だと思います」


「あ、ああ。なるほど。えっと……ここを降りて左に曲がれば水道がありますが……」


「んー!! はひはほーほはひはひはー!! ひふー!!」


 水道の場所を聞いた瞬間、正気を取り戻したように顔を明るくする龍翔。口を抑えながら一気に階段を駆け下り、水道のあるとされた方へ全速力で走り出す。


「べぇぇぇぇぇ……ゲホッゲホッ、おぅぇ……」


「うぅわ……舌噛んだだけでこんなに出るとか……どんな勢いで噛んだんだよおまえ……」


「ガラガラガラガラガラ……ぺっ! し、仕方ないだろ……怖かったんだから……」


「はいはい、分かったから。ほら、もう大人しくしてて」


 血反吐のように血を吐き出す龍翔に、後ろから声をかける優也。確かに、舌を噛んだだけにしては吐いた血の量が多すぎる。

 そんな龍翔の横にしゃがみこみ、晟は優しく呟きながらゆっくりと龍翔の背中を摩る。


「うー、ありがと……あぁ、後輩に慰められるとかだっせぇなぁ……」


「いつも甘えてくるくせに、こんなときだけ先輩っぽいこと言わないの。今回も大人しく甘えて静かにしてて」


「なんか、急に大人っぽくなったな……」


「龍翔くんが子ども扱いし過ぎなだけでしょ」


 晟に背中を撫でられ、だんだんと調子を取り戻していく龍翔。いつも小さな子どもっぽく見えていた晟が、今は大きく見える。


「ほら、そろそろ立てる? 無理して乗せちゃってごめんね。もうお昼だから、ご飯食べに行くよ」


「ん、分かった。あ、ちゃんと乗ったからハグして?」


「こんな時でもそういうことは覚えてるんだね……まぁ約束しちゃったし、仕方ないか……はい」


「あきらぁぁぁっ」


「うあっ」


 少しの間背中を撫でてから、晟は龍翔の腕を引いて一緒に立つ。

 そしてこんな状況でもハグを忘れない龍翔に、少し呆れたようにため息をつく。それでも約束をしたからと、優しく微笑んで両腕を広げる。

 そうして開かれた晟の胸に、龍翔は勢いよく飛び込む。そのまま二人とも倒れそうになるが、そこは龍翔が加減し、後ろへと倒れそうになる晟を龍翔がしっかりと支える。


「あ、ねーえ! 俺も! 俺ともハグするんでしょー!」


「大丈夫だって。俺からお願いしたんだから、するに決まってんだろー。なんで翼がそんなに甘え気味なのか分かんねーけど、可愛いなぁ」


「んー? 可愛い? そしたら、可愛い俺のこと襲う? それとも、可愛い年下に襲われたい系?」


「うん、そーゆー話は今度にしよーか。翼はサイコパスってより、ただの変態だな……」


 もはやド直球すぎる翼の言動に、龍翔はサイコパスを訂正。素直すぎる変態と認識を改め、龍翔は翼の頭に手を置く。


「まーまー、そんなとこよりそろそろ飯食いに行かねーと。早くしないとなくなんぜー?」


「おっけー。したら俺はここで晟と翼とイチャラブしてっから、俺らの分も買ってきてくれー」


「イチャラブとかしないし、龍翔くんもみんなと一緒に行くんですー! もう、元気になった途端に変なことばっか言い出すんだから……」


「えー。歩くのつらー。つーかーれーたぁー」


「早くしないと置いてくよ! 戻ってこないからね!」


 どさくさに紛れてド直球に楽をしようとする龍翔。そこに自分も巻き込まれ、晟は龍翔の背中を押す。晟に背中を押されながら、先を歩く優也たちに渋々ついて行く。


「んで、みんな何食うの?」


「あんまり凝った料理食うのもめんどーだし、その辺の売店にある焼きそばとかで良くねーって思うタイプー」


「自分で食べるより龍翔くんに食べさせてもらうタイプー」


「お、おう? まぁいいけど、翼ってクリスマス以来かなり変わったな……」


 龍翔の言い方を真似して、またもやリゥに抱きつく翼。

 クリスマスまで、翼は龍翔とほとんど喋っておらず、クリスマスの日に漸く喋るようになったばかり。それなのにも関わらず、今となっては一番龍翔にベッタリなのが翼だ。


「まぁ、今から食いに行っても席とか空いてなさそうだもんな。そこら辺の売店だかなんだかで買うんでいいか?」


「おう、全然構わないぜー」


「んじゃ、てきとーに買うかー」


「あいあーい」


 そうして近くの売店で色々と買い、龍翔たちは昼食をとり終える。因みに、龍翔は自分のを食べながら翼にも食べさせていた。


「次はどこいくのー?」


「俺ちょっと休憩するわー。向こうの屋上で昼寝してくるー……ってうお!?」


「龍翔くんもう疲れたのー? やっぱコーヒーカップでふざけすぎたからだよ」


「しゃーないだろー。ジェットコースターとか乗るつもり無かったし、コーヒーカップくらいなら平気だと思ったんやもんー」


 疲れたような表情で欠伸をする龍翔の背中に、優輝が後ろから乗っかる。意図せず優輝を支えておんぶしてしまい、優輝は龍翔にしがみつく。


「なんか、翼といい晟といい優輝といい、今日ってみんな龍翔に甘えたい日なの?」


「ちょっと待って! 俺は甘えてないよ!?」


「あー、悪ぃ悪ぃ。でも優しくはしてたっしょ? 翼は素直で直球に甘えて、優輝はエスっぽさを演じて微妙に甘えて、晟はツンデレでも少しだけ優しくして、龍翔のこと取り合ってるような感じだぜ?」


