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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
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32話:5層の攻略

「――か、はっ」


 全身に響いた衝撃とともに、つい先程まで己を包んでいた無の空間が晴れる。

 無の空間が晴れ、意識を覚醒させたリゥ。先程までとは完全に違う感覚に、リゥはふぅ、と満足する。


「戻って来れた、ってことだな」


 口についた血を手で拭い、リゥはそう呟く。

 先程とは全く違う感覚。まず一つ目は、喋れること。口を動かす感覚があり、喉を通して声を発している感覚がしっかりある。

 そして、自分の体の裏側、即ち背中に感じる冷たく硬い感触。天を仰ぐ手があり、それを確認する目がある。そしてその場から立ち上がれる足もあり、自分が動く音を感じる耳も、その場の匂いを嗅ぐことの出来る鼻もある。


「ん。やっぱしいい匂いじゃねぇな……」


 己の体が戻ったことを理解し、安堵の息を漏らすリゥ。しかし、そんな時間も束の間。

 すぐ傍らに、見過ごせない光景が広がっている。


「――アキラ」


 起き上がったリゥの傍らには、目を瞑ったままピクリとも動かないアキラが――否、迷い森上陸班の全員が、目を瞑ったままピクリとも動かずに横たわっている。


「まさか、あの空間から自力で意識を覚醒させるとは……」


「――」


 リゥが確認した集団から少し離れたところには、先頭にいたゴウが同じ状態で横たわっている。

 しかし、警戒すべきはその奥。この状況を作り出したと思われる人物が一人。気を失う前にいた老人、モーサだ。

 今すぐにぶん殴ってやりたい気持ちを抑え、今はそれよりも優先すべきことがあると、リゥはモーサを無視する。


「アキラ、起きろ。その空間は瞞しだ。外のお前は塔の中で寝てる。だからそっちのことは忘れて、こっちに戻って来い!」


 寝ているアキラのそばに座り込み、リゥはアキラの体を激しく揺らす。

 リゥがいた空間も、アキラたちが今いる空間も、きっと同じような空間だ。そして、内部からどう足掻いても起きることは出来なかった。

 つまり、その空間から出るには外部から起こされる必要がある。

 それが分かったリゥは、ひたすらにアキラを呼び、体を揺らす。


「――ぅ、ぁ、りぅ、くん……?」


「ああ、そうだ。俺だよ、リゥだ。良かった、戻ってきてくれて」


 起こし続けた結果、アキラはしっかりと目を覚ます。

 目を擦り、いつも起きる時と変わらない様子で。


「俺、なんか、ずっと暗いところにいて、そしたらそこが急に光って、それで、気づいたら向こうの世界にいて、それで……」


「大丈夫だ。その話は後でゆっくりしよう。それより、今は他のみんなを起こすのが優先だ」


「え、みんな……? これ、どうしたの?」


 少し焦りながら、繋ぎ繋ぎの言葉であったことを取り敢えず話そうとするアキラ。そんなアキラを見て、リゥはアキラの肩に両腕を起く。

 そうしてやっと我に返り、落ち着いてから自分の周りの状況にようやく気付く。そして、その異様な光景に、アキラは目を泳がせて再び動揺する。


「その話も、全員が起きてからにしよう。あそこにいるモーサにだけ気をつけて、みんなを起こしてくれ。呼びかけて体を揺するだけでいい。なかなか起きなかったらぶっ叩いていいから」


「あ、うん。分かった」


 ぶっ叩く、などと少しふざけたようなリゥの言葉に否定もせず、案外素直に受け入れてしまうアキラ。時々素直すぎるアキラならやりかねないなとも思ったが、起きないならそうするしかない。こういった素直なところには、リゥも本当に助けられる。

 そう思いながら、リゥはアキラの近くでそれぞれを起こしていく。


 ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶


「――なにもしてこないってのは、意外と良心的だったな」


 そう言うのは、寝ていた全員を起こし終えたリゥだ。


「先に起きたのがそこのアキラとかいう少年ならまだしも、お主は四天王の一人じゃろう? 聖陽郷トップクラスの実力者に勝てるとは、さすがに思っていないからのぅ」


「そうか。それが分かってるなら早く次に上がらせてくれないか? って、何回目になるかわからない提案していいか?」


「ああ、いいぞぃ。儂の後ろにある階段を登れば、次なる4層に繋がっておるぞ」


「は……? リゥには教えンのかよ?」


 無の空間に送り込まれる前、今リゥがした提案を、ゴウは何回もモーサに聞いていた。が、その時は尽く断られていたのだ。それなのに今リゥが聞いた瞬間は迷う素振りもなく教えたモーサに、ゴウはキッと睨みつけるような鋭い眼光を向ける。


「いいや。儂が言葉を聞き入れたのは、人物に左右されてのことではない。時間、タイミングじゃよ」


「タイミング、ってのは、どういうことだ?」


「主らはそれぞれ、無の空間に送り込まれてから過去を見たろう? そして、それが理解出来ずに悩んでもいた。違うか?」


 モーサの問いかけに、リゥを含めた全員が視線を逸らし、瞳を曇らせる。


「え、みんな同じようなこと見てたの……?」


「多分、そうだろうな。――お前の脳力は、対象者に訳の分からない過去を見せること。そうだろう?」


 あの言葉に反応してから、リゥはモーサの方に向き返る。


「″過去を見せる″ということはあっておるな。しかし、″訳の分からない″というのには語弊がある。少なくとも、儂が見せられる過去は現実にあったもの。儂自身が作ったものでは無い故に、事実とは違わぬ本物じゃよ」


