番外編②:ハッピーハロウィン
本日はハロウィンだということで、ハロウィンをテーマにした番外編を作りました。
この話は後編ですので、前編を読んでいない方は、『番外編(上):龍翔VS晟』を先にお読みください。
10月31日 12時48分
龍翔と晟は家を出て、近くの大型ショッピングモール内にあるバイキングで、食事を取っていた。
「久々の食べ放題だよー!!」
「俺も外食があんまりないからなー。まぁ何より、晟が楽しそうで良かったよ!」
久々の食べ放題に、晟はかなりテンションが上がっている。やはり、中学生という年代は食べ放題が好きなのだろう。ピョンピョンと跳ねて喜んでいる晟を見て、龍翔もテンションが上がる。
「そう言えば、晟って食えるの?」
「んー、食べられなくはない! 人並みかなー! 龍翔くんは結構食べられるでしょ?」
「あー、その予想は間違いかな。俺って結構食べない方だからさ」
晟のイメージでは、龍翔はかなり食べるイメージがあった。とはいえ、晟のイメージだ。学校の給食のお代わりじゃんけんに毎回参加するとか、ライスはいつも大盛りだとか、そんな感じの予想だ。
しかし、その予想でさえ当たっているとは言えない。
「給食のお代わりとかほとんどしないし、友達とかと食べに行く時も大体一番にギブアップするから」
「え、そーなの!? めっちゃ意外!」
「まぁそれでも、デザートは別腹やからな! そっち系等は食うよ! ーー程々に、ね……」
あんな性格の割に、龍翔はかなりの甘党であり、デザートやスイーツは本当に別腹だ。
実際、これと同じような食べ放題に来た時、フルーツの食べ過ぎで数十分トイレの個室に篭っていたことがある。それも腹痛ではなく、吐き気が原因で。
晟という後輩がいるところで、そんな失態をすることなどあってはならない。とりあえず腹八分目……いや、腹七分目を意識して食べることにする。
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「はー、美味しかったー!」
「そこそこ……てかかなり食ったね」
「え、そう? 普通だよー!」
晟の普通を聞いて、龍翔は何を基準にしているのか分からなくなる。
ライスは大を三皿と焼肉の五~六人前を最初にぺろっとたいらげ、その後にラーメン一玉を食べ、もう一玉を龍翔と分ける。さらにデザートも龍翔と同じくらい食べたあと、唐揚げやポテト、サラダなんかを色々取っていたが、そこまで詳しくは覚えていない。
因みに龍翔は、ライスをノーマルで一人前、焼肉を三人前ほど食べ、ラーメンを分けてあとはスイーツ、他にも唐揚げなども食べたが、晟ほどではない。
とりあえず、晟の普通は当てにならないことが分かった。少なくとも、龍翔にとっては。
「その小さい体の何処に入るんだかな……」
「龍翔くんが食べなさすぎなんだよー」
「いや、それがあったとしても、晟の大食いだって少しはあるから!」
自分の少食は認めるが、晟が大食いだということは譲れない。龍翔の友人にも、これ程食べる人はいないのだから。
「でもまぁ、龍翔くんが奢ってくれるって言ったから、ちょっと張り切っちゃったかなー」
「それ、関係あるのか……?」
「あるのー!」
食べ放題なのだから、誰が払っても同じような気はするが……龍翔は敢えてそこには触れない。とりあえず、今は幸せそうに笑っている晟を堪能する。
「そう言えば、行きたいところってここ?」
「違う違う。まぁ、ここも晟と来てみたかったけど、違う場所」
「そっか! じゃー行こ!」
そう言って龍翔と晟は、次の目的地へと移動する。
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「え、ここが来たかった場所……?」
「そ! その名も――コ!ス!プ」「うん、帰ろ!」
「ちょちょちょっ! 待って!」
龍翔と晟の前にある店は、一応服屋。しかしそのメインは、コスプレ衣装だ。
訳の分からないところに連れてこられた晟は、何かを察し、即座に帰ろうとする。
しかし、ここまで来たのだ。さすがの龍翔も、ここで「一緒に帰りましょー」とはならない。