「龍翔くんは俺のー!」


「いや、別にエスを演じてとかないから! 普通にからかおうとしただけだし!」


「俺もツンデレとかじゃないから! いつも普段から誰にでも優しくしてるし!」


 自分が甘えているのを素直に認め、龍翔を自分のものだと断言してしまう翼に対し、絶対に認めようとしない優輝と晟。

 そんな三人の言動に、龍翔は人差し指で頬をかいて苦笑いをしている。


「でも、優輝は龍翔と一緒に遊びたいから龍翔にしがみついてるんでしょ?」


「だ、だから違うって! 体力のない龍翔くんをからかってただけだし!」


「――分かった分かった。したら俺も遊びに行くよー。みんなで行けば問題ないっしょ? どこ行くの?」


 龍翔と遊びたくてもそれを素直に言い出せない優輝。それは晟も同じで、二人の気持ちは全員に理解されてしまっている。

 もちろん、それは龍翔も例外ではない。そのため、龍翔は自ら遊びに行くことを決断する。

 背中に乗っている優輝に目を向けて、体を揺すりながら首を傾げる。


「え……あー、んっとねー。あ、あれ! ゴーカート乗りたい!」


「お、おう……? ゴーカートって大体一人乗りじゃなかったか?」


「ここは二人乗りもあんのー! さっきやってたし、ちゃんと調べて来たもん!」


「ほー、そかそか。ちゃんと調べて来たってことは、二人乗りしたかったんやな? 誰と?」


「何その顔! 別に誰と乗りたいとかないけど、まぁ、龍翔くんと乗れば揶揄えるかなーって思う」


 龍翔がどこに行くかを聞くと、優輝の顔はパッと明るくなり、奥のゴーカートを指さす。

 そして前もってしっかりと調べていた優輝は、二人乗りの相手に龍翔を指名。


「揶揄いたいからって……揶揄いたいとかいう理由を付けないとダメなのか……? 素直に乗りたいーとかでいいんじゃね?」


「いいの! 龍翔くんは俺とゴーカート乗ってからかわれんの! ったくー」


「わかったわかった、ごめんってー。少しは翼とか見習って素直になって欲しいんもんなんだけどなぁ……」


 素直さを求めた龍翔は、背中にしがみついている優輝にドタドタと蹴られる。全くもって痛くはない攻撃だが、体を揺さぶられて体勢を崩す。

 謝りながらバタつかせる優輝の足を下から掬い、龍翔はしっかりとおんぶの体勢をとる。


「よーし、したらゴーカート行くぞー! ほら、優輝はしっかり掴まっとけよー?」


「おー、ちょー楽ー! 行け行けー! ゴーゴーゴー!」


「おい、置いてくなってー! 仕方ねぇなぁ……俺らも行くか」


 優也たちを置いて一目散にゴーカートへ向かう龍翔と優輝。背中に乗っている優輝は右手を突き出して、馬にでも乗ったかのようにはしゃいでいる。

 そんな二人を追いかけるように、優也たちも走ってゴーカートへと向かう。


「あ、赤黒のあれー!あれが一番かっこいー! あれ乗ろ!」


「はいよ、りーかい。優輝が運転するの?」


「なんで俺が運転するの! 龍翔くんが運転して、ミスしたところで俺が揶揄うんでしょ! 慎重になりすぎて負けても揶揄うからね!」


「優輝は俺を揶揄わないと死ぬのか……? でも俺、ゴーカートはそこそこに上手いぞ?」


 揶揄うことだけは絶対に引かない優輝に、龍翔は少し呆れたように下を向いて首を横に振る。が、龍翔もそう易々と揶揄われる訳ではない。自信に満ちた表情を優輝に向け、ゴーカートが得意だということを自らアピールする。


「へー。そしたら、一位でゴールできなかったらこちょこちょね。脇腹、ずっと攻め続けるからね?」


「ひぎっ! お、おい、まだ負けてないだろ! 負ける前に脇腹刺すなし! まぁ、絶対に一位でゴールしてあげるよ。その代わり、一位でゴール出来たら俺が優輝をいじるかんね?」


「いいよ? だって、蒼空はああ見えてゴーカートめっちゃ得意だからね。去年クラスのみんなとゴーカートやった時なんか、ぶっちぎりで一位だったから」


「は、はぁ!? それずるくね!? そんなの聞いてねーよ!?」


「聞いてない龍翔くんが悪いー! もうOKしたんだから、撤回できないからねー」


 一位になった時の条件を、あっさりと承諾する優輝。その自信は同じレーンを走る蒼空の存在で、蒼空は去年の三月、クラス全員で遊園地へ打ち上げに行った日、ゴーカートのレースで一位を、しかも二位以下と大きな差をつけて取っている。

 そんな蒼空には勝てないと踏んだ優輝は、余裕の笑みを浮かべる。


「ま、まぁ勝てばいいんだし? いいよ、誰が相手でも勝ってやるわ! なぁ蒼空!?」


「――? あ、俺は運転しないよ? 蓮が初めてらしいから、蓮に教えながらゆったり行こうと思って」


「え!? 蒼空が運転するんじゃねーの!? は、ちょっと待って! り、龍翔くん? あのー、そのー、さっきの話は……」


「なしにはならないからね? これで形勢逆転となるわけね。人生何があるか分かりませんなぁー」


 二人が蒼空の方を見ると、蒼空はにっこりと笑いながらハンドルのない方へと座っている。

 そんな蒼空を見て、優輝の顔は一気に蒼白と化していく。そしてゆっくりと龍翔の方に向き返り、口篭りながら途切れ途切れの言葉で龍翔に話しかける。が、龍翔も元々はいじりたい側の性格だ。これぞ千載一遇の好機と、悪辣な笑みを優輝に向ける。


 そんなやりとりをしていると、同じレーンで走る全員の準備が整う。そして係員の合図が出た瞬間、一斉に走り出す。


「おらおらぁ! これに勝てば心置きなく優輝のこといじれんだぞ! 負けてたまるかボケェ!」


「そ、そんなに本気出さなくてもいいでしょ! ほら、スピード落とそうよ! ねぇ! ねぇってば!」


 一番危険視していた蒼空の脅威が消え、龍翔はノリにノッている。最初から全力でアクセルを踏み、最初のワイディングロードも難なくクリア。そのままスピードを殺さずにUターンして、後ろの車をどんどんと突き放していく。


「っしゃぁー! 思った以上に運転しやすいなこの車!」


「ちょ、ちょっと! やっぱりスピード落とそうって! 普通に怖い! ぶつからないでよ!?」


「規定内のスピードしか出てないし、それ以上は出ないようになってるから平気よ。俺が踏みすぎてアクセルが壊れない限り……ね!」


 ブレーキをかけないどころか、ずっと同じ力でアクセルを踏んでいる龍翔。Uターンや蛇行運転もかなりスレスレのところで、レースが開始してから優輝はずっと震えている。


「わわっ! い、今なんか!」


「道が隆起してただけだよ。抱きつくほどか? そんなに怖い?」


「だ、だってひっくり返りそうだったし! さっきからギリギリのところ走ってるし!」


「そんな簡単にひっくり返らないし、ギリギリのところ走ってるのは時短だよ。コースの内側走った方が速いからな。――でもまぁ、そんなに怖いならゆっくりにしてあげるよ。どうせ二位との差も結構開いt……」


 道の途中で隆起したところの上を通り、車体が若干宙に浮くと優輝は龍翔の腕に抱きつく。そしてそのまま顔を押し当て、ガクガクと震えている。

 そんな優輝を見て、龍翔は少しだけ速度を落とそうと軽くブレーキをかけながら、様子を見ようと後ろを振り返る。すると、後ろから物凄い速度で車が走ってきて、速度を緩めた龍翔たちを一瞬で追い抜かす。


