番外編③:クリスマス・イヴの夜に(下)
優輝や晟たちが神経衰弱を続ける中、部屋の奥のベッドでは、龍翔の過去を晟に話した罰として、蒼空が『こちょこちょの刑』を受け続けている。
「はぁはぁ、ねぇ、まだやるの……? もうそろそろぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ……少しくらい、休憩ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」
「まだダメ! 寿司とかが届くまではひたすらに続けるかんな! はいはい、次は賢人と聡も一緒な! 始めー!!」
「ちょ、そんなに続けてたら……ちょっと待って! 腹つる! 笑いすぎて腹痛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
神経衰弱をやる横でいじられているため、自分のターンが終わったメンバーは交代で擽りにくる。その中には優輝や晟も例外ではなく、半分はおもちゃ状態だ。
「でもさ、擽られてる時の蒼空って満更でもない顔してね? 意外と楽しい?」
「楽しいっていうか、擽られてたら誰でもこうなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! はっ、はっ、ちょっと……まだ、話してるって、ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
擽られすぎて息すら切らしているが、その表情に苦痛は感じられない。擽られているだけなので笑ってしまうのは仕方がないが、それでも表情は明るい。
というのも、体を捩ったりはするものの、ベッドから逃げ出そうとしたりはしない。逃げるどころか、自分でベッドの策を掴んでいたりもしている状態だ。
そうしてお互いに擽りを楽しんでいると、玄関のチャイムが鳴る。
「お、来たかな? よし、一先ずはここで終わりやな。続きはまた後で! 優輝、ちょっと運ぶの手伝ってー」
「あ、俺も行くー!」
「こ、これ続くの……?」
龍翔と優輝、そして晟の三人が玄関の方に向かうと、蒼空は息を切らしながら汗だくの真っ赤な顔を上げる。続くのか、という疑問の声に、険悪感はない。ただただ純粋な、疑問でしかなかった。
「ぃよし、全部まとめて届いたから、とりま食うぞー! 注文間違って結構多めに届いちゃったけど、頑張って食ってくれー」
無駄に広い机を引っ張り出し、届きすぎてしまった料理をどんどんと並べる。来る人数を把握していないのにも関わらず、直感で注文した結果だ。
目の前に広げられる料理の数に全員が唖然とする中、龍翔は一人で呑気に応援している。
「そんな他人事みたいに言ってないで、龍翔くんも頑張るんだからね!?」
「えー、俺は応援係ってことでー……」
「はい、食べさせてあげるから龍翔くんもしっかり食べてねー。はい、次。そしたら次。また次。次、次、次、次次次次次次次……」
「ちょっ、あえ!? は、お、ふ、へ、ごふっ……ひょっほあっへ……」
一人だけ大量の料理から逃れようとする龍翔に、容赦ない速度で優輝が料理を詰めていく。
器用な箸使いかと思えば、途中から面倒になって手で押し込もうとする。かなり豪快な優輝の行動に、若干の恐怖さえ覚えるほどだ。
「ほら、この前は″後輩に食べさせて貰えるならなんでも食える″とか言ってたんでしょ? 優也くんから聞いたよ。だからどんどん食べてねー」
「ちょっ、あいつ、余計なこと言いやがって……後輩の中でも一番言っちゃいけない相手だろ、優輝は……」
「はいはい、喋ってる暇があったらどんどん食べて! まだまだあるんだから、お寿司の次はなに? ピザにする?」
「違う違う、後輩に食べさせて貰えるなら、嫌いなものでも食べられるって言っただけで、数にはさすがに制限が……」
優輝の圧力に押され、龍翔が珍しく弱音を吐く。片手を床につき、もう片方の手を優輝に向け、ストップの合図を出す。
