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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
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19話:黒鴉

「ふっ、あぁ……眠ぃ……」


 大きく腕を伸ばし、右手だけを口に当てながら欠伸をしているのは、この世界に来てからアキラの寝顔を堪能するために毎朝頑張って早起きをしているリゥだ。

 毎朝予定の三十分前に起き、歯磨きや洗顔、着替えを終わらせてから寝顔を堪能する。これがリゥの最近の日課である。


「はぁ、やっぱ可愛いよなぁ……」


 そう言って、アキラの頬をツンツンとつつくリゥ。片手で口を覆い、顔を赤くしながら吐息とともに顔をとろけさせて惚気けているそれは、恋人に対するものと酷似している。


「んっ……って、うわぁ!?」


「おはよ」


 リゥが寝顔を堪能していると、アキラが目を覚ます。起きた瞬間、真横にあるリゥの顔に気付いたアキラは、眠気が一気に吹っ飛ぶほど驚いた。

 そんなアキラを見て、リゥはにっこりと笑いながら朝の挨拶をする。


「お、おはよう……って、何してるの?」


「ん? 何って、アキラの寝顔を堪能してただけだよ?」


「だけだよ? じゃないでしょ!」


 そう。実は、アキラがリゥのこれに気づくのは今日が初めてだ。今までは、寝顔を堪能してから朝食を作ったり、ゴウに呼ばれて庭園に行ったりしていたため、こっちの世界に来てから起きるまでそばにいた事がなかった。昨日だけは、ファクトリーの地図を探している間にアキラが目を覚ましてしまったのだが。

 こっちの世界に来てから数日間。ほぼ毎日寝顔を眺められていたのだと理解したアキラは顔を赤らめる。


「あ、ちょっ、痛て、痛てて、ごめんって! わっ、ちょっ!」


 頬を赤らめながら、アキラはベッドの上に座ったままリゥをバシバシ叩く。まぁ、痛くはないのだが……と思いつつも、リゥは少しずつ後ろに下がった。

 が、しかし。下がったリゥを見て、手元にあった枕を続け様に二つ投げるアキラ。そんなアキラの枕を受けるか避けるか考えた末、リゥはそれを華麗に躱した。


「わっ!?」

「えっ!?」


「「あ……」」


 リゥが枕を避けた瞬間、後ろで顔面を押しつぶされたように潰れた声が上がる。

 その声の方を見ると、そこには声の主であろう、枕を顔面キャッチしている二人の姿があった。


「えっと、おはようございます……」

「朝から、仲がよろしいですね……」


「あー、その、すまん!」

「ごっ、ごめんなさい!」


 リゥとアキラの視線の先、顔面で受け止めた枕を腕で抱えて立っているのはクロとシロの二人だ。


「いえ、私たちは大丈夫ですので」

「仲がよろしいようで何よりです」


 そう言って二人は優しく微笑む。

 動きや仕草は洗練されていて、優しさと包容力のある大人びた振る舞い。天使の称号に相応しい対応力だ。


「それより、お話があるのですが……よろしいでしょうか?」


「あ、話? 分かった、入ってくれ」


 話があると言った二人を、リゥは直ぐに部屋へと迎え入れる。


「え、ちょっと待って! まだ俺寝起きなんだけど!」


「大丈夫だよー! アキラは寝起きでも可愛いから……さっきのお詫びにハグしてあげよーか?」


「要りませんー」


「ふぎ……」


 二人を躊躇なく部屋に入れたリゥに、寝起きのアキラはシーツを掴んで待ったをかける。確かに、出会って数日ではあまり寝起きは見られたくないものだ。

 そんなアキラを見て能天気なリゥはどさくさに紛れてハグの要求するも、アキラは近づいてきたリゥの顔を手で抑えて拒否。

 拒否されたリゥは、「もー」と不貞腐れながらシロたちの方へ戻る。


「アキラも必要な話か?」


「いえ、話と言うより報告のようなものなので」


「そうか、それならちゃちゃっと頼むわ」


「はい。実はですね、二ヶ月間で防衛軍のための準備をしたいということなので、そのお手伝いをしに一旦ファクトリーを離れます」


 ファクトリーを離れるという報告、確かにこの話だけなら玄関ですらよかった気もするが、玄関で枕を叩きつけられた二人も謎に玄関を警戒している。


「そうか、分かった。ほかの三人も知ってるんだろ?」


「はい、先程報告して来ましたので」


「それなら大丈夫だ。頑張ってきてくれ」


「はい。それでは、失礼します。お二人も、頑張ってくださいね」


「おう!」

「はい!」


 そう言って二人は丁寧にお辞儀をしてから部屋を出ていく。その二人を見送ってから、リゥはアキラの方へ振り返る。


 ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶ ▶


 シロたちが手伝いのためにファクトリーを出てから約一時間。ほかの三人と合流してから食堂で朝食を取り、今日から本格的なトレーニングを始めるため、五人は訓練棟に向かっていた。