「――な!? あれってもしかして、蒼空と蓮のペアか!?」


「え、蓮って初めてじゃなかったの……?」


「クソ! 優輝をいじれるかどうかがかかってんだ! 負けてたまるかぁぁぁ!!」


 龍翔たちを抜かしたのは、蓮が運転する青と白の車だ。初めての蓮が運転をするのならと、完全に警戒をしていなかったペアに抜かされ、龍翔は一気にアクセルを踏む。


「お、おい! 蓮って運転初めてじゃなかったのかよ!?」


「あ、龍翔くん! なんかね、この車運転しやすいの! もう慣れてきた!」


「あ、優輝じゃーん。どう? 蓮ってば結構上手いんだよ。ちょっと教えただけで直ぐに覚えちゃってさ。勝負してみる?」


「いいぜ!? 初めての蓮に負けてたまるか! 一位は俺がもらってやる!!」


 直線で限界までアクセルを踏み、なんとか横に並ぶ龍翔。思わぬところで蓮の才能が光ったが、初めての蓮には負けられないと、龍翔はバチバチに闘志を燃やす。


「オラァァァァァァァッ!! 負けてたまるかァァァァァァッ!!」


「俺だって負けないもん! 行っけーーーーー!!」


 いじりか擽りがかかっている龍翔と、蒼空に教えられて才能を輝かせる蓮。どちらとも一歩も引かない完全なるレースが幕を開け、車越しに闘志をぶつけ合う。


「最後の直線は絶対に勝つ――ッ!!」


「俺だって絶対に負けない――ッ!!」


 最後の直線に差し掛かり、ゴールはすぐ目前に迫る。

 そして一気にアクセルを踏み付け、逸る気持ちに前傾姿勢になる。


「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


「行っけぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」


 両方がゴールの一歩手前に到着した瞬間、アニメのように世界がコマ送りになる。

 そしてゴールを通り越してからブレーキをかけ、結果を知らない四人は息を切らしながら戻ってくる。


「け、結果は……?」


「どっちが勝ちました……?」


「え、ええと、私の目で見た結果はですね……」


 龍翔と蓮が、ゴール横で結果を見ていた係員に結果を聞きに行くと、二人の気迫に押されたのか、係員は僅かに後ろへ仰け反る。

 そして、戸惑いながら二人を見て目前で起きた結果を伝えようとすると、龍翔と蓮はゴクリと息を呑む。

 そして――、


「――同着だったと、そう思います……」


「ど、同着……?」


「は、はい。ビデオ判定がないので正確にはお伝えできませんが、少なくともそこまでの大きな差はありませんでした」


 同着という考えが抜けていた二人は、意想外な結果に目を丸くする。そして二人は目を合わせ、フッと吹き出す。


「そ、そうですか! あー、同着! それはいいッスね。たしかに、あれじゃ同着ってのが一番落ち着くな」


「たしかに、同着って考えはなかったー。そっかー、一位と二位じゃなくて、どっちも一位ってことだね」


 同着という結果に、龍翔と蓮は思わず笑ってしまう。

 同着や引き分けという結果は、勝負師にとっては絶対に許されない。二人の競争はそんな勝負師のようにも見えて、係員も同着というかどうか迷っていた。

 しかし、龍翔と蓮は勝負師などではない。龍翔は一位になれれば良く、蓮は負けなければ良かった。同着ということは、お互い一位。一位ということは、負けてもいない。

 つまり、お互いに納得のいく、二人にとっては最高の結果だった。


「ってー事で優輝くん? 俺はしっかりと一位取っちゃいましたけど、そこんとこどーですかー?」


「ひゃっ! ど、どうって……蓮だって一位なんでしょ……? 同着なんだから、ナシじゃないの……?」


 レースの結果に満足して、蓮と笑い合う龍翔は、こそこそと逃げようとしている優輝の肩に飛びつく。隠密行動をしようとしてバレた優輝は、高い声を漏らしてビクッと跳ねる。

 そして、優輝にしてはかなり珍しく怯えたような口調で下手に出る。


「まぁたしかに、俺だけが一位ってわけじゃないなー。じゃー、あれやな。それでも俺が一位になったのには変わりないから、今度二人で遊ぼ」


「――っ、え、あー、まぁ、うん。分かった、いいよ。そんくらいなら、仕方ないから……」


「ふっ……はいよ、ありがと」


「な、なんでちょっとニヤけてんの! し、仕方ないからだから! 二人で遊ぶ時だって絶対にいじるから! それ忘れないで!」


 龍翔からの思わぬ提案に一瞬だけ驚いた優輝だが、直ぐに顔を逸らして口篭りながら承諾。その逸らした顔は少しだけ綻んでいて、微かにそれを目に止めた龍翔は、素直じゃない優輝に思わず笑ってしまう。

 そんな龍翔に顔を赤くして、優輝は龍翔の胸に手を押し当てて思い切り後ろへと押す。


「おっととと……ったくー、素直じゃないんだからー。ほら、早くみんなのとこ行くよ……っと」


「あっ、ちょっと! 離して! 離してー! 離せぇー!! こらーっ!!」


 そんな子どもっぽい抵抗をする優輝をひょいと持ち上げ、手足をバタつかせる優輝に笑いながら優也たちのところへ戻る。


「お待たせー。待っててもらっても悪ーな。あ、なんなら晟たちも乗りに行く?」


「んーん、俺は平気ー。それより、さっき向こうでお化け屋敷が凄いって話してた人がいたのー。翼がどうしても行きたいんだってー」


「なんかね、ここのお化け屋敷凄いんだって! さっき、あのお兄さんたち聞きに行ったんだけどね、今まで入ってきた中で一番クオリティが高いとか、結構リアルだとか、迫力満点で最初から最後まで飽きないって!」


「話してる人に聞きに行くとか……そんなにお化け屋敷好きなのかよ……あっ、こんにちわぁー」


 龍翔たちがレースをしている間、翼はお化け屋敷の話をしている人たちのところへ行き、情報を集めていた。そしてその内の一組が近くのベンチに座っていて、優しく微笑んでこちらに頷きかけている。


「でも残念だな。俺は行けないぜ。百歩譲って絶叫は言ったけど、億を譲ってもお化けはやだ。絶対に嫌い。ハグでもキスでも絶対にやだ」


「いや、ハグはともかくキスは誰も求めたり……」


「えー! お化け屋敷の後に観覧車乗ってハグとかキスとかしよーと思ってたのにー……」


「いたよ! ハグもキスも求めるヤツいたよ! 正気か!?」


 何を貰ってもいかないという決意表明に使ったキスを、誰も求めないとマジレスする優也。しかしそんな優也の言葉に耳も貸さず、ハグとキスを求める人物――翼が龍翔の前に出る。

