表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
29/146

番外編①:第一回、龍翔VS晟

本日はハロウィンだということで、特別企画です。

これはハロウィンの日に起きた、龍翔と晟の思い出話です。龍翔が高校に上がる前、中学時代の龍翔と晟の思い出。

もし宜しければ、読んでみてください。

 10月31日、人はその日を、ハロウィンとして楽しむ。


 ハロウィンといえば、『トリックオアトリート』と言いながらお菓子を貰うイベント。実際のところはコスプレ大会という感じもするが、その楽しみ方は様々だ。

 とりあえず、簡単に言えば秋のお祭りだろう。お菓子を食べたり、コスプレしたり、何にせよ友人や恋人との思い出を作る大きなイベントの一つである。


 しかし、そのようなイベントに疎い人間がここに。


 その人物の名は、天野龍翔。行事に疎い中学三年生だ。

 ハロウィンやクリスマスなどの特別な行事を、特別に友人と一緒に楽しもうとはせず、予定がなければ今までも家でのんびりと過していた。

 今年もまたハロウィンなど忘れて、ベッドの上で本を読んでいる。

 因みに、昨日から親はどちらとも泊まりがけで三日間の仕事。兄弟もいないため、のんびりと過ごしていられる。

 そして、ハロウィンとその前後。龍翔は家で読書や筋トレなど、趣味に没頭する……予定だった。


 ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼


『トリックオアトリート!!』


「――ん? あぁ、今日ってハロウィンか……」


 外から聞こえた子どもの無邪気な声に、本の中に入り込んでいた龍翔は意識を現実に戻す。

 それからカレンダーを確認し、今日がハロウィンだということに漸く気づく。


『トリックオアトリート!!』


「まぁ、今までも意識してなかったし、どうでもいいかー」


 今年もやはり、ハロウィンには参加しようとはしない。そしてとりあえずテレビを付け、ビデオの録画リストを漁る。


『トリックオアトリート!!』


「んー……そういえば昨日の夜にほとんど見ちゃったっけな……なんも見るものがねぇ……ちょっと早いけど筋トレを……」


『トリックオアトリート!!』


「だぁぁぁぁぁぁっ! うるせぇ! なんで今年はこんなにうるせぇんだ!?」


 例年は殆ど気にならなかったが、今年はやけにうるさい。

 流石に落ち着いてもいられず、龍翔は少し外の様子を確認しようと上着だけを羽織り頭を掻き回しながら玄関に向かう。


「……ったく、なんで今年になって急にうるさくなるんだ……ってうおぁ!?」


「トリックオアトリート!! 遅いよ!」


「な、ななななんでここに!?」


 玄関を開けた瞬間、目の前には一人の少年が立っている。それに驚いた龍翔は微妙なステップで後退り。

 目が合うなり、少年にトリックオアトリートと叫ばれ、さらには遅いという罵倒付き。

 それよりも一番驚いたのが、その少年に見覚えがあること。そしてそれが、近所の子などではなく、はっきりとした知り合いであること。


「あ、晟……って! ちょっと待て! なんでいるだよ! 来るなら連絡! 俺まだ部屋着! 顔洗ってない! 飯すら食ってねぇ! だからちょっと待ってて……って言いたいけど、外で待たせるのもあれだからとりあえず入っちゃって!」


「え、あ、いいの?」


「外で待たせてもいられないって。予定があるなら無理にとは言わないけど、ないならちょっとゆっくりして行きなよ」


 自分から家凸して来たわけだが、いざ入れと言われると少し躊躇いを見せる晟。

 それもそのはず。晟が龍翔の家に来たのも半分が思いつきで、半分が暇潰しなのだから。とはいえ、晟にはこのあとの予定も断る理由もない。若干躊躇いはあるが、とりあえずは靴を脱ぐ。


「そこの階段上がって、廊下の一番奥が俺の部屋。ちょっと支度するから、楽にしてて」


「あ、うん。分かった」


 そう言って龍翔はリビングへ向かい、晟は階段を登って龍翔の部屋を探す。


「――ここが龍翔くんの部屋……かな? あ、間違いない。龍翔くんの部屋だ、ここ」


 ドアを開け、目の前に広がる広い部屋をキョロキョロと見渡す晟。入ったことは勿論、写真などで見たこともない龍翔の部屋。しかし、龍翔という存在を知っていれば大体わかる。