「天使ってあンな感じの仕事多いよなー」


「まぁ、僕たちがあまりやらない仕事だからね」


「そう言えば、四天王とか天使って、普段は何をやってるの?」


「そうだね……天使の二人はその時その時に応じて結構違ってくるね。今回みたいな手伝いもあれば、災害地とかに行くこともあるし、宮廷での活動もあれば、訪問や調査なども任されるよ。僕たちは、前にも言ったように荒れた土地とかでの活動がメインだね。大仕事が近づいてきた今みたいな時期はトレーニングに励むことが多いけど」


 四天王もそうだが、はっきりと仕事内容が決まっていない天使の苦労も相当なものだろう。


「まぁ俺たちの場合、二ヶ月間はトレーニング期間ってされてるから、あんまり心配はいらねーな」


「っと、そろそろ訓練棟に着くぜ? って……」


「リゥ! 下がれ!」


「――ッ! アキラッ!」


 訓練棟を目前にした瞬間、普段は口数が少なく静かなゲンが、珍しく声を荒らげた。

 そのゲンの言葉に、アキラを抱えて後ろへ飛び退くリゥ。そして飛び退いた先で再び固まった五人の視線の先。そこには、黒コートの集団が立ちはだかっていた。


「――敵か?」


「まぁ、友好的な相手ではないね」


 ゴウたちより一歩後ろにいるリゥの質問に対し、レイが遠回しに答える。そんなレイの発言に黒コートの集団を見る目はいっきに細くなり、五人の間にかなりの警戒心と緊張感が走った。


「――見つけたぞ。あの奥のガキで、間違いねぇんだな?」


「は、はい。多分、そうだと……」


 集団の中でも一際目立つ存在、高身長でダミ声の男が、となりに確認をとる。確認を取られた黒コートのしどろもどろな反応に、ダミ声の男は分かりやすく舌打ちをする。


「お前らは、なンだ?」


「――邪陰郷『黒鴉(ブラッククロウ)』指揮官、ベイ」


「――ッ、邪陰郷!」


 『邪陰郷』を名乗った黒コートの集団。『黒鴉』というのが邪陰郷の中での部署的なものの名前なのだろう。その指揮官、ベイ。名乗りながらコートのフードを取ると、ボサボサの緑髪を少し伸ばした、傷だらけの顔が出てくる。

 顔の傷や、四天王を前にして自ら仕掛けてくる辺り、相当な手練なのだろうか。いくつもの死闘を繰り広げてきて、その時に負った傷にも思える。

 五人は警戒心を強め、いつ戦いが始まってもいいようにそっと構えた。


「なに、俺らは別に戦いに来たんじゃない。ただ、後ろにいるそのガキを奪いに来ただけだ。大人しくそのガキをよこせ」


 そう言ってベイが見ているのは、リゥ……ではなく、その隣にいるアキラだ。

 その視線にアキラはゾッと身震いし、リゥはアキラをギュッと抱き寄せる。

 レイはその視線を辿りアキラの方を見てから、ベイの方へ振り返り、目を細める。


「そんな要求、僕たちが受け入れるとでも?」


「はぁ……お前らァ!」


 レイの投げかけに、ベイは嘆息し、息を吐き終えた瞬間に眼光を鋭くし、大声で怒鳴る。

 その声が大勢の集団への合図となったのか、数十人いる集団が雄叫びを上げて全方向から五人を目掛けて一斉に飛びかかった。


「実力行使、だね」


「元からそのつもりだ!」


 相手の人数は把握出来ていない。しかし、その数は百を優に超えている。囲まれれば圧倒的に不利……という訳でもない。

 コロシアムで見たリゥとゴウの戦いも、大人数を相手にして常時優勢だった。それが四人揃っていれば……


「リゥ! アキラくんと一緒にこの場から離れるんだ!」


「なんだと?」


「奴らの狙いはアキラくんだ! 君には守る使命があるだろう!」


「でも――」


「早くッ!」


 普段は冷静なレイも、今回は声を荒らげている。

 アキラを庇うように、リゥに考える時間と反論の機会を与えないように、言葉で押し切る。


「――クソ! 分かった、負けんじゃねぇぞ!」


「俺らが負けるわけ、ねェだッ……ろォがァ!」


 リゥの声に、ゴウの怒声が反応する。その声に混じる怒りは、勿論リゥへ向けたものではない。四天王をである自分たちを相手に、この人数だけで乗り込んできた敵に向けたものだ。