「もー、せっかく乗ってきたところなのに……あ、分かった。もしも龍翔くんが、俺たちの中で一番食べなかったら今夜はみんなで龍翔くんのこといじるからね?」
「は!? いやいや待て待て待て、俺がいじられるとかなにごと!? そもそも後輩十人にいじられる先輩って、絵面やばすぎ……」
弱音を吐いて止まる龍翔に、優輝は″今いるメンバーの中で食べた料理の数が1番少なければ今夜は後輩全員で龍翔をいじる″という提案を突きつける。
もしもそんな状況になれば、龍翔の楽しみである後輩いじりが出来ない。そしてその上で、後輩10人に囲まれてひたすらにいじられる。晟や蒼空に対して、ほぼドSしか発揮しない龍翔にとって、そんな二人を好きにさせればこれまでのお返しが一気にくる。
それを回避するには、ただ単純に食べればいいだけ。しかし、龍翔は元から少食である。晟以外がどれほど食べるかは分からないが、安心などできない。
「そーでもしないとほとんど食べないで終わりそーだからねー。はい、それじゃスタート!」
「いや、俺はOKなんて一言も……ふばっ」
「龍翔くんは先輩なんだから、普通は一番食べなきゃダメなん! でもそれだと可哀想かなーって思ったから、せめて最下位にならないようにすんの! はい、もう決まりなんだから、大人しく食べて!」
「先輩への対応じゃねぇよこれ……モグモグ」
この提案を受けてはならないと、龍翔は必死になってその提案を拒否しようとする。
それでも、最初から龍翔に拒否権はない。拒否する言葉を言わせまいと、優輝は龍翔の口に寿司を放り込む。
先輩だからという理由を突きつけられるが、たしかにどう見ても先輩に対する対応ではない。それだけお互いに気を許せてるという事で納得はしているが、こういう時に先輩だからと言う理由を付けられることは釈然としない。
そんなふうに思い、独り言のように呟きながら放り込まれた寿司をしっかりと食べる。
「あ、もちろんスタートしてからのカウントだから、龍翔くんのカウントはお寿司一貫ね」
「とことんドSだよこの子! えぇ……さっき結構食べたのに……」
晟や蒼空を相手にした時の龍翔と、負けず劣らずのドS力を発揮する優輝。そんな優輝に押し負け、龍翔は仕方なくその提案を飲み込む。
▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶
テーブルを覆い尽くしても置ききらなかったほどの料理も、残すところはもうわずか。
意外な大食いぶりを見せるのは、バイキングでかなりの食事を平らげた晟と、今日初めて一緒に食事をする聡と幸希だ。
晟は相変わらずの大食いで、数えるために用意したメモの正の字も軍を抜けている。そんな晟に続く聡と幸希も、龍翔の二倍ほどは平らげている。
そして肝心の龍翔は、案の定最下位を争っている。その最下位争いで頑張っているのは、今日いるメンバーの中で一番小柄な一年、赤城 翼だ。晟よりも身長が低く、小さいが故の可愛さを持つ翼。見た目通りの少食で、今は微かに翼の方が食べられているが、その差は正の字一本分だ。
「翼、頑張れ! このまま行けば勝てるぞ!」
「ちょっと、そろそろキツい……」
「よし、あとはそのピザを食えば、勝てる……! いじられなくて、済む……!」
正の字は、寿司一貫で一本。ピザ一切れで三本というカウントだ。他にもチキンなどが色々あったが、残っているのはピザだけ。独占や料理のストックを阻止するために、料理が減ってからは口の中に食べ物が入っている状態で次の料理を食べるのを禁止している。つまり、今口の中に入っているものを先に飲み込んだ方の勝利だ。
そして、龍翔が寿司を飲み込もうとする一方、対する翼はピザを食べている。普通に考えれば、龍翔の方が早く飲み込める。これは勝ったと、そう思っていたその時だ。
「龍翔くん。忘れてるみたいだけど、別に龍翔くんと競争してるのは翼だけじゃないんだよ? 俺たちも食えるって忘れてない?」