 卓球のラケットに、大会での賞状、部活のメンバーとの写真や、部活の全体写真などが綺麗に飾られている。


「――あれ、この写真……」


 晟は飾られている写真に首を傾げ、一先ずその写真を手に取る。他にも教科書やノート、バックなどの学校で使うものや、小説や漫画が並べられた本棚。ダンベルや腹筋ローラーが置かれた棚がある。

 そして部屋の一番奥。晟の目に止まったのはベッドだ。


「――温かいし、さっきまで寝てたのかな……もしかして起こしちゃった……?」


 ついさっきまで寝ていた痕跡のあるベッドに、晟は起こしてしまったのではないかと苦い顔をする。


 ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼


 晟と分かれた直後、リビングに向かった龍翔は急いで朝食を取り、洗面所の方に来ていた。


「晟のやつ……来るなら来るって言ってくれれば良かったのに……こんなだらしない格好見せちゃったし、はぁ……」


 ため息をこぼしながら、リゥは洗面台で洗顔と歯磨きを終え、髪型を整える。とはいえ、そこまで本格的な整え方は知らない。とりあえず髪の毛をとかし、前髪を若干いじるだけだ。


「寝癖がついてなかったのが、不幸中の幸い……って、服あっちだし! どうすっかな……」


 髪の毛をとかしながら、服が自分の部屋にあったことを思い出す。


「まぁさっきもこの格好だったし、今更って言えば今更か」


 そう言って開き直り、龍翔は自室に戻る。


「晟ごめん、服がこっちにあるから……って、晟?」


 自室に入り、服の事情を説明しようと思った龍翔。そんな龍翔の視線は、部屋の奥に向かっている。

 そしてそこには、ベッドの上ですやすやと寝ている晟の姿があった。


「この短時間で……しかも初めて入る部屋の……しかもベッド。よく寝れるな……警戒心無さすぎ……」


 睡眠までの時間、数分。部屋に入った回数、ゼロ。いる場所、ベッド。していること、睡眠。

 そんな晟の行動は、驚きを通り越して感心に至る。


「ここで寝たのが悪いんよ?」


 囁くようにそう言って、寝ている晟に堂々と近付く龍翔。


「これでも起きないって、これうたた寝じゃないな。結構ガッツリ寝てるわ……」


 部屋に入ってくる時も普通のボリュームで話してしまった上に、さっきも声は抑えたが普通にくすくすと笑ってしまった。そして、今はすぐ近くに……というよりも、同じベッドにいる。