 それを聞いたリゥは、安心して後ろを任せられる。後ろを警戒しないまま移動するのがその証拠だ。


「ねぇ、さっきのって……」


「邪陰郷のヤツらで、間違いないだろうな」


 戦区から少し離れたところで、アキラが震えながら声をかける。前に抱いているので、その震えは直ぐにリゥにも伝わり、リゥは抱きしめる力をさらに強める。


「大丈夫だ。あいつらなんかにアキラはやらねぇし、アイツらが全滅まで持って行ってくれるだろうよ」


「もし来ても、リゥくんなら大丈夫だよね?」


「ああ。勿論守ってやるよ。何も心配することなんてねぇ」


 アキラを不安にさせてはいけない。リゥの使命はただ一つ。アキラを守ることだ。

 リゥは自分の心にあるもの全てを無視し、アキラを安心させるための言葉を尽くす。


「これから、どこ行くの?」


「とりあえずヴォルフの方に向かう。今さっき頼んだから、こっちに向かってくれてるはずだ。分かりやすいように外に出るぞ」


 頼んだ、とはどういう事なのか。意味が理解できない発言だが、今はそれも後回し。

 リゥは通路の窓を突き破り、重力に逆らうかの如く壁を蹴って上に上がっていく。


「うあ、え、ちょっ……」


「大丈夫だから、ちゃんと掴まってな?」


「う、うん……!」


 足場のない壁を蹴って、どんどんと上に登って行くリゥ。並の人間には出来ない芸当だが、もしも足を踏み外したら一環の終わりだ。

 勿論、早く合流するためには仕方の無いことだが、それで怖さがなくなるかといえばそれはまた別だ。怖がるアキラにリゥはしっかり掴まれと、そう言った。抱えられているので大丈夫なはずだが、それでもアキラはギュッとリゥの服を掴み、目を瞑る。


「――ッ!」


 突然、壁を登っていたリゥの足が止まる。

 右腕でアキラを抱え、左手で近くにあったパイプを持ち、足を壁につけて支えている。なんとも危険な状況だ。

 そんな状況を作るほど、リゥの目を、意識を、注意を、集めるもの。

 それは――、


「邪陰郷……ッ!」


 リゥの目前。そこには、さっきのコート集団の中にいた一人……ベイの横に立っていた人物がいる。

 顔は確認できないが、体格からしてそうだろうと、リゥは予想する。


「はい、そうです。この作戦を失敗するわけには行きません。なので、その子はここで奪います。僕の為にも……!」


 その子供のような高い声に、リゥの予想は核心へと変わる。

 そしてフードを取った先に見えたよのは、明らかに少年風の幼い顔。アキラと同い年か、それ以下の可能性も十分にある。

 そんな子どものような高い声は、初めて聞いた時からずっと震えていて、リゥはその違和感に目を細める。


「お前の名前はなんだ? ――それと、なんの為にアキラを狙う?」


「僕の名前は、アイ……理由は……分からない、です。僕は……命令されて、やってるだけだから……」


 少年――アイは、リゥの前に立ちはだかったにも関わらず、その行動とは裏腹にしどろもどろな言葉で話す。体も声も震えているその言動は、明らかに何かがおかしい。


「そうじゃない。お前がその命令に従う理由を聞いてるんだ」


「そ、それは――」


「何やってやがる! 見つけたらくだらねぇ話してねぇでとっとと捕まえやがれ!」


「――待てコラァ!」


 アイがリゥの質問に答えようとした瞬間、上からダミ声とともに降ってきたのは、集団の中心にいたベイだ。

 そして、それを追うようにしてゴウも降ってくる。


「すまない、少し油断した」


「でも他の連中は倒したから、そこだけは大丈夫だよ」


 そう言って、ゴウの後を追ってきたようにゲンとレイも到着する。

 その三人を見て、ベイは舌打ちをする。


「おい! てめぇがグダグダやってた所為でこうなったんだ。てめぇが責任もってやれよ」


「え、でも、四天王相手に僕だけじゃ……」


「いいからやりゃァ良いんだよ!」


 ベイの指示に、アイは震えながら首を横に振る。

 たしかに、こんな少年に四天王を相手することなど到底不可能だ。にも関わらず、ベイは無理矢理にでもアイを戦わせようとする。


「――お前、立場分かってんだろ? お前が頑張らねぇでどうすんだよ?」


「ぁ……」


「分かったらとっとと行け」


 ベイの意味深な発言に、アイは震えながら、ゆっくりとリゥたちの方へ向かう。


「みんなの為にも、僕は、戦わないと……!」


 体も声も震えているが、アイは四天王と向かい合い、ゆっくりと構える。


「リゥ、ここは僕が引き受けよう。たとえ相手が子どもでも、邪陰郷なら倒さなくてはならない」


「――いや、ダメだ」


 アイが構え、それを見たレイが一歩前に出る。

 しかし、リゥはそのレイの肩に手をかけ、首を横に振る。そして、レイを後ろに引き、代わりに自分が前に出る。


「――俺が、やる」


「お前、相手の実力が分からないンだぞ? その体であンまり無茶は出来ねぇ。子どもだとしても、相手は邪陰郷の一人だ」


 リゥが戦うことを、次はゴウが止める。

 ゴウの意見は、子どもであっても実力の分からない邪陰郷と対峙するのは危険だという事だ。無論、リゥの実力なら大丈夫なはずだが、まだ体が万全ではない。ここで無理をするのは危険だと、ゴウはそう判断をした。

 しかし、そんなゴウにリゥは目を瞑って首を振り、アイの方に視線を戻す。


「邪陰郷の殲滅ならお前らに任せるが、これは俺の仕事だ」


「邪陰郷の殲滅を任せるなら、これも同じだろう?」


「いや、違う。俺の仕事は――その少年を、アイを、救ってやることだ」

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