「なんでこんなとこ!」
「なんでって……この前友達と入った時に色々見つけて、晟に着せたいなーって思ったからさ。それに、今日はハロウィンだしな!」
「コスプレなんて無理だよ! 恥ずかしいもん! 俺は無理!」
いつも何かと押しに弱い晟も、流石にコスプレには抵抗があるようだ。
まぁ、慣れていない人からすれば、確かに最初は恥ずかしさもあるだろう。
「まぁちょっとさ! 入るだけ入ってみようよ! 中に入って、どうしても嫌なら帰ってもいいから。ちょっとだけ、見てみよ?」
「……ほんとにちょっとだけだからね?」
「ありがと!」
やはり、晟は押しに弱い。
晟を説得させる場合、無闇に強制力を働かせてはいけない。軽い条件を提示し、取り敢えずは少しでも安心させるようにする。晟と接する上で、龍翔がずっと心がけていることだ。
「ほら、コスプレって言っても、服とかだけじゃないんだよ。こういう小物みたいなのもあるし、これなんかかっこよくね?」
「ほんとだ。たしかに、かっこいいのとかもあるね」
そう言って二人が見ているのは、日本刀だ。勿論本物なわけがないが、意外とリアルで、男子としては心惹かれるものだ。
ここには、侍や忍者など、若干リアルに近いものが集まっている。
「ちょっと持ってみて?」
「え、こう?」
「おー、やっぱ意外とリアルやな! 結構かっこいいんじゃね?」
かなり高めの完成度で、格好を揃えなくてもそれだけでかっこよく見える。まぁ、晟の場合、小さい子のチャンバラごっこのようにも見えるが。
「よし、次行こ! これなんかどうよ!?」
「こんな感じでいいの?」
「おお! こっちもいけるな!」
次に持たせたのはピストルだ。大きめのライフルでも良かったが、晟のサイズ感からピストルの方が可愛げがある。
「ちょっとそのままバーンってやってみて!」
「バーン!」
「おぉ! 良きやな! 待ってこれ欲しいかもしれん……」
楽しくなってきたのか、晟も段々と乗り始め、最初に言っていた恥ずかしさを感じさせず結構ノリノリでやってくれる。
そしてその撃ち方がまた可愛い。片手でバーンと撃ち、ピストルなどに詳しい人ならば全然違うとダメ出しするような撃ち方だろうが、そんなリアルにやられても困る。撃った瞬間、ピストルを持っている右手と同時に、前に出していた右足も軽く上げる。うん、やはり良い。
「したら、この防弾チョッキなんかどう? 流石にこれは着れないけど、ちょっと買ってみない?」
「えー、それはいいよー」
「俺が買うから! ね、ちょっと買ってみてさ、気が向いたら着てくれる感じでいいから!」
龍翔が買う。龍翔のわがままなのだからそれは当たり前だが、龍翔としてはどうしても着せてみたい。
最初はアニメのようなものかとも思ったが、これくらいならと、晟もそこまで反対な様子ではない。
「まぁ、これくらいならいいよ。気が向いたらね!」
「マジ!? サンキュー!!」
そう言って龍翔はダッシュでレジに向かう。珍しく……でもないが、思い切りはしゃいでいる龍翔を見て、晟も意外と楽しめる。
不思議と、龍翔となら何処でも楽しめるような気がする。
そんなことを思っていると、会計に行った龍翔がダッシュで帰ってくる。
「そしたらこれで終わり?」
「なわけ! これは序の口! この日をずっと楽しみにしてきたんだから、まだまだ行くよ!」
そう言って晟の腕を引き、階段を登って二階に向かう。
因みにこの店は四階まであって――嫌な予感がする。
「ここって……」
「そ! イッツアニマル! ここは服ってより身につける小物が多いからそこまで目立たないし、買っていこ!」
「まぁ、買うくらいならいいんじゃない?」
ここまで来たら四階まで見てみたい気もする。そう考えた晟は、とりあえず見るだけは見るつもりだ。
「ほら、アニマルハット! あとはー、やっぱネコミミ? あ、イヌミミもありやな!」
「あそこに鏡あるし、自分でつけて見てくれば?」
「え? 何言ってんの? これも晟がつけるんだよ?」
当たり前のように首を傾げてくる龍翔。