「……仕方ねぇな。ここで一緒に寝るのもいいけど、今日は初めてだし別の攻め方でいくか」


 そう言って揺らして起こさないよう、ゆっくりとベッドの上に腰を下ろす。


「起こさないように……よい……しょと。ぃよし、成功」


 そう言って龍翔は満足げに微笑む龍翔の膝には、晟の顔が乗っている。

 そして龍翔はそのまま本を手に取り、読者をしながらの膝枕は数十分続いた。


「ふ、あぁ……って、あれ!? 寝てた!?」


「お、やっと起きたか?」


「あ、うん。ごめん……って何これ!?」


 起きてから早々、数秒の間に二回も驚く晟。

 一つ目は言うまでもなく、龍翔の部屋で寝てしまっていたこと。そしてもう一つは――、


「何って、膝枕だけど?」


「膝枕だけど? じゃないよ! なんでそんなことしてるの!」


 いつの間にか寝ていて、さらには膝枕までされていたことに気づいた晟。そして飛び跳ねるような勢いで体を起こし、一瞬で龍翔から遠ざかる。


「んー……そこに晟があったから?」


「龍翔くんは登山家じゃないでしょ!」


「登山家じゃなくても膝枕はするよ?」


「そっちじゃない!」


「知ってるよー、もー。ちょっとしたジョークでしょーに……もしかして照れてる?」


 ボケにボケを重ねる龍翔は、晟のことをからかってばかりだ。

 そんな龍翔のからかいが、晟にはかなり効いているらしい。晟の顔は真っ赤染まり、クスクスと笑う龍翔から目を逸らす。


「そんなことないし!」


「そーお? 別にそんなに隠さなくてもいいのにー」


「隠してませんー!」


 目を合わせようとする龍翔から、再び顔を逸らす晟。これほど分かりやすい対応があるのかと、龍翔は再び笑ってしまう。


「まぁいいよ。それより、なんで来たの? ってか一人?」


「あー、それがさー。本当は今日大会だったんだけど、寝坊しちゃってさ?」


「いや、寝坊するくらいに寝てたのにそれでもまだ寝るとか……可愛すぎかて」


 舌を出して笑う晟に、たかが寝坊なのに言う人と言い方によってはこうも可愛くなるものなのかと、龍翔は晟に感心を抱く。


「だって眠かったんだもん!」


「分かった分かった、可愛いから可愛いから」


「そんな話してないでしょ!」


 さっきまであれほどからかっていて、まだからかい足りないのかと晟は強めにつっこむ。

 龍翔としては、別にからかい足りないのではない。ただただ何回もからかいたくなるほど、それだけ今の晟が可愛いのだ。

 後輩というのは何故こうもからかいたくなるのかと、龍翔がそんなことを考える日も少なくはない。


「まぁしたら、今日は暇なんやろ?」


「そうなんだよねー。いつもはみんなと遊ぶけど、大会行っちゃってるしー」


「したら、このまま遊ぼ? んでもって大会終わってからみんなも呼べば。ハロウィンだし」


 ハロウィンに興味のなかった龍翔だが、それを口実に後輩と遊べるならそうしない手はない。時と場合に応じて臨機応変に。ご都合主義である龍翔には、なんとも簡単なことだ。


「いいの? 龍翔くんの親とかは?」


「俺の親は今日と明日いないし……あ! なんなら泊まってく!?」


「えー、それは悪いよー」


「んー……晟が良いなら俺ん家は別に良かったのになー」


 流石にそこまで都合よくはいかず、龍翔はちょっと寂しそうに小さくなる。


「――お母さんに聞いてみていい?」


「え、なにを?」


「だから、その、龍翔くんがさっき言ったこと……」


 恥ずかしそうに頬を赤らめるその表情。言いにくそうに口篭るその態度。もしかしてと思い、龍翔のテンションは一気に上がる。

 が、ここで上げた場合、違った時が最悪だ。よって龍翔は期待を胸の奥に抑え、ダメ元で聞こうとする。