「過去を見ていた全員が、起きた瞬間から戸惑っていた。お前が見せる過去は、全て嫌な過去だけなのか? 幸せだったり、楽しかったり、思い出になりそうな過去は、見せないのか?」


「ここは、あくまでも邪陰郷の第6支部。普通ならば楽しめるところなどでは無い。儂らにそれを期待する方がお門違いじゃと思うがのぅ」


 たしかに、ここは邪陰郷の支部。楽しい思い出だけ見せてもらって、はいそれでは次の層へ。などとなるはずがない。

 しかしモーサからは、敵意や戦意といった尖った感情が見当たらない。そのため、相手が敵であり、ここが邪陰郷の支部であることも、頭の中から外してしまっていた。


「そうだったな。たしかに、お前の言う通りだ。ここは邪陰郷の第6支部で、おまえも邪陰郷の一人。それなら、あの過去の答えだってお前は答えないだろう?」


「ああ、そうじゃな。あの過去は、ただただ対象者を悩ませるだけのもの。まぁ、それはおまけのようなものじゃがな」


「おまけだと? ってことは、過去を見せる以外に本来の意味があるってことかよ?」


「勿論、その通りだとも。本当のところは、見せるものは過去でもなんでも構わない。取り敢えず頭を悩ませることができれば、それでいいわけじゃからの」


 ″おまけ″という言葉にゴウが反応すると、モーサはそう言って意味深な表情を浮かべ、含みのある笑みをリゥたちに向ける。

 その笑みが何か奇妙なものに感じ、リゥたちは背中に寒気が走るのを感じる。が、そんなことで引き下がっている時間など、リゥたちにはない。あったとしても、そんな使い方はしない。


「過去を見せることがおまけなら、おまえの本来の目的はなんだ?」


「なに、そう難しく考えんでも良い。簡単な話じゃよ」


 一足早く悪寒を振り払ったリゥの問いかけに、モーサは笑って答える。

 そして一呼吸置き、言葉を繋げる。


「あの無の空間に、対象者を閉じ込めることじゃよ。多くの人間は、あの空間に入るだけで取り乱す者が多い。しかし、お主らはそのようにいく可愛げのある者たちではない。じゃから、理解出来ずに悩んでしまうような過去を見せ、強制的に精神状態を不安定にさせることが必要なんじゃ」


「なんのために、そんなことをする必要がある?」


「基本、あの空間を内部から抜け出すことは不可能じゃ。しかし、落ち着いている状態ではどんな脱出方法を生み出す分からんからの。――現に、お主はそれを成し遂げたじゃろう?」


 そう言って、モーサは自分の術からいち早く脱出した人物、リゥを見つめる。


「たしかに、リゥくんってどうやって出てきたの?」


「ん、その話は一旦置いとこう。先ずはこっちをどうにかする必要がある」


「儂の方が優先か。それは何よりじゃの」


「勘違いするな。俺の最優先はいつでもアキラだ。だが、アキラは最重要でもある。アキラには、詳しくしっかりとした知識を付けてもらいたい。だから、早く片付けたい方を選んだだけだ」


 リゥにとっての最優先は、どこにいってもアキラであり、いつになっても最重要である。

 自分の中で、アキラの傍で、仲間の前で、リゥはそう誓った。だから、その勘違いは絶対に晴らす。

 言い切るリゥに、モーサは目を丸くしたが、その直後に納得のいったような笑みを浮かべる。


「そうか、それはすまなかったの。それで、お主は何が聞きたい?」


「お前は、あの空間に閉じ込めて何がしたいんだ?」


「閉じ込めるだけじゃよ? 儂は5層の待人。そして5層の役割は、門前払いのようなもの。4層に行きたければあの空間から出てみよと言うだけじゃ。――よって、お主らはもう4層に行って良い。それを儂は引き止めんし、邪魔もせん」


 あくまでも、自分の仕事はあの空間に閉じこめるだけだと主張するモーサ。その言葉に嘘の気配はなく、静かに佇んでいるだけだ。

 たしかに、リゥとアキラでゴウたちを起こしていた時も手を出してこなかった。

 そんなことを全て考慮して、リゥたちはその言葉を信じることにした。


「それなら、もう俺らは上に行っていいんだな? 」


「ああ、そうじゃな」


「よし、それじゃもう行くぞ」


 そう言って、リゥを先頭にモーサの横を通り、上陸班は4層へと繋がる階段に足をかける。


「――あ、そうそう。一つだけ、忠告しておこうかの」


「なンだよ?」


「4層以上では、戦闘は必須じゃろう。儂のような者が待ち構えていると思っているなら、それは正した方がよいじゃろうな」


 最後の最後で不気味な笑みを浮かべ、モーサはそれ以上何も言わない。

 そんなモーサを後にして、リゥたちは次なる4層へと向かう。

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