 観覧車での企みをあっけらかんと暴露してしまう翼。

 そんな翼に唖然とするが、当の本人は全く気にしていない。


「ほんとにだめー? どうしても行きたいんだけどー……」


「優也とかが行ってくれっから。お化け屋敷大丈夫な人と行ってきてくれ……」


「えー……龍翔くんがいないと嫌だー」


「ほらー、翼がこんなにお願いしてるんだぞー? お化け屋敷なんて全部作りもんなんだから、そんなにビビることないだろー」


 今回は絶対に譲らない龍翔を、今度は優也が挑発する。たしかにお化け屋敷は偽物だが、それが分かっていても怖いのがお化け屋敷だ。

 そして、龍翔はお化けという存在がとことん嫌いである。絶叫系は苦手だが、お化けは苦手ではなく、嫌いなのだ。


「なら、優也が一人で行ってこい。さっき調べたら、ミッション型のお化け屋敷で平均タイムは10分だとよ。それまでにおまえがクリアできたら、俺も翼たちと行ってやるよ」


「え、そんなことでいいのか? 言っとくけど俺、お化け屋敷でビビったことねーよ?」


「ああいいよ。ビビってもビビらなくても、おまえは頭良くねーかんな。ミッション型なんて時間のかかるもんをクリア出来るわけがねー」


「ほう? 言ってくれるじゃねーか。よぉし行ってきてやるよ。絶対に十分未満で戻ってきてやっから、首洗って待っとけよー?」


 優也の挑発に、条件を出して乗っかる龍翔。そんな条件を一瞬で飲み込んだ優也は、一人で受け付けへと向かい、自信満々に中へ入って行く。


「優也くんがクリアしたら、龍翔くんは本当に行ってくれるの?」


「ああ行ってやるよ。但し、翼は勿論、晟も優輝も蒼空も蓮も、全員で行くからな? 行きたくない俺が渋々行くんだから、その時はみんな巻き添えだぁー」


「あー、龍翔くん? 俺たちの中で、お化け屋敷に行きたくないって言ってるの龍翔くんだけだよ?」


「えぇ!? まさかの俺一人!? みんなお化け屋敷好きなの!? なんでぇぇぇぇぇ!?」


 まさかのお化け屋敷嫌いゼロの現状に、全員を巻き込んで行ってやろうと、本気のニヤケを見せた龍翔は天を仰ぐようにして叫ぶ。


「えー、おかしいやんー! こーゆーのってさ、後ろとか横で小さくなってる後輩の傍で、お化けなんて怖くないんだぜー的な感じでかっこつけるやつやん!? もしくは、後ろからバックハグして上げて一緒に歩いて行ってあげるとかいうのもあるやん!? それがゼロなわけ!?」


「いや、もしも俺が苦手だったとしてもさ、龍翔くんも苦手なんでしょ? それは無理なんじゃない?」


「え? 俺別にお化け屋敷苦手じゃないけど?」


「え!? いや、さっきめっちゃビビってたじゃん! ジェットコースターは大丈夫でもお化け屋敷は無理って言ってじゃん!」


 お化け屋敷での妄想を広げる龍翔に、お化け屋敷が苦手だと思っていた優輝がつっこむ。しかし、そんなツッコミに龍翔はとぼけたような顔で首を傾げる。

 龍翔の言葉の矛盾に優輝たちは驚きが隠せず、僅かに声を大きくして再度つっこむ。


「いや、お化けとかそういう存在が嫌いってだけで、お化け屋敷くらいなら全然余裕よ? どーせ作り物だし、偽物だし?」


「それさっき優也くんが言ってたでしょ!?」


「うん、言ってたよ? だから俺も否定はしなかったやん? 」


「え、じゃーなんで優也くん一人で行かせたの?」


「俺の計画はこう! まずは俺がビビる、それを優也が煽る、そして余裕ぶる優也を一人で行かせる、んでもって優也は一回行ってるからって理由で待っててもらって、後輩全員を独り占めしてお化け屋敷へ入る! 名付けて、『お化け屋敷で後輩とその心独占プラン』だぜ!」


 親指と人差し指を広げて顎の下に持っていきドヤ顔をキメる龍翔に、優輝たちは言葉も出ない。そしてその計画の半分、『心独占』が失敗に至ると分かっていれば尚更だ。


「龍翔くんって、翼ほどじゃないけど結構素直だよね……そういうことって、大体恥ずかしくて言えないやつじゃない?」


「あー、俺そーゆーの気にせんからなー。好きなのは事実だし、態々誤魔化すことでもないし、恥ずかしいとか言ってたらなんも生まれんしなー」


「んー、なんだろ。いいこと言ってるはずだけど、龍翔くんが言うとふざけてるような気がする……」


「なんだそれー。んでもまぁ、そんな重く受け取られても困るわ。軽ーく流してくれや」


 自分でもそこそこに真面目なことを言ったつもりだが、たしかに自分で聞いてもふざけているように聞こえてしまう。それでも、ただ耳心地のいい言葉で繕うことができるタイプでもないので、ここは軽く流してもらう。

 そんな何となくの話をしていると、お化け屋敷をクリアした優也が余裕の表情で戻って来る。


「ほれ、八分四十二秒。平均タイム余裕で越したぞ? しっかり行ってくるんだよな?」


「おう、行ってくるぜ。じゃーなー」


「あれ、お、おい? なんかあっさりしすぎじゃね!? おい!?」


「優也くん、ドンマイ!」


「あ、え?」


 優也がドヤ顔で戻って来ると、それと交代するように余裕な表情で龍翔がお化け屋敷へと進む。そしてその後ろに優輝や晟も着いていき、一番後ろにいた蒼空はウインクしながら小さく呟いて、後を追う。

 そんな龍翔たちの謎めいた行動に、優也は一人口を開けて呆然としている。


「今回は別にクリアタイムとか気にしないから、俺と後輩だけの空間を満喫するぜ? 急がないかんな」


「まぁ、あんまり急ぐと疲れちゃうしね。優也くんにはちょっと悪いけど」


「まぁ、そんなこと気にするタイプじゃねーからな。だいじだいじ、てきとーになんか乗ってるだろーから。もしくはノリノリでナンパしてたりしてなー」


 そんな話をしながら、龍翔たちはお化け屋敷の奥へと入って行く。


「そう言えばさ、龍翔くんってなんでお化け嫌いなの?」


「え? だってズルいやん、アイツら。お化けの何が怖いかって、実体を持たないから壁とか通り抜けて入って来て、攻撃しても効かないから対処に困るわけやん? なのに都合のいい時だけ掴んできやがって、さらに掴まれたら普段行けない地面の中に引きずり込まれたりするとか、なんなん?おかしいっつーねん」