余計なことを言ったと、晟は後悔する。黙って隅で小さくなっているか、もしくは先に上の階にでも行ってしまえばよかったと、過去の自分を攻める。
「んーじゃ、やっぱイヌセットから行こ!」
「あ、ちょっと! もう!」
「おー! やっぱイヌは安定やなー!」
イヌミミのカチューシャのようなものに尻尾、更には犬の前足のような手袋までもつけられる。
「ちょっとくるんって回ってみて?」
「え、でも……」
「大丈夫! 今日は他の人あんまりいないし!」
周囲を警戒する晟に、龍翔は他人事のように言いながら笑っている。
確かに、あまり人がいる気配はない。それに何より、提案者は龍翔だ。結局はやるまで帰らせてくれないだろう。よって、やるなら今しかない。そう思いながら、晟は勇気を出してくるりと回る。
絶対からかってくると、晟はそう思った。
しかし、聞きなれた龍翔の煽り口調は聞こえず、それどころか声すらしない。目を見開き、口も開けっ放しだ。
「――イヌの破壊力、ナメてたわ……」
「え、龍翔くん?」
「よし! 買う! イヌが良いならネコもいいはず! ここ二つはもう決まり!」
そう言ってイヌとネコのセットを持って、会計に向かう。
そして会計が終わると、二人は次の階へと足を進める。
「さぁ、今日のメイン! ザ・ハロウィン!」
「ハロウィンの衣装ってこんなにあるんだ……」
「よし、早速今日のメインを決めよう! って言いたいところだけど、実はもう決めてあるんよね」
そう言って、龍翔はニカッと笑う。
今日がハロウィンで、ここではさっきまでの倍は時間をかけて悩むと思っていたが、龍翔は意外とあっさりしている。
「ちょっと取ってくるから、ここで待ってて」
「あ、うん。分かったー」
そう言って、龍翔は店の奥へと向かい、晟は店の中をうろうろとしている。
ハロウィンと言ったら、やはりミイラや魔法使い、ゾンビや口裂け女、キョンシーなどがメジャーだ。もちろん、その辺のメジャーものは揃っているが、この店にはさらに、黒猫やコウモリなど、一歩踏み込んだ衣装も揃っている。
「おまたせー!」
「あ、もう終わったのー?」
「おう、バッチリ買って来たぜ!」
そう言って、少し大きめの袋をビシッと向け、親指を立てる。
「中、何が入ってるの?」
「それは内緒なー! 帰ってからのお楽しみ! まぁとりあえず、ラストの階行こーぜ?」
「えー……まぁいっかー。分かった、行こ!」
見ているだけでも楽しめるこの店に、晟の足取りもかなり軽くなっている。そんな晟を見て、一緒に来てよかったと、龍翔は心の底から安堵する。
「ここはー?」
「ここは結構小さい子向けのばっかりなんだよなー。怪獣とか、恐竜とか、そういうのばっかりだけど、意外とサイズも大きいのあるし、見ていく?」
「ちょっと見てみたいかも」
一階などとは違い、コスプレ衣装と言うより、ここには着ぐるみに近いものが多い。
口のところに首を通すための穴が空いていたり、穴が空いていない完全な着ぐるみもある。
そんな着ぐるみの種類はかなり多く、怪獣や恐竜、ドラゴンや動物、魚などもある。
「んー、恐竜とか買ってみる? 結構大きいけど……」
「んー、流石に持てなくない?」
「せやなー。ここは一旦置いといて、次また来よ? 今日は他にも寄りたい所あるし」
意外とあっさり諦める龍翔。ふざけるにしても、一応先は見れているらしい。
ここで着ぐるみを買おうものなら、最終的には着ぐるみを着る羽目になるだろう。それはそれで面白い思い出となるだろうが、他にも行きたい所があるため、それはまた次の機会に回す。
そうして二人は、一階までエレベーターで下りる。
「次はどこいくの?」
「今日、他の人も泊まれたりするならパーティー的なのしたいじゃん? だから、そういうので面白そうなの買おうかなってさ」
「確かにそれ楽しそう!」
今日泊まることが決まっているのは晟だけで、まだ他の人が来れるかどうかは分からない。
しかし、もし来れるのなら派手にやりたい。その気持ちは大いにあるため、晟も楽しみだ。
「でも、他のみんなが来れなかったらどうしようね?」