「――ッ!? え、ちょっ、それは……さ? あれじゃん……? ――嘘で、しょ? は、はは、さすがに、冗談だよね……?」
龍翔が頑張って飲み込もうとする中、残った一切れを横から手に取る人物。龍翔を前にして、そんなことが出来るのはただ一人。――優輝だ。
龍翔の方を見ながら最後の一切れを持ち上げ、優輝はゆっくりとそのピザを口に入れようとする。
「ねぇ、嘘だよね……? そんなこと、ないよ……ねって、――ぁ」
「――あむ」
「――ッ、う、ぁぁ……」
顔を引き攣らせながら途切れ途切れに笑う龍翔。笑っているのは口だけで、目を主体とした表情は笑みと程遠いものだ。
そしてそんな龍翔を見ていた優輝の視線は、手元のピザに移る。そしてその視線は開かれた口元だんだんへと運ばれて行き、最後にはそのまま閉じる口を捉える。
「これでもう食べられる料理はなくなった。龍翔くんが巻き返すのは、無理だよ?」
「あらー。龍翔くん、やられちゃったね……」
「まぁ、一応は手加減はしてあげるから。頑張ってね!」
「今日は昼間も勝っちゃったから、二連勝になるね! 今までいじられてきた分、蒼空くんと一緒にぜーんぶ返してあげる!」
思わぬ形で最後の一切れが失われ、龍翔は四肢をついて俯く。
この世の終わりに直面したような反応をする龍翔を、十人の後輩が囲む。
「う、うう……そんなぁ……」
「龍翔くん! もうそろそろ受験なんだから、しっかりアタマ使わないとね!」
「うがぁぁぁぁぁぁっ!!」
終始手を抜かずにドSっぷりを発揮する優輝に、とうとう龍翔が壊れる。頭を抱えて仰け反るように発狂し、そのまま後ろに倒れる。
「う、ううう……分かった、分かったから。取り敢えず風呂入ろ? 風呂沸かしてくるからちょっと待ってて」
「仕方ないなー」
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そうしてそれぞれが入浴を済ませ、風呂を洗うという理由で最後に入ることになった龍翔も、風呂を洗い終えて部屋に戻る。
「あいあーい、たーだーいー……」
「ばぁー!!」パーンッ!
「……まぁっ!?」
入浴を終え、寝間着に着替えた龍翔は髪の毛をとかしながら部屋に戻る。
そして無警戒のまま部屋のドアを開けると、大きなクラッカー音と共に晟たちが飛び出してくる。飛び出してくる晟たちの服は、用意してあった寝間着……ではなく、龍翔のクローゼットにしまってあったはずの仮装用の衣装だ。
「ちょっ、なに!?」
「なにって、とぼけないでよー。今夜はいじるって、そう言ったでしょ? さすがに忘れたなんて言わないよね?」
もう既にいじる体勢に入っている優輝たち。それはその格好を見ればすぐに分かる。ハロウィンの時に使った仮装用衣装や、その時にも使っていなかった服を着て、やる気十分と言った様子。
それを見る龍翔も、さすがに忘れていたという訳では無い。だが、思い違いがあった。
龍翔の夜とは、大体が日付が回ってからのことを指し、優輝の言葉を″今夜は寝かせないよ?″と言うような言葉だと思っていた。
そして、今はまだ二十三時。まだ一時間の猶予があると、そう思っていた。
「ちょ、ちょっと待って! まだ早くないか!? ほら、まだ飯食っただけで、これからがパーティーっていうか! ケーキとかそういうデザート! まだ食べてないよ!?」
「あ、デザートってあったの? 龍翔くんってそういうの食べなそうだから、てっきりないのかなーって思ってた」
「これまでのやり取りも含めて俺がどんな風に見えてるのか気になるところだけど、さすがにデザートくらいはあるよ? てか、俺はそっちの方が好きだし」
龍翔としては、まだ心の準備ができていないため、今から始められることだけは絶対に避けたい。
あそこまで大量の料理が届かなければもっと早くに食べるつもりだったが、それは龍翔の不手際。仕方ないと割り切り、少しでも満腹感が収まってからと考えていた。
入浴を終えてから少し遊び、日付が変わるちょっと前から再開すればいいと思っていたが、ここではやむを得ない。