「あー、たしかにそう考えるとズルいかも……」


「でもまぁ、それがなくなったら何が怖いのかって話だもんね」


 偽物のお化けが出てくるお化け屋敷の中で、本物のお化けの話をする龍翔たち。何事もないように話と歩を進めているが、これまでに数回のポイントを無反応でスルーしてきた。

 生首の落ちてくるところや、急に壁の色が変わるところなどがあったが、誰も怖がる素振りすら見せない。

 ここまで来れば、龍翔が苦手ではないと言ったのも納得が行く。たしかにハッタリではない。


「ねぇ、そろそろ一個目じゃない?」


「あ、もうそんなとこまで来た? 話してるとあっという間やな」


「あ、この部屋じゃない? 『第一の関門』だって。そのまんま過ぎてお化け屋敷っぽさがなくなる……」


 扉を開けると、恨みと憎しみの憎悪に満ちた表情で死んでいる、部屋の主と思われる男がいる。そしてその手元には、一枚の紙と五十音のタッチパネルが付いた金庫がある。


「まぁ、謎解きがメインっぽいからなぁ……んで、一つ目の謎解きって何?」


「えっとね……これ」


 そう言って優輝は、受付で渡された紙の中から一枚だけ取り出して渡す。


─────────────────────

【男の手元に置いてある紙】


 主 り 憎 み 囚 れ

 男 憎 も 其 ち 下


 奴ら、男と銀鮒の混血也


─────────────────────


【優輝が持っていた紙】


  怒 と し に わ る

  の む の 即 以 也



 それ即ち□□□□


 ────────────────────


 両方の紙を少しだけ見比べて、龍翔はフッと笑う。


「この手の紙はまず重ねるのが正解やろ? とりま重ねて見ると……『主怒りと憎しみ囚われる、男の憎むもの其即ち以下也』か……」


「んー……まぁ、この顔見れば分かるよね……」


「それより大事なのはクイズでしょ? ――漢字が難しくて読めないんだけど……」


 紙に記されるクイズに目を向ける晟たちだが、その漢字に苦戦する。

 晟たちが漢字に悩む中で余裕な表情を浮かべるのは、最年長の龍翔と成績学年トップの蓮だ。問題の漢字に目を通しても、苦い顔は一切しない。


「このくらい簡単じゃね? 『やつら、おとことギンブナのこんけつなり』でしょ? 蓮、当たってる?」


「俺も他の読み方知らないし、それで正解じゃない?」


「おぉー! 蓮が頭良いのは知ってたけど、龍翔くんって意外と漢字とか得意なの?」


「得意っつーか、漢字が出るクイズ番組とか観るからな。漢字は結構好きな方だし」


 問題の漢字をサラッと読み上げる龍翔と蓮に、晟たちは思わず拍手。そんな拍手を受ける龍翔と蓮は、得意気な顔をして笑い合う。


「んで、問題は答えやろ? 『男と銀鮒の混血』ってことは、ハーフってことか?」


「たしか、ギンブナはほとんどがメスって話だよ? 他の魚のオスと子ども作るとか、そんなこと言ってた気がする」


「てことはハーフってことで間違いねーの? ギンブナとヤる人間とかちょっと嫌だなぁ……」


「そういう生々しい話はしなくていいよ! こっちまで気持ち悪くなるでしょ!」


 人間と魚のリアルな子供作りを勝手に想像して、その想像に晟たちも巻き込む龍翔。何故か被害を受けた晟たちは、気持ち悪そうな表情で龍翔を睨みつける。


「ごめんごめんってー。だってハーフなんて聞いたらそうなるやん……でもまぁ、人と魚のハーフってことは人魚やろ? 下半身フナとか嫌だなそれ……」


「だからもういいんだってそーゆーのは! 下半身フナなんて誰でも嫌だよ!」


「まぁまぁ、そーゆー話は後にしてさ。んーと、したら答えは『にんぎょ』ってこと? えっとー? に、ん、ぎ、ょ……っと」


 龍翔と晟がまたしても言い合う中で、優輝は一人で金庫に文字を打つ。タッチパネルには、濁音や半濁音、小文字までもが丁寧に用意されていて、『にんぎょ』という文字もしっかりと打てる。


「あ、おい! 勝手に打つなって!」


『――違うわボケェ! もっぺんよく考えてみぃ!』


「おぅわっ!?」


 勝手に文字を打ち込む優輝に気付き、龍翔がそれを止めようとした瞬間、優輝がEnterを押してしまう。

 そしてEnterを押してしまった瞬間、倒れていた男が急に起き上がり、一度だけ怒鳴る。

 ここに来てお化け屋敷っぽいことが起き、目の前で不意打ちを食らった優輝は後ろに倒れそうになる。そんな優輝を、蒼空が条件反射で受け止める。


「あーあ、ったく……そんな簡単なわけないっしょ。そもそも、人魚にそこまでの憎しみを抱くやつなんていないやろ……」


「そうだよー。人魚が相手だったら人間じゃできなさそうな色んなこと出来るじゃん! 希少だよ!? 上半身と下半身で体の作り違うのかなとか、体真っ二つにしたら下半身はピチピチ動くのかなとか!」


「ここに来て地味なサイコパスを発揮するな! もうちょっと素直な関心を抱けよ! 翼の相手はここにいるだろ!?」


「あ、龍翔くんは翼の相手を認めたんだね……」


 人魚の解剖を妄想する翼に、龍翔が珍しくまともなことを言ったと思えばそれもまた束の間。いつの間にか翼の相手を認め、龍翔は翼に向かって腕を広げる。

 そんな龍翔の胸に翼が飛び込み、怖がっている訳でもないのにお化け屋敷でハグをする二人を見て、優輝は呆れたようにため息をつく。


「そんな事いいからー! 早く答え探そー?」


「いや、答えなんてもう出てるっしょ。魚とのハーフで、憎まれるような人間だぞ? 半分魚ってことは、半分人だろ? つまり?」


「半分人……はん、ひと、はん、じん、はん、にん……はんにん?」


 人の読み方をどんどんと変えていき、一つの答えに辿り着いた瞬間、晟はパッと顔を明るくする。そして嬉しさからか、口元が緩む。


「半人の漢字を変えて、犯す人って書いたらどーなる? 憎まれない?」


「犯人! 犯人だよ龍翔くん! 憎まれるよ! 犯人!」


「分かってるって。――ほれ、打ってみ?」


 漢字を当てはめ、どちらのヒントにも当てはまる答えを導き出し、キャッキャと飛び跳ねて喜ぶ。分かりやすくテンションの上がる晟を見て、頭を掻きながら笑う龍翔。

 そんな龍翔はタッチパネルの方を指さし、未だにピョンピョンと跳ねながら文字を打ちに行く晟を微笑ましげに見守っている。


「は、ん、に、ん! てぃや! ――あ、開いた! 開いたよ!」


「分かってるって。そんなにテンション上がることか? 可愛いなぁ……」


「だってクリア出来たんだよ! 答え解ったんだよ!!」


「答え解ったって、龍翔くんのヒントありだったけどね……ぁ」


 ひたすらにはね回っている晟に蒼空がつっこむが、龍翔が人差し指を立てて口に当てる。それに気付いて蒼空は慌てて口を塞ぎ、晟の方を見る。

 気付いてもいいほど普通の声で言っていたが、はしゃぐ晟には届いていなかった。変わらずにはしゃいでいる晟を見て、龍翔と蒼空はほっと一息つく。

 そんなお化け屋敷とは思えないほどの雰囲気を保ちつつ、残る二つの謎解きもクリアし、道中でも特に驚くこともなくゴールしてしまう。

 言葉にして伝えるほどのことは、龍翔がお化け役の係員に道を聞いたことや、途中で蒼空が足をつって龍翔が背負うことになったことくらいだ。


「お、やっと戻って来たかー。おせーよ。結局二十分以上も待ってたんだぞ? ――なに、蒼空がダメだったのか?」


「んや、謎解きして立ち上がった瞬間に足つっただけ。誰もビビらんし、なんも怖くなかったな」


「は、マジかよ? 俺でも少しはビクッたのあるし、てかなんでおまえ平気なの?」


 余裕な表情で帰って来る龍翔に、優也は疑問が尽きない。優也は苦手だと思ったまま見送ったので、そんな龍翔が涙を浮かべることも息を切らすことも無く戻ってきたことに納得がいっていない様子だ。


