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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
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25話:タイムリミットまでの折り返し

 邪陰郷の最初の襲撃から約一ヶ月。迷い森上陸までの折り返しまで来た頃、その一ヶ月何も無かったリゥたちは、トレーニング場所をファクトリーに移し、本格的なトレーニングを始めていた。


「あと二十分!」


「あ、あぁ……」


 アキラの声に息を切らして返事をするのは、ここ一ヶ月ほぼ毎日トレーニング尽くしのリゥだ。

 リゥが今やっているのは、下半身を鍛える為のトレーニング。やっていることはただ単にベルトコンベアーの上を走っているだけだが、鬼畜さが他のものとは段違いである。

 まず、ベルトコンベアーの回転速度が尋常ではなく、一般的なトレッドミルの最高速度の数十倍。そしてその上をなんの支えもなく走っている。

 そして何より、一番の辛さはその時間とおまけ(オプション)だ。


「さすがに半日ぶっ通しはキツいか?」


「あんなの引っ張り続けてて、本当に大丈夫なの……?」


 リゥのトレーニングを真横で監督しているゴウ。

 そしてその隣にもう一人、トレーニングの休憩に入ったアキラがいる。

 そんな二人の目に映るのは、巨大なスプリングを体に装着して走るリゥだ。

 リゥの装着しているスプリングは横向きに倒れていて、リゥの背中と後ろの壁を繋いでいる。そしてその繋がれている壁には、無数の巨大な針が付いているのだ。


「あのトレーニングは俺らじゃなくてもやってるトレーニングだかンな。……とはいえ、さすがに半日ぶっ通しなンて馬鹿げたことはやンねぇだろうけど」


 そう。リゥは約半日、ずっとあのトレーニングをやっている。

 体力的にも肉体的にも元の強度を戻しつつあるリゥは、最近になってかなり危ない橋を渡り続けているのだ。

 昨日など、足に鉄球をぶら下げたまま、針床の上で丸一日間ずっと懸垂をしていた。


「昨日は腕を使ったから今日は足だなんて……体力だけは絶対に使ってるはずなのに……」


「まぁ、邪陰郷の数が分かンねぇからな。規格外の人数がいた場合、長期決戦になれば体力勝負にもなりかねねぇ。無限に湧き出る幽霊とかいたりしてな」


「こ、怖いこと言わないでくださいよ! 俺も行くんですから……!」


「ははは……って、うぇ……わ、悪ぃな、アキラ!」


 隣にいるアキラを、変なジョークで脅かして笑うゴウ。しかし、ゴウは笑っている最中にとある視線を感じる。その先には、ものすごい形相で目を大きく開きながらこっちを見ているリゥの姿がある。

 それに気づいたゴウは、アキラに向かって直ぐ謝罪。かなり深く、それも数回それを繰り返す。


「リ、リゥ! あと十分なんだけど……延長するか……?」


「延長は、しねぇよ……あと十分経ったら、そっち行くから……待って、やがれ……」


 息を切らしながら、ゴウに宣戦布告をするリゥ。

 ゴウの罪はアキラを脅したことで、償いは多分蹴り。リゥとゴウの間にはこれまでに何回もそういうやり取りがあるが、その殆どが蹴りで解決されている。


「服の下に鉄板でも忍ばせておくか……」


「そんなことしても無駄じゃないですか……?」


 なんとか痛みを和らげようと、ゴウは壁になりそうなものを色々と探す。

 しかし、それがなんの意味もなさないことを、アキラは知っている。リゥの蹴りは鉄など簡単に砕くし、そんな小細工がバレた時にはその分回数も多くなる。ただ単に自分を苦しめるだけだ。