「そう言えば、この前食べ放題に行った時も″デザートは別腹″とか言ってたよね。結構甘党なんだーって」
「この前って、結構遊んでるんだね。龍翔くんと晟」
「結構って言っても、ハロウィンの時だけだぜ? 晟が寝坊して大会に行けなかった日」
「それは言わなくてもいいじゃん! 眠かったんだってば!」
龍翔の過去を少し知ったとしても、人間の根はそう簡単に変わるものでは無い。龍翔からいじり癖が抜けないことと同じように、晟からもいじりやすさは抜けない。
これからいじられる龍翔は、せめてもの悪あがきとしてできる限りにいじっていくつもりだ。
「まぁまぁ、そんな事いいから、デザートあるなら早く始めよ! 二時間も時間が開けば食べられるでしょー!」
「優輝って、意外とデザートに弱い? テンション上がりすぎじゃない?」
「今から龍翔くんのこといじってもいいんだけど、なんか言った?」
「いいえ、ボクは何も言っておりません。直ちに準備をさせて頂く所存でございます。はい」
わかりやすくテンションの上がった優輝に、龍翔は純粋な質問を投げかけたつもりだった。
しかし優輝にそれを聞くのは地雷だったらしく、龍翔は素直に引き下がる。そして優輝の気が変わらないうちに、素早く部屋を退室しようとする。
「晟ー! 蒼空ー! 運ぶの手伝ってー!」
「あ、うん! 今行くー!」
部屋を出て階段を降りた先で、龍翔は晟と蒼空を呼ぶ。そして二人は龍翔の後を追い、少ししてから戻ってくる。
「お待たせー! 持ってきたぜーい」
「え、なにそれ!? めっちゃ豪華じゃん!」
「いやー、俺ん家は母さんがパティシエだからさ。新商品開発とか、あとは練習用で結構作ってくれんの。今日がイヴで本番だからって、昨日の夜に練習がてら作って貰ったんよ。保存状態はバッチシだから、安心してくれて構わないぜ!」
ちなみに、龍翔の母はコンテストなどでも数々の成績を残していて、自分の店やパーティーなど、色々な面で活躍をしている。
「さぁ、ケーキもその他も全部自信作だとよ! 飯食ったばっかで悪いけど、じゃんじゃん食ってくれい!」
「わ、ほんと!? こんなに食べていいの!?」
「食べちゃダメなら出さないし、晟ってマジで食うよな……」
二時間ほど前に龍翔の倍以上を食べていて、それでもなお食べようとする晟。表情は全く曇っておらず、清々しいほどの笑みを浮かべながら目を輝かせている。
しかし、目を輝かせているのは晟だけではない。ここにいる全員がそれに当てはまるが、その中でも晟以上の人物が一人。
「――優輝、やっぱりデザート好き?」
「わ、悪い!? 俺だって、好きな物の一つや二つあるし! 龍翔くんだって、後輩好きなくせに!」
「純粋な質問だったのになんでそんなに辛口なの!? いや、たしかに後輩は好きだけどさ……あ、そうやって当たりの強い優輝みたいな後輩も、大好きだよ?」
「――っ、そ、そんなこと聞いてないし! いいもん、絶対にいじるから! デザート食べてから、絶対にいじるから!」
今までは断崖絶壁のようなエスさを発揮していた優輝だが、一度ペースを崩されるとかなり脆い。次から次へとボロが出て、最後にはツンデレ気質な一面を覗かせる。
そして普段なら、その隙は龍翔に付け込まれる一手となる。しかし、龍翔はそれ以上に行こうとしない。その理由は簡単で、下手に踏み込むと返り討ちにあうからだ。
そんなやり取りを時折混ぜながら、ケーキはもちろん、和洋両方のお菓子やフルーツの類まで揃っていたデザートは、三十分ほどで全てが完食された。
「したらまぁ、少し腹休めってことでなんか軽いゲームでもやろっか。あ、先に言っておくけど、神経衰弱だけはナシだからな」
「分かってるよー。なんか面白そうなのないかなー」
「んー……あ、しりとりは? これなら誰でも出来るし、ちょっと縛ってみれば面白くない? 大会の時とかよくやってたしー」
「自ら縛りありを選ぶ辺り、やっぱ蒼空ってエム気質あり? それに、蒼空って俺にしりとりで勝てたことなくね? ――やっぱりエムか」