「その時は俺と晟の二人でしょ? 二人きりで一晩明かす……やっぱりただならぬ関係に……」
「だからならないからー!」
同じ件を二回も続ける二人。龍翔はただのからかいだが、晟の場合は慣れていないため、少し疲れてきているようだ。
「まぁとりあえず買っておいて、ダメならダメで今度に回せばいいっしょ!」
「そーだね。少し疲れてきたし、早く買っちゃお?」
「ん、分かった! 急ごっか!」
そう言って百均などに寄り、クラッカーや帽子などのパーティーグッズを買う。そして他にもお菓子などを買い、ノリでプリクラなども撮り、トータルで1時間ほどの買い物を満喫する。
二時手前に昼食を食べ終え、そこから三時半程までコスプレ店にいて、今はそろそろ五時を迎える。
家に戻り、大会に行った皆の帰りを待つには丁度いい時間だ。
「んじゃ、そろそろ帰ろっか!」
「そうだね。結構疲れたー」
「外までおんぶしてあげよーか?」
「それはいいよ! だって龍翔くん、荷物ほとんど持ってるじゃん!」
たしかに、龍翔の両手は買い物袋で塞がっているし、背負っているリュックの中にも小物が入っているし、明らかに晟を背負える状態ではない。
途中で晟が半分持とうかとも言ったが、どうしても持てなかった分で出来る限り小さい物を渡し、あとは龍翔が持っている。
龍翔曰く、後輩の前くらいではカッコつけさせてくれとのことらしい。
「まぁ確かに、これじゃおんぶも出来ないわな……」
「だから持とうか? って言ったのにー」
「まぁ、どうせ家も近いから。こんくらいはさせてって」
龍翔の中で何が働き掛けているのか分からないが、龍翔は荷物を持たせたくないらしい。それで倒れても困るが、龍翔もそこまで馬鹿ではないだろうと思い、龍翔が言うまでは、晟もあまり言わないようにしている。
そしてショッピングモールを出て、喋りながら家まで帰る。家までの距離は家から学校までと殆ど同じくらいの距離で、自転車を使う必要が無いと言い歩いて来た。
たしかに、もしも自転車で来ていたら、この荷物を運ぶのに少し苦戦していたかもしれない。
そう考えると、龍翔が自転車を拒んだのはこれを予想していたからなのか……だとしたら、いつも計算高いのも納得がいく。龍翔は、意外とこういう場面で頭がいいのかもしれない。
「つっっっっかれたーーーーーー!!」
「お疲れさま!」
「やっと家に着けたなぁ……」
結局、途中で少し休憩を挟み、帰るまでに30分かかってしまった。
場所にもよるが、皆の大会が終わってこっちに帰ってくる時間は平均で七時過ぎ。今は6時手前なので、約一時間くらは時間がある。
「晟、ちょっとだけ寝かせて。あーあと、泊まれる人か、夜遊べる人でも、俺ん家に来てーって連絡しといてー」
そう言って、荷物を置いた龍翔は思い切りベッドに倒れ込む。
「うん、分かった! おやすみー」
「あー、そこら辺の本読んだりテレビ見たり好きにしていいからー。とりあえず起こしてね?」
「分かってるよー!」
それだけ聞いて、龍翔は布団に潜り込む。
普段どんな寝方をしているのかと突っ込みたくなるが、疲れているようなので今はそっとしておく。
テレビは音が出るため、本棚から適当な漫画を選び、とりあえず読んでみる。
元々、龍翔はアニメや漫画、小説などが好きで、色んなものが置いてある。その中から、晟は自分に合いそうなものを探す。
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時刻が七時を回ったところで、晟のスマホに通知が来る。
「龍翔くん! 起きて! 皆そろそろ来るって!」
「ん、あぁ……う、え、あれ?」
「何やってるの?」
布団の中でもがいている龍翔。シーツなどがぐしゃぐしゃになるほどに暴れている。
「ん、あれ? 絡まって……出られなぃ……」
「もう! 仕方ないなぁ!」
「お、ありがとー」
布団に潜って寝たからか、確かに本を読んでいる間にガサガサと動いていたが、あれだけでシーツの紐や掛け布団に手足を絡めたらしい。
それだけ寝相が悪いのに、なぜ潜ったりしたのだろうかと、晟は呆れたように笑う。