「龍翔くんね、俺たちを独り占めしたいから優也くんを先に行かせたんだってー。だからー、独り占めされてきたのー!」


「ってーことよ。嫌いで行きたくないとは言ったけど、苦手なんて言ってないしなー。優也もしっかりクリアして来たしな」


「はぁー? そんなことあるかよー。ひっでぇーなー……まぁ、俺は後輩独占とか考えはねーからいいか」


 首を傾げる優也に、龍翔の後ろからひょこっとでてきた翼がピョンピョンと跳びながら龍翔の作戦を話す。そんな翼の説明に、龍翔は表情を悪くするどころかいっそ清々しくドヤ顔で言ってのける。

 そんなドヤ顔の龍翔に、もはや怒る気もしない優也はシンプルに納得して終わる。


 ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶


 それから他のアトラクションにもいくつか周り、一段落ついて夕食を食べる。そうしていると時刻は夜の七時を過ぎ、もう辺りは暗くなっている。

 そして、最後のシメにと言って龍翔たちは観覧車に向かう。


「龍翔くんは俺と二人きりでしょっ! やったー! 行こー!」


「はいよ。あ、その後で晟とも乗るから、晟は心の準備しといてねー!」


「え? あっ、うん。――ん? 心の準備?」


 翼に手を引かれる龍翔は、去り際に晟に手を振る。そんな龍翔に首を傾げながら、二人が観覧車に乗るのを見送っている。

 その次に優輝と蒼空と優也、最後に晟と蓮が乗り、観覧車の一周目が始まる。


 ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲


「んで、態々二人になったわけだけど、なんか話したいことでもあるの?」


「あれ、龍翔くん分かってたの? 嘘ついてたわけじゃないけど、バレないようにしてたつもりだったんだけどなー」


「まぁ、最初は普通にサイコパスやなーって思ってたよ。でも、翼って普通に優しいし可愛いやん? だからなんかあるのかなーって」


 観覧車に乗り、少し上まで行ったところで龍翔が切り出す。そんな龍翔に、一瞬だけ目を丸くする翼。しかし直ぐに調子を取り戻し、笑って頭をかく。

 龍翔も確信があった訳では無いが、何となくで聞いてしまうのが龍翔だ。


「んー、別に難しい話じゃないの。あのね、俺って周りと違うってよく言われてて、あんまり女子が好めないっていうか、恋愛的に見れなくて……」


「あー、そういう感じな。うん、それで?」


「龍翔くんって、晟くんとか優輝くんに好きとか言えるでしょ? その好きって言うのは、恋愛的に見たものなのかなってずっと気になってて……」


 意外と真面目な話をする翼に、龍翔も真面目に聞く姿勢をとる。膝に肘をつき、手に顎を乗せながら少し低めのトーンで話す翼に、龍翔も相槌を打ちながらしっかりと聞き入る。


「そういうことか。たしかに俺も、女子を恋愛的にってのはあんまりなかったな。普通に喋る女子とか、なんなら二人で遊ぶ女子もいたけど、友達って関係から動かそうとは思わなかったし。恋愛的って感情がなかったのはたしかだな。――それでも、晟や優輝に抱く感情は友達って感情じゃない自覚もある。それが恋愛的な感情なのかは分からないけど、たしかにただの友達で済ませたくないって気持ちはあるよ」


「そう。俺もそういう感じで、なんて言えばいいのかわからなくて……最近はそういうの無くなってて、男子も女子も変わらなかったんだけどね。龍翔くんと仲良くなれてから、龍翔くんだけはなんか違うなーって」


「だから、似てるような感情を持つ俺に聞いたわけか。んー、なんだろうな。俺はね、そういうのに名前なんて要らないと思うんだよね。ただの友達とは思えない、でも恋人にはならない。それなら、それでいいと思う。態々関係とかを言葉にする必要ないし、好きって気持ちだけは忘れないように、それを大切にできればそれでいいと思うよ。そのうち付き合いたいとかそういう風に思ったら、またその時に考えればいいしさ」


 関係や感情を表す言葉に思い悩む翼の話を親身になって聞き、最後には優しく微笑む龍翔。

 たしかに、今の龍翔は異性と付き合いたいなどという感情が少なく、しかしそれが同性に向いているわけでもない。友達は友達以上に進まず、大切な後輩は友達と同類には出来ない。

 後輩ならではの可愛さがある晟や翼、優輝、蒼空、蓮などに抱く好きという感情は、後輩としての好きであり、さらにその中でもそれぞれに抱くものは違う好きである。そんな感情を何かに喩えることが出来ないのは当たり前で、龍翔自体したいと思っていない。


 誰かを好きでいるのに一番大切なのはそれに見合った言葉や関係を築くことではない。自分の中でそれを違えることや失うことがないように、しっかりと大切にしておくことが重要なのだ。

 そんなことをいつも自分に言い聞かせ、龍翔は周りからの批判などを一切気にせずに貫いてきた。


「大事なのは、自分がどう想えるか、どう想い続けられるか、そういうことだと思う。周りを気にしてやることも、それを我慢することも、耳心地のいいだけの言葉で飾ることも、必要ない。大事なのは自分の気持ちだって、少なくとも俺はそう思う。自分に自信持ちな。俺は翼のことずっと好きだから」


「――ありがと。やっぱり龍翔くんに話して良かった。クリスマスで龍翔くんと話せたのも、そこから仲良くなれたのも、本当に嬉しい」


「俺も、翼と仲良くなれて嬉しいよ。また明日も一緒に遊べるのが、本当に楽しみ」


 翼の全てを受け入れ、その上で本心からの返答をする龍翔。お互いの好きが指すものは違っても、同じ好き同士。上に登ろうとするこの観覧車で、また二人の距離が縮まる。


「もうそろそろで頂上だな。――ハグする?」


「うん! 龍翔くんとのハグめっちゃ落ち着くから大好き! 同学年とかだとやってくれる人いないし、いてもこんなに落ち着かないもん」


「そっか、それなら良かった。――したい時に俺とするから、翼はもう他の人としないでいいよ?」


「んふ……分かった。でも、今の言葉龍翔が嫉妬してるみたいで可愛い」


「……うるせ」


 観覧車が頂上に到達すると同時に、ゆっくりとハグを交わす龍翔と翼。ただ抱き合うだけで脳が落ち着き、心が休まる。そんなハグの凄さを実感しながら、観覧車を満喫する。


 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼


「ふぅー、観覧車って意外にあっという間やったなー。翼と乗るの楽しかったから、また今度乗ろーな!」


「え、ほんと!? 乗ってくれるの!? やった! 絶対だからね! 約束ね!」


「おう! また今度、一緒に乗ろうな!」


 観覧車から降りた龍翔と翼は、早速次の約束も交わす。それほどまでに充実した数分間で、しっかりと次回も乗りたいと思える。そんなふうに感じることのできた、最高の時間となった。