「そういうことじゃなくない!? 普通のしりとりじゃみんな簡単すぎるかなーって思ったから言っただけなのにっ! それに、今回は勝てるかもしれないじゃん! 負けたくてやるわけじゃないもん!」
龍翔たちが悩む中で、しりとりを提案した蒼空。しかし、そのルールに縛りありを付けただけでエム扱いされる。
もちろん、龍翔も本気で言ってるわけではない。ただ単純に、そのいじりが面白いと思ったからだ。
「そんなに必死にならなくても冗談だって。――それに龍翔くんも、あんまりいじってあげないの。これからいじられるからって」
「うぐ……べ、別にこれからいじられるから今のうちになんて思ってないし……ただ、蒼空が、その……」
「やっぱり、優輝くんが相手になると龍翔くんって弱い……」
「うるさいっ!! もういいから! しりとりでいいから! 早くやるよ!」
いつも以上に煽りを入れる龍翔は、優輝に図星を突かれて口篭る。さらにそんな龍翔を、後ろから晟がダメ押し。これ以上の醜態を晒す前に、龍翔は素早くゲームへと逃げる。
「じゃー今回の縛りは、英語(外国語)禁止でやろっか」
「分かった、それじゃいつも通り、龍翔くんからスタートね!」
縛り付きのしりとりは、大会の帰りなどで龍翔たちがよくやっていたゲームだ。時折、山手線ゲームなど別のゲームもやるが、大体がしりとりになる。
そして、しりとりのスタートは大体が龍翔からだった。その理由は、満場一致で毎回初手が決まっているということ。そしてそれが、どのジャンルでも凡そ返しにくい言葉にはならないからだ。
「ういうい、りーかい。後輩」
「苺」
「胡麻」
「豆」
「メダカ」
「鴎」
「明太子」
「駒」
「膜」
「鯨」
「駱駝」
さすがにやっている回数が多いだけあって、最初の1周目で引っかかる者はいない。一人も止まらず、スムーズに1周目が終わる。
ちなみにしりとりの順番は、龍翔、晟、優輝、蒼空、賢人、聡、秀、蓮、幸希、大地、翼の順番だ。
このまま続けてもいいが、それだと長くなるので割愛。脱落するところの一部だけをピンポイントで。
「秩父」
「またぁ……? ぶ、ぶ……武器はいったし、豚も葡萄も部活も言ったし……」
「あと十秒だよー。九、八、七……」
「ああ、ちょっと待って! やだ! 一番最初はやだ! 待って!」
「三、二、一」
「あぁー!!」
「ぜぇろぉー」
完全な『ぶ攻め』を食らい、完全な煽り混じりのカウントダウンで最初に脱落したのは、龍翔の次にいた晟だ。龍翔は時と場合と気分に応じて攻め方を変えてくるため、一番最初に脱落をしたくなければ龍翔の次に回らないことが最低条件だった。
「ちなみに晟が言ってないのだと、鰤とか仏陀とかは簡単だぜ?」
「あー、鰤は言われればわかるけど、ぶっだなんて知らないよぉ……」
「龍翔くんって、なんでそんなことは覚えてるのに頭良くないの?」
「そんなん、勉強が楽しくないからっしょ。しりとりはやってて楽しいからやる気出るけど、勉強は無理やわ」
『好きはものの上手なれ』という言葉があるように、人は誰しも好きな物にはやる気を出すことが出来る。そして龍翔はこの手のゲームが好きで、ネットやアプリでもしりとりをやっているほどだ。そしてついこの前、一般人の勝率五パーセントのAIにも勝利している。
そんなこんなでしりとりはどんどんと続いていき、最後は龍翔と蓮の勝負となった。
ちなみに、脱落しているのは龍翔と蓮に負けた者がほとんどだ。
「やっぱり蓮が残るよなぁ……つらー」
「俺も、龍翔くんが相手だと勝てるかどうか微妙かなぁ……」
残った龍翔と蓮は、お互いにしりとりの強者。しりとりとしての実力なら龍翔の方が上だが、蓮は元々の頭が良く、学年でも常にトップの成績を誇る。そのため、部活帰りなどでは時間が足らず、決着が着いたことはない。
龍翔の固定攻めも中々強いが、蓮はそれに対応するだけの知識がある。そして、これまでのしりとりで出てきた単語も暗記している。
