26話:泣く子は優しく抱き寄せて
時はあっという間に過ぎてゆき、迷い森上陸までもう一週間を切ろうとしていた頃。アキラはこれまでのトレーニングの追い込みを、今ではある程度危険でないものは補助無しで一人黙々と行っている。
そして補助の必要がなくなったレイたちも、各々自分のトレーニングに努めていた。
「――ゴウ、レイ、ゲン。ちょっといいか?」
「ン? どうした?」
トレーニングの休憩中、ゴウたち三人に話しかけるのは、同じくトレーニングの休憩に入ったリゥだ。
「俺はもう追い込みを終えた。この二ヶ月で、かなり体も慣らせたはずだ」
「ああ、そうだね。たしかに昔と同じオーラが戻りつつあるとは思う」
「だろ? だから、そろそろシム博士の所に戻ろうと思うんだよ」
「そうか。たしかにそんな時期だな」
最近始めたてのアキラや、その補助に回っていたレイたちと違い、リゥはこの二ヶ月間ひたすらに追い込み続けてきた。毎日が追い込みで、誰よりも極限まで体を鍛え抜いていたのは他でもないリゥだ。
それは、リゥだけではなくゴウやアキラたちも分かっていることだ。
「シム博士の所に戻って、最後の仕上げに取り掛かろうと思う」
「核を体に慣らし、核を今の体に適合させる。そしてその適合を終えた場合、本当の意味で自分の器が完成する」
「元々は生まれた時から適合してるもンだが、リゥの場合は核を入れ直してるかンな」
「だから、その出来上がった器を満たすためにシム博士の所に戻る、と」
今現在、リゥは過去の核を体に埋め込めているだけに過ぎない。核は体を認めたものの、百パーセント体に適合している訳では無い。
トレーニングで器を体に慣らす。その仕組みは至ってシンプルで、体力や力を使うためにはそれだけのクラフトが必要。
そしてそのクラフトの貯蓄や放出を行う役割を持つのが核。クラフトの使用頻度が増えれば、核もその体に多く干渉することになる。
そうすることによって、核は体に馴染み、しっかりと適合するようになる。
人間は、核と体が適合して初めて本来の器が完成する。その器が完成していなかったリゥは、ずっと未完成状態だったのだ。
「核と体が適合していれば、シム博士の研究施設で器にクラフトを注ぎ込める。しかしそれには多少の時間が必要だし、もうそろそろ行った方がいいかもね」
「そーだな。今のリゥじゃそこまでの力は発揮できねぇし、そもそも想術とかもまともに扱えないだろうしな」
リゥの提案に、三人からの反論はない。寧ろ、その必要性は全員が理解しているものだ。
その理由として、今のリゥでは想術がほとんど使えない。全体的な適性を持ち、オールラウンダーの異名を持つリゥがそれを使えないなど、医師と弁護士の資格を持つダブルライセンサーが新聞配達だけをやっているようなもの。まさに宝の持ち腐れだ。
「まぁそういうの諸々含めて、今日にでもここを出ようと思う。勿論アキラにも言って行くつもりだが……」
「離れるのが嫌だ、と」
「そう、そこなんだよ。邪陰郷との戦いの為にも、絶対に行かざるを得ない。でも、数日アキラと離れるのは……」
リゥとしては、出来ることなら二人でずっと一緒にいたいのが本音だ。家で一緒に起きて、一緒に朝食をとり、一緒に遊んで、一緒にランチをして、一緒に買い物をして、一緒に帰宅し、一緒に夕食を楽しみ、一緒に入浴し、一緒に寝る。そんなまったりとした日常を夢見る。
しかし、リゥは四天王の一人でありながら、最有力候補者でもあった存在だ。
違う世界で生まれ変わり、もう一つの人生を歩んでいたとしても、前世の記憶を取り戻したリゥはその時と同じ志を持つ。
龍翔としての望みか、リゥとしての志か。己の中で、今も葛藤は続いている。
「リゥがもし、アキラくんの安否を心配しているのだとすれば、それには及ばない。リゥがいない間、アキラくんの安否は僕たちが保証するとも」