「お、晟戻って来たー? こっちこっちー!」


「ただいまー」


 龍翔と翼が笑い合っていると、二つ後ろに乗っていた晟も降りてくる。


「じゃー乗り行く?」


「ん、わかったー」


「んじゃ俺らはもう一回行ってくるわー」


「あいよ、行ってらー」


 そう言って、龍翔と晟はもう一度観覧車の方へ向かう。


 ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲


「ふー、やっと落ち着く形で二人きりになれたなー」


「今日は最初からみんなと遊んだもんねー。まだ明日もあるし、それに今日帰ってからも年越しあるもんね! 楽しみー!」


 観覧車に乗り、少し上がったところで龍翔がほっと一息つき、晟に話しかける。そんな龍翔に晟は笑顔で頷いて、ぐーっと両手を伸ばす。


「そう言えば、翼と何話したの?」


「んあ? それは秘密やろー。晟だって、俺と話したことで他の人に話して欲しくないことあるでしょ?」


「あー、たしかに。龍翔くんと話すの恥ずかしいことばっかだもん。てかそもそも龍翔くん自体が恥ずかしいしー?」


「それは酷くねーか!? いやまぁ、多少の自覚はあっけどな」


 翼との話を聞く晟に、龍翔は首を横に振る。普段通りの会話なら話していたかもしれないが、今回は翼にとっても真面目な話だった。そのため、龍翔はそれを話すことを控える。

 そして晟も、龍翔と話したことで周りに話して欲しくないことは何個もある。よって今回龍翔が言いたいことも、晟はよく理解できる。


「自覚あるなら少しくらい抑えればいいのに」


「変なとこで変な風に我慢して次の日死んだりしたら嫌じゃん? 人間なんていつ死ぬかわかんないし、その時に言いたいって思ったことは言えるなら言っておかないと勿体ないよー」


「龍翔くんの言うことって、地味にまともだから困るんだよね……龍翔くんが言ってるとふざけてるっぽいのにさ」


 何となく放った龍翔の考え方に、晟は納得してしまう。普通に話しているだけでも、正しいことだと思える。

 言われてみれば納得出来てしまうようなことを、ホイホイと言ってのけるのが龍翔だ。本人は自覚なしに言っている言葉だが、その言葉はたしかに納得出来ることが多い。


「別にふざけてはねーぞー? 俺は俺の思ったことに自信持ってるし、ふざける必要なんてないしー」


「龍翔くんって、いつでも自分に自信ありそうだもんね」


「まーなー。自分が正しいとまでは言わんけどー、正しく在りたいとは思うしー」


「ほんっと、そういういい感じの言葉ってどこで覚えて真似してるの?」


「別にどっかで聞き齧った言葉を真似してるわけじゃねぇよ!? ほんと信用ねぇなぁ……」


 初めから龍翔の言葉ではないと決めつけてかかる晟に、龍翔は自分の信用のなさにため息をつく。実際、信用がないわけではなく、普段からの龍翔がそういう言葉を使わなそうな性格だからだ。


「まぁそれよりさ、今日はなんで態々観覧車に呼んだの? 翼と乗ってそれで良かったんじゃない?」


「なに言ってんの。晟と乗りたかったからに決まってるやろー。今日は最初からみんなと遊んだから、晟と二人きりになりたかったのー。翼と乗るのも十二分に楽しかったけどなー」


「翼がいれば、別に俺じゃなくてもいいんじゃない? 龍翔くん、後輩が好きなんでしょ? 俺と翼は同学年だし、変わらなくない?」


「なに、晟ってもしかして拗ねてるの? 後輩だったら誰でもいいなんて思うわけないっしょー。俺は晟と乗りたかったから、晟にお願いしたんだよ?」


 何故か表情を硬くして質問責めにする晟に、龍翔は軽くにやけて首を傾げる。


「べ、別に拗ねてるとかじゃない! なんでそこで俺を選ぶのかなって! 優輝くんとはゴーカート乗ってたし、翼とはコーヒーカップ乗ってたし、なのになんで観覧車は翼と乗った後に俺もなのかなって」


「んー、ほかの後輩ももちろん好きだけど、全員が同じ好きじゃないから。それに、優輝とは二人で遊ぶ約束したし、蒼空は家に押しかければ大体入れてくれるし、蓮はしりとりの続きがあるし、翼とは今日何回か二人きりになってたし、あとは晟じゃん?」


「でも、俺は何回か龍翔くんと二人で遊んだよ?」


「ああもう! うるさいなぁ! 晟と乗りたかったから! 晟が好きだから! 俺だって自信は持ってるけど面と向かって言うのは恥ずかしかったりすんの! 少しくらいわかって!」


 色々と龍翔を付けて誤魔化そうとしていた龍翔も、鈍感すぎる晟に珍しく顔を赤らめる。

 そんな龍翔を見て、晟は一瞬目を丸くする。しかしそれから直ぐに、目を逸らす龍翔を見て笑う。


「龍翔くんも照れたりするんだね。好きとか平気で言えるのかと思ってた」


「んなわけないだろぉ……流れでホイホイ言うのはいいけど、面と向かって言うのは照れるし恥ずかしいとも思うわ。ったく……」


「龍翔くん、そーしてた方が可愛いよ?」


「んなっ!? は、はぁ!? いや、俺が可愛いとかないから! やめて!」


「冗談だよー。本気にしないでよねー、もー」


 ここぞとばかりに畳み掛けてくる晟に、龍翔は一度赤くした顔を冷ますことが出来ない。それどころか、耳まで熱くなってくる。

 もう晟の目を見ることも出来ず、顔を覗き込もうとする晟から龍翔はひたすらに目を逸らす。


「――ぐぁぁぁぁぁぁっ!!」


「わぅっ!? な、なに!?」


「もう開き直る! 晟大好き! 大好きだから突っ込む!」


 狭いゴンドラの中で晟から目を逸らして遠ざかるのをやめ、龍翔は思い切って晟に突っ込む。向かい側に座っている晟の腹に頭を埋め、そのまま腕を晟の背中に回して抱きつく。


「ちょ、ちょっと! ごめんって! からかいすぎたのはごめんって! だから離れて!?」


「嫌だ。もー遅い。晟が悪いんだかんね。何もないように距離とってあげてたのに。外に出れない狭い空間で俺と二人になったのが悪いんだかんね」


 抱きついたまま離れない龍翔に、先程までとは打って変わってあたふたとする晟。必死に龍翔を引き剥がそうとするが、吸い付くヒルのようにしがみついたまま取れない。


「うー……あ、そうだ! えっと……たしか、ここら辺?」


「にひゃっ!?」


 顔を埋める龍翔の背中を見て、晟は何かを閃いたように人差し指を立て、龍翔の脇腹の方へ持っていく。そしてそのまま脇腹を軽く突くと、龍翔は塩をかけられたヒルのように体をびくつかせて離れる。