「泊まりのこと……じゃないよな、流石に」


「そのこと……」


「え、まじで!?」


 ご都合主義である自分の耳の錯覚かとも疑ったが、どうやら聞き間違いではないらしい。

 そんな夢物語のような現実に、龍翔はここ最近で一番テンションが上がる。


「龍翔くんがいいなら、お母さんに聞いてみる」


「全然いいよ!?」


「分かった。ちょっと待ってて?」


「おう!」


 思いがけない晟の答えに、龍翔のテンションはバカ上がりだ。しかし、晟は恥ずかしさが隠しきれない様子。

 とりあえず部屋の外に出て、親に電話をするらしい。


 暫くしてドアが開き、晟が入ってくる。


「――龍翔くんがいいなら、いいって」


「まじでっ!?」


「うん」


 ゆっくりと目を広げ、驚きと嬉しさを隠せない。

 そして、間違いなく過去一番にテンションが上がる。


「っっっっしゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


「え、そんなに!?」


 拳を掲げて、猛烈なガッツポーズをする龍翔。そんな龍翔の喜びように、晟は少し戸惑う。


「そんなにだろっ! 一晩、一つ屋根の下だよ!? これはただならぬ関係に……」


「ならないから!」


「えー!」


 テンションが上がりすぎたのか、わけの分からない妄想を広げる龍翔。そこに晟が即座にツッコミを入れると、龍翔は本気で残念そうな顔をする。

 そんな龍翔に晟も「えーじゃないでしょ!」とツッコミを入れるが、龍翔は子どもっぽく頬を膨らませる。


「まぁとにかく、まだ全然時間あるし、買い物でも行く? ハロウィンだし!」


「さっきからハロウィンに拘ってるけど、そんなにハロウィン好きなの?」


「いや、晟が一緒にいるハロウィンが良き!」


 元々、龍翔はハロウィンなどに興味はなかったのだ。

 しかし、そのハロウィンに晟がいるとなれば別である。晟は後輩の中で最も可愛がっていた後輩であり、龍翔にとってはかなり好ましく思える存在だ。


「なんか、龍翔くんってたまに……いや結構? 言うこと分からなくなる時あるよね」


「まぁ、テンション上がってる時は仕方ないんだよー」


「そうなの?」


「そうなの」


 テンションが上がってる時の龍翔は、言うこと成すこと大体が意味不明になる。言ってしまえば、酒を呑んで酔っ払ってる時に近いのかもしれない。

 シラフの状態でこの様子の龍翔は、酒に酔った時どうなるのか。もしもこのテンションがさらに爆上げされた場合、どうなるのか。もしくは下がる場合もあり、その時はどうなるのか。高テンションから人並みに下がり、普通の状態になる可能性もあれば、上がり幅の分だけ、下がり幅も多い可能性もある。

 そんな想像を膨らませ、龍翔自身も二十歳の時を待ち遠しく思っている。


「そうだよ。だから、買い物行こ? 前にも言ってたけど、晟と行きたい場所があるんやってさ!」


「あ、うん。――変な場所じゃないよね?」


「変な場所って……晟は俺をなんだと思ってんの!?」


 晟に妙な心配をかけられる龍翔は、予想外の心配に目を丸くする。

 確かに変な言動があるのは認めるが、晟の目にどう映っているのかが心配になるところだ。変な言動があるのは、認めるが。


「まぁ! 変な場所じゃないならいいよ!」


「なんか納得いかねぇ!」


「もー! とりあえずいいの! 行くなら行こ!」


 納得のいかない疑いをかけられる龍翔に、反論の余地なし。そんな感じで、ドアの方へと背中を押される。

 変なところと言ったが、具体的なことは言えないらしい。そんな思春期ど真ん中の所も可愛く思えるが、そんなことを言って反抗期が来ても困る。なので、龍翔も今回は、敢えて触れないことにする。