「まぁいっか、最初から『る攻め』で行くぜ? 雨蛙」
「英語無しでる攻めって辛いなぁ……なんだろ、取り敢えずはこれかな。類語」
「五郎丸」
「累乗」
「牛若丸」
人や生き物などの名前で攻める龍翔に、英語を使得ない状態での返答。るから始まるものは英語やカタカナのものが多いため、形勢蓮が不利である。
「累積」
「るいなんとか好きだなぁ……キンイロヒキガエル」
「龍翔くんだって蛙ずるい……塁打数」
「またうで返してくるか……ウシガエル」
『るい~~』で返す蓮と、蛙の名前を使う龍翔。
る攻めの時に蛙を使うのはかなり有名な手段で、他にも猿の種類も使える。
「塁打」
「だだみ汁」
「あ、これ言ってなかった。留守番電話」
「あー、それ気づいたんかぁ……吾輩は猫である」
「それありなの!? まぁ、作品名だしありになるのか……じゃあ、留守」
「すばる」
そんなやり取りが続いて行き、もう何周目になるかも分からない。
途中で龍翔のる攻めが尽き、ぷ攻めなども行っていたが蓮の対応力も負けてはいない。そして2人だけになってから二十分が経ち、時刻は夜中の一時にもなっている。
「もう固定攻めはやめだ! ここからは知恵! 地獄風車!」
「射撃場!」
「ウミガメ座!」
「座右の銘!」
「ね、ねぇ、もうそろそろ眠くなってくる時間だしさ、続きはまた明日にしない? もう俺たちもババ抜き終わっちゃったし」
「お? 眠いなら寝ててもいいぜ。俺らは終わってから寝ることにするから。決着ついたことなかったし、今こそ決着の時!」
「それはダメ! 龍翔くん、このまま俺たちが寝ればいじられなくて済むとか思ってるでしょ。龍翔くんが素直な親切心でそういうこと言うわけないもん」
眠いと言った晟を素直に寝かせようとする龍翔に、優輝の横槍が飛ぶ。
そんな過激すぎる優輝の横槍に、龍翔は顔を顰める。
「ちょっ、いくらなんでもそれは酷くない!? 優輝の目に俺はどう映ってるの……」
「本当はエム気質あるのに変なプライドが邪魔してエスにしかなれてない同性の後輩に発情するショタコン」
「結構ボロクソに言うやん! んで最後から二番目! 発情はしてないし! 可愛いなー好きだなー襲ってみたいなーって思ってるくらいで!? 別に発情はしてないんですけど!」
「龍翔くん、そういうのもしっかり発情って言うと思うんだけど……それ以上は喋らない方がいいよ、多分」
優輝の目に映る自分を知り、もう既に熱くなりすぎて自分でも何を言っているか理解出来ていない龍翔。これ以上の暴露は危険だと、賢人が止める。
「じゃ、しりとりの決着は明日にしよっか、龍翔くん」
「え!? なんで!? それだと俺がいじられて本性g……a」
「やっぱり。いじられてまでならセーフだったのに、本性がーまで言っちゃったね。もう反論はできないと思うよ?」
「いやっ、あ、うぅ、ちがっ……」
蓮だけは続けてくれると思っていただけあって、その蓮に延期と言われ、龍翔は思わず口が滑る。
今までそんなことがない龍翔も、一度ペースを崩されれば脆い。直ぐにボロが出て、晟たちは今まで見てきた中で一番龍翔の弱いところを見ている。
「はいはい、龍翔くんは素直な後輩が好きなんでしょ? そしたら龍翔くんも素直にならないとねー。嫌われちゃうよ?」
「うぐっ……わ、分かった。分かったよ、覚悟決めりゃいいんだろ!? ならやってやる。但し、今回一度きりだ。それと、これから俺がどうなっても嫌いにならないこと! その二つは絶対! すーっ、はぁー……よし、来いやぁぁ!!」
本性を暴かれるのは嫌だが、それで後輩に嫌われるのはもっと困る。もちろん、優輝たちは嫌うつもりもないし、龍翔もそれは分かっている。
しかし、素直を求めるなら素直になる。その言葉には一理ある。だから、今回の一度きり(優輝たちは頷いてないが)。
覚悟を決めて、龍翔は目を瞑ったまま両手を広げる。
「かくごーっ!!!」
ノーガードの龍翔を目掛けて、龍翔の後輩である十人が一斉に襲いかかる。