「あ、やっぱり効いた……優輝くんが上手いってよりは、龍翔くんが弱いんだね」


「ちょ、やめて……それだけはやめて……」


「これで逆転? ほらほら龍翔くん。こっち来ないの? 今なら来てもいいよ?」


 指を真っ直ぐに立てて構える晟に、龍翔は手を出しながら壁で下がれない後ろへ下がろうとする。そんな龍翔に、晟は自ら近付いて行く。


「――おらっ! へへ、手だけ抑えられればなんも怖くねーからな。ほらほら、来ていいって言ったのは晟だぜ? 逃げようとするなよー」


「わっ! それずるい! ちょちょ、あっぶな! うあっ! ちょっ、離しっ……」


 自ら近付いてきた晟に、龍翔はタイミングを合わせて飛びかかる。そして晟の両腕をしっかり掴み、そのまま晟の後ろに回り込みながら椅子に座る。

 膝に乗せられた晟は必死に体を攀じるが、手を掴まれている状態で龍翔から逃げることは出来ない。


 そんなふうに二人がゴンドラ内でじゃれていると、カチャッという金具が外されるような音がした。


「はーい、お疲れ様でし……た?」


「……あ」


 気づけば扉が開かれていて、係員は目を丸くして二人を見ていた。そんな係員を見た瞬間、二人は同時に同じ声を漏らす。


「あっ、す、す、す、すみません! え、えっと……もう一度行ってらっしゃいませっ!!」


「あえ!?」


「――あっ」


 目前で起きていた現状に、テンパった係員は勢いよく扉を閉めてロックをかける。そんな自分の失敗に二人を送り出してから気付き、慌てて二人を追うがもう遅い。次のゴンドラが到着し、二人を諦めて次の対処へと向かう。


「――もう一回、ってことか?」


「そ、そうなんじゃない?」


 唖然とした雰囲気の中、自分の膝の上に座っている晟の顔を横から覗き込むようにして龍翔がそう尋ねる。そんな龍翔に曖昧な返事を残して、晟はそっと下を見る。

 すると、下にいる人たちの視線は全てこちらに向いていて、晟は咄嗟に顔を引っ込める。


「全然、気づかなかったな……」


「それね。知らない人たちにも、めっちゃ見られてたよ……」


「――ぷっ、はは、ははははははははは」


 まさかの思わぬ出来事、それを理解した瞬間に、龍翔と晟は込み上げてくる笑いを抑えられない。顔を見合わせて思わず吹き出し、そのまま腹を抱えて笑う。


「はっ、はっ、あーっははは! 観覧車で降りないで二周目とか! 聞いたことねぇー」


「いやだってあの係員さん! バンって閉めてロックまでしちゃうんだもん! やばー! でもこれ降りる時恥ずかしいよ、なんて言うの!? さっきはごめんなさい的な!? あー、そんなこと考えたらお腹痛い! やばいー!」


「いやそもそも、降りたら俺ら怒られるかもよ? 理由聞かれたらなんて言う!? イチャイチャしてて分かりませんでしたー的な!? そう言ったら晟が照れるんでしょ!? ぜってー笑うわそんなん! いーっひっひっ! あー、やっば! 涙出てくるわー」


 込み上げてくる笑いが堪えきれず、龍翔と晟は呼吸を荒くしながら喋る。お互い顔を真っ赤にしながら、涙さえも浮かべて足をバタつかせる。


「謝るのは龍翔くんだからね! 余計なこと言わなくていいから! 龍翔くんだけが調子に乗って俺は被害ですって言ってね!」


「えー、それはずるいだろー。元はと言えば晟が擽ろうとしたのが悪いんだぞ!」


「それは龍翔くんが抱きついて来るからでしょ!」


「それは晟が鈍感すぎるから悪いの!」


「そんなの龍翔くんがはっきり言ってくれないからじゃんー!」


「言えるわけないだろ恥ずかしいっ!」


「いつも言ってるくせにー!!」


「いつもはノリがあるから!!」


 そんなふうに責任の押し付け合いをしていると、だんだんと話が逸れていく。お互いに笑って言葉に力が入らず、震えた声で言い合う。

 そんな危機感ゼロの会話を続け、瞬く間に十数分が過ぎる。


 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼


「さ、先程は失礼致しました……」


「あ、いえいえ。こちらこそすみません。ちょっと時間が経つの忘れて……」


 降りたと同時に、二周目へ向かう前の係員に声をかけられる。そんな係員に、二人も頭を下げる。


「あ、龍翔くん戻って来たー! さっきなんか戻って来たーって思ったらもう一回行っちゃうんだからー。みんなに笑われてたよー」


「いやー、悪ぃ悪ぃ。流石に今年最後の観覧車が二周連続とかウケるわー。上に行ってからひたすらに笑ってたかんなー」


「だって龍翔くんが「もう一回?」とか言うんだもーん。いや今から降りられるわけないしーとか思ってさー」


 二周回った観覧車を降り、二人は外で待っていた優輝たちと合流する。


「もーほんと、降りて怒られたらどーする? とかさー。謝るしかないのに「謝るのは龍翔くんだからね」とか言うしさー」


「だって龍翔くんが悪いんじゃんー! 俺は捕まえられてなかったら降りられたもんー」


「捕まえられるようなことしたのが悪いんですー」


 一度終わったはずの話をもう一回繰り返す龍翔と晟。そんな子ども過ぎる言い合いに、優輝たちは思わず苦笑い。


「まぁとりあえず、そろそろ帰るんだろ? 俺も夜は用事あっから、他に何も乗らないなら帰ろーぜー?」


「え、この後ってお泊まりでしょ? 優也くんは来ないの?」


「あー、優也はクラスの奴らと予定があるからな。俺はクラスぼっちだけどー、優也は俺と違って友達多いからなー」


「俺と一緒に誘われたのに後輩と遊びたいからとか言って断ったの誰だよ……おまえも普通に誘われてるくせに……」


 頭に手を当てて自分をぼっち扱いする龍翔に、優也はため息をつきながらつっこむ。龍翔も元々はクラスでの泊まりに誘われていたが、迷うことなく晟たちとの約束を優先した。


「だってクラスのやつらとはいつでも話せるしー、普段会えない晟たちと一緒にいた方が絶対に有意義やんー」


「あれ、そーだったの? じゃー龍翔くんが断っちゃった分もこっちで楽しまないとね! クリスマスが初めてだったけど、龍翔くん家のお泊まり会大好き!」


「おー、そりゃ良かった。そう言って貰えると優先した甲斐があったってもんだぜー! あ、そしたら今日は翼が俺と一緒に寝る?」


「え、いいの!? やったー! 隣で寝れば夜中襲いやすいね! あ、先に謝っとく。起こしちゃったらごめんね!」


 今回の泊まりを誰よりも楽し見にしている翼。観覧車でのこともあり、龍翔への遠慮は前よりもさらになくなっている。

 そんなことをサラッと言ってしまった翼に優輝たちは苦笑いだが、言われた本人である龍翔は既に警戒心を解いている。翼の発言を笑って受け止め、龍翔は翼を後ろから抱く。


 そうして龍翔たちはテーマパークを後にして、駅へと向かう。

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