「分かった、わーったから! ちょっと着替えくらいさせて?」


「え、まだ着替えてなかったの?」


「どっかの誰かが連絡無しに急に来て、そのまま人のベッドで寝ちゃうからですよーだ!」


 早く買い物に行きたいのは龍翔も同じだが、まだ龍翔は着替えていない。

 元々部屋着のまま過ごす予定だったし、着替えようとした時には晟が寝ていた。よって、龍翔には着替えるタイミングがなかったのだ。

 くるりと振り向いた龍翔に、そんなことをからかい混じりで言われた晟は、顎に人差し指を当てて目を斜め上に向ける。


「んー、誰のことー? ちょっと分かんなーい」


「急に可愛くなるのって何、狙ってるの? 誘惑してるの? 襲っていい?」


「別に可愛くなんてしてないし! てか襲うって何だし!」


 龍翔の言葉に、先にからかったはずの晟がからかわれている。龍翔を相手にした場合、やはり晟はからかわれる運命にあるのだろう。

 後輩を……というか晟をいじることでなら、龍翔の右に出るものはいない。


「んー……襲うってのはー、こゆことっ!」


「あ、わわ、ちょっ!?」


 龍翔の自己都合理論、『否定をしなければあとは肯定』が適用される。つまり襲うということを拒否しなかった晟は、襲ってもいいという許可を出したことになったのだ。

 そんな自己都合理論の餌食になった晟は、太ももあたりからヒョイっと持ち上げられる。突然のことに焦った表情で手足をばたつかせるが、あまり力が入らない。

 そのままベッドの方まで運ばれ、仰向けで下ろされる。


「否定の他は肯定。拒否の他は許可。流石に今回はここまでだけど、これからは気ぃつけるこったなー」


 晟をベッドに下ろし床――ベッドドンした龍翔は、目を丸くする晟の額を指でツンっとつついてケラケラと笑いながらクローゼットの方へ向かう。

 何事も無かったかのように服を選んでる龍翔を、晟は「むぅ」と頬を膨らませながら見ている。


「んー、どの服がいっかなー……」


「――ねぇ、龍翔くん。これなに?」


「ん? ……何って、写真っしょ?」


 服を選んでいる龍翔に、ベッドの上から晟が話しかける。その声に振り向くと、晟が一枚の写真を持っている。

 晟が手にしている写真は、晟が部屋に入った時から気になっていた一枚だ。


「そうじゃなくて、これに写ってる人!」


「写ってる人って、晟じゃね?」


「そう! 俺! なんでこんな写真持ってるの?」


 今日この家に来てから、晟はいじられっぱなしであり、からかわれ続けている。そのことに納得の行かない晟は、この写真に賭けたのだ。

 自分の知らない写真。それに晟が写っていて、さらに写っているのは晟一人。晟の言いたいことはただ一つ、端的に言えば『盗撮』だ。

 勿論これだけで訴えようだとかは思っていないが、とりあえずいじり返したかった。そう、幼さ故の悪足掻きである。


「そりゃまぁ、俺が撮って現像したからやな。別に、誰かに貰ったとかじゃねーよ?」


「龍翔くんが撮ったんだ? 俺、撮っていいよなんて許可したかなー?」


 ここが大一番だと、声を張って、出来る限りの煽り口調で、龍翔をじっと見つめる。見つめるその顔は、笑いを堪え切れずに微笑してしまっている顔だ。


「許可って、なんの?」


「え、だから! 俺を撮るって許可だよ!」


 巫山戯ているのか、それとも素なのか、予想外の龍翔の返答に、からかうはずだった晟の顔が真顔になり、焦りからか、言葉も若干詰まる。


「あぁ、そのことか……うん、そーだな」


「そう! 俺、撮っていいよなんて言ってないよね?」


「そうだな……言われてない」


 話が通り、晟は先程までのペースを取り戻す。

 龍翔の声のトーンが次第に落ちていくのを感じる。確かな実感が湧き、晟の顔には、安堵と喜びの笑みが浮かぶ。


「でしょ! そういうの、盗撮って言うんだけどなー?」


「そうだな、うん。でも――」


「でも?」


 龍翔は、どんな言い訳をするのか。

 今回のことは確実に勝ったと、晟はそう確信している。そのため、どんな言い訳が来るのか、今はそれがとても楽しみである。


「それは、この写真のメインが晟だった場合でしょ?」


「――え?」


「確かに、この写真のメインが晟だったら盗撮だ。晟の許可を撮ってないからな。それでも、この写真のメインが、晟じゃなくて、後ろの景色だった場合。晟はただ単に写りこんだだけ。そうだとしたら、許可は要る?」


 ――屁理屈だ。

 これは確実に、晟を主として撮った写真である。ピントが晟に合っていて、ぼやけている背景がメインなはずはない。でも、ここで言い返すだけの証拠と、言い返すだけの言葉がない。写真についての主張は、撮った本人にしか出来ないのだ。


「う、あ……」


「でも、そんな屁理屈言っても仕方ないしな。これは明らかに俺が悪かった。ごめんな、晟」


「あ、え?」


 屁理屈で通され、ここでもまた負けを喫するかと思った晟。しかし、そんな晟に龍翔が投げかけた言葉は煽りなどではなく、謝罪だ。

 思いがけない言葉が二回も続き、晟は言葉を失う。


「ごめんな、晟。なんとなく可愛いかったから撮りたくなってさ。嫌なら大人しく破り捨て……るのは勿体ないから、懐にでもしまうけど」


「しまわなくていいよそんなの! ――それに、そんな素直に謝られたら何も出来なくなるじゃん! もう!」


「それが晟のいい所で、可愛いところだよ」


 素直に謝られた事でさえも晟にとっては納得がいかない。これで攻めて謝罪を聞きたかった訳ではなかったのだから。

 晟がこれをやった理由は、龍翔をいじりたかった。そして、戸惑う姿を見てみたかった。

 なのに、龍翔という人物は全く……


「全然、思い通りにいかないんだもん……」


「それなら、晟にはからかいが向いてないんだなー。大人しく、これからも俺に可愛がられろってことだよー」


「ううう……もー!」


 納得のいかない晟を、龍翔は乱暴に、でも優しく、頭をくしゃくしゃと掻き回し、撫でる。


「まぁとりあえず、そろそろ行こっか。もう昼だしさ」


「――分かった。でもまた今度、絶対に仕返しするからっ!」


「いつでも待ってるよー」


 今回の敗者である晟は、リベンジを誓い、勝者である龍翔は、そのリベンジを余裕の表情で受け入れる。


 10月31日 12時32分

 ☆ 龍翔(冗談+素直)晟 ★


 龍翔と晟の距離が、かなり縮まった。

こちらは前編です。後編も是非呼んでください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