「アキラがいなくて寂しいのも分かっけど、それでもアキラの為になる。アキラの為の行動なら、頑張れンだろ?」
「アキラも、四天王としての仕事に全力で取り組むリゥが好きなんじゃないか?」
三人それぞれの言葉。アキラの安全を保証するというレイの言葉に安心感を得られ、アキラの為の行動ならと励ましに勇気を貰い、四天王としてのリゥが好きなのではと言われ心が熱くなる。
「たしかに、それはお前らの言う通りだ。お前らがいればアキラが危険にさらされることはほぼないし、俺もアキラの為なら頑張れる。それに、俺の事を好きでいてくれるアキラの為にも、アキラが思い描く俺を穢したくねぇ」
たしかに龍翔時代も晟とは仲が良かったが、今アキラが好きなのは、他でもないリゥだ。四天王としての志を高く持つリゥを尊く思い描いて、好んでいてくれる。
そんなアキラを、リゥもまた好きでいる。
離れたくないから、傷付けたくないから、リゥはアキラを一番に想う。だから――、
「――そう、だよな。やっぱり、シム博士の研究施設に行く。その間、アキラのことはお前らに任せるぞ」
一番大事な人を、一番頼りにできる仲間に託す。それが一番の良策だ。
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「――えっと、つまり……リゥくんの今の体はまだ完全じゃなくて、クラフトっていう体を動かすためのものが溜まってない状態。だから、魔法みたいなのもそんなに使えなくて、このままだと邪陰郷との戦いに全力で取り組めない?」
「この世界では魔法じゃないけど、大方はそうだな。だから、これからシム博士の所に行って数日かけてクラフトを溜めてくる」
ファクトリー、訓練棟二階。
ゴウたち三人との対談を終え、シムの所に向かうリゥは、アキラに事情を説明した。
「そっか。数日も……」
ただ単にクラフトを溜めるだけならば、今リゥたちが付けている腕輪だけで事足りる。
しかし、それは常人であればの話。アキラはまだ核が成長しきっていないが、リゥの場合は元々四天王の器を持つ核。保有できる最高値も、戦闘に用いる使用値も桁外れであるため、今現在保有できる分を蓄えるだけでもかなりの時間を要する。
「大丈夫。アキラのことはほかの三人にも任せてるし、迷い森上陸までには必ず戻ってくる」
「うん。それがリゥくんにとって必要なことなら行ってきて! 俺、全然大丈夫だから!」
そう言って、アキラはリゥに笑顔で手を振る。
「そ、そうか? あの、少しくらい寂しがってくれても……」
「大丈夫だからー! ばいばい!」
「あ、おう……ん、またな」
押し切る形で手を振られるリゥ。
予想では入口まで見送って見えなくなるまで手を振ってくれるはずだったが、意外とあっさりした別れにリゥは少し戸惑う。
まぁ、数日離れるだけで言ってしまえば普通な別れだが、そんな普通もリゥにとっては予想外のイレギュラー。物足りなさを感じたまま、リゥは流されるように訓練棟を出る。
「――リゥくんにとって、必要なことだもん。俺がこんなところで引き止めちゃったら、リゥくんにも他の人にも迷惑かかっちゃう……」
リゥを部屋から送り出したあと、自分の顔を覆ったアキラ。そして小さく呟きながら、その場に座り込む。
「――リゥに心配をかけさせないようにするために、敢えてあっさりと離れる。たしかに、アキラくんが戸惑えばリゥも心配するだろうね」
「でも、あンなにあっさりしすぎちゃ、逆な心配も生まれンじゃねぇか? ――リゥも、心做しか寂しそうだったし、本当にあれで良かったのかよ?」
「自分の気持ちに嘘をつく必要は無い。――本当のアキラなら、リゥはどんなアキラでも受け入れてくれると思うぞ」
膝を抱えてうずくまるアキラの後ろから、三つの声。その声は、リゥとアキラを想ってくれる、温もりのある優しい声。
その声は、ここ二ヶ月で聞きなれたその優しい声は、今更になって確認するまでもない。
「レイさん、ゴウさん、ゲンさん……」
膝を抱えたまま、後ろには振り返らず声の主の名前を呼ぶ。
最初の声は、アキラの考えを肯定してくれる理解の声。その次の声は、肯定した上でもそれでいいのかとアキラに本心を尋ねる確認の声。そして最後の声は、アキラの本心を理解し、リゥの想いも理解して事実だけを伝えてくれる尊重の声。
どの声も、答えとなるようなことは何も言わない。アキラの答えは、アキラにしか分からない。
だから、アキラが答えを出すための手助けをして、答えは自分で見つけさせる。それが三人の意向で、最もリゥとアキラのためになる方法なのだ。
龍翔の時には見れるはずもなかった、四天王としての強さ。龍翔の時以上の、自分を一番に想ってくれる優しさ。
年上として、先輩として、この世界の先達者として、いつもリゥは自分を引っ張ってくれている。
しかし、前を歩いて背中を見せる訳ではなく、隣で手を繋いで一緒に歩を進めてくれる。
――二学年上の友人。それは、先輩とも同級生とも違う、二つの狭間にいる存在。友達のように肩を組める存在であり、先輩のように尊敬できる存在は、アキラにとってたった一人しかいない。
リゥは、たった一人しかいない。リゥのような存在は、他にはいない。他では成し遂げられない。
「――っ」
抱えられていた足は、予備動作なしに地面を蹴る。抱えていた手は、前後左右上下全く規則性のないがむしゃらな方向に勢い任せで振られる。
そして、リゥが歩いて行った方へ、ロビーの方へ、出口の方へ、一秒たりとも休むことなく走る。涙が頬を伝い、頬から離れ、宙を舞う。
走って、曲がって、ぶつかって、走って、転んで、走って、ぶつかって、転んで、走って、曲がって、走って、走って、走って、走って、走って、走って、走って、走り続けて、転ぶ。
ーー転んで、叫ぶ。
「りぅくん……っ!!」
「――ッ、アキラ!?」
あっさりと挨拶をしたアキラが突然追いかけて来て、リゥは戸惑いを隠せない。
「俺! 大丈夫だから! りぅくん、いなくても、大丈夫っ、だから……! 本当に、大丈夫……だけど……っ」
息を切らして、顔を真っ赤にして、涙で顔をびしょ濡れにして、髪を乱して、噎せて、咳き込んで、なんとか体を起こし、その場に座り込んで、リゥに向かって叫ぶ。
「アキラ……?」
リゥがいなくても大丈夫なアキラが、今何を望むのか。
リゥがいなくても大丈夫なアキラは、リゥに何を求めて、何を欲するのか。
リゥがいなくても大丈夫なアキラが、心の底から望むもの。それは――、
「絶対に、帰ってきて……!」
そんなアキラの叫びに、リゥはゆっくりと目を見開く。
リゥの瞳に映るアキラの叫び方は、幼かった頃の龍翔にそっくりだ。
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それは、まだ龍翔が保育園に通っていた頃。
両親が共働きだった龍翔は、0歳の頃から保育園に預けられていた。
「あら。あの子、まだあんなに小さいのにもう保育園に通わせられてるの?」
「共働きじゃ仕方ないのかもしれないけど、まだ親が面倒見てないといけない年頃よねぇ」
「三歳くらいからならいいとしても、まだ赤ちゃんだし……」
俺は母の車で送迎されていて、その時母は近所の人に冷たい目で見られていたらしい。
母も、こんな小さい頃から保育園に預けるのは不本意だったらしいが、父母揃って会社ではかなり重要な役割を任されていて仕事が休めなかったという。
「それでは、今日もよろしくお願いします」
「ええ、お気をつけて。ほら、龍翔くんもばいばーいって」
そう言って、俺は保育園の先生に抱っこされながら母に手を振っている。
母は、俺を車で龍翔を送ったあと直ぐに会社へ向かわなければならない。開園時間に俺を預け、そのまま直ぐに行かないと間に合わないため、俺は保育園に着いた瞬間に母と離れる。
0歳で直ぐに保育園に預けられたから、母と別れる寂しさというのはこの時はまだ分からない。保育園も誰かしらの先生が付きっきりでいてくれて、俺が不自由することはなかった。
しかし、二歳のお盆明け。お盆に家族と旅行をした俺は、家族といる楽しさを理解してしまった。
「それでは、また今日からよろし……」
「ま、ままぁ……!」
「ちょ、ちょっと龍翔、どうしたの? 今までは全然平気だったじゃない。お母さんこれからお仕事行かなきゃ行けないの。いい子にしててね」
いつも通り保育園に着き、先生に預けられた俺は母の服を引っ張り、そのまま母にしがみつく。
母と先生が必死に離そうとするが、俺の力は弱まらない。弱めなかった。
「いぃやぁだぁっ! まだママと遊びたいのぉ……! ままぁ……!」
「ごめんね。お母さん今日からお仕事に行かないといけないの。だから、夕方まで待ってて?」
「ほら、龍翔くん。こっちに来て遊ぼう? もうすぐお友達のみんなも来るわよ?」
「ママと遊ぶのぉ……! ママがいい!」
お盆休みの旅行で家族と遊ぶ楽しさを知った俺は、母親から離れようとしない。
思い出している自分でも恥ずかしくなるくらいに泣き叫ぶ姿。幼いからまだ良しとするが、今の俺じゃちょっと……やっぱり見ているのも辛い。
そして保育園の中から先生たちが何人も飛び出してきて、数人がかりでやっと俺を母親から引き離す。
「あっ! ままぁっ……!」
「お母さん! 今のうちにお仕事へ! 後のことは私たちで何とかしますので!」
「え、えぇ……ありがとうございます。龍翔、いい子だから夕方まで待っててね! ちゃんと迎えに来るから、帰ったらいっぱい遊ぼう!」
そう言って、母は車を走らせて会社へ向かってしまう。
そしてその日の俺は、事ある毎に保育園を抜け出そうとして、一人の若い男の先生に付きっきりでを見張られていた。
保育園で使わないドアや窓は全て鍵を閉められて、上の方にある窓だけを開けて空気の入れ替えを行っていた。
しかし、俺は何かに夢中になることが多かった。そしてそれをやっている時は、母親のことも忘れて熱中できていた。
しかし、たくさんの子どもが帰る四時近くになると、次々に出入りする友だちの親を見て、俺は再び母を思い出す。
「まま、ままぁ……! まだ来ないのぉ……? 早く帰ってきてよぉ……」
俺の母は、仕事が終わるまで帰って来れない。迎えの時間は日によって多少の時間差があるが、大体が六時前後といったところだ。
そして保育園で泣き喚く中、俺は突然と泣き止んだ。別に、母が迎えに来たわけでもなく、体の中の水分が全て消え去ったわけでもない。
泣き喚く中、何かに触れて、何故か泣き止んだ。
何だろう。何だろう。何だろう。何だろう。
何かが俺を泣き止ませた。俺が、泣き止んだ理由。
――あぁ、そう言えばこんなこと、あったっけな。
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「大丈夫、いなくても、本当に、大丈夫……! だけど、ぜったい、はや、く……?」
リゥが過去の記憶に触れている間、アキラは必死に叫び続けていた。
目をぎゅっと瞑り、正座をしてズボンを強く握りしめて、そろそろ声も枯れてくるかというとき、アキラの叫びが止まる。
「大丈夫、絶対に帰ってくる。当たり前だろ? 絶対にアキラの元に戻ってくるから、もう大丈夫」
「りぅ、くん……」
涙でびしょ濡れの顔は、リゥにそっと抱き寄せられる。抱き寄せられたアキラは、頭をリゥの腕の中に埋め、顔をリゥの胸に押し当てる。そしてリゥの腰に腕を回し、静かにすすり泣く。
「本当は泣き止む予定だったんだけど……まぁこれでもいっか」