「んで、みんな来るって……?」
「あ、うん。来れない人も結構いるらしいけど、泊まれる人もいるってー!」
「お、マジで!? 良かったなー!」
突然のことで、流石に来れないかとも思っていたが、意外と来れるらしい。
そうして心踊らせながら待つこと十数分、家のチャイムが鳴る。
「お、来たみたいだな! はいよー!」
そう言って二人は一階に下り、玄関のドアを開ける。
「トリックオアトリートー!!」
「おー、久しぶりやなー!」
「うん! 久しぶりー! 」
玄関を開けた瞬間、ハロウィンのお約束なのか、トリックオアトリートという声を揃え、三人の少年が立っている。
先頭に立っているのが、二年の倉本 優輝、現在の部長だ。そしてその後ろにいるのが二年、鈴木 蒼空。最後が一年の、河野 蓮だ。
急だからということで三人しか来れなかったようだが、それでも三人も来れたのだから十分だ。
「んじゃ、入って入ってー!」
「あ、お邪魔しまーす」
そう言って、とりあえずは龍翔の部屋に案内する。
「そういえば、五人入ってこんな感じって、龍翔くんの部屋って意外と広いね!」
「あぁ、元々二つあった部屋の壁を切り取ってひとつの部屋にしたからなー」
「そんなことしてんの!?」
昼前から来ている晟だったが、来た時には何も感じていなかった。
しかし、五人が部屋に入ってもまだ普通に余裕があることに気づき、ようやく広いことに気がつく。
晟が気づかなかったのは、ただ単に晟が鈍かったのではなく、壁一面に置かれている本棚やコレクションボードが原因だろう。実際、壁の半分以上は本棚などが置かれていて、他にはベッドや机がある。そのため、そこまで広いとは感じなかったのだ。
そしてその広さの理由。二つあった部屋の壁を切り取って一つにした。そんな荒業に、入って来たばかりの優輝が声を上げて驚く。
普通じゃ考えられない間取りの変え方に、目を丸くする。
「あ、たしかに天井に変な棒みたいなのある」
「あ、ほんとだー!」
床こそはカーペットで分からないが、天井部分は確かに仕切りの跡が残っている。
そして、そこから屋根が崩れないようにか、木の柱のようなものでしっかりと補強もされている。
「まーまー、この部屋の間取りなんてどーでもええんよ! 大会帰りなのに集まってくれてありがとな?」
「だって晟もいるって言うし、なんで大会来なかったのかも聞かないとだしね?」
「だからそれはごめんってー! 寝坊しちゃったのー!」
両手を合わせて上下に揺れながら謝る。
そしてそんな晟を見て、龍翔がニヤッと笑う。
「んでもって俺の家に来てから、さらに俺の膝で寝るってゆーねー?」
「え、そんなことしてたの?」
「あ、ちょっと! 違うよ! 俺が寝てたら龍翔くんが膝枕してきたんでしょ! ていうか余計なこと言わなくていいの!」
日中あれほどいじられたのに、ここでもさらにいじられる。そしてすこし言い方に悪意があり、優輝たちの晟を見る目が若干変わるのを感じるが、それでも直ぐに笑いに変わる。
いつまでたってもいじられキャラの晟は、人数が増えてもやはりそのポジションは変わらない。
そんな風に笑っていると、再びチャイムが鳴る。
「あれ? 優輝くん、まだ呼んでたの?」
「いや? 皆に聞いたけど、来れるのは俺たちだけだったぞ?」
「あぁ、俺が出るから、ちょっと待ってて。そこら辺のクッションとか出して適当に座ってていいから」
そう言って龍翔は部屋を出て、玄関の方へ向かう。
「おまたせー」
暫くしてから部屋のドアが開き、龍翔が再び戻ってくる。
「よっ、おまえら! 久しぶり!」
「あ、優也くんじゃん!」
龍翔と一緒に来たのは、龍翔と同い年である佐野優也だ。
「久しぶりだねー!」
「せやなー」
優也も龍翔と同じ時期に引退してるので、約三ヶ月ぶりだ。
もちろん学校内で見かけることはあるが、話したとしても挨拶くらいになるので、こういったところで再開するのはまた別に喜びがある。
「でもさ、ほんとに俺来ても良かったんか? 後輩を独り占めにできるチャンスだったんじゃね?」
「あ、確かに。それじゃ優也はこれにて帰宅ということで……」