 正直、アキラとしては二人がなぜこんなことを続けているのか分からないが、これが二人のスキンシップの形であり、絆の象徴なのだろう。


「くそ……大人しく一発だけくらうか……痛いけど……」


 因みに、蹴りを防いだり反撃したりした場合、リゥが本気になって取っ組み合いが始まる。

 だから、最善の策は大人しく一発受けること。まぁそもそも、そういうことをしないのが一番早いのだが……


「それもこれも、全部俺らの距離感だな」


「そうですね! 仲は良さげに見えますし、今のままでいいと思いますよ!」


「それだと俺がやられてるのを見てたいって言ってるように聞こえンだけど!?」


 本音を言えば、リゥとゴウのやり取りは見ていて面白いし、見たいか否かの話をするならば見ていたいのは事実だ。

 しかし、今はまだ訓練期間であり、対邪陰郷の当日までもう一ヶ月をを切った。よって、そこまで笑いあっていたりする時間もない。


「――あ、俺もう戻らないとなんで、リゥくんによろしくって言っといてください!」


「ああ、分かった。伝えとくぜ」


 こっちの世界に来てから一ヶ月以上が立ち、アキラも段々とこっちの世界に慣れてきた。

 四天王とはかなり仲良くなっているし、こっちの世界の知識もかなりついてきている。あとはトレーニングで体を鍛え、リゥたちの足を引っ張らないようにするだけ。その気持ちがアキラを強くしていく。


「お、リゥ。終わったか?」


「あぁ……なんとか、終われたな……」


 アキラを見送った数分後、リゥが息を切らしてゴウの近くに戻ってくる。体全身から湯気が立っていて、服は汗でびしょ濡れ。足も震えていて、歩くのがやっとのようだ。


「その感じだと、気力でなンとか持ってった感じだな」


「そう、だな……あと一時間も走ってたら、俺もこの部屋も、血だらけ……だっただろうな……」


 サラッと怖いことを言う辺り、リゥもゴウも似たもの同士だ。そんなリゥはゴウの隣に座り、息を整えながら汗を拭いて水を飲む。


「そう言えば、アキラはもう戻ったのか?」


「あー、そうだな。アッキーラもかなりやる気みたいだし、お前によろしくだってよ」


「そんくらい直接言ってくれればいいんになぁ……」


「お前が危なっかしいトレーニングしてっから気ぃ遣ったンだろ? 追い込むのはいけど、あンまし心配かけてやンなよ?」


 ほとんど何も言わずにトレーニングに戻ってしまったアキラに、リゥは眉を顰める。


「まぁたしかに心配はかけたくないけどよ、それでも今から追い詰めて行かねぇと間に合わねぇ」


「まぁ、お前としては何としても失敗できねぇモンだからな。あいや、俺らだって失敗してもいいって思ってるわけじゃねぇけどよ? お前には、別の目的があるンだしな」


「ああ。しかも二つ、な」


 ゴウたちとしては、邪陰郷を鎮圧できればそれで良く、それだけが目的だ。勿論、その中にはアキラを守るということも入っているが、それを別にしても、リゥはそれ以外に二つも目的がある。