アキラを泣き止ませる予定のハグだったが、逆に安心させすぎてしまったらしい。
しかし、ハグを続けている間にアキラの呼吸も落ち着く。
落ち着く時も、落ち着ける時も、ハグは最高の効力を持つ。そんなハグは、龍翔時代からいつもリゥの支えになってきた。
ハグで始まった龍翔と晟の物語だから、リゥとアキラにとっては欠かせない物だから。
数日後の再会にも、必ずハグを――。
▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶
アキラが泣き止んだあと、リゥはアキラの顔をゆっくりとタオルで拭いた。涙の拭い方はとても丁寧で、拭いたあとに赤く腫れないように優しくゆっくりと涙を拭き取る。
そしてアキラにタオルを渡し、ゆっくりと立ち上がる。
「したら、俺はもう行くから。夜に寂しくて泣くのはいいけど、こっちまでは来ないよーにね?」
「う、うるさいなぁ! 保育園児じゃないし、そんなことしないから!」
「ぐはっ……何故か微妙に突き刺さるその言葉……!」
圧倒的に地雷を踏んだ気がして、リゥは精神的なダメージを負う。
「お前ら、本当にアレ好きだよなぁ……」
「色んな人に見られてたぞ」
「ま、まぁ……ちゃんと挨拶できたんだから良かったんじゃないかい?」
お互い、別々の精神的ダメージを受けている二人に追い打ちをかけるゴウとゲン。レイでさえまともなフォローが出来ず、リゥとアキラは微妙に苦しむ。
「とりま、もうそろ行かないとヤバいから行くわ」
「一応だけれど風除けの術式は編んでおいたから、今のリゥなら少しくらい飛ばしても大丈夫だと思うよ」
「おう! サンキュな!」
そうしてリゥはヴォルフの方へ向かい、ヴォルフの足元で一旦止まる。そしてくるりと後ろを振り向き、両腕をばっと広げる。
「アキラ! ん!」
「え? あぁ、もう……!」
両腕を広げたリゥは、後ろにいるアキラを呼ぶ。
リゥの行動にアキラは一瞬目を丸くして、頬を赤らめながらリゥの方へ走る。
「どうせやるなら、こっちに来る前で良かったでしょ……」
「だって急にやりたくなったんだし? しゃーないの」
そんな二人のやり取りを、ゴウたちは軽く笑いながら静かに眺めている。
「んじゃ、そろそろ本気で行かないとまずいから、もう行くな」
「ん、分かった。――またね!」
「おう!」
そう言ってリゥはヴォルフに飛び乗り、四人の方を見る。
「よし、行ってくるわ! アキラのことはしっかり頼んだぞ!」
「ああ、任せておけ!」
「ん、じゃーな!」
そう言うと、ヴォルフはとてつもないスピードで走り出す。
そして見えなくなるまで手を振り続ける。
「――やっぱり、俺はリゥくんに甘えちゃうね……」
リゥを見送った後、アキラは少しだけ俯いて小さくつぶやく。
「甘えてンのはアキラばっかじゃねぇし、自分の想い伝えられたンなら甘えじゃねぇよ。何も言わずリゥに分かってもらおうとするのは甘えだけど、しっかり伝えられたンなら良かったじゃねぇか」
「そうだよ。あれでリゥも、心置きなく専念できるだろうしね」
「そう、かな……うん、そうだね! それなら俺も良かったと思う! さぁ、リゥくんがいなくても、残りの四日間頑張らないと!」
そう言ってアキラは自分の頬をパチパチと叩いて気合を注入。
晴れ晴れしい顔で空を見上げ、アキラは万遍の笑みを浮かべる。
「涙の跡がなければ、かっこよくて綺麗な青春だったのにね」
「あ、え!? リゥくんが全部拭いてくれてたんじゃなかったの!?」
そう言って自分の顔を貰ったタオルでゴシゴシと拭き、必死に涙の跡を取る。
「リゥはそういうやつだからなぁ……」
「あぁもう……!」
遠く離れたところで、ヴォルフに乗りながら笑っているリゥの顔が見えた気がした。
「――やっぱ、可愛いよなぁ……」