「なんでだよっ!」
龍翔のボケに、笑いながら対応する優也。
もしも二人がそこまで仲良くなかった場合なら、今ので本当に帰っていた可能性もあるやり取り。二年以上同じ部活にいた二人だからこそ出来るやり取りだ。
「まぁみんな揃ったし、とりあえず飯頼む? ピザとか寿司とか、そんなとこでいいっしょ?」
「お、マジで? いいんか!?」
「元々親にはそういうの頼んで食えーって言われて金もある程度余分に渡されてるから」
そう言って親に渡されたファイルの中から、ピザや寿司などのチラシを取り出す。
そうしてピザや寿司をいくつか頼み、届くのを待つ。
「んじゃま、飯が来るまでに着替えたりなんだりするかー」
「え、着替えるってどゆこと?」
「ハロウィンって言ったら仮装パーティーっしょ! 晟は今日いっぱい買ったしな!」
ハロウィンに興味はなかったが、ネットをやっているとそういう情報は入ってくる。
「でも、俺たちそういうの無いよ? 大会帰りだし」
「あれ、龍翔おまえ、何も言ってなかったん?」
「まぁ、これもサプライズだろー」
龍翔の提案に、大会帰りの三人は乗ることが出来ない。そう思ったが、優也は何か知っているようで、二人だけが納得したように笑っている。
そうして二人はクローゼットの方まで歩き、片方ずつ扉に手をかける。
「んじゃ、オープン!」
その掛け声でクローゼットの扉が開く。
「ん? 別に普通じゃない?」
「そう! 一見普通のクローゼット! しかし! 手前にかかってるこの服をどかすとー?」
そう言ってハンガーにかかっている服を端にスライドさせる。
「え、なにこれ!?」
「これが龍翔のサプライズ。龍翔のマル秘コレクションやな!」
「普通に、凄い……」
クローゼットの奥、そこには、ハンガーにかかったたくさんの服と、マネキンのようなものに飾られた服。
そう、それは全てーー、
「コスプレ衣装と……」
「仮装のグッズ……?」
「ご名答〜! 流石同級生! 優輝も蒼空も息ピッタリやな!」
普通の服の奥に、様々なコスプレ衣装がズラリと並んでいる。
「ここにある中から、好きなの選んで着ていいよ! まぁ出来ればハロウィンぽいのにして欲しいけど」
「え、ほんとに!? やったー!!」
そう言って優輝たちは、クローゼットの奥に入って行く。
「んでもって、晟はこれ!」
「これって、龍翔くんが内緒って言ってたやつ……?」
「そう! ハロウィンの仮装でショタって言ったらこれっしょ!」
そう言って堂々と広げるのは、白や黒のスーツに羽のような黒いマントとカチューシャのようなもの。そして黒のズボンだ。
「もしかして、吸血鬼……?」
「正解! いやー、魔法使いと吸血鬼で迷ったんだけどね? やっぱり羽の方が可愛いかなーって思ってさ。注文しておいたんだよー。まさかハロウィンと重なるなんて思ってなかったけどなー」
「どうせいつものコスプレ店行ったんだろ? あそこだと龍翔は常連客みたいなもんだからな。ここにあるのも殆どがあそこで買ったものとか、特注したものだもんな」
どおりで、店員さんがやたらと笑顔でいるはずだ。気持ちのいい店員さんたちだなとも思ったが、龍翔を意識していたようだったため、晟は少し不思議に思っていたのだ。
そして龍翔が常連客なら、あの対応も納得がいく。
そして四階であっさり諦めたのも、常連であるのが理由だろう。龍翔としては、あの場所に行くことは日常茶飯事ということだ。
「だからほら! 着てみて? 他のみんなも着替えてるし、浮かないから!」
「まぁ、みんながやるなら着るよ……」
「よし、したら俺も着てこよーっと!」
そして龍翔も優也と一緒にクローゼットの方へ向かい、着替える。
「よし、みんな着替え終わったな!」
そう言ってクローゼットから出て、部屋の中へ戻る。
「晟は俺が選んだ吸血鬼!」
コウモリの羽のようなカチューシャを付け、ヒラヒラと長い黒のマントを付けている。中の白いシャツもピッシリと決まっていて、龍翔が手伝っただけあってかなりの完成度だ。
やはり、晟に吸血鬼を着させてのは間違いではない。確実に正解だ。そう言いきれるほど可愛い。
「俺は死神だわー。しかも、カマまで揃ってんのはいいな!」
そう言ってカマを肩に掛けているのは、この中で龍翔と同じくらいに着こなしている優也だ。コスプレ衣装のことを知ってたことから、何回かやっているのだろうか。かなりの完成度を誇る。
「俺はゾンビー! ちょっと服がボロボロで肌が見えるのがあれだけど、面白いしこれでいいやー!」
そう言ってゾンビの服を着ているのは優輝だ。流石にこの短時間でメイクまでは出来ないので、専用のシールを貼っている。汚れている服には血や泥などが描かれていて、かなりリアルだ。
「俺は悪魔! なんかそこまで怖いって感じはしないけどー、リアルはちょっと怖いからこのくらいでいいかなー」
蒼空はツノが生えたカチューシャのようなものをして、赤のラインが入った黒のマントを羽織り、オマケに槍のようなものを持っている。
ゾンビほどのリアルさはないが、こっちはこっちで意外と可愛い。
「俺はなんか分からないけどー……天使かな?」
自分でも何を着ているのか把握していないのは、黒の羽を付けて袖をひらひらとさせている蓮だ。天使の輪っかは付けていないが、多分つけ忘れたのだろう。
まぁ付けていても邪魔になるし、今回はこれでいいのだ。
「んで、俺は魔界にいそうな執事みたいなもんだな。やっぱかっこいいわ」
片目を隠す仮面を付け、かっこいい黒の執事服を着ている。サイズは龍翔にピッタリで、きっと特注品だろう。ネクタイもきっちり結ばれている上に、白の手袋までして完璧だ。
そうして準備が整ったところで、頼んでいたものが届く。コスプレのままで取りに行ったので、宅配の人には少し驚かれたが、それも含めて最高の思い出だ。
夕飯を食べ終えてから衣装を片付けつつ、順番に風呂に入る。
「流石にみんな一斉には入れねぇからなー」
「入れたとしたらどんだけの豪邸なんだよって話だしな」
そう笑いながら、衣装やゴミなどを片している。
ちなみに、着替えを持って来た優也以外は全員龍翔の服を着ている。コスプレにはまった優輝と蒼空はコスプレっぽい服を着て、かなり満足だ。
そうして夜遅くまでお菓子を食べながらゲームをしたりして、あっという間に日付が変わる。
「お、もう11月になったぜ?」
「ほんとだ、ハロウィンも終わりだなー」
「今までのハロウィンの中で一番楽しかったかも!」
ハロウィンが終わり、もうそろそろ寝る準備に入ろうと、布団を敷きながらそんな話をする。
今日、ほんの十五時間程前までは、龍翔もこんなハロウィンになるなんて思いもしていなかった。
「それもこれも、晟が寝坊してくれたおかげやな!」
「ほらね。たまには寝坊するのもいいことでしょ?」
「まぁ、大会はしっかり来て欲しいけどなー」
龍翔に煽てられ、調子乗った晟はまたしても大会のことを言われ、傷口に塩を塗られる。
寝坊してこのハロウィンができたのはいい事だが、やはり大会を休んでしまうのは良くない。
でも、ただ単に休んでしまっただけの日にならず、それだけは本当に良かったと思う。
「また来年も、こういうの出来たらいいよなー」
「その前にクリスマスとかあるんじゃね?」
「あ、クリスマス! クリスマスも、遊べたら遊ぼうね! 今度はみんなも誘って!」
「そうだね! 今度遊ぶ時はもっといっぱい呼ぼっか!」
今回のハロウィンでは、このメンバーの絆と親睦はかなり深まることが出来た。この調子でクリスマスも、同じようにたくさんの人と一緒に騒げたらいいと、ここにいる六人全員がそう思った。
「それじゃ、おやすみー」
「うん、おやすみー」
部屋の明かりを消し、みんなが寝静まる。
はしゃいで疲れたのか、六人が熟睡するまでにはそれほど時間がかからなかった。
11月1日 0時41分
龍翔と晟、そして優也、優輝、蒼空、蓮の最高の思い出が、ここに作られる。
Happy Halloween
以上、ハロウィン企画でした。
ハロウィンとしての特別なネタは少なかったですが、今の生活とは違った、龍翔と晟の、幸せな思い出ですので、少しでもお楽しみいただけたのなら幸いです。