 その二つの目的。一つは、邪陰郷を鎮圧できれば流れ的には可能なことだが、もう一つは違う。

 勿論、邪陰郷の殲滅が目的であり、それよりも優先することではない。しかし、リゥにとってはそっちの方が重要である。

 つまり、今回優先すべきは邪陰郷の殲滅で、重要事項はもう一つの目的だ。


「迷い森上陸の前にも、俺がアキラの元を離れないといけない時がある。だから、その時だけはアキラのこと頼む」


「おう、それはマジで任せとけ。その代わり、本番で失敗はすンなよ?」


「言われるまでもねぇよ」


 リゥの目的とその為の行動は、リゥたち四天王しか知らない。これを今アキラに言うべきでないというのが、彼ら四人の判断だったからだ。


「ンじゃ、そろそろやるか?」


「ああ、そうだな」


 そう言って、二人は訓練棟から一旦外に出る。


「――ッ!!」


「おお、今日もやっぱり熱狂だな」


「まぁ、コロシアムでは誰もが盛り上がるからな」


 そう。二人が来たのは、年中無休で盛り上がっているコロシアム。

 最近はリゥとゴウが足を運ぶことが多くなったため、それを期待して足を運ぶ人々もいるくらいだ。


『さぁ、今日もやって来ました! 特別乱入、ゲストはやはり、四天王のリゥ&ゴウだぁぁぁぁぁぁ!』


「――ッ!!」


 やはり、観客の熱狂は止まらない。リゥとゴウの乱入は、最近のコロシアムで、不定期のメインイベントとなっている。

 因みに、ここ最近の乱入の頻度により、アナウンサーの人には敬称付けをしなくていいという許可を出し、しっかりと呼び捨てにしてもらっている。


「さてと、今日もやるかぁー!」


「おっしゃ、来いやぁぁぁ!!」


 アナウンサーがコールをすれば、コロシアムの注目は二人に向かう。

 アナウンサーが合図を出せば、参加者の狙いは二人に向かう。


 そして、数分後には決着がつく。


 ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶


 コロシアムでのイベント戦が終わってから、リゥとアキラは待ち合わせ場所としていた個人棟に戻る。


「あー、いい汗いい汗!」


「二人とも、またコロシアムに行ってたのかい?」


「ああそうだぜ。あそこは退屈しねぇかンなー」


 汗を拭きながら戻る二人を出迎えたのは、同じく四天王のレイだ。

 そしてその奥では、トレーニングを終えたアキラが手を振っている。


「二人ともおかえりー!」


「おう、アキラもお疲れさん!」


「俺ね! 今日ね! バーベル三十キロ持ち上げられたの!」


「おー! 頑張ったじゃん! やったな!」


 レイと一緒にアキラの近くまで来たリゥに、アキラはぴょんぴょんと飛びながらはしゃぐ。

 アキラのやっているベンチプレスは、成人男性の平均がおよそ四十キロ。まだ十代半ばのアキラだが、三十キロのベンチプレスくらいなら出来ても当然と言えば当然だ。しかし、元々小柄なアキラにすれば大きな成果。そんなアキラの成長を自分のこと以上に喜び、リゥはアキラの頭を撫でる。


「まさか一ヶ月で持ち上げられるとはね……僕は技術面の指導はしていないと思うんだけど、ゲンはどんな教え方をしたんだい?」


 アキラのサポートを担当しているのはレイとゲン。レイは補助などを行っているだけで、技術面の指導はゲンに一任されている。

 つまり、アキラがどんな教えを受けているか、レイにも分からない。


「ん? ああ……それは秘事だ」


 そんなレイの問いに、ゲンは腕を組みながら片方だけ目を開き、それだけ言ってまた目を閉じる。そんなゲンの口角が、少し上がった気がする。


「そー! 秘密ー!」


「え、それって俺にも?」


「うん!」


「ガーン! ――ガーン! ――――ガーン!」


 リゥは、自分にでさえ秘密とされたショックを、アニメ風に自ら再現。ショックを受けた時に数回、別方向から連続で同じシーンが映るアレだ。それを自ら角度を変えて再現したが、それが分かるのはアキラだけ。他の三人は意味が分からず苦笑いだ。


「アキラとの秘密とかずるい! よし、俺らも秘密作りに行こ! 今行こ! 善は急げ! レッツゴー!」


「ちょ、ちょっと!? 秘密作りに行くって何するの!?」


「んー、そうだな……ちょっとディープな……」


「却下ですー! そういうのは善って言いませんー!」


 リゥの馬鹿げた提案を、アキラは秒速で却下。勿論、リゥも本気ではなかったが。


「とりあえずよ、明日もトレーニングあるンだし、今日のとこはとっとと休もうぜ?」


「そうだね。まだあと一ヶ月あるわけだし、しっかりと休養はとらないと」


「せやなー。飯食って風呂入って寝るかー」


「それじゃ、また明日だな」


「うん! みんなおやすみー!」


 そう言って、リゥたちはそれぞれ解散する